愛されない王女は世界を壊す

夢花音

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1章《赦されざる者たち》

9話 リリスSide 前編 愛憎の芽吹き【凍りついた心】

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寝室のベットの中、天蓋の揺れる音にすら、怯えたように肩を震わせる。リリスは毛布にくるまり、かすれた声でブツブツと呟きを漏らしていた。

「……あの部屋……冷たかった……暗かった……姉さま…いつも…笑ってたのに……」「嘘…みんな………嘘……全部嘘……」

目は虚空を見つめ、焦点が合っていない。皇帝が声をかけようと近づくと、リリスはぎょっとして身を縮めた。

「いや……来ないで……やだ……やだやだやだ……やめて……」

怯えた子どものようなうわ言。その手は、空をつかむように宙をさまよい、時折、幻を払うように何かを振り払う。

「姉さま……どこ……血…の…文字……ちが……わたし……知らなか……た…の」「やめ……お姉様を……殺さないで……お願い……姉さま姉さま……ごめんなさい……助けてあげられなくて……ごめんなさい」

誰も問いかけてなどいないのに、勝手に返事を返し、泣きながら、怯え、謝り、祈る。もはや対話など成立しない。ただ、崩れていく精神をかろうじて身体にとどめているだけだった。

それでも、皇帝はその手を伸ばし――触れることなく、また止まる。「助けたい」と願うには、あまりにも遠く、深い場所に、彼女は囚われていた。

それから、幾度となく夜が明けた。皇帝は諦めず、毎日彼女に話しかけた。返事はなくとも、彼は語り続けた。過去のこと、今のこと、そして、後悔と祈りを込めた未来の話を。

数カ月が過ぎた頃―― リリスはその目をわずかに動かすようになった。最初はほんのわずかな動きだったが、そこには意思があった。まるで、遠く霞んだ世界の中で、彼女が再び光を見つけようとしているかのように。その目線が、ベッドの脇に置かれた粥の器に向けられる。

皇帝は、息を呑んだ。そのわずかな変化が、どれほどの奇跡であるかを知っていた。

その日から数日、リリスは膳を見つめるだけだった。それでも、時折、皇帝の話しかけに反応するようにまぶたを動かした。ついには、かすかに唇が震え、か細い声が漏れるようになった。

「少しでいい。食べてくれないか……」悲しげな声で皇帝は言った。

「……先に、あなたが食べて。毒でも入っていたら、たまらないわ」

その声は、か細いながらもまるで氷のように冷たく初めての明確な言葉だった。皇帝は驚き、そして……痛みを覚えた。

皇帝がわずかに顔を歪めるとリリスは追い打ちをかけるように言った。

「今更、辛そうな顔なんてしないで。あなたが何を感じようが、私のお姉様は何処かに行ってしまった。帰ってこないわ」

皇帝が言葉を失うと、リリスは疲れたと言って皇帝を部屋から追い出した。
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