前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】

64話「激突——side暴王」

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「ほんとに隊長の言う通りです! あいつら真正面からやる気です!……愚か者です」

 身体が小さい割に声の大きいペン王が見下すようにそう吐き捨てた。

「ぎゃははは! いいじゃねえか! 俺は好きだぜ? こそこそ逃げ回って罠とか仕掛けてくる輩よりもずっと良い!」
「それはあんたが罠を警戒せずいつも正面突破しようとするからでしょ? まあうちもこっちのが好きだけど♪」

 豪快に笑いながら叫ぶ陰猫に呆れたように声を掛けるつなかん。しかしそう言いながらも彼女の顔は獰猛な笑みを浮かべている。

「各員、これが最後だ。このイベントはおそらくこの【Day1】で終わる。だから悔いのないように——散れ」
「言われるまでもないです。ぺんの威光を見せつけてやるのです」
「じゃあ俺はあのひょろそうな男を貰うぜ! ゲームとはいえ女を殴るのは好かん」
「うち、キャラ被り嫌いなんよねえ。あの猫っぽい女は殺す」

 やる気満々の三人が武器を構え直す。

 それを見て満足そうに笑顔を浮かべるアキコが、声を上げた。

「殺せ! 死んでも殺せ! 負けても殺せ! そうしたら——イーブン、公平だ平等だ……フェアーだ。好きに戦い派手に死ね。ただし——あの女は私のだ。手を出すことは許さん……いいな?」

 アキコがそう言って、腰から曲刀を抜いて、反対側に佇む少女——ラノアへと向けた。
 その目には、歓喜と憧れと……何よりも狂気が含まれている。

 偏執と狂気。それが、アキコの原動力だった。

「おーこわ……隊長がやる気満々だなんて、あの女? よっぽどしたんだぜ。ほんじゃま、始めますか!」

 茶化しながら、陰猫さんが赤く光りながら地面を蹴った。それは何のてらいもない突撃。ただしその身体には風を纏っており、速度も異常に早かった。
 一瞬で間合いを詰めた陰猫にダーツのような矢が飛来するが、纏った風に弾かれる。

「うにゃー。ああいう手合いは苦手にゃん」
「俺狙いのようだな。任せろ、後ろには——絶対に通さん」
「ほな任せたで!」
「みんな! いくよ!」

 それを見たラノア達が動き始める。

「ああ……アキコ……アキコアキコアキコアキコ」

 曲刀を静かに構え、ゆっくりと歩きながらブツブツと陶酔したような表情でつぶやくアキコ。それは自分の名前を連呼しているのではなく別の意味が含まれているような口調だ。

 陰猫がラノア達のパーティに肉薄する。突撃の勢いを乗せた陰猫の渾身の突きを蔵人が真正面から受け止めた。

 金属音が響き、衝撃で土埃が舞う。

「ひょろい割にはやるねえ! 俺の【猪突猛進ボア・ブレイク】を受け止められた奴はそんなにいねえ!」

 蔵人は陰猫の剣を器用に刀で捌くと、まるで魔法のようにその衝撃を地面へと受け流した。

「そんなにって事はそれなりにはいるんだな」
「俺はアキコさんみてーに絶対でも最強でもねえからな!」
「そうか。嫌いじゃないぞそういうの」

 蔵人が刀を振り抜く。綺麗に弧を描くその剣閃を陰猫が左手に持つ、柄から三叉に分かれた短剣で受け止めた。

「俺に向かって安易に剣を振るのは……悪手だぜ?」

 金属がぶつかる音と共に、三叉の間に挟まった蔵人の刀。

「パリングダガーか」
「ビンゴ!」

 そのまま陰猫がその短剣——パリングダガーを捻る。

 刀は縦の衝撃には強いが、横からの衝撃には弱く、横から力を加えればすぐに折れる。陰猫はこういった侍ロールプレイをしているプレイヤーのなまくら刀を何本も同じ手で折ってきた。

 ついた二つ名が【刀狩り】

 猪の前世を持つ陰猫。言動によって勘違いされがちだが……彼は決して筋肉馬鹿ではない。確実に自分が勝てる相手……つまり相手取るのが得意な刀を装備した蔵人を狙ったのは偶然ではない。

 だが、彼は二つほど見逃している事実があった。

 一つ、蔵人の刀がこれまで折ってきた刀とは全く違う質感を出している点。

 陰猫がパリングダガーを捻った瞬間。これまでに感じた事のない硬さがその動きを阻んだ。

「っ!」

 そしてもう一点。そういった武器破壊をしてくる相手に対して——既に蔵人が対策済みだった事。

 蔵人が刀が捻られた方向に合わせて、身体を回転。背中の翼を使い、現実で有り得ない動きで、その捻りによる衝撃を散らしつつ、陰猫に肉薄。

「まじかよ!」

 蔵人が——肉薄した陰猫の胴体へと掌打を叩き込む。

「ぐふっ!」

 バックステップをしてその掌打の衝撃を殺そうとするが、しきれず陰猫のHPゲージが削れた。

「ははっ! お前すげえな! ハリウッドかよ! いてっ!」

 嬉しそうに笑う陰猫にダーツが刺さる。

 青黒いモヤが陰猫にかかり、素早さダウンのデバフが付与された。更に飛んでくるダーツを彼は剣を振ってたたき落とした。

「デバフうぜえ!」
「そのまま死ね」

 既に刀が手元に戻っていた蔵人が容赦なく陰猫に突きを繰り出す。

「嫌だね! もっと楽しもうぜ! もう時間もないしな!」

 陰猫が笑いながら、その突きを躱す。しかし素早さが下がっているせいか躱しきれず、HPゲージが減った。

「全員、出来る限り早く倒すにゃん! にゃん!」

 後ろで騒ぐ日傘をもったピンクの少女——ユーナの声に、ようやく陰猫と蔵人、そして戦い始めた全員が気付いた。


 その円形フィールドを囲むように——空中戦艦が3隻が浮かび、砲身をこちらへと向けている事に。
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