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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
行方不明の小人
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「ディアナ!」
鋭い声で、リオールが魔女の名を呼ぶ。
しかし、ここはリオールの家で、今いるのは暖とリオール本人だけだ。
ウルフィアがこの村からいなくなってから以前にも増して出不精になったディアナは、自分の家から動かず、声など聞こえるはずもない。
なのに――――
『わかっておる。結界を強化した。蟻の子一匹逃げられん。――――探せ!』
空中から、何故かディアナの声がした。
呆然とする暖。
声が聞こえたことも驚いたが、それより何より彼女が驚いているのは、たった今いなくなった小人のことだ。
小人は、断末魔みたいな苦しい叫びをあげていた。
いったい小人に何が起こって、彼はどこに行ったのだろう?
「ウララ、今、あなたのポケットから出て行ったのは、何です?」
戸惑う暖に、リオールが質問してきた。
「エ? ……コ、小人サン、ダケド」
「あれは、間違いなく魔物の気配でした」
暖の「小人サン」という言葉に眉をひそめながらリオールは断言する。
いつも優しいエルフの緊迫した声に、暖は絶句した。
どうやら、暖が拾って匿っていた小人は、魔物だったらしい。
魔に属する者は聖なる気に弱い。
エルフであるリオールの家には魔物を傷つける聖気が満ちていて、魔物である小人はその気に耐えられず逃げ出したのだと、リオールは説明してくれる。
信じられずに暖は、首を横に振った。
「ソンナ! ダッテ、アンナ、小サイ――――」
「小さくとも魔物は魔物です」
リオールは無情に告げる。淡々と言葉を続けた。
「元々小さい種族なのか。それとも体を小さく変化させたのか? ……ディアナがこの村に張った結界は完璧です。それを越えて魔物は入り込みました。おそらく潜入するために己れの姿形を根本から変えたのでしょう。……それにしてもディアナの結界を無傷で越えられるはずもないでしょうからそうとう傷ついたはずですが――――」
確かに、暖が小人を見つけた時彼は傷だらけだった。
悄然と項垂れる暖を椅子に座らせ、リオールは彼女の目を覗き込む。
深い湖のような青い瞳に優しく促され、暖は問われるままにポツリポツリと小人の事を話し出した。
「――――ホントニ、小サナ小人サンナノ」
「バカか!! なんで直ぐに、わしらに教えんのじゃ!」
しかし、途中まで話したところで大きなしわがれ声で怒鳴られてしまった。
慌てて顔を上げれば、そこにはいつの間に現れたのか魔女のディアナが杖をついて立っている。
「ダッテ、小人サン、……ディアナニ、食ベラレルッテ怖ガルカラ」
「わしが、そんな不味いものを食べるはずあるまい!」
暖の言葉を聞いて、ますます怒り出すディアナ。
しかし、どうしてディアナは小人が不味いとわかるのだろう?
疑惑の目を向ける暖を、なおも罵りながら、ディアナは杖を振り上げた。
「ともかく! リオールの家の聖気に触れた魔物は酷く弱っておるはずじゃ。わしの結界を抜けられるはずはない。探せ! 村中、隅から隅まで探すのじゃ!」
叫ぶディアナの声が、開け放った窓の外からも聞こえる。
魔女の声は、魔法に乗って村中に響き渡っていたのだ。
途端、村のあちこちから大きな雄叫びが起こる。
「グオォォォッ!」と、ギオルの咆哮まで聞こえてきた。
目を丸くする暖の前で、いつも大人しいリオールが両手を組んでポキポキと指を鳴らす。
「当然です。ウララの優しさにつけこんで、彼女のポケットに潜り込むなんていう羨ましい事をした魔物を、私が許すはずがありません!」
リオールの言葉は、暗い怨念に満ちていた。
彼の視線は、ウララの腰辺りにあるポケットを睨んでいて、「あんな場所に……」とブツブツ呟いている。
その姿には鬼気迫るものがあり、暖はちょっぴり怖くなってしまう。
その後、村をあげての大捜索がはじまった。
なんとそこには、怠け者のラミアーまで駆り出されている。
「本当に、厄介ごとに巻き込まれる娘ねぇ。……まぁ、退屈しないからいいけれどぉ」
妖艶に微笑む吸血鬼は自分では動かずにコウモリやネズミなどの暗闇を好む小動物を使い、暗がりを調べさせている。
最近ようやく足が少し動くようになってきたネモまで、足を引きずりながら捜索に参加しようした。
暖は、ドワーフを力一杯止める。
「認めるのもシャクだが、俺がここまでになったのはウララのおかげだ。お前に害なす魔物は俺が倒してやる!」
熱く決意を語るネモ。
気持ちはありがたいが、年よりの冷や水は止めて欲しいと暖は思う。
「倒ス必要、ナイ! 害サレテナイシ!」
頼むからもう少し自重してくれないだろうか。
他の皆にも「無理シナイデ」と暖は心から頼む。
リオールが言うからには、小人は間違いなく魔物なのだろう。
しかしネモにも言ったように、暖は小人から何も被害を受けていないのだ。
「……世話ハ、サセラレタ、ケド、……悪イ事、シテナイ!」
必死に言ったのだが――――
「お前は、危機感が足りん!」
暖は、ディアナにプリプリと怒られてしまった。
「もういい! お前は家に帰って留守番でもしておれ! よいか、けっして出てくるでないぞ!」
しまいには、外出禁止まで言い渡されてしまい、疲れ果てて暖は家に帰るはめになる。
「確かに、私じゃ何の役にも立たないけれど……」
それでも、一緒に探すくらいはしたかったと暖は思った。
「小人さんの様子も心配だし――――」
あんな悲鳴をあげて逃げたのだ。
今頃小人はどこかの草の影で、傷つき震えているかもしれない。
重い足取りで、暖はディアナの家に入り――――
「ただいまぁ」
誰もいないとわかっていながら、帰りの言葉を口にした。
その途端――――
「遅い!」
無人のはずの家の中から、怒鳴り声が返って来る。
なんと! そこには、小人がいたのだった。
鋭い声で、リオールが魔女の名を呼ぶ。
しかし、ここはリオールの家で、今いるのは暖とリオール本人だけだ。
ウルフィアがこの村からいなくなってから以前にも増して出不精になったディアナは、自分の家から動かず、声など聞こえるはずもない。
なのに――――
『わかっておる。結界を強化した。蟻の子一匹逃げられん。――――探せ!』
空中から、何故かディアナの声がした。
呆然とする暖。
声が聞こえたことも驚いたが、それより何より彼女が驚いているのは、たった今いなくなった小人のことだ。
小人は、断末魔みたいな苦しい叫びをあげていた。
いったい小人に何が起こって、彼はどこに行ったのだろう?
「ウララ、今、あなたのポケットから出て行ったのは、何です?」
戸惑う暖に、リオールが質問してきた。
「エ? ……コ、小人サン、ダケド」
「あれは、間違いなく魔物の気配でした」
暖の「小人サン」という言葉に眉をひそめながらリオールは断言する。
いつも優しいエルフの緊迫した声に、暖は絶句した。
どうやら、暖が拾って匿っていた小人は、魔物だったらしい。
魔に属する者は聖なる気に弱い。
エルフであるリオールの家には魔物を傷つける聖気が満ちていて、魔物である小人はその気に耐えられず逃げ出したのだと、リオールは説明してくれる。
信じられずに暖は、首を横に振った。
「ソンナ! ダッテ、アンナ、小サイ――――」
「小さくとも魔物は魔物です」
リオールは無情に告げる。淡々と言葉を続けた。
「元々小さい種族なのか。それとも体を小さく変化させたのか? ……ディアナがこの村に張った結界は完璧です。それを越えて魔物は入り込みました。おそらく潜入するために己れの姿形を根本から変えたのでしょう。……それにしてもディアナの結界を無傷で越えられるはずもないでしょうからそうとう傷ついたはずですが――――」
確かに、暖が小人を見つけた時彼は傷だらけだった。
悄然と項垂れる暖を椅子に座らせ、リオールは彼女の目を覗き込む。
深い湖のような青い瞳に優しく促され、暖は問われるままにポツリポツリと小人の事を話し出した。
「――――ホントニ、小サナ小人サンナノ」
「バカか!! なんで直ぐに、わしらに教えんのじゃ!」
しかし、途中まで話したところで大きなしわがれ声で怒鳴られてしまった。
慌てて顔を上げれば、そこにはいつの間に現れたのか魔女のディアナが杖をついて立っている。
「ダッテ、小人サン、……ディアナニ、食ベラレルッテ怖ガルカラ」
「わしが、そんな不味いものを食べるはずあるまい!」
暖の言葉を聞いて、ますます怒り出すディアナ。
しかし、どうしてディアナは小人が不味いとわかるのだろう?
疑惑の目を向ける暖を、なおも罵りながら、ディアナは杖を振り上げた。
「ともかく! リオールの家の聖気に触れた魔物は酷く弱っておるはずじゃ。わしの結界を抜けられるはずはない。探せ! 村中、隅から隅まで探すのじゃ!」
叫ぶディアナの声が、開け放った窓の外からも聞こえる。
魔女の声は、魔法に乗って村中に響き渡っていたのだ。
途端、村のあちこちから大きな雄叫びが起こる。
「グオォォォッ!」と、ギオルの咆哮まで聞こえてきた。
目を丸くする暖の前で、いつも大人しいリオールが両手を組んでポキポキと指を鳴らす。
「当然です。ウララの優しさにつけこんで、彼女のポケットに潜り込むなんていう羨ましい事をした魔物を、私が許すはずがありません!」
リオールの言葉は、暗い怨念に満ちていた。
彼の視線は、ウララの腰辺りにあるポケットを睨んでいて、「あんな場所に……」とブツブツ呟いている。
その姿には鬼気迫るものがあり、暖はちょっぴり怖くなってしまう。
その後、村をあげての大捜索がはじまった。
なんとそこには、怠け者のラミアーまで駆り出されている。
「本当に、厄介ごとに巻き込まれる娘ねぇ。……まぁ、退屈しないからいいけれどぉ」
妖艶に微笑む吸血鬼は自分では動かずにコウモリやネズミなどの暗闇を好む小動物を使い、暗がりを調べさせている。
最近ようやく足が少し動くようになってきたネモまで、足を引きずりながら捜索に参加しようした。
暖は、ドワーフを力一杯止める。
「認めるのもシャクだが、俺がここまでになったのはウララのおかげだ。お前に害なす魔物は俺が倒してやる!」
熱く決意を語るネモ。
気持ちはありがたいが、年よりの冷や水は止めて欲しいと暖は思う。
「倒ス必要、ナイ! 害サレテナイシ!」
頼むからもう少し自重してくれないだろうか。
他の皆にも「無理シナイデ」と暖は心から頼む。
リオールが言うからには、小人は間違いなく魔物なのだろう。
しかしネモにも言ったように、暖は小人から何も被害を受けていないのだ。
「……世話ハ、サセラレタ、ケド、……悪イ事、シテナイ!」
必死に言ったのだが――――
「お前は、危機感が足りん!」
暖は、ディアナにプリプリと怒られてしまった。
「もういい! お前は家に帰って留守番でもしておれ! よいか、けっして出てくるでないぞ!」
しまいには、外出禁止まで言い渡されてしまい、疲れ果てて暖は家に帰るはめになる。
「確かに、私じゃ何の役にも立たないけれど……」
それでも、一緒に探すくらいはしたかったと暖は思った。
「小人さんの様子も心配だし――――」
あんな悲鳴をあげて逃げたのだ。
今頃小人はどこかの草の影で、傷つき震えているかもしれない。
重い足取りで、暖はディアナの家に入り――――
「ただいまぁ」
誰もいないとわかっていながら、帰りの言葉を口にした。
その途端――――
「遅い!」
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