サキュバス村の色魔王 〜性欲を魔力へと変える力とスキル【賢者タイム】で無双してたら魔王扱いされたのでちょっと異世界征服してくる〜

虎戸リア

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魔霧の森の賢者

1話「賢者の杖リリス」

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「ふぅぅぅぅ……」

 自室で“致し”を行った後、俺——井上いのうえ典雅テンガは賢者タイムに浸っていた。

 典雅には“正しく整い上品な様”という意味が込められているのだが残念ながら名前負けしているし、別の意味で名前通りの人生だった。

 しょせんは代替品。オンリーワンにもナンバーワンにもなれない男なのだ俺は。

 そんな賢者タイム特有の虚無感と、ある種の爽快感に浸っていると一瞬、強烈な眠気に襲われた。俺は抵抗せずまぶたを閉じる。
 
 そして数秒後に開けた、そのほんの一瞬の間。

 俺は気付けば見知らぬ霧深い森の、石で出来た台座の上に全裸で座っていた。
 樹齢何百年だよってツッコミたくなるほどの太い幹を持った木々が立ち並び、頭上まで枝が覆っている。
 
「は? いやてか……え? まじでどういう事?」

 おかしい。いやおかしいのは分かっている。

 俺は部屋でお気に入りの動画を見て、“致し”を行っただけだ。なのになぜ俺はこんなロードオブザ〇リングに出てきそうな森にいるんだ?

 あと誤解がありそうなので一応説明するが、俺は“致し”をする時は全裸派だ。決して変態ではない。

 さて、冷静になろう。幸い俺は賢者タイム中。
 
 “致し”を行い性欲を解消した男性のみが辿り着く境地——【賢者タイム】
 俺は長年の訓練により、その時間を延ばし、更に有効活用する術を見いだした。

 賢者タイム中は、俺の思考速度、処理能力、その全てがマックスのパフォーマンスを発揮する。

 なので俺は灰色の脳みそをフル回転させようとしたところ……、

「メリッサさん!! 成功です!」
「そんな……まさか……」

 甘い少女の声と艶のある女性の声が下の方から聞こえてきた。

 俺は念の為胸を隠し、岩の台座の下を覗く。すると、少し離れたところに二人の人物が驚愕の表情を浮かべて突っ立っていた。それは声の通り、少女と長身の女性だった。

 褐色の肌を持つ少女のショートカットの赤髪の下には可愛らしい顔があり、その横にエルフみたいに尖った長い耳が付いていた。

 腰の部分には黒い小さな翼が生えており、それがぱたぱたと揺れていた。その翼の横に曲刀を2本ぶら下げている。

 全体的に、露出の多い格好だった。最低限隠すべき場所——胸や股間だけを隠した、服というより布を纏っていると表現すべきだろうか?

 身体全体はほっそりとしていながらも、胸も尻もそれなりに出ており、顔の幼さとのギャップに驚く。


 長身の女性は少女と同じような格好だが、透けて見えるほど薄いストールを肩にかけている。腰の翼も少女よりも大きい。腰には曲刀ではなく、昆虫のように節くれだったノコギリのような剣を装着している。

 彼女の胸も尻も少女より遙かに大きい。おお、ダイナマイトボディ。

 黒髪を後頭部で髪留めを使ってアップにし、眼鏡を掛けているせいで知的な印象を受ける美人だが格好とボディラインがそれと相反する。

 彼女も同じように尖った長い耳をしているが、褐色ではなく白い肌をしていた。

 見た目の差異はあれど……どう見てもあれだ。この二人、エロフ……じゃないエルフかサキュバス的な何かだ。俺はそういうのに詳しいんだ!
 
 まあこの状況を端的に言うと、俺の性癖ドストライクなスケベガールズが全裸な俺を凝視していたのだ。

「どういう状況だよ」

 良かった。賢者タイム中で良かった。

 そうでなければ俺のエクスカリバーが戦闘形態になっていただろう。

「すごい! ついに賢者様が降臨された!」
「まだよ! まだ、【賢者の杖】との対話が出来るまで私は信じないわ!」

 おーなんか盛り上がっているな。というか杖ってなんだ?

 と思っていると、俺は自分のいる台座に一本の杖が突き刺さっているの事に気付いた。それは木で出来た杖で先端にいくにつれ枝分かれし、その枝によって包み込まれるように赤い宝石が嵌められていた。

 いかにも、森の奥に潜む賢者が持ってそうな杖だ。

 その先端の宝石に視線をやった瞬間に、頭の中で声が響く。それは聞いただけで色気を感じる癖に妙に幼い少女の声だった。

『……えますか……聞こえますか』
「こいつ脳内に直接!?」
『ああ……ようやく降臨しましたね……』
「あー待ってくれ……全く状況が理解できない」
『下の二人をここまで呼び、たっぷりと二人を凝視をした後——つまりムラムラしてから私に触れてください』
「おい、更に状況をカオスにする気か」

 もはや訳分からん。しかし、言われるがままにすべきだろうなここは。決して近くであのドスケベガールズを見たいと思ったわけではない。決してない。

「あーええっと下のお二人さん、ちょっとこっちまで上がってこれます? 杖? がそう言ってるんで」
「っ!! 伝承通りですよメリッサさん!」
「……杖と対話をしているのね……信じられない」

 俺の言葉に二人がそれぞれ違う反応をすると、ひょいとまるで重力なんて知るかとばかりに岩の上へとジャンプしてきた。その二人は近くで見ると更に強烈だった。1mぐらい離れているのに、凄く良い匂いがする。

「賢者様! あたしはミーニャです!」
「私はメリッサ……」

 少女——ミーニャが元気よくそう言って、媚びるような笑みを浮かべた。それに続くようにエロ教師みたいなメリッサが渋々自己紹介をしてくれた。

 どう見ても日本人ではないが、言葉は通じている。

「えっと……俺は井上典雅……いやどういう事だよこれ」

 俺の賢者タイムが消えかかっていた。脳が状況を理解する事を拒否している。同時に下半身に血が集まってくる感覚。なんせ目の前にやばいぐらいエロい二人組がいるのだ。正常な雄生命体なら即落城するレベルだ。

 俺がそんな二人を杖に言われた通り凝視していると——風が吹いた。

「っ! この風は! テンガ様気を付けてください!」

 ミーニャが曲刀を抜き、メリッサが剣を構えた。

 頭上を見上げると、霧が集まり何やら形を形成していく。

「なんじゃあれ!」
「なぜこの聖域に——ミストドラゴンが」
「メリッサさん! 二人じゃ倒せないですよ!」

 霧がまるでゲームに出てくるような竜の形になると目らしき部分が光り、顎が開く。

「ギャあsyさdfbkdfn!!」

 聞き取れない不快な咆吼と共にその竜——ミストドラゴンが俺に向かって急降下してくる。

「それでも、賢者様だけは守るわよミーニャ!」
「はい!」

 二人が俺を守ろうと近付いてくる。
 待て、だめだ! それ以上近付いたら!

 むせ返るほどの色気と飛び込んでるあれやこれやの視覚情報に、俺はミストドラゴンどころの騒ぎじゃない。落ち着け俺のエクスカリバー!!

 目の前に迫る二人の匂いにくらくらした俺は思わず台座に刺さっている杖へともたれかかってしまった。次の瞬間、俺の中で火山のように噴火しかけていた性欲が吸い取られていくような感覚。同時に杖の宝石が発光。

「うお、なんだこれ!」
『ぎゃあああああなにこの魔力ぅ!!』

 杖の悲鳴と共に赤光が辺りを赤く染め上げる。

 光が真上へと収束していき極太のレーザービームのようになると、目の前で噛み付こうとその顎を広げるミストドラゴンを貫通、その更に向こうの頭上を覆う枝葉を焼き払った。

「ギュアアア……」

 ミストドラゴンの断末魔と共に赤い光が弱まると、上から陽光から降り注ぐ。霧が晴れて、頭上にはあのビームの形にくりぬかれた枝葉が見えた。

「すご……ミストドラゴンを一撃……?」
「信じられないわ……」

 少女——ミーニャと長身の女性——メリッサが相変わらず俺のすぐ隣で驚愕の表情を浮かべているが、なぜか二人に先ほどまでのような性欲を感じなかった。

 肥大化し俺を支配しようとしていた性欲がなぜか綺麗さっぱり無くなっていたのだ。つまり俺は“致し”を行っていないにも関わらず再び賢者タイム状態になっている。

 そんな俺に、杖がこう語りかけてきた。

『私の名は【リリス】。力を持った神器です。さあ絶大なる煩悩を持ちし賢者様。私を使い、愛し子達——サキュバス達を守り導いてください』
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