小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重

文字の大きさ
43 / 60
閑話(アディ視点)

しおりを挟む
◇ 王城 ◇


 深夜、体にズン! と響く振動で目が覚めた。
 直ぐに傍らに置いた剣に手を伸ばす。

「……陛下」

 声をかけてきたのは、近衛第三騎士団の副隊長コヴィノアールだった。
 密やかな声に、そういえば今夜はコヴィをユウに付けなかったのだなと思い出す。

 心の奥底に不安が小さくさざめいた。

 俺の本心を言えば、ユウの警護にはいつもコヴィを付けたい。
 コヴィは、信頼できる優秀な男だ。
 何よりユウをおかしな目で見ない所が良い。


 ユウは、俺が異世界から無理やり召喚しただった。
 俺を――――ひいては、この国を何度も救ってくれた大恩人だ。

 しかし俺がいくらそう言っても、エイベット卿をはじめとした国の重鎮達は、ユウを胡乱うろんに思う事を止めない。
 俺が国を導く王という立場にある限り、俺の周囲に突如として現れたユウをある程度警戒するのは仕方のない事だとはいえ、その態度には腹が立った。

 そんな中で、コヴィは数少ないユウの擁護派だ。
 本人は否定するだろうが、かなりユウを気に入っているのは間違いない。
 ユウの警護にも自ら率先して当たっているくらい。

 しかし、副隊長という役目上、俺の警護をおろそかにしてまでユウの警護につけるはずがなかった。
 隊長が非番な今夜、コヴィはユウの警護を部下に任せ俺の元に詰めている。

「奥の塔に賊が侵入した様子です。今配下の者を援護と確認に向かわせました。陛下はどうぞこの部屋で待機してください」

 コヴィの報告に俺は眉をひそめる。

「いや。俺も直ぐに軍の司令部へ向かう。主だった者全員に緊急招集をかけろ。第一級警戒態勢をとれ」

 この城に直接攻撃を仕掛けられた事など、未だかつてない。
 冷静に醒める頭とは反対に、俺の胸にはイヤな予感が暗い陰りを落としていた。

 俺の命を受けて駆け出そうとするコヴィを、慌てて暫し引き止める。


「――――ユウは?」


 この非常事態に余計な時間をかけるべきではないと思いながらも、聞かずにおられなかった。

「部下を確認に向かわせました。そのまま神殿にお連れするよう命じてあります」

 流石、コヴィの対応は万全だ。

「そうか。神殿に」

 神殿はこういった緊急時に一番安全な場所である。
 たとえどのような極悪非道な敵であろうとも神殿を汚すような真似はしない。
 それは人間のみならず、獣人や有鱗種でさえ変わらぬ決まりだった。

 俺はホッと安堵の息をもらす。

 再びズン! と振動が突きあげた。
 遠くで喧噪の音がする。

「わかった。ありがとう。急げ」

 俺の言葉に、コヴィは黙って頭を下げる。
 ユウが不安がっていないと良いなと思いながら、俺はコヴィに続いて駆け出した。




 そして、駆けつけた軍の司令部で、俺は驚くべき報せを二つ受けた。

 ひとつは、攻め入って来た敵がなんと有鱗種らしいという事。

「バカな?!」

 先に来ていたエイベット卿が愕然とした表情を見せる。

「おそらく間違いありません。敵は火を使い、その火に照らし出された顔には鱗がびっしりあったという証言が出ています」

 報告する兵の顔は蒼ざめていた。
 彼もまた他の多くの兵同様、海を越えて有鱗種から逃げて来た者だ。

「有鱗種が、海を越えられるものか!」

 怒鳴りつけるエイベット卿の声も震えている。
 それ程に俺達にとって有鱗種はトラウマだった。

「肌に鱗持つ存在は、有鱗種以外いない。――――守備の拠点に水を用意しろ。奴らは水を嫌う。水をかけて怯んだところを剣で始末しろ。だが絶対ひとりで敵に当たるな。有鱗種は強い。複数でかからなければ倒すことはできないぞ」

 俺の言葉に、コヴィは驚いたように目を見開く。
 コヴィのような先住民出身の騎士達は、有鱗種を見る事自体はじめてだろう。
 それでも黙って頷くと、部下に指示を出すために司令部を出て行った。

「バカな、何故今更、有鱗種が……」

 震えながらブツブツとエイベット卿が呟く。
 他の主要な大臣や軍の幹部達も反応は皆似たり寄ったりである。
 思った以上にショックは大きいようだった。

 実際、俺も態度にこそ出さないが大きな衝撃を受けている。
 正直な話、信じられないという思いが半分以上だった。
 もしそれが真実ならば、この国はお終いかもしれないとも思う。

 それでも、自分が王である限り取り乱すわけにはいかなかった。
 冷静に対処し、民を守るためにはどうすれば良いのかを真剣に考える。


 そこに飛び込んできたのが二つめの驚くべき報せだった。

 それを持ち込んで来たのは、なんと妹のリーファィアだった。


「お兄さま! ユウさまがいません」


 蒼白な顔で飛び込んできたリーファは、今にも泣き出しそうに話す。
 焦るあまり皆の前だというのに俺を素で『お兄さま』と呼んでいた。

「ユウが!」

 もっとも俺も似たようなものだった。
 俺の心臓は不安にギュッと締め付けられる。

「ユウさまが避難されてくるとの報せを受けて、ずっとお待ちしていたのに、いつまで経ってもいらっしゃらなかったのです。確認させれば、そもそもお部屋に姿がなかったと言うのです!」

 座っていた椅子から思わず体を浮かせる。

(ユウが、行方不明!?)

 信じられない事態だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...