まだまだこれからだ!

九重

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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。

隷属する小人

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「へ?」

 うららは間抜けな声を上げる。
 小人――――ダンケルは、偉そうに胸をそらした。

「喜べ。俺が自ら名乗ることなど滅多にないのだぞ。お前には俺の名を呼ぶ栄誉を与えよう」

(いやいや、そんなもの要らないし)

 即座に暖は思ったが、流石に言葉にはできない。
 それに、どうやらダンケルは、暖に拒否権を与えるつもりがないようだ。

「手を貸せ」

 偉そうに命令してきた。

 この時、暖はダンケルの背中の傷を消毒している最中だった。
 彼はテーブルの上でうつ伏せになっていて、小さな手だけを背中から暖の方に向けている格好だ。
 体勢を変えて起き上がるのに手伝いがいるのだろうと思った暖は「ハイハイ」と返事した。

「ムダに威張っているんだから」

 思わず日本語でブツブツと呟きながら、人さし指を伸ばしダンケルの手にそっと添える。 
 ダンケルは、暖の指に小さな手でギュッと掴まった。
 まるでハムスターに掴まれているみたいな感触で、暖はほんわかしてしまう。

 …………魔物は、ニヤリと笑った。
 ピョン! と、勢いよく立ち上がる。


「我が名はダンケル! 魔王の嗣子にして破壊と殲滅の王。我が名にかけてウララに忠誠を誓わん。我が全てウララのものとなり、生涯御命ぎょめいに従う。――――対価は、ウララの百年の寿命。……ことわりの天秤よ! 契約の均衡やいかん!」


 いきなりわけのわからないことを、叫び出した!


「え?」


 暖はキョトンとする。
 次の瞬間、繋いだ小人の手と暖の指の間から、カッ! と光が放たれた!
 思わず暖は目を瞑る。
 ダンケルは、してやったりとばかりに満面の笑みを浮かべた。
 しかし――――
 その直後に光がポツポツと点滅しはじめたのを見て顔をしかめる。


「え? え? なに、なに? この光?」


 暖には、全然まったくわからなかった。

「クソッ! この明滅は対価が釣り合っていないということか? たかが百年ぽっちの寿命で? チクショウ! じゃあ五十年ならどうだ?」

 ダンケルは悔しそうに叫ぶ。
 彼の言葉を受けて光は少し強くなったが――――点滅は止まらなかった。

「足下を見やがって――――」

 ダンケルは地団駄を踏む。

「では三十年だ! これ以上1分たりとも譲らんぞ!」

 やけくそみたいにダンケルは怒鳴った。
 点滅していた光が、クルクルと回り出す。
 固唾を呑んで見守る中で、……光は、ゆっくりと落ち着いた。
 安定した光がフワッと暖とダンケルを包む。

「ハハッ! ハハハ! やった、やったぞ!」

 大声で笑い出すダンケル。


「ウララ!」


 ちょうどその時、家の中にリオールが飛び込んできた。
 駆け寄ってきたリオールは、長い腕で暖を抱きしめ包み込む。

「リオール、そこを退け! わしがその虫けらを踏み潰してくれる!」

 続いて聞こえてきたのはディアナの声で、家の中に突如不穏な風が巻き起こる。
 虫けらというのは、十中八九、ダンケルのことだろう。
 物騒な内容に、思わず暖はディアナを止めた。

「ダメ!」

「そんなことをすれば、こいつの命は三十年縮むぞ!」

 暖の制止に重なって、落ち着いたダンケルの声が響く。
 リオールがピクリと震えた。
 何のことかわからずに、暖は首を傾げる。


「小賢しい魔物め。貴様ウララと隷属の契約を交わしたのか?」


 忌々しそうな声と同時に風が治まって、ディアナが姿をあらわした。
 ダンケルが、フフンと鼻で笑う。


「その通りだ。隷属の契約の対価に三十年の寿命を証とした。俺が死ねば、そいつは三十年の時を失う」


 そう言った。
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