愛されない王女は世界を壊す

夢花音

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1章《赦されざる者たち》

16話 前編 冬の訪れ凍てつく復讐の吹雪

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目の前に、重厚な扉が現れた。玉座の間。その向こうには――皇帝
まるで セレナを迎え入れるように
扉は開かれ兵はいない。

玉座の間に静かに足音が響く。セレナの姿を見つけた皇帝は、ただ目を見開き、息を呑んだ。

「……セレナ」

その声には、怒気も威圧もなかった。ただ、深い戸惑いと、拭いきれない後悔がにじんでいた。

「無事で……よかった」

「今更?私を閉じ込めて、命さえ奪ばおうとしたのに?」

皇帝は立ち上がろうとしたが、動けなかった。ただ両手を膝の上で握り締め、俯いた。

「……私は、お前に取り返しのつかないことをした。
あの時、怒りのままに言葉を放ち、お前を塔に追いやり、部下たちに余計な"忖度"をさせた。
それが、お前の死に直結すると考えが及ばなかった」

セレナは玉座の前に立ち、真っ直ぐに皇帝の瞳を見つめた。

「皇帝陛下の指示では無いと言うの?
今更、それを信じろと?」
少し嘲るようにセレナは言った。

皇帝は、苦悩を滲ませながらうなずいた。

「……その通りだ。言い訳はしない。すべて、私の責任だ」

静かな間が流れる。

「リリスを望んだのは、私のわがままだった。ただ、絵に映る彼女に恋をして……
小国を脅して、無理を通した。
だが、送られてきたのは――セレナお前だった。」

「……わかっているわ。
あなたが私を捕らえた事も国としての体面を保つ為。
民の混乱を避けるため……ね。」

「だから、あなたは私を"本物じゃない"と切り捨てた」

「吹雪の中塔に閉じ込められ、窓もない部屋でただ一人凍えていた。
寒さに震え怯えながら、空腹と渇きで死を待つしかなかった。
いっそ、ひとおもいに殺してくれた方が楽だと何度も思ったわ」
彼女の瞳は、怒りで燃えていた。

精霊の力が背に満ちる。皇帝は、ただ静かにその光を見る。

「すまない……私はホントにお前を殺めようとは思っていなかった。後悔し続けてきた。お前が逃げたと知ったあの日からずっと」

「いつ、私が逃げ出したことを知ったの?」
それは素朴な疑問だった。誰一人来なかったあの閉ざされた塔で誰がいつ私を見に来たのだろう。

皇帝は苦しげな顔で絞り出すように答えた。

「……半年後だ………」

「半年? ははは………」

思わず乾いた笑いが出た。

「普通なら死んでるわよね」

「それまで、思い出さなかったの? それで殺すつもりがなかったから、許せと?」

「すまない……携わった者たちは処分を与えた……それで済むとは思ってはいない」

「……貴方を許すことは無いわ。私を思い出さなかった? 忘れていた? そうじゃないでしょ? リリスが何度か貴方や家臣に尋ねたと言っていたわ……」

「その度に市井で暮らしていると誤魔化したそうね? 確認する機会は何度もあった……そうでしょ? なのにあなたは放置した! それで殺すつもりがなかった? 後悔してる? 笑わせるわ」

その時、セレナの頭の中で、再び精霊の声が響いた。

『皇帝は罪を認めた。では、他の者たちは?既に、お前に直接関わった家臣たちは皇帝の手により処刑されている。ならば皇帝のみの裁きで良いのか?この国の民達は?……裁かれるべきではないのか?』

セレナの瞳がわずかに揺れた。かすかに唇を噛みしめる。

「……あの時、私が“本物じゃない”と国民は知った。そして国の威厳を守るために、誰もが、私の死を声だかに叫んだ。」

「たとえそれが本人の意思ではないとわかっていても。リリスを迎えるため、私を犠牲にすることを、皆が当然のように受け入れ……それを正義だといい続けた」

『その正義は都合の良い建前だ。そして明らかな罪だ』

胸の奥で怒りが静かに膨らんでいく。燃えるような怒りではなく、凍てつく氷のように、冷たく、深く、静かに――。
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