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番外編①
5 カレンデュラ宰相の独白
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――とまあそんなこんなでエヴァと会って、ハイドと運命的な出会いを果たして……ああ、ついでにジョーとも。
あれから私は勉強して……それこそ生前以上に勉強して、ハイドランジアの女宰相になったわ。これからバンバン私が生きやすい法律を作りまくってやるんだから。
もうレスタニアに対する未練はないし、両親も……まあ、向こうで仲良く元気に暮らしてくれたら良いんじゃあないかしら。
唯一、孫を抱かせてあげられそうにないってことだけは、申し訳なく思うけれどね。でも相手がハイドじゃあ、例え私の「旦那」にできたとしても子供はムリだもの。
――ってか最近 全くハイドを見かけないんだけど、またエヴァが隠してるのかしら? 本当に生意気な王女……いや、女王様だわ!
それにしても、私ってばなんでこんなにハイドの事が好きなのかしら? 自分でも不思議なのよね。
別に生前、同性が好きだった訳じゃあないし……前にも言ったけど私、枯れ専なの。
ちなみに何で枯れ専になったかって言うと、いくつか理由があって……まず、生前の私には父親が居なかったから。浮気だか何だかで母親と私を置き去りにして逃げたらしいわ。
私を育てるために仕事で忙しい母親とはあまり思い出がなくて、優しいお爺ちゃんお婆ちゃんに可愛がられて育った。
思えば私、前世でも大人に叱られずに育ったのね。そりゃあ傲慢にもなるわよ、育った環境が悪いもの。
それで何となくだけど、「大人の男性」に対する憧れみたいなものが芽生えて……でも、くたびれたおじさんに興味はないわよ? 私メンクイだから!
それで「格好いいおじさま」を求めた先が、舞台俳優だったのよね。
同じ大学で仲のいい子がとある俳優のファンで、舞台のチケットが余ったから一緒に行かないかって誘われて――そこで見た俳優さんの格好良かったこと! おじさまって言うか、もう還暦前の俳優さんだったんだけどさ。
舞台メインで活躍してるからテレビには映らなくて、一般の人からしたら知名度なんてゼロみたいなものだったと思う。
でも本当に格好良くて、渋くて……悲しい事に既婚者だったな。しかも孫まで居るって話だった、まあ年齢を考えれば当然よね。
俳優として役を演じている時も最高に格好良かったんだけど、私が一番惚れ込んだのは「人間性」かな。
当時の私は女子大生で、ちょっと浮ついた部分があった。
しかも大人に叱られずに伸び伸び育ったから……禁止されてたのに、一度友達と舞台終わりに出待ちしちゃったのよ。
どうしても俳優さんを近くで見たかったし、好きって言いながら心のどこかで「舞台俳優なら握手くらいしてくれるかも」なんて下に見てたのかも知れない。
劇場の裏手で何時間も待って……ただでさえ夜だし、灯りも少なくて気味が悪い場所だった。
そのうち友達は音をあげて「てか誰も出てこないし、明日も学校だし」なんて言って先に帰っちゃって、私は気味の悪いところに1人きりよ。
若い女子大生が夜中に1人佇んでいたらどうなると思う? ……そりゃあ酔っ払いか不良に絡まれるわよね。今なら分かるわよ、当時の私 頭悪すぎだって。
べろんべろんに酔っぱらったサラリーマンに絡まれてなす術もなく裏路地に連れ込まれそうになった時、偶然だったのかそれとも劇場から様子を見てたのか……私の好きだった俳優さんが出てきて助けてくれたの。
まるで何かの役を演じているみたいに怖い顔をして、「何してるんだ」って……そうして酔っ払いを追い払った後に「大丈夫?」なんて優しく声を掛けてくれた――――訳はなくて。
俳優さんは私のこともメチャクチャに怒ったわ、「若い女性が1人で何してるんだ」「危ない」「そもそも出待ちは禁止だ、いい年してルールひとつ守れないのか」って。
ファン相手にきつく怒鳴って、そんなことしてファンが減ったらとか、SNSに悪い噂を流されたらとか、たぶんひとつも考えてなかったのよね。
「何かあってからじゃ遅い、こんなしょうもない目的で親御さんを泣かせるような真似をするな」って言われた時に涙が出たわ、この人ただ私のためを想って叱ってくれてるんだって。
出待ちはそれ以来辞めたけど、でもファンは辞めなかった。だってもっと好きになっちゃったから。
身内でさえ私を叱らなかったのに、あの人は臆面もなく他人の小娘を本気で叱ったんだもの。
父親が居たらこうだったかしら、こんな人が私の旦那さんだったら最高じゃない? なんて思いながら追いかけ続けたわ……私が事故で死ぬまでね。
――でもあんなに好きだったのに、もう名前が思い出せないわ。やっぱり前世の記憶って、段々と薄れていくのかしら。
きっとハイドの事も同じ理由で好きになっちゃったんだろうな。
あの頃は本気で男だと思ってたし、この世界で私を叱ってくれる唯一の大人だったから。……それに何かハイドって見た目はともかく中身がちょっと枯れてる感じがするのよ、達観してるというか。
私達の事なんて子供どころか孫、ひ孫に見えてるんじゃないかって思うぐらい穏やかな目で見るでしょう?
立ち居振る舞いもなんか役者っぽいのよね、姿勢がよくて声もよく通るし……まあ実際ずっと「騎士役」を演じていた訳だけどさ。
ハイドももっとハッキリ「私と結婚はしたくない」って言ってくれれば諦めがつくんだけど……「したくない」とは言わないから、追わずにはいられないわよね。
なんか「逃げれば逃げるほど優秀になる」なんて言って掌の上で転がされてる感あるけど、まだまだ人生これからだし! 私は私の幸せのために邁進し続けるわよ。
だって、私は乙女ゲーのヒロインだから!
あれから私は勉強して……それこそ生前以上に勉強して、ハイドランジアの女宰相になったわ。これからバンバン私が生きやすい法律を作りまくってやるんだから。
もうレスタニアに対する未練はないし、両親も……まあ、向こうで仲良く元気に暮らしてくれたら良いんじゃあないかしら。
唯一、孫を抱かせてあげられそうにないってことだけは、申し訳なく思うけれどね。でも相手がハイドじゃあ、例え私の「旦那」にできたとしても子供はムリだもの。
――ってか最近 全くハイドを見かけないんだけど、またエヴァが隠してるのかしら? 本当に生意気な王女……いや、女王様だわ!
それにしても、私ってばなんでこんなにハイドの事が好きなのかしら? 自分でも不思議なのよね。
別に生前、同性が好きだった訳じゃあないし……前にも言ったけど私、枯れ専なの。
ちなみに何で枯れ専になったかって言うと、いくつか理由があって……まず、生前の私には父親が居なかったから。浮気だか何だかで母親と私を置き去りにして逃げたらしいわ。
私を育てるために仕事で忙しい母親とはあまり思い出がなくて、優しいお爺ちゃんお婆ちゃんに可愛がられて育った。
思えば私、前世でも大人に叱られずに育ったのね。そりゃあ傲慢にもなるわよ、育った環境が悪いもの。
それで何となくだけど、「大人の男性」に対する憧れみたいなものが芽生えて……でも、くたびれたおじさんに興味はないわよ? 私メンクイだから!
それで「格好いいおじさま」を求めた先が、舞台俳優だったのよね。
同じ大学で仲のいい子がとある俳優のファンで、舞台のチケットが余ったから一緒に行かないかって誘われて――そこで見た俳優さんの格好良かったこと! おじさまって言うか、もう還暦前の俳優さんだったんだけどさ。
舞台メインで活躍してるからテレビには映らなくて、一般の人からしたら知名度なんてゼロみたいなものだったと思う。
でも本当に格好良くて、渋くて……悲しい事に既婚者だったな。しかも孫まで居るって話だった、まあ年齢を考えれば当然よね。
俳優として役を演じている時も最高に格好良かったんだけど、私が一番惚れ込んだのは「人間性」かな。
当時の私は女子大生で、ちょっと浮ついた部分があった。
しかも大人に叱られずに伸び伸び育ったから……禁止されてたのに、一度友達と舞台終わりに出待ちしちゃったのよ。
どうしても俳優さんを近くで見たかったし、好きって言いながら心のどこかで「舞台俳優なら握手くらいしてくれるかも」なんて下に見てたのかも知れない。
劇場の裏手で何時間も待って……ただでさえ夜だし、灯りも少なくて気味が悪い場所だった。
そのうち友達は音をあげて「てか誰も出てこないし、明日も学校だし」なんて言って先に帰っちゃって、私は気味の悪いところに1人きりよ。
若い女子大生が夜中に1人佇んでいたらどうなると思う? ……そりゃあ酔っ払いか不良に絡まれるわよね。今なら分かるわよ、当時の私 頭悪すぎだって。
べろんべろんに酔っぱらったサラリーマンに絡まれてなす術もなく裏路地に連れ込まれそうになった時、偶然だったのかそれとも劇場から様子を見てたのか……私の好きだった俳優さんが出てきて助けてくれたの。
まるで何かの役を演じているみたいに怖い顔をして、「何してるんだ」って……そうして酔っ払いを追い払った後に「大丈夫?」なんて優しく声を掛けてくれた――――訳はなくて。
俳優さんは私のこともメチャクチャに怒ったわ、「若い女性が1人で何してるんだ」「危ない」「そもそも出待ちは禁止だ、いい年してルールひとつ守れないのか」って。
ファン相手にきつく怒鳴って、そんなことしてファンが減ったらとか、SNSに悪い噂を流されたらとか、たぶんひとつも考えてなかったのよね。
「何かあってからじゃ遅い、こんなしょうもない目的で親御さんを泣かせるような真似をするな」って言われた時に涙が出たわ、この人ただ私のためを想って叱ってくれてるんだって。
出待ちはそれ以来辞めたけど、でもファンは辞めなかった。だってもっと好きになっちゃったから。
身内でさえ私を叱らなかったのに、あの人は臆面もなく他人の小娘を本気で叱ったんだもの。
父親が居たらこうだったかしら、こんな人が私の旦那さんだったら最高じゃない? なんて思いながら追いかけ続けたわ……私が事故で死ぬまでね。
――でもあんなに好きだったのに、もう名前が思い出せないわ。やっぱり前世の記憶って、段々と薄れていくのかしら。
きっとハイドの事も同じ理由で好きになっちゃったんだろうな。
あの頃は本気で男だと思ってたし、この世界で私を叱ってくれる唯一の大人だったから。……それに何かハイドって見た目はともかく中身がちょっと枯れてる感じがするのよ、達観してるというか。
私達の事なんて子供どころか孫、ひ孫に見えてるんじゃないかって思うぐらい穏やかな目で見るでしょう?
立ち居振る舞いもなんか役者っぽいのよね、姿勢がよくて声もよく通るし……まあ実際ずっと「騎士役」を演じていた訳だけどさ。
ハイドももっとハッキリ「私と結婚はしたくない」って言ってくれれば諦めがつくんだけど……「したくない」とは言わないから、追わずにはいられないわよね。
なんか「逃げれば逃げるほど優秀になる」なんて言って掌の上で転がされてる感あるけど、まだまだ人生これからだし! 私は私の幸せのために邁進し続けるわよ。
だって、私は乙女ゲーのヒロインだから!
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