「声劇台本置き場」

きとまるまる

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「消せる人のお話」(比率:女1)

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「消えろ」「目の前からいなくなれ」

悲しいけど、よく聞く言葉だ。でも、そう言っても、消えて無くなりはしない。

じゃあ...もし、消えて欲しいと願った人が消えるなら...あなたは、どうしますか?

私は、消えろと願えば人を消せる力をもらった。この世界から。そして、自分以外の人の記憶から。

人は、なにを思って言葉を発しているのかなんて、わからない。本当は、そんなこと思ってないのかもしれない。でも、言われた人にはわからない。言葉として発せられたものが、真実だと思いこむ。この世の中、わからないことだらけ。

でも、一つだけ、はっきりとわかることがあるよ。私はね、消えて欲しい人が...いなくなって欲しい人が...たくさんいるんだよ。



ーーー



「ねぇ、もし消えろって願えば消えて無くなるなら...誰を消したい?」

相手は、笑いながら答える。「あんたに決まってるでしょ。さっさと消えろ。」と。

今から、自分が消えて無くなるのに。そう思うと、笑いがこみ上げてくる。抑えきれずに笑ってしまう。相手は、声を荒げて近づいてくる。

消すのは簡単だ。自分の血を消したい相手につけ、目を閉じて 「消えろ。いなくなれ。」と願えばいい 。そうすれば...ほら、いなくなっちゃった。この世界から、私以外の人の記憶から...最初から、存在しなかったことになるの。

力を使えば、自分の大切な物がなくなるのだけれど...これから始まる、平凡な人生に比べれば...。

その日、私の部屋からクマのぬいぐるみがなくなってることに気づいた。



ーーー



「ねぇ、もし消えろって願えば消えて無くなるなら...誰を消したい?」

それを聞いたお姉ちゃんは、笑いながら答えてくれた。意外だった。お姉ちゃんにも、消えて欲しい人がいただなんて。

私は、お姉ちゃんとは、お互いに色々と相談しあったり、買い物に行ったりと、すごく仲が良く、今日も一緒に買い物に行って、お揃いの服とクマのキーホルダーを買って、喫茶店でお話してる。

お姉ちゃんは、すごく優しくて可愛くて人気があって、自慢の姉。

心配かけたくなかった...。だから、たくさん嘘吐いてきた。でも、これからは嘘吐かなくていい。大好きなお姉ちゃんと、いっぱい楽しくお話できる。

「お姉ちゃんにも、そういう人がいたんだねぇ~。」

ふふふ...! お姉ちゃんの願い...私が叶えてあげるね。


ーーー



私は、とても楽しい人生を送っている。あの時とは大違いだ。楽しい人生を邪魔してくるやつがいたら、消せばいいだもん。消したって、私しか覚えてないもん。その人は存在しない世界に、目を開ければ勝手になってるもん。

「楽しい! 毎日が楽しい! 邪魔なものは、全部全部ぜーーんぶ消せるもん! ふふふ! あははは!」

あの時と違って、不幸なことなんてなにもない。あったとしても、消せばいいんだ。

でも、最近消しすぎて、なにがなくなってるのかわかんなくなってきた。この鞄にも、何かキーホルダーが付いてた気が...まぁ、いいか。

今日は、彼氏とデート。人生初の彼氏。今日も、楽しく過ごせたらいいな。



ーーー



今日は、バイト先のネチネチとうるさい客を消した。私は、何人の人を消してきたんだろう? もう、何十人、何百人かもしれない。気に入らなければ、すぐに消してきた。もう、誰を消したのかなんて覚えてないや。

でも、いいんだ。今が楽しければ。私が楽しければ、それでいい。すぎたことを考えるだけ、時間の無駄だ。

それより、早く帰りたい。帰りに、可愛いクマのキーホルダーを見つけて、お姉ちゃんと私の分買ってきちゃった! 早く見せてあげたい! 絶対、喜ぶよ!

「ただいまー! ねぇ、お姉ちゃん! 見て! 可愛いクマのキーホルダーをーーー」

お姉ちゃんの部屋のドアを開けた。そこに、お姉ちゃんはいなかった。そこは、部屋ではなく、物置になっていた。母が、不思議そうに私を見つめ...。

「お姉ちゃんって、あんた一人っ子でしょ?」

笑いながら、そういった。



ーーー



わたしは、大切なものを失った。あれから、何日経ったんだろ? 誰に聞いても、何度聞いても...私に、お姉ちゃんなんて...。

私を心配して、彼が家にやってきた。今は、一人にしてほしいのに...私の気持ちを無視し、彼は優しい言葉を投げかけてくる。

うるさい...うるさいうるさいうるさい...!

「うるさいな! どっかいってよ!!」

彼の手を振り払った。机にぶつかった。マグカップが落ちて、割れた。クマの、マグカップ...。

「......ねぇ、そのマグカップ...誰にもらったものか...わかる...?」

......違う、違うよ...。これは...これは...!

割れたものを、必死に集める。血で手が真っ赤になっても、集めて集めて...。

彼は、慌てて私を止める。私の邪魔をしてくる。邪魔をしてくる、邪魔を...。離して...嫌だ...邪魔だ、邪魔邪魔邪魔邪魔!!

「邪魔しないで! いなくなれ! 私の前から、消えろぉぉぉぉぉ!!」

人は、どう思って言葉を発しているのかなんて、その人自身にしかわからない。

「......違う...違うの...! 私は...私は...!」

本当は、そんなこと思ってないのかもしれない。

「本当に、消えて欲しかったわけじゃ...!」

でも、言われた人にはわからない。

「ごめんなさい...! ごめんなさい...ごめんなさい...!」

世の中、わからないことだらけ。

「ねぇ、どこいったの...? 帰ってきて...帰って...返してよぉぉぉぉ!!」

でも...一つだけ、はっきりわかることがあるよ。

「お願い...お願いだから...!!」

私はね、消えて欲しくなかった人が...。

「大切な...大切な...大切な!!」

「......あれ?」



ーーー



「消えろ」「目の前からいなくなれ」この世界では、悲しいけど、よく聞く言葉だ。私も、ついさっき言ってしまった。

母が「あんた、彼氏いないの? いい加減、一人や二人紹介してくれないと...。」と、笑いながら傷つけてくるので「うるさーい! 消えろー! 私の目の前から、いなくなーれ!!」と。でも、そう言ったって、消えて無くなるわけじゃない。

母は笑いながら、さらに傷をえぐってくる。

「可愛い可愛い一人娘が彼氏の元へいったら、お母さん寂しいでしょ!?」と、反撃を試みるが、残念ながらあまり効果はないようだ。

人は、どう思って言葉を発しているのかなんて、その人自身にしかわからない。本当は、そんなこと思ってないのかもしれない。でも、言われた人にはわからない。この世の中、わからないことだらけ...。

でも...一つだけ、はっきりとわかることがあるよ。私はね...消えて欲しくない人が...。

「あっ、お父さん! お帰りなさい!!」

二人、いるよ。



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