グラビトンの魔女 ~無能の魔女と言われ追放されたので、気ままに冒険者やりたいと思います。あれ? 何もしていないのにみんなが頭を垂れ、跪く~

虎戸リア

文字の大きさ
11 / 20

11話:重いよりも軽い方が危険なんですよ?

しおりを挟む
 
 武器を構えるものの、動かない白仮面達。その慎重さをキースは見逃さない。ナイフがひしゃげた距離から彼らは決して近付こうとしない。

 まるで、ヘカティの能力を知っているかのような動きだ。

「どうします? 私の新技ありますけど、多分この人達死んじゃうのであまり使いたくはありません」

 ヘカティが自分へと放たれた魔術による火球を重力バリアで防ぐ。

「それはまだ使わないでおこうか……こいつらに聞きたい事もあるしね。さて、僕とお喋りしたいやつはいないかな? このままじゃ君達、じり貧だけど」

 キースがそう声を張り上げると、一人の男が前へと出てくる。慎重に、ヘカティの魔術範囲に入らないようにだ。

「じり貧? そんなわけがない。我々は慎重に見定めているだけだ。今ここで殺せなくても明日は殺せるかもしれない。明日が無理でも明後日なら殺せるかもしれない。お前らが寝ている時、クソをしている時、恋人と交わっている時……我らは常に命を狙っていると知れ」

 男が静かにそう言い切った。その声色に冗談も嘘も含まれていないのが分かる。
 
 キースは彼らが、プロの暗殺者……おそらくどこかの闇ギルドの手の者だと判断した。

「やれやれ……暗殺者に狙われるなんてだね。仕方ない、ヘカティ、やっちゃって良いよ。あれらは人間じゃない。魔物以下のゴミだ」

 ヘカティはキースのその声に、少しこわばってしまう。普段の少し軽薄で、でも優しいキースから発せられたとは思えないほど、冷たく、そして傲慢な物言いだった。

「……殺す必要はないですよ、キースさん」
「命のやり取りをしている時に、慈悲は不要だよヘカティ。この塔は、冒険者は、そして戦いは、そんな甘っちょろいものではない」

 ヘカティは納得出来なかった。その通りかもしれないけど、人の命はそんな軽いものじゃないと思う。

 殺さずに済ませるのは、おそらく殺す事よりも難しいのかもしれない。だけど――

「甘くても良いんです。それでも、私にはそれが――

 ヘカティが右手を掲げた。

「っ!! 警戒!!」

 溢れんばかりの魔力がそこから放たれたのを見て、白仮面達が離れようとするとも――既に遅い。

「な、なんだこれ!」
「か、身体が!」

 白仮面達は驚きの声を上げるが……すでに手遅れだった。

 彼ら全員が――まるでのだ。

「――【レビテーション】。身体が軽いのって、実は重くなるよりもずっと危険な事が多いんですよ?」

 ヘカティがそう言ってニコリと笑った。

 かつて実験的に自分へ軽量化の魔術を掛けた時、ヘカティは日常生活を送る際にいかに【重力】が大事かを思い知った。ちょっとした衝撃で身体が吹っ飛ぶし、何より軽くしすぎると、宙に浮いてしまい身動きが取れなくなってしまう。

 無風である塔内だからこそ、白仮面達はふわふわとその場に漂っていられるが、これが外であれば彼らはあっという間にどこかへと飛ばされていただろう。

「……なるほどね。軽くして浮かしてさえしまえば……抵抗できないってか」

 キースがそう言ってる間も白仮面達がヘカティへと刃を投擲をしようとしたり、魔術を放とうとするが、それらはあらぬ方向へと飛んでいく。無重力状態では、狙いを定める事さえ難しいのだ。

「重くするより軽くする方がずっと簡単なので、範囲も結構広げやすいんです」
「ヘカちゃんやるねえ……」

 キースは感心していた。加重の魔術で、あえて範囲を相手を認識させておいて、無力化させる軽量魔術の範囲を隠す。高等な魔術師の戦い方だが、ヘカティがそれを自覚的にやっているかどうかは分からない……。

「よし、全員を兵士に突きだそう。尋問については彼らがやってくれるさ」
「分かりました。じゃあ一旦戻りますか?」

 ヘカティがそう言って瞬間。

 世界が――白く塗りつぶされた。

「何!?」
「ヘカティ! 気を付けろ!」

 複数の物がどさりと地面に倒れる音と共に、ヘカティとキースの視界が戻る。気付けば、白仮面達が全員が地面に倒れていた。

「なんだ今のは?」
「分かりません……あっ」

 ヘカティとキースは同時に、その存在に気付いた。

「温い……温すぎる。殺すだの殺さないだの、グダグダと何をくっちゃべっているんだ?」

 掴んでいた一人の白仮面の男を地面へとまるでゴミのように投げ捨てて、ヘカティ達の前に現れたのは一人の背の高い、赤い瞳が特徴的な少女だった。

 鮮やかな銀髪を後頭部でポニーテールにしているその少女は、銀色の薄い板で最低限の部分だけを覆った、不思議な光を放つ鎧を纏っており、手にはその少女に良く似合う、美しい曲剣が握られていた。

 少女はその曲剣をヘカティへと突きつけると、こう言い放ったのだった。

「ようやく見付けたぞ黒き魔女。……返してもらう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蒼炎の公爵令嬢 〜追放された私は、最強冒険者と共に真実の力に目覚める〜

雛月 らん
ファンタジー
「お前は出来損ないだ」——家族に見捨てられた令嬢が、最強の冒険者と出会い、真の力に目覚める異世界ファンタジー! 公爵家に生まれたエリアナは、幼い頃から魔法の制御ができず、家族から冷遇されてきた。 唯一の味方は執事のポールだけ。 人前で魔法を使わなくなった彼女に、いつしか「出来損ない」の烙印が押される。 そして運命の夜会—— 婚約者レオンハルトから、容赦ない言葉を告げられる。 「魔法も使えないお前とは、婚約を続けられない」 婚約破棄され、家からも追放されたエリアナ。 だが彼女に未練はなかった。 「ようやく、自由になれる」 新天地を求め隣国へ向かう途中、魔物に襲われた乗り合い馬車。 人々を守るため、封印していた魔法を解き放つ——! だが放たれた炎は、常識を超えた威力で魔物を一掃。 その光景を目撃していたのは、フードの男。 彼の正体は、孤高のS級冒険者・レイヴン。 「お前は出来損ないなんかじゃない。ただ、正しい指導を受けなかっただけだ」 レイヴンに才能を見出されたエリアナは、彼とパーティーを組むことに。 冒険者ギルドでの魔力測定で判明した驚愕の事実。 そして迎えた、古代竜との死闘。 母の形見「蒼氷の涙」が覚醒を促し、エリアナは真の力を解放する。 隠された出生の秘密、母の遺した力、そして待ち受ける新たな試練。 追放された令嬢の、真の冒険が今、始まる!

聖女を追放した国で地獄の門が開きました。すべてはもう手遅れです

小平ニコ
ファンタジー
貧民街出身というだけで周囲から蔑まれてきた聖女エリシア。十年もの間、自らの身を犠牲にしてバロンディーレ王国の『魔』を封じ続けたが、新たな聖女が見つかったことで『もう用済み』とばかりに国を追放される。 全てを失ったエリシアだったが、隣国の若き王フェルディナントと出会い、彼にこれまでの苦労を認められて救われた気持ちになる。その頃、新しい聖女の力では『魔』を封じきれないことに気づいたバロンディーレ王国の者たちが、大慌てでエリシアを連れ戻そうとしていた。 窮地に陥ってなお、傲慢な態度を見せるバロンディーレの者たちにエリシアは短く言い放つ。 「もう手遅れですわ」

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

『農業スキルはいらない』と追放されたが、魔境の開拓ライフが勝手に世界配信されていた件。聖女や竜が集まり、元仲間は完全に詰みました

たまごころ
ファンタジー
「悪いがクビだ。魔王討伐に『農業』スキルなんて役に立たないからな」 幼馴染の勇者からそう告げられ、俺、アレンはパーティを追放された。 あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。 しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。 俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる! 「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」 俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。 その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。 「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」 「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」 『コメント:なんだこの配信……神か?』 『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』 これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

​「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です

まさき
恋愛
​「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」 ​十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。 しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 ​捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。 死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。 ​(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!) ​清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。 彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。 ​「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」 ​バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。 ​一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。 「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。 ​「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」 ​仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...