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はるか、彼方
しおりを挟む左利きの彼女が、二杯目になるワインをグラスに注ぐ。
「私、この店が好き。いいお店でしょう。一度先輩と来たかったの…。」
彼女は僕と目を合わせることなく顔を向けた。
その瞳が、僕を困惑させる。
「私ね、自分一人で生きていくのが精一杯。戸惑いながら、迷いながら、進んでいくことができるのかしら。私の心子供みたい。小さな子供の心…。大人になっていく自分がいる。」
「心の器?!の話?!僕の心の器は、どれぐらいかな…。小さい器、いびつな器、ザルみたいな心かも…。」
僕は笑いをとったつもりだった。
でも彼女は違っていた。
「私…小さいときの夢、まだ叶えられてないわ…。」
と淡々として言った。
彼女の家に行った。
僕は彼女を小さく抱きしめた。
「私、先輩に逢えてよかった。この会社に来てよかった。そして…こういった関係が続く…。」
僕もこの関係が続くといいと思った。
ある日、この関係が壊れ、崩れ去っていく。
そういう日が来るはずがないと…そう思っていた。
僕は映子がいとおしかった。
男女の関係だけで終わりたくなかった。
彼女は僕との関係を続けていくのか…
もう一度聞きたい。
君をもう一度抱きしめた。
ひっそりとした部屋で二人は長い時を過ごした。
「お忙しそう…。」
彼女はパンツルック姿で僕の前に立っていた。
「今から帰るところ…。」
「少し歩きましょうか…。」
会社帰り…。
彼女のいつもの香り…。
白バラを思わせる香り…。
この香りに手を伸ばしたくなる。
「私、人を好きになるのが臆病なの…。」
僕は映子をそっと抱きしめた。
ふっと消えていなくなりそうな彼女。
存在感がなくなっていく彼女。
「どうしたの、何があったの?」
彼女は首を横にふるだけ…
ホロホロと涙をこぼし、僕を軽く抱きしめる。
運命の時計が、空回りをする。
「私、海の向こうに行きたいの…。」
(まさか、僕のもとから去っていくのか…。彼女は…。)
僕から行ってしまう。
ふっといなくなってしまう。
全身の力が抜けていくのがわかる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
と繰り返し言うだけだ。
「ごめんと言うな!!」
と僕は叫んだ。
外は雨。
雨降り。
彼女が二ヶ月後、イギリスへと渡って
行ったのだった。
雨模様…。
いつかは晴れるだろう。
僕の心の雨もやがて止むだろう。
窓の外を見る。
まだ、真っ暗がり…。
降りしきる雨が見えたのだった。
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