27 / 30
2章凍てつく断罪----慈悲の導き
7話 セレナの選択――リリスの思い
しおりを挟む
氷に覆われた街を抜けて、セレナはザイレル帝国の王都城門にたどり着いた。
城下では人々が苦しみながらも生きていた。
肌を裂くような寒気のなか、焚き火を囲い、目の焦点を失ったままパンを焼いている。
凍った井戸に鍋を沈めて、少しでも解けた水を集めようとする子供の姿。
――そのことが、何よりも残酷に感じられた。
「……これが、断罪の精霊の与えた罰の果て……」
だが、それでも――終わらせなければならない。
彼らを赦すためではなく、自分が歩き出すために。
広場に向かい歩きながら断罪の時を思い出していた。もう……いいだろ……そう思った時セレナは城内の鏡のある部屋にいた。全ての断罪を見せた鏡は今は何も映っては居なかった。
そっとため息を落とすと、静かに部屋のドアを開いた。
廊下は音もなく静まりかえっていた。まるで誰も居ないような錯覚さえする程に。向かう先はリリスの部屋。近くまで来たときにやっと侍女とあった。
ビクリとして怯えた侍女は
「誰?どうしてここに……」と
声を震わせていた。
その問いにセレナは答えることも歩みを止めることもしなかった。
侍女はハッとして言った。
「あの方だわ……王に報告を――いえ、“王妃さまに”」
“王妃”。それはリリスのことだろう。
セレナの顔には何の感情も浮かばなかった。
セレナの心の奥底から2つの異なる感情とエネルギーが湧き上がり絡み合ってやがて1つの糸になった。
リリスの部屋は、かつてと変わらず静かだった。
しかしその静けさには、かつての無垢ではなく、何か重く沈んだものが漂っていた。
扉を開けると、リリスが椅子に腰掛けていた。
その傍には、他国から来た侍女――マーナが控えている。
彼女は黙ってセレナを見つめ、何も言わずに頭を下げた。
リリスは、ふと立ち上がった。
驚きも、安堵も、後悔も、すべてが混ざったような曖昧な目でセレナを見つめていた。
そして、ひとことだけ――
「……姉さま……」
その声に、セレナの心は波立たなかった。
もはや、何も揺さぶるものはない。
「……突然消えてしまってもう、会えないのかと………」
リリスの声は、幼い少女のように震えていた。
だがセレナはただ一歩、部屋の奥へと進む。
マーナがさりげなく後ろに数歩下がった。セレナはふと目を向けた。
――気づいた。
この少女だけが、あの断罪の渦の中で唯一“変わりがない”者だった。
何も知らず、ただ日々を真面目に生きていた他国の者。
あの日、セレナとマーナは一度も言葉を交わすことはなかったがリリスを守ろうとしていたのは分かった。忠実な侍女。
セレナの心の奥に、何かが小さく結ばれる音がした。
「……彼女が、無傷でいてよかった」
誰に言うでもないその言葉に、マーナはわずかに目を伏せ頭を下げた。
だが、何も言わず黙ってリリスの後ろに控えた。
リリスは涙をこらえるように唇を噛みしめた。
だがセレナはその姿にも、もはや心を揺らさない。
「私に会いたかった?」
「……はい」
「何を話すの?」
「……わからない。けれど……」
けれど――と、言いかけた言葉は、氷のような沈黙にかき消された。
セレナはそっと目を閉じた。
すべてを終わらせるために来た。赦すためではなく、歩き出すために。
その言葉を胸に、セレナは再びリリスを見つめた。
「あなたに恨みごとをいいに来たわけでは無いのよ。もう、責める気もないの」
セレナの声は静かだった。
だが、その一言にリリスは大きく目を見開いた。
「……じゃあ……」
「違う。赦したわけでもない。私は――私のために来たのよ」
リリスの肩が震える。だが、セレナはその様子にも感情を動かさない。
「もう、あなたを“想い続ける”必要もない。
あなたのために、苦しむ理由も……これで終わりにする」
リリスは、膝から崩れ落ちた。
ただ、泣いていた。
セレナは静かに背を向けた。
マーナは何も言わず、セレナが去るその姿に一礼する。
――これで、いい。
すべてを終わらせたセレナの歩みは、確かに未来へと向かっていた。
王妃の部屋から出るとセレナは王がいるだろう玉座の間に向かって歩き始めた。
城下では人々が苦しみながらも生きていた。
肌を裂くような寒気のなか、焚き火を囲い、目の焦点を失ったままパンを焼いている。
凍った井戸に鍋を沈めて、少しでも解けた水を集めようとする子供の姿。
――そのことが、何よりも残酷に感じられた。
「……これが、断罪の精霊の与えた罰の果て……」
だが、それでも――終わらせなければならない。
彼らを赦すためではなく、自分が歩き出すために。
広場に向かい歩きながら断罪の時を思い出していた。もう……いいだろ……そう思った時セレナは城内の鏡のある部屋にいた。全ての断罪を見せた鏡は今は何も映っては居なかった。
そっとため息を落とすと、静かに部屋のドアを開いた。
廊下は音もなく静まりかえっていた。まるで誰も居ないような錯覚さえする程に。向かう先はリリスの部屋。近くまで来たときにやっと侍女とあった。
ビクリとして怯えた侍女は
「誰?どうしてここに……」と
声を震わせていた。
その問いにセレナは答えることも歩みを止めることもしなかった。
侍女はハッとして言った。
「あの方だわ……王に報告を――いえ、“王妃さまに”」
“王妃”。それはリリスのことだろう。
セレナの顔には何の感情も浮かばなかった。
セレナの心の奥底から2つの異なる感情とエネルギーが湧き上がり絡み合ってやがて1つの糸になった。
リリスの部屋は、かつてと変わらず静かだった。
しかしその静けさには、かつての無垢ではなく、何か重く沈んだものが漂っていた。
扉を開けると、リリスが椅子に腰掛けていた。
その傍には、他国から来た侍女――マーナが控えている。
彼女は黙ってセレナを見つめ、何も言わずに頭を下げた。
リリスは、ふと立ち上がった。
驚きも、安堵も、後悔も、すべてが混ざったような曖昧な目でセレナを見つめていた。
そして、ひとことだけ――
「……姉さま……」
その声に、セレナの心は波立たなかった。
もはや、何も揺さぶるものはない。
「……突然消えてしまってもう、会えないのかと………」
リリスの声は、幼い少女のように震えていた。
だがセレナはただ一歩、部屋の奥へと進む。
マーナがさりげなく後ろに数歩下がった。セレナはふと目を向けた。
――気づいた。
この少女だけが、あの断罪の渦の中で唯一“変わりがない”者だった。
何も知らず、ただ日々を真面目に生きていた他国の者。
あの日、セレナとマーナは一度も言葉を交わすことはなかったがリリスを守ろうとしていたのは分かった。忠実な侍女。
セレナの心の奥に、何かが小さく結ばれる音がした。
「……彼女が、無傷でいてよかった」
誰に言うでもないその言葉に、マーナはわずかに目を伏せ頭を下げた。
だが、何も言わず黙ってリリスの後ろに控えた。
リリスは涙をこらえるように唇を噛みしめた。
だがセレナはその姿にも、もはや心を揺らさない。
「私に会いたかった?」
「……はい」
「何を話すの?」
「……わからない。けれど……」
けれど――と、言いかけた言葉は、氷のような沈黙にかき消された。
セレナはそっと目を閉じた。
すべてを終わらせるために来た。赦すためではなく、歩き出すために。
その言葉を胸に、セレナは再びリリスを見つめた。
「あなたに恨みごとをいいに来たわけでは無いのよ。もう、責める気もないの」
セレナの声は静かだった。
だが、その一言にリリスは大きく目を見開いた。
「……じゃあ……」
「違う。赦したわけでもない。私は――私のために来たのよ」
リリスの肩が震える。だが、セレナはその様子にも感情を動かさない。
「もう、あなたを“想い続ける”必要もない。
あなたのために、苦しむ理由も……これで終わりにする」
リリスは、膝から崩れ落ちた。
ただ、泣いていた。
セレナは静かに背を向けた。
マーナは何も言わず、セレナが去るその姿に一礼する。
――これで、いい。
すべてを終わらせたセレナの歩みは、確かに未来へと向かっていた。
王妃の部屋から出るとセレナは王がいるだろう玉座の間に向かって歩き始めた。
11
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる