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11話:重いよりも軽い方が危険なんですよ?
しおりを挟む武器を構えるものの、動かない白仮面達。その慎重さをキースは見逃さない。ナイフがひしゃげた距離から彼らは決して近付こうとしない。
まるで、ヘカティの能力を知っているかのような動きだ。
「どうします? 私の新技ありますけど、多分この人達死んじゃうのであまり使いたくはありません」
ヘカティが自分へと放たれた魔術による火球を重力バリアで防ぐ。
「それはまだ使わないでおこうか……こいつらに聞きたい事もあるしね。さて、僕とお喋りしたいやつはいないかな? このままじゃ君達、じり貧だけど」
キースがそう声を張り上げると、一人の男が前へと出てくる。慎重に、ヘカティの魔術範囲に入らないようにだ。
「じり貧? そんなわけがない。我々は慎重に見定めているだけだ。今ここで殺せなくても明日は殺せるかもしれない。明日が無理でも明後日なら殺せるかもしれない。お前らが寝ている時、クソをしている時、恋人と交わっている時……我らは常に命を狙っていると知れ」
男が静かにそう言い切った。その声色に冗談も嘘も含まれていないのが分かる。
キースは彼らが、プロの暗殺者……おそらくどこかの闇ギルドの手の者だと判断した。
「やれやれ……暗殺者に狙われるなんて今さらだね。仕方ない、ヘカティ、やっちゃって良いよ。あれらは人間じゃない。魔物以下のゴミだ」
ヘカティはキースのその声に、少しこわばってしまう。普段の少し軽薄で、でも優しいキースから発せられたとは思えないほど、冷たく、そして傲慢な物言いだった。
「……殺す必要はないですよ、キースさん」
「命のやり取りをしている時に、慈悲は不要だよヘカティ。この塔は、冒険者は、そして戦いは、そんな甘っちょろいものではない」
ヘカティは納得出来なかった。その通りかもしれないけど、人の命はそんな軽いものじゃないと思う。
殺さずに済ませるのは、おそらく殺す事よりも難しいのかもしれない。だけど――
「甘くても良いんです。それでも、私にはそれが――出来る」
ヘカティが右手を掲げた。
「っ!! 警戒!!」
溢れんばかりの魔力がそこから放たれたのを見て、白仮面達が離れようとするとも――既に遅い。
「な、なんだこれ!」
「か、身体が!」
白仮面達は驚きの声を上げるが……すでに手遅れだった。
彼ら全員が――まるで重力などないかのように浮いていたのだ。
「――【レビテーション】。身体が軽いのって、実は重くなるよりもずっと危険な事が多いんですよ?」
ヘカティがそう言ってニコリと笑った。
かつて実験的に自分へ軽量化の魔術を掛けた時、ヘカティは日常生活を送る際にいかに【重力】が大事かを思い知った。ちょっとした衝撃で身体が吹っ飛ぶし、何より軽くしすぎると、宙に浮いてしまい身動きが取れなくなってしまう。
無風である塔内だからこそ、白仮面達はふわふわとその場に漂っていられるが、これが外であれば彼らはあっという間にどこかへと飛ばされていただろう。
「……なるほどね。軽くして浮かしてさえしまえば……抵抗できないってか」
キースがそう言ってる間も白仮面達がヘカティへと刃を投擲をしようとしたり、魔術を放とうとするが、それらはあらぬ方向へと飛んでいく。無重力状態では、狙いを定める事さえ難しいのだ。
「重くするより軽くする方がずっと簡単なので、範囲も結構広げやすいんです」
「ヘカちゃんやるねえ……」
キースは感心していた。加重の魔術で、あえて範囲を相手を認識させておいて、無力化させる軽量魔術の範囲を隠す。高等な魔術師の戦い方だが、ヘカティがそれを自覚的にやっているかどうかは分からない……。
「よし、全員を兵士に突きだそう。尋問については彼らがやってくれるさ」
「分かりました。じゃあ一旦戻りますか?」
ヘカティがそう言って瞬間。
世界が――白く塗りつぶされた。
「何!?」
「ヘカティ! 気を付けろ!」
複数の物がどさりと地面に倒れる音と共に、ヘカティとキースの視界が戻る。気付けば、白仮面達が全員が地面に倒れていた。
「なんだ今のは?」
「分かりません……あっ」
ヘカティとキースは同時に、その存在に気付いた。
「温い……温すぎる。殺すだの殺さないだの、グダグダと何をくっちゃべっているんだ?」
掴んでいた一人の白仮面の男を地面へとまるでゴミのように投げ捨てて、ヘカティ達の前に現れたのは一人の背の高い、赤い瞳が特徴的な少女だった。
鮮やかな銀髪を後頭部でポニーテールにしているその少女は、銀色の薄い板で最低限の部分だけを覆った、不思議な光を放つ鎧を纏っており、手にはその少女に良く似合う、美しい曲剣が握られていた。
少女はその曲剣をヘカティへと突きつけると、こう言い放ったのだった。
「ようやく見付けたぞ黒き魔女。あたしの短剣……返してもらう!」
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