9 / 30
1章《赦されざる者たち》
9話 リリスSide 前編 愛憎の芽吹き【凍りついた心】
しおりを挟む
寝室のベットの中、天蓋の揺れる音にすら、怯えたように肩を震わせる。リリスは毛布にくるまり、かすれた声でブツブツと呟きを漏らしていた。
「……あの部屋……冷たかった……暗かった……姉さま…いつも…笑ってたのに……」「嘘…みんな………嘘……全部嘘……」
目は虚空を見つめ、焦点が合っていない。皇帝が声をかけようと近づくと、リリスはぎょっとして身を縮めた。
「いや……来ないで……やだ……やだやだやだ……やめて……」
怯えた子どものようなうわ言。その手は、空をつかむように宙をさまよい、時折、幻を払うように何かを振り払う。
「姉さま……どこ……血…の…文字……ちが……わたし……知らなか……た…の」「やめ……お姉様を……殺さないで……お願い……姉さま姉さま……ごめんなさい……助けてあげられなくて……ごめんなさい」
誰も問いかけてなどいないのに、勝手に返事を返し、泣きながら、怯え、謝り、祈る。もはや対話など成立しない。ただ、崩れていく精神をかろうじて身体にとどめているだけだった。
それでも、皇帝はその手を伸ばし――触れることなく、また止まる。「助けたい」と願うには、あまりにも遠く、深い場所に、彼女は囚われていた。
それから、幾度となく夜が明けた。皇帝は諦めず、毎日彼女に話しかけた。返事はなくとも、彼は語り続けた。過去のこと、今のこと、そして、後悔と祈りを込めた未来の話を。
数カ月が過ぎた頃―― リリスはその目をわずかに動かすようになった。最初はほんのわずかな動きだったが、そこには意思があった。まるで、遠く霞んだ世界の中で、彼女が再び光を見つけようとしているかのように。その目線が、ベッドの脇に置かれた粥の器に向けられる。
皇帝は、息を呑んだ。そのわずかな変化が、どれほどの奇跡であるかを知っていた。
その日から数日、リリスは膳を見つめるだけだった。それでも、時折、皇帝の話しかけに反応するようにまぶたを動かした。ついには、かすかに唇が震え、か細い声が漏れるようになった。
「少しでいい。食べてくれないか……」悲しげな声で皇帝は言った。
「……先に、あなたが食べて。毒でも入っていたら、たまらないわ」
その声は、か細いながらもまるで氷のように冷たく初めての明確な言葉だった。皇帝は驚き、そして……痛みを覚えた。
皇帝がわずかに顔を歪めるとリリスは追い打ちをかけるように言った。
「今更、辛そうな顔なんてしないで。あなたが何を感じようが、私のお姉様は何処かに行ってしまった。帰ってこないわ」
皇帝が言葉を失うと、リリスは疲れたと言って皇帝を部屋から追い出した。
「……あの部屋……冷たかった……暗かった……姉さま…いつも…笑ってたのに……」「嘘…みんな………嘘……全部嘘……」
目は虚空を見つめ、焦点が合っていない。皇帝が声をかけようと近づくと、リリスはぎょっとして身を縮めた。
「いや……来ないで……やだ……やだやだやだ……やめて……」
怯えた子どものようなうわ言。その手は、空をつかむように宙をさまよい、時折、幻を払うように何かを振り払う。
「姉さま……どこ……血…の…文字……ちが……わたし……知らなか……た…の」「やめ……お姉様を……殺さないで……お願い……姉さま姉さま……ごめんなさい……助けてあげられなくて……ごめんなさい」
誰も問いかけてなどいないのに、勝手に返事を返し、泣きながら、怯え、謝り、祈る。もはや対話など成立しない。ただ、崩れていく精神をかろうじて身体にとどめているだけだった。
それでも、皇帝はその手を伸ばし――触れることなく、また止まる。「助けたい」と願うには、あまりにも遠く、深い場所に、彼女は囚われていた。
それから、幾度となく夜が明けた。皇帝は諦めず、毎日彼女に話しかけた。返事はなくとも、彼は語り続けた。過去のこと、今のこと、そして、後悔と祈りを込めた未来の話を。
数カ月が過ぎた頃―― リリスはその目をわずかに動かすようになった。最初はほんのわずかな動きだったが、そこには意思があった。まるで、遠く霞んだ世界の中で、彼女が再び光を見つけようとしているかのように。その目線が、ベッドの脇に置かれた粥の器に向けられる。
皇帝は、息を呑んだ。そのわずかな変化が、どれほどの奇跡であるかを知っていた。
その日から数日、リリスは膳を見つめるだけだった。それでも、時折、皇帝の話しかけに反応するようにまぶたを動かした。ついには、かすかに唇が震え、か細い声が漏れるようになった。
「少しでいい。食べてくれないか……」悲しげな声で皇帝は言った。
「……先に、あなたが食べて。毒でも入っていたら、たまらないわ」
その声は、か細いながらもまるで氷のように冷たく初めての明確な言葉だった。皇帝は驚き、そして……痛みを覚えた。
皇帝がわずかに顔を歪めるとリリスは追い打ちをかけるように言った。
「今更、辛そうな顔なんてしないで。あなたが何を感じようが、私のお姉様は何処かに行ってしまった。帰ってこないわ」
皇帝が言葉を失うと、リリスは疲れたと言って皇帝を部屋から追い出した。
11
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる