グラビトンの魔女 ~無能の魔女と言われ追放されたので、気ままに冒険者やりたいと思います。あれ? 何もしていないのにみんなが頭を垂れ、跪く~

虎戸リア

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10話:仮面の変な奴らです!

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 第二階層【孤立無援の死戦場】――七階。

 暗い荒原をヘカティとキースが歩いていた。

「冒険者狩りいませんねえ。そもそも何者なんですかそれ」
「最近、ここに出没する奴らしくてね。複数のパーティが被害に合っている」
「なぜそんな事をするんですか?」

 ただですら危険な場所である塔の中で人間同士が争って何になるんだろうか。ヘカティはそう考えて口にするも、キースが首を横に振った。

「言いたいことは分かるけど、人の善性なんてそんなものさ。塔の中は王国のダンジョン管理局が定めたルールが適用されるのだけど、環境が環境なだけに有名無実化しているのが現状だよ――中で殺人が起きたって裁ききれないし、高値である事が多い冒険者の装備やアイテムを強奪して売る事を主目的とした集団――闇ギルドの連中もいるぐらいだ」
「そんな……」

 悲しい顔をするヘカティだが、キースは言葉を続けた。

「だから、冒険者には武力が必要なんだ。魔物からだけじゃない……闇ギルドからも身を守る力は必要だ」
「分かりました。私も気を引き締めます」

 真面目な顔をするヘカティを見て、キースが微笑む。

「ヘカちゃんを襲うような馬鹿はいないと思うけどね……。それに今回の冒険者狩りは闇ギルドの連中とは少し違うようだ」
「ほうほう」
「なんせ、被害者がみんな生きているからな。なんと一人でいきなり襲ってきて、命どころか装備も奪わず去っていくらしい」
「……何がしたいんですか?」

 ヘカティには理解できない。返り討ちに遭うかもしれないのに、なぜそんな事をするのだろうか。

「腕試し……という可能性もある。時々いるんだよ、そういう馬鹿が。もしくは……誰かにがあって、そいつに復讐したいが為に手当たり次第に襲っている可能性もある」
「復讐ですか……」

 ピンと来ないヘカティだった。

「というわけで、僕と君に調査依頼が入ったのさ。その冒険者狩りは、閃光と共に現れて、Cランク冒険者が揃っているパーティを圧倒したそうだ。油断はしない方が良いだろうさ」
「分かりました!」

 そんな事を話しながら、二人は時折襲ってくる魔物は交替しつつ撃破していく。一階層では襲ってくる魔物は全て無視していたが、二階層に入ってからはきっちりと魔物は処理していった。

 これには理由があった。
 二階層の魔物からは、魔石と呼ばれる素材が取れるようになるからだ。魔石は、ある程度強くなった魔物の体内で精製される物で魔術の触媒や、武器やアイテムの素材として重宝するので王都では高値で取引されている。

 それを聞いた時、ヘカティは一階層で倒したあのレックスベアから魔石を採取しなかった事を悔やんだ。

「結構、取れますね」

 ヘカティは、重力ブレード(ヘカティが命名)で切断したレックスベアの死体から赤く光る、拳大の大きさの玉を拾うと腰につけた小さなポーチへと入れていく。

「……そのポーチ、見た目より随分と容量があるね。もう二十個近く入れてない?」
「あー、ポーチの中に【重力】魔術で収納スペースをいっぱい作ってあるんで見た目より大きいんですよ。あとはそのスペースの中は普通の重力にして出入り口だけを【重力】でゆがませてポーチの口の大きさに合わせてます」
「……つまりどういうこと?」
「詳しい理屈は私にも分かりません! まあとにかく凄くたくさん入るポーチですよ。多分、いっぱいになることはないんじゃないかなあ」

 そもそもヘカティは、【重力】魔術をほぼ、感覚で使っていた。こうすればこうなるかな? で使えるようになるのは、おそらく才能のおかげだろう。

 なので、採取素材を入れる大きなバッグを可愛くないから背負いたくないと、駄々をこねた結果、思い付いたのがこれだった。

 ヘカティは、自分が思っているよりずっと【重力】が便利である事に気付きつつあった。

「……それ、使いようによっては、王都の市場が混乱するから売る時はほどほどにね……」

 仮に無限に持って帰れるとすれば……魔石が市場に溢れかえってしまう。それは流石にまずいし、商人ギルドに目を付けられるかもしれない。そう思ってのキースの発言だったが……。

「そうなんですか? てっきり冒険者達は山ほどの魔石を持って帰って、ウハウハだと思っていました」
「ほとんどの冒険者はパーティを組んで、一匹の魔物を苦労して倒すもんなんだよ。僕や君みたいなのは例外だ」
「なるほど……ってことは、今探している冒険者狩りも当然私達ぐらいで強いってことですよね? 一人でこの二階層にいるわけですし」
「必然的にそうなるね。厄介な力を持っているかもしれない」

 気を引き締めて進む二人だが、その階も特に怪しい人物はいなかった。すでに二十体近くの魔物を倒しており、潜んでいそうな場所もキースの案内で全て見たが、やはり見当たらなかった。

「やっぱりいませんねえ」
「ああ。まあ、常時ダンジョンに潜っているような狂人でない限り、頻繁に王都に戻っているだろうしタイミングが悪かったのかもしれない」
「もう少し上の階も見てみますか? 私は平気ですけど」
「そうだね、八階も見てみ――っ!!」

 キースが何かを察知し素早く剣を抜刀。

 キースの剣が飛来する何かを打ち落とし、火花が薄暗闇でパッと弾けた。

「敵襲だ! 魔物じゃないぞ!」

 キースが地面に落ちた黒い投擲用の刃を見て、そう叫んだ。その言葉と共にヘカティが加重魔術の範囲を拡大。

 四方から飛んでくる刃が加重に耐えられず空中でひしゃげ、そのまま地面へと落ちた。

「囲まれているね」
「冒険者狩りでしょうか?」
「いや……違うな」

 キースとヘカティが背中を合わせ、武器を構えた。暗闇からヌルリと現れたのは――白い仮面だった。それはのっぺりとした何の模様も穴も空いていない仮面を被った男達で、身体には薄暗闇に紛れる黒いローブを纏っているせいか、白い仮面がまるで浮いているように見えた。

「キースさんのお友達?」

 ヘカティが冗談っぽくそう言うが、キースがそれを鼻で笑う。

「まさか。僕はこんな趣味の悪い仮面は被らない」

 その言葉を聞いて、白仮面達が一斉に武器を構えた。

「冒険者狩りに関係性なさそうだけど、襲われた以上は反撃するよヘカティ」
「はい!」
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