64 / 73
【VerΑ編第3章〜大竜星祭】
64話「激突——side暴王」
しおりを挟む「ほんとに隊長の言う通りです! あいつら真正面からやる気です!……愚か者です」
身体が小さい割に声の大きいペン王が見下すようにそう吐き捨てた。
「ぎゃははは! いいじゃねえか! 俺は好きだぜ? こそこそ逃げ回って罠とか仕掛けてくる輩よりもずっと良い!」
「それはあんたが罠を警戒せずいつも正面突破しようとするからでしょ? まあうちもこっちのが好きだけど♪」
豪快に笑いながら叫ぶ陰猫に呆れたように声を掛けるつなかん。しかしそう言いながらも彼女の顔は獰猛な笑みを浮かべている。
「各員、これが最後だ。このイベントはおそらくこの【Day1】で終わる。だから悔いのないように——散れ」
「言われるまでもないです。ぺんの威光を見せつけてやるのです」
「じゃあ俺はあのひょろそうな男を貰うぜ! ゲームとはいえ女を殴るのは好かん」
「うち、キャラ被り嫌いなんよねえ。あの猫っぽい女は殺す」
やる気満々の三人が武器を構え直す。
それを見て満足そうに笑顔を浮かべるアキコが、声を上げた。
「殺せ! 死んでも殺せ! 負けても殺せ! そうしたら——イーブン、公平だ平等だ……フェアーだ。好きに戦い派手に死ね。ただし——あの女は私のだ。手を出すことは許さん……いいな?」
アキコがそう言って、腰から曲刀を抜いて、反対側に佇む少女——ラノアへと向けた。
その目には、歓喜と憧れと……何よりも狂気が含まれている。
偏執と狂気。それが、アキコの原動力だった。
「おーこわ……隊長がやる気満々だなんて、あの女? よっぽど前世で悪いことしたんだぜ。ほんじゃま、始めますか!」
茶化しながら、陰猫さんが赤く光りながら地面を蹴った。それは何のてらいもない突撃。ただしその身体には風を纏っており、速度も異常に早かった。
一瞬で間合いを詰めた陰猫にダーツのような矢が飛来するが、纏った風に弾かれる。
「うにゃー。ああいう手合いは苦手にゃん」
「俺狙いのようだな。任せろ、後ろには——絶対に通さん」
「ほな任せたで!」
「みんな! いくよ!」
それを見たラノア達が動き始める。
「ああ……アキコ……アキコアキコアキコアキコ」
曲刀を静かに構え、ゆっくりと歩きながらブツブツと陶酔したような表情でつぶやくアキコ。それは自分の名前を連呼しているのではなく別の意味が含まれているような口調だ。
陰猫がラノア達のパーティに肉薄する。突撃の勢いを乗せた陰猫の渾身の突きを蔵人が真正面から受け止めた。
金属音が響き、衝撃で土埃が舞う。
「ひょろい割にはやるねえ! 俺の【猪突猛進】を受け止められた奴はそんなにいねえ!」
蔵人は陰猫の剣を器用に刀で捌くと、まるで魔法のようにその衝撃を地面へと受け流した。
「そんなにって事はそれなりにはいるんだな」
「俺はアキコさんみてーに絶対でも最強でもねえからな!」
「そうか。嫌いじゃないぞそういうの」
蔵人が刀を振り抜く。綺麗に弧を描くその剣閃を陰猫が左手に持つ、柄から三叉に分かれた短剣で受け止めた。
「俺に向かって安易に剣を振るのは……悪手だぜ?」
金属がぶつかる音と共に、三叉の間に挟まった蔵人の刀。
「パリングダガーか」
「ビンゴ!」
そのまま陰猫がその短剣——パリングダガーを捻る。
刀は縦の衝撃には強いが、横からの衝撃には弱く、横から力を加えればすぐに折れる。陰猫はこういった侍ロールプレイをしているプレイヤーのなまくら刀を何本も同じ手で折ってきた。
ついた二つ名が【刀狩り】
猪の前世を持つ陰猫。言動によって勘違いされがちだが……彼は決して筋肉馬鹿ではない。確実に自分が勝てる相手……つまり相手取るのが得意な刀を装備した蔵人を狙ったのは偶然ではない。
だが、彼は二つほど見逃している事実があった。
一つ、蔵人の刀がこれまで折ってきた刀とは全く違う質感を出している点。
陰猫がパリングダガーを捻った瞬間。これまでに感じた事のない硬さがその動きを阻んだ。
「っ!」
そしてもう一点。そういった武器破壊をしてくる相手に対して——既に蔵人が対策済みだった事。
蔵人が刀が捻られた方向に合わせて、身体を回転。背中の翼を使い、現実で有り得ない動きで、その捻りによる衝撃を散らしつつ、陰猫に肉薄。
「まじかよ!」
蔵人が刀から手を離し——肉薄した陰猫の胴体へと掌打を叩き込む。
「ぐふっ!」
バックステップをしてその掌打の衝撃を殺そうとするが、しきれず陰猫のHPゲージが削れた。
「ははっ! お前すげえな! ハリウッドかよ! いてっ!」
嬉しそうに笑う陰猫にダーツが刺さる。
青黒いモヤが陰猫にかかり、素早さダウンのデバフが付与された。更に飛んでくるダーツを彼は剣を振ってたたき落とした。
「デバフうぜえ!」
「そのまま死ね」
既に刀が手元に戻っていた蔵人が容赦なく陰猫に突きを繰り出す。
「嫌だね! もっと楽しもうぜ! もう時間もないしな!」
陰猫が笑いながら、その突きを躱す。しかし素早さが下がっているせいか躱しきれず、HPゲージが減った。
「全員、出来る限り早く倒すにゃん! もう来てるにゃん!」
後ろで騒ぐ日傘をもったピンクの少女——ユーナの声に、ようやく陰猫と蔵人、そして戦い始めた全員が気付いた。
その円形フィールドを囲むように——空中戦艦が3隻が浮かび、砲身をこちらへと向けている事に。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる