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4話:いきなり飛び級ランクアップです!
しおりを挟む王都内、冒険者ギルド。
「はあ!? レックスベアを倒しただと!?」
ベアルの声が響いた。
「すみません……ヒーリングカズラの実は袋一杯まで集められませんでした……」
しょげたような顔でヘカティが、採取用の袋を差し出した。中身は三分の二ほどしか入ってないが、ベアルはそれどころではなかった。
「んな事はどうでも良いんだよ! レックスベアと言えば、二階層の魔物の中でも上位に入る難敵なんだぞ!? 駆け出し冒険者がソロで倒せる魔物じゃねえんだよ!!」
ベアルがそう言うのも無理はなかった。レックスベアの巨体から繰り出される攻撃は、重装備の冒険者ですら下手すると一撃で死んでしまうほどの力を秘めている。何よりも、異常なほどのタフネスと、相手が殺すまで追い続ける執念深さが厄介だった。
話を聞く限り、武器が沢山刺さっていたその個体は間違いなく、歴戦のレックスベアだろう。それをソロで倒すなんてFランクの冒険者には不可能だ。何かの間違いに違いない。
「ありえない。誰か他の奴と組んでいたんだろ? そうに違いない」
しかしそんなベアルの言葉を否定するように、とある冒険者が声を上げた。
「――本当だよ。俺の目の前で、彼女は一人で、レックスベアを倒した」
それは片腕のない、ヘカティが助けた冒険者だった。
「おいおいコール……本当かよ……いや、お前が嘘をつくわけないよな」
「ああ。うちのパーティは俺以外全滅した。そんな嘘をつく余裕はねえよ」
片腕の男――コールがそう言って溜息をついた。
「コールさん! 怪我はもう大丈夫ですか?」
「お陰様でな」
ヘカティの心配そうな声を聞いてコールが笑った。レックスベア討伐後、気絶したコールをヘカティは【重力】の魔術で浮かせて、ダンジョンの出口に常に待機している回復術士のところまで連れて行ったのだ。
安静にしていたおかげでコールは何とか一命を取り留めた。少しでも遅れていれば、命も危うかっただろう。
「君は命の恩人だよ。改めて礼を言おう、ありがとうヘカティ。仇も討ってくれたし形見も取ってくれた。これであいつらも浮かばれるだろうさ」
コールは気絶する前にヘカティに頼んでいた事を、彼女がちゃんとやってくれていた事に感謝した。
それは、レックスベアに刺さっていたコールのパーティメンバーの武器の回収だった。冒険者は皆愛用の武器には自らの家柄やパーティの紋章を刻む風習があった。
律儀に全部の武器を回収したヘカティのおかげで、レックスベアにやられた他の冒険者達の武器も、その身内やパーティメンバーの手に戻り、皆がヘカティへ涙を流しながら感謝の言葉を掛けた。
「いえ。気にしないでください! 言われた通りしただけですから」
「マスター。レックスベア討伐の証は、あの武器と、俺の証言で十分だろう」
「……ああ」
「だったら、さっさとランクを上げてやれ。間違いなくヘカティは――踏破者になる」
コールはそれだけを言うと、去っていった。
「えっと……何が何やらさっぱりなのですが……」
「はあ……当の本人がこれだから、どうもな……」
ベアルが気を取り直して咳払いした。
「――ヘカティ。お前を今日付けでCランク冒険者に認定する」
「ええええええ!?」
ヘカティの驚きの声がギルド中に響いた。自分の声の大きさに、彼女は赤面する。
「ななななん、なんでいきなりCに!?」
「なんでもくそもねえよ。歴戦のレックスベアをソロで討伐なんて十分過ぎる偉業だからな。ギルドカードを渡せ」
「は、はい!」
ベアルがヘカティのギルドカードを受け取ると、それを特殊な器具へと通していく。
「うっし、これでCランクだ。言っとくがな、一応はCランクにするが、駆け出し冒険者である事に変わりはねえ。驕るんじゃねえぞ」
「は、はい!」
「あとこれ、貰っとけ」
そう言って、ベアルは短剣をヘカティへと手渡した。それは、透き通った黒水晶で出来た片刃の短剣で、見る者を魅了させるデザインだった。
「綺麗……これは?」
「レックスベアに刺さっていた武器の中で身元不明の物だ。しかもあのレックスベアの体皮に刺さっていたにも関わらず、刃こぼれ一つしてないんだ。どうも魔術触媒としても使えるらしくてな。お前、そういう武器持ってないだろ?」
「ないです……。でも良いんですか? 貰っても」
「レックスベアを倒した者の特権だ。本来ならあの武器全部お前の物なんだぞ」
「あーなるほど。分かりました……大事に使わせていただきます!」
ヘカティはその黒く突き通る刃をギルドの天井にある照明へと翳す。刃の中には呪文か何かが刻まれているのが見えた。
「えへへ……綺麗だなあ」
「はあ……さて、ギルドマスターとしてCランク冒険者ヘカティに依頼がある」
「依頼! やります!」
「ダウンストリームの調査だ。これに関しては共同依頼ってことで、もう一人の冒険者と共にやってもらう」
そう言って、ベアルがギルドの奥の酒場にあるテーブルへと視線を向けた。
「詳しい話はあいつに伝えてあるから本人から聞くといい。頼んだぞ」
「わ、分かりました!」
ヘカティが緊張気味にスカートの裾を整えながら、酒場へ向かう。
「こっちだよ~」
そう言ってヘラヘラ笑いながら手を振っている人物がいて、ヘカティが小走りでそこへと向かった。
そこには――口元だけを露出している、狼を模した黒い仮面を被った男が座っていた。鮮やかな金色の髪と、仮面の穴から覗く碧眼が印象的だ。
「はは、これまた随分と可愛い子と共同になったもんだね。ラッキ~」
声からすると青年だと思うが、その軽薄な口調にヘカティは早くも嫌になってきたのだった。
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