階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

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女神降臨。

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 あ、どうも。ムポポペサの案内人のミラと申します。駆け出しではありますが、女神やらせてもらってます。

 先代からの引き継ぎ後に張り切って初仕事に向かうと、開口一番もの凄い勢いで躊躇なく霧にされました。はい、これには驚きを隠せません。

 雰囲気出そうとして後ろから話しかけたのが気に食わなかったのか、スモークと照明を焚いたのがいけなかったのか。

 あの一撃は、私を恐怖のドン底に叩き起こすのには十分なものでした。

 結果、私はあの出来事がトラウマになってしまいまい、あれからというもの、有給を使いながらの引きこもり生活が続いております。

 ムポポペサの資料を何度も読み返しましたが、出会い頭に霧にされた女神は存在していませんでした。

 あの人は色々と規格外だけど、脳内構造も規格外のようです。

 そして先日、勇者の動きが活発化してるとの事で、遂に上司からお叱りの連絡を受けました。

 わ、私が悪いの?

 『女神通信』の情報によると、どうやら朱里さん達はこちらに向かって来ているらしいです。

 今度こそ私の息の根を止めにくる事でしょう。私は今からあの恐怖を再び体験するのです。

 神様、助けて。と女神でありながら、神頼みするしか無いのです。

 助かる方法は一つ。

 簡単な説明をして、サッサと姿を消してしまえばいいんだ。

 はあ、もうそこまで来てるじゃん。遠目から姿を見せておいた方がいいよね。

 後ろから行くと超反応で霧にされかねないもんね。

 よし、今日で終わり。終わりなんだ!

 生きて帰れたら、辞表出して実家に帰ろう。


        —————————


 考えれば考えるほどに、私は無茶苦茶な事をしてしまったのではと思えてくる。

 ゲームの案内人を振り向いた瞬間に吹き飛ばす奴なんて存在するの?しかも相手は女神様なんでしょ?

 いるよね?中には吹き飛ばす人も。何人かは。

「スーツも着たし、林檎も持ったね。後は教えた通りの完璧な土下座をするだけだ。朱里なら出来るよ!」

 出会った瞬間に土下座をするか。

 謝罪の途中に土下座をするか。

 謝罪の最後に土下座をするか。

 悩む必要なんか無い。三回土下座をすれば良いんだ。

「うん、いい顔してる! 決意を決めた顔だ。これは立派な土下座が見れそうだね」

(クリスちゃんは悪い顔してる。あ、カメラまで用意してるじゃん。やな奴だなぁ)

「良い顔してねえよ、不安なんだよこっちは。はー、許してくれるかなあ?」

「大丈夫だよ! だって女神様だよ? 寛容な心を持つからこその女神さまのはずだよ!」

「私だったら許さないなぁ」

「朱里は許さなそうだね。血の果てまで追いかけてでもやり返しそうだよ」

「そろそろ着くよ。 案内人見つかるといいけどね。せめて情報だけでも欲しいよね」

(ん?翼のある人が洞窟の入り口にいる。なにやら重装備しているけど。あ、もしかしてあの人が!?)

(速い!朱里ちゃんが既に土下座の体制に入ってる!)

「いきなり吹き飛ばしてしまいまして、まっこと申し訳ありませんでしたぁ!」

(ひええ、すごい勢いだよ!殺されるかと思った!これは土下座なの?こんな豪快な土下座ある!?)

「だ、大丈夫ですよ。早速説明しますね。って朱里さん!?」

「すごい、土下座から流れるように地面に頭を突っ込んだ! それだよ朱里! それこそが世界を狙える土下座ストだ!」

「あ、あの朱里さん。もういいですから説明させて下さいね。もう良いですから。ね? 私、怒ってませんから」

 今、怒ってないって言った?

 しまった!土が耳に詰まって聞こえない!

「朱里さーん! 聞こえてますかー!? あの、私なんとも思っていないので頭を出してもらって良いですかー!?」

「怒って、ない?」

(朱里ちゃん。頭出したのは良いけど、泥人形みたいな顔になってるよ)

「え? 怒ってないって言いました? すいません、土が耳に詰まってて」

(朱里さんは悪い人ではないんだもんね。もう正直に言おう」

「はい、怒ってないです。実は初めて会った時の衝撃が強すぎて。職務放棄と言いますか、引きこもってたと言いますか。ごめんなさい! 本当は怖くて怯えてました! 謝るのは私の方なんです!」

「わあ! 案内人も頭を地面に突っ込んじゃったよ」

「ねえ、クリスちゃん? なんか似てない? あの二人」

「変な所がね。しかしびっくりしたね。お堅いイメージあったけど、案内人にも色々いるんだね」

「案内人さん、お願い。顔を上げて」

(そんな両脇持って引っこ抜いて子供みたいに抱え上げなくてもいいんじゃないかな?)

「謝らないで。貴方が私の案内人さんだったのね。謝るのは私の方なの」

「……朱里さん」

(女神様も泥人形みたいになっちゃった)

「今思い返すとこの世界に来たばかりで全然余裕が無かったの。理解不能な物は全て塵にする勢いだったの。本当にごめんなさい。だから何も知らない私に色々教えて下さい。お願いします!」

「……朱里さん! 私、頑張ります!」

(あの泥人形二体は前が見えてるのかな?)

(どうやって呼吸してるんだろう?)

「じゃあ、早速説明始めますね!」

「うん! ありがとう!」

「まずはムポポペサの歴史からですね」

(れ、歴史か。これは気合を入れなくては!)
 
「よし、耳の中に泥が詰まってるからしっかりと聞かないとだね!」

「ふふふ、分からなかったら何回でも教えますよ」

 案内人さんって優しいだね。やだ、ときめいちゃう。

「いやいやいや。高い、高いをまずやめた方がいいよ」

「あと二人共、顔を洗った方がいいんじゃないかな?」

「いっけなーい! 朱里ちゃんてば、久々にやらかしてしまったのだ! 泥パックにしてもやり過ぎたよ!」
 
「やだ! 私ったらはしたないぞ! 

 うふふふふふふふふふ。

(クルクル回し始めちゃった。うわ、遠心力で泥が飛んでくるよ。ていうか回し過ぎだよ)

「回し過ぎてぐったりして来てるね。そろそろ止めようか。しかし天然なのかな? 不思議な人が案内人になったものだね」

 

 良かった。女神様は怒ってなんかいなかった。むしろ、恐怖を押し殺して職務を全うしようとしていたんだね。

 その気持ちは痛いほど分かる。私も圧倒的恐怖から逃れようと、朱里ちゃんの指に噛み付いた事あるし。
 
 しかし朱里ちゃんと女神様の相性は思ったよりも良さそうで安心したよ。

 ていうか、なんか似てるなあ。
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