階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

文字の大きさ
48 / 49

デビュー。

しおりを挟む
 はあ、はあ、おえっ。

 これは師匠に誉められるのでは!?自分でも驚きを隠せない!ここまで早くモルティプに辿り着く事が出来るなんて!

 はあ、はあ、はあ、おえ。やべっ、吐きそう。ううっぷ。

 俺は愛しのお銀に1日でも早く逢う為にひたすら走って、ひたすら泳いだ。ひたすらに真っ直ぐに。

 スタミナは無地蔵に上がり、走力は原付並の脚力。

 途中、鯱に襲われるという杞憂もあったが、度重なるムポポペサ海峡横断の末に、俺はバショウカジキを遥かに超える泳力を手に入れる事にも成功し、鯱をいとも簡単に振り切る事に成功した。

 あばよ、鯱。今度俺に挑む時はジェットスキーでも持ってくるんだな。

 そうだ!今年の『ムポポペサトライアスロン』は絶対に出よう!

 その優勝賞金でお銀との新婚旅行も悪くないだろう。ふふふ。

 み、見えたぞ、あそこだ。

 お銀、待ってろよ!今行くぞ!……ん?

 なっ!?西部劇でよく見る丸いやつがコロコロしてるだと!?

 大会が延期?再開予定未定?

 お、お銀は、師匠達は?まだホテルにいるのか?

 そうだ、ホテルだ!高い所は大の苦手だが、利用者以外は決して入れない厳重な警備のあのホテル。仕方がない、また登るか。

 こうして俺の命懸けのクライミングがまた始まった。

 相変わらずの絶壁、風も強い。

 あ、あれ?あわわ、わわわわ。

 こ、怖い!何で!?

 二回目の方がこ、怖い!

 バババババババババババッ!

 なっ!風が強まって!?ヘ、ヘリだと!?

「そこのピンクの気持ち悪い河童に告ぐ! そこの変な色の河童に告ぐ! 速やかに下に降りなさい! そのまま登攀を続ける場合、発砲するぞ! 手を上げろ!」

 「手上げたら落ちちゃうんですけど!? あ、もう手がプルプルして来た! あ、あかん。もうダメや」

 ヘリの風圧で皿の水はキラキラと舞い上がり、そしてそれは美しい虹をかける。

 知ってるかい?虹を見ると幸せになれるんだぜ。皆は今、幸せかい?

 俺は痙攣を起こしながらホテルの壁から落ちていった。

 皆様に幸せ送るピンクの河童、ルシアがお送りしました。



         —————————


「大会延期かあ、残念だけど仕方がないよね。勇者が来なくても取り巻きが何らかの妨害行為をしてもおかしくないもんね」

「一番槍程度ならまだしも、天音レベルが来ると厄介だしね。一般市民を危険に巻き込む可能性があるなら仕方ないのかもね」

「僕は丁度良かったと思うよ。案内人には早く接触すべきだ。もう勇者を倒すという単純な目的を果たすだけでは無くなった気がするよ」

(クリスちゃん、真面目だね。似合わないね)

「でもさ、ギリギリで『泥舟沈殿丸』のチケット取れて良かったね。帰りの人達が一斉に帰るから予約取れないと思ったけど」

「ふふふ、朱里。今や僕達は富裕層なのだよ。リルちゃんのCM契約料と二人の大会の賞金が入ったからね! 金に物を言わせたのさ! はっはっはっはっはー!」

「はあ? お前、私達の賞金渡せよな。なんで懐に入れてんだよ」

「クリスちゃん? CMって何? 初耳なんですけど」

(しまった!なんで僕はすぐ口を滑らせてしまうんだ!?)

「そ、それより見て! ほら! 僕達の泊まっていたホテルに虹がかかってるよ!」

「わあ、本当だ!」

「綺麗だねー!」

(あぶなかったよ。虹が僕に幸運を運んでくれたね)

 その後もリルちゃんと海を眺めていると
、相変わらず楽しそうにイルカが跳ねて『泥舟沈殿丸』に並走していた。

 その景色を見ていて、ふと思い出す。

 イルカに乗って手を振り、夕陽をバックに鯱によって宙に打ち上げられた河童の事を。

 あの河童は今頃何をしているんだろう?一足先に帰ったお銀さんとは会えるのだろうか?

 早く再会が出来る事を祈る。

 流石にもうすれ違わないでしょ。

 そして、あっという間に船旅は終わった。港に着くとテレビを観て応援してくれていた皆が出迎えてくれた。なんだか照れくさいね。

 甘栗の押し売りは相変わらずグイグイくるが、リルちゃんが嬉しそうに食べてたので今回は見逃してやろう。

「今日はもう遅いし、一泊してからリルちゃんの家に行こう。夜更けに訪問したら悪いからね」

「そうだね。そうだ! 小遣いを全部投入して買いすぎた林檎をお土産にしよう! リルちゃんのご両親って林檎好きかな?」

(CMかぁ。なんのCMなんだろう?)

「リルちゃん?」

(どうせなら爽やかなCMがいいな)

「リールーちゃん!」

(これってさ、芸能デビューだよね?)

「リルリルちゃーん!!」

「はい!? なんでしょうか?」

「明日でいいよね?」

「うん!(話聞いてなかったけど)いいよ!」

 珍しいな、どうしたんだろう?上の空だ。

「リルちゃん、CM出演の事考えてたでしょ? 今の所、出演が決まっているのはスティック状の生地にチョコがコーティングされた有名なお菓子のCMだからね」

「ク、クリスちゃんったら、何を仰ってるの? そんな事考えていませんから! こんな大変な時にそんな不謹慎な事考える訳無いじゃない! もう良い加減にして欲しいわ。勝手にCM契約なんかして、お肌の手入れが間に合わなかったらどうするの? しかも今の所はですって? もう! 私の意見もちゃんと取り入れてよね! お父さんとお母さんも、まさか私が芸能界に進出するなんて驚き桃の木のはずだよ」

(あ、しまった)

「わあ、リルちゃん! すっごい饒舌だね!」

「リルちゃんって、芸能界に憧れているのね。分かるよ、女の子だもんね。キラキラしてるもんね」

(は、恥ずかしい)

 クリスの野郎が勝手に色々決めて、もしリルちゃんが嫌がってたらとっちめてやろうと思ったけど、喜んでるならいいか。

 私もリルちゃんがCMに出てるのちょっと観てみたいしね。

 
 
 でも、その前に案内人に会わなきゃ。

 天音に言われた事が頭から離れない。

 果たして案内人は手土産程度で、私の暴行を許してくれるのだろうか?

 それは正に神(女神)のみぞ知っている。

 だけど、これだけは自信を持って言えるんだ。

 私だったら絶対に許さない。かな?
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...