まだまだこれからだ!

九重

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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。

友、遠方よりきたる

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 その知らせは、一羽のフクロウの形で、最初にディアナの元へもたらされた。
 ほぼ同時に、リオールの元へも遠方よりの風が吹き、ネモへは大地の振動が響く。
 ラミアーの元にもコウモリが飛来し、ウルフィアとサーバスは王都からの伝令を急ぎアルディアへと取り次ぐ。



 その時、うららは丁度ギオルの所に居た。
 ポカポカ陽気の明るい日差しの中でいつも通りギオルのウロコをゴシゴシと磨いていた暖は、突如陰った視界に慌てて空を仰ぐ。

 そのままポカンと口を開けた。
 空のほとんどが黒い巨体で塞がれている。
 呆然とした暖の体を、いつにない俊敏な動きでギオルが自分の翼の下に引き入れた。


「ギ、ギオル?」

「じっとしていろ」

 ギオルに庇われた途端、周囲にものすごい風が吹き荒れる。翼の下でさえ強く感じる強風は、外に出ればあっという間に吹き飛ばされるだろう事が容易に予測できる勢いだ。
 直後、ドシン! と大きな音が響き大地がグラグラと揺れる。


「ギオル!」


「スゥェン! このお調子者!」

 ギオルの翼にすっぽり覆われた暖の耳に大きな声が聞こえた。

「やれ良かった! まだ俺が誰かわかるんだな」

「お前のような、そこつ者など知らん!」

「たった今、俺の名を呼んだだろう!」

「聞き間違いだ」


「ギオル!」



「まったく……気をつけろ! わしの契約者が傷ついたらどうしてくれる!」

 大音声での怒鳴り合いに、暖の頭はクラクラとする。


「そうそう、それだ! あのギオルが遂に竜玉を預ける相手を見つけたと、竜の里では大騒ぎだったのだが……本当だったのだな! いったいどんな美竜だ? それともエルフか? なんでも此処にはとんでもない美人のエルフがいると聞いたが?」


 この村に居るエルフはリオールだけである。
 美人のエルフ? と暖は頭を捻る。


「紹介してくれ!」

「断る」

「そんな! 俺とお前の仲だろう? ギオル、スゥェン、ヒーラと言えば、泣くも黙ると言われた天下無敵の竜戦士だったじゃないか!」

 スゥェン、ヒーラというのはギオルの昔話でよく出てきた名前だ。
 暖も時々間違えられたのだが…… まさか竜とは思ってもみなかった。

 暖は、ギオルの翼の下からそっと顔をのぞかせる。
 目に映ったのは、堂々とした体格の巨大な竜だった。

(どうして、この竜と私を間違えるの?)

 いくらなんでも有り得ないだろう。
 認知症といえど、ボケ過ぎだと暖は思う。




「……ヒーラの翼は堕ちた。そんな名の竜戦士など、もうどこにもいない」

 ギオルの呟きは、低く悲しい響きを帯びている。

「ヒーラの死も思い出したんだな。……本当に認知症が治ったのか? いったいどんな奇跡が起きたんだ?」

 スゥェンは、信じられないようにギオルを見ていた。

「お前のことは、ずっと忘れていたかったがな」

「ギオル!」




「――――久しぶりだな。我が友よ」


「ギオル!」


 感激に体を震わせたスゥェンが、一直線にギオルに飛びついてきた。
 巨体をものともせずに、ギオルは暖を翼に抱えたまま飛びついてきたスゥェンを軽く避ける。
 急に止まれなかったスゥェンはズザザザッ! と大地を揺るがし地面と仲良くなった。

 もうもうと土煙が上がる。

「気をつけろと言っただろう。ウララにかすり傷一つつけてみろ、百回殺してやるぞ」

 ギオルはそう言って牙をむき出した。

「それが数百年来の友に対する仕打ちか?」

「友より契約者が第一だ。竜なら常識だろう?」

「ああそうだとも! わかっちゃいたがな!」

 スゥェンは忌々しそうに怒鳴った。

 竜二頭の漫才のようなやり取りをずっと聞いているのも楽しいのだが、そろそろ顔を出しても良いだろうかと暖は思う。



「ギオル?」


 翼の下から、ひょっこりと顔を出して、声をかけた。
 途端、目の前にスゥェンという竜のドアップが迫る。 


「ッ!」


「近づき過ぎだ!」


 ギオルの尻尾が、スゥェンを容赦なくはね飛ばした。 
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