グラビトンの魔女 ~無能の魔女と言われ追放されたので、気ままに冒険者やりたいと思います。あれ? 何もしていないのにみんなが頭を垂れ、跪く~

虎戸リア

文字の大きさ
4 / 20

4話:いきなり飛び級ランクアップです!

しおりを挟む

 王都内、冒険者ギルド。

「はあ!? レックスベアを倒しただと!?」

 ベアルの声が響いた。

「すみません……ヒーリングカズラの実は袋一杯まで集められませんでした……」

 しょげたような顔でヘカティが、採取用の袋を差し出した。中身は三分の二ほどしか入ってないが、ベアルはそれどころではなかった。

「んな事はどうでも良いんだよ! レックスベアと言えば、二階層の魔物の中でも上位に入る難敵なんだぞ!? 駆け出し冒険者がソロで倒せる魔物じゃねえんだよ!!」

 ベアルがそう言うのも無理はなかった。レックスベアの巨体から繰り出される攻撃は、重装備の冒険者ですら下手すると一撃で死んでしまうほどの力を秘めている。何よりも、異常なほどのタフネスと、相手が殺すまで追い続ける執念深さが厄介だった。

 話を聞く限り、武器が沢山刺さっていたその個体は間違いなく、歴戦のレックスベアだろう。それをソロで倒すなんてFランクの冒険者には不可能だ。何かの間違いに違いない。

「ありえない。誰か他の奴と組んでいたんだろ? そうに違いない」

 しかしそんなベアルの言葉を否定するように、とある冒険者が声を上げた。

「――本当だよ。俺の目の前で、彼女は一人で、レックスベアを倒した」

 それは片腕のない、ヘカティが助けた冒険者だった。

「おいおいコール……本当かよ……いや、お前が嘘をつくわけないよな」
「ああ。うちのパーティは俺以外全滅した。そんな嘘をつく余裕はねえよ」

 片腕の男――コールがそう言って溜息をついた。

「コールさん! 怪我はもう大丈夫ですか?」
「お陰様でな」

 ヘカティの心配そうな声を聞いてコールが笑った。レックスベア討伐後、気絶したコールをヘカティは【重力】の魔術で浮かせて、ダンジョンの出口に常に待機している回復術士のところまで連れて行ったのだ。

 安静にしていたおかげでコールは何とか一命を取り留めた。少しでも遅れていれば、命も危うかっただろう。

「君は命の恩人だよ。改めて礼を言おう、ありがとうヘカティ。仇も討ってくれたし形見も取ってくれた。これであいつらも浮かばれるだろうさ」

 コールは気絶する前にヘカティに頼んでいた事を、彼女がちゃんとやってくれていた事に感謝した。

 それは、レックスベアに刺さっていたコールのパーティメンバーの武器の回収だった。冒険者は皆愛用の武器には自らの家柄やパーティの紋章を刻む風習があった。

 律儀に全部の武器を回収したヘカティのおかげで、レックスベアにやられた他の冒険者達の武器も、その身内やパーティメンバーの手に戻り、皆がヘカティへ涙を流しながら感謝の言葉を掛けた。

「いえ。気にしないでください! 言われた通りしただけですから」
「マスター。レックスベア討伐の証は、あの武器と、俺の証言で十分だろう」
「……ああ」
「だったら、さっさとランクを上げてやれ。間違いなくヘカティは――になる」

 コールはそれだけを言うと、去っていった。

「えっと……何が何やらさっぱりなのですが……」
「はあ……当の本人がこれだから、どうもな……」

 ベアルが気を取り直して咳払いした。

「――ヘカティ。お前を今日付けでCに認定する」
「ええええええ!?」

 ヘカティの驚きの声がギルド中に響いた。自分の声の大きさに、彼女は赤面する。

「ななななん、なんでいきなりCに!?」
「なんでもくそもねえよ。歴戦のレックスベアをソロで討伐なんて十分過ぎる偉業だからな。ギルドカードを渡せ」
「は、はい!」

 ベアルがヘカティのギルドカードを受け取ると、それを特殊な器具へと通していく。

「うっし、これでCランクだ。言っとくがな、一応はCランクにするが、駆け出し冒険者である事に変わりはねえ。驕るんじゃねえぞ」
「は、はい!」
「あとこれ、貰っとけ」

 そう言って、ベアルは短剣をヘカティへと手渡した。それは、透き通った黒水晶で出来た片刃の短剣で、見る者を魅了させるデザインだった。

「綺麗……これは?」
「レックスベアに刺さっていた武器の中で身元不明の物だ。しかもあのレックスベアの体皮に刺さっていたにも関わらず、刃こぼれ一つしてないんだ。どうも魔術触媒としても使えるらしくてな。お前、そういう武器持ってないだろ?」
「ないです……。でも良いんですか? 貰っても」
「レックスベアを倒した者の特権だ。本来ならあの武器全部お前の物なんだぞ」
「あーなるほど。分かりました……大事に使わせていただきます!」

 ヘカティはその黒く突き通る刃をギルドの天井にある照明へと翳す。刃の中には呪文か何かが刻まれているのが見えた。

「えへへ……綺麗だなあ」
「はあ……さて、ギルドマスターとしてCランク冒険者ヘカティに依頼がある」
「依頼! やります!」
「ダウンストリームの調査だ。これに関しては共同依頼ってことで、もう一人の冒険者と共にやってもらう」

 そう言って、ベアルがギルドの奥の酒場にあるテーブルへと視線を向けた。

「詳しい話はあいつに伝えてあるから本人から聞くといい。頼んだぞ」
「わ、分かりました!」

 ヘカティが緊張気味にスカートの裾を整えながら、酒場へ向かう。

「こっちだよ~」

 そう言ってヘラヘラ笑いながら手を振っている人物がいて、ヘカティが小走りでそこへと向かった。

 そこには――口元だけを露出している、狼を模した黒い仮面を被った男が座っていた。鮮やかな金色の髪と、仮面の穴から覗く碧眼が印象的だ。

「はは、これまた随分と可愛い子と共同になったもんだね。ラッキ~」

 声からすると青年だと思うが、その軽薄な口調にヘカティは早くも嫌になってきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

処理中です...