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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
嘘つきな小人
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――――それは古い魔物の契約方法なのだそうだった。
隷属を誓った魔物が、理不尽に殺されないための担保として、相手の寿命を預かるのだと。
どちらかが天寿を全うすれば契約は何事もなく解除されるが、それ以外で魔物が死した場合、契約主は対価となった寿命を失うことになる。
つまり、ダンケルがここでディアナに殺されたら、暖はいっぺんに三十歳年をとってしまうのだった!
人間にとって三十年は、長い。
(私、いっぺんに五十代になっちゃうの?)
――――それは、絶対嫌だった。
最初にダンケルが言った百年なんてとんでもない! それでは彼が殺された途端、暖も死ぬことになっていただろう。
「三十年などあっという間じゃ。大丈夫じゃウララ。わしが良い茶飲み友達になってやろう」
ディアナは、そう言って杖を振り上げる。
「キャアァァッ! 止メテ!」
暖は必死に止めた。
「止めてください! ディアナ!」
リオールも慌てて止めてくれる。
「私は、ウララが何歳であろうとも変わらず向き合える自信があります。しかし、ただでさえ短いウララの寿命が減ることは我慢できません! ……しかも、魔物風情に奪われるなど!」
リオールがダンケルを睨む視線は、それだけで相手を殺せそうなほど。
その気持ちは嬉しいが、視線で本当にダンケルが死んだら困るので、止めて欲しいと暖は思った。
「リオール、私、大丈夫ヨ」
安心して欲しくて、彼女をきつく抱きしめるリオールの腕を暖はそっと撫でる。
ところが、リオールの腕の力は緩むどころか反対に強くなった。
それだけ自分がリオールを心配させてしまったのだと思えば、申し訳なさに暖は項垂れる。
二人の様子を見ながら、杖を下ろしたディアナは、大きくため息をついた。
「リオール、ウララを離してやれ。お前がその調子ではウララがもっと不安になる。……その魔物にしてやられたのは口惜しいが、隷属を誓ったからにはそやつはウララを害せない。逆らうことすらできんじゃろう」
ディアナの言葉に、ダンケルはわずかに顔をしかめる。
「誇り高い魔族が。バカな真似をしたものじゃ」
呆れたように声をかけてくる魔女を、小さな小人は睨みつけた。
「……俺がそうしなければ、お前らは俺を殺しただろう?」
「むろんじゃ。いくらウララの望みでも魔物を生かしておくなど愚の骨頂じゃ。ウララには適当な嘘をついて、プチッと一息に潰しておったじゃろうな」
悪びれもせず、殺意を認めるディアナ。
厳重な結界で逃げ道を塞がれ、エルフの聖気でケガを負った魔物。
魔女やエルフ、竜やドワーフ、吸血鬼らに命を狙われたダンケルは絶体絶命。
単に暖を人質に取ったとしても、彼が逃げおおせる可能性は万にひとつもない。
生き延びる術は、隷属の契約以外になかったのだ。
「死んだら何にもならないからな」
ディアナから視線を外し、ダンケルは軽い調子でひょいっと肩をすくめる。
「あさましい奴だ」
吐き捨てるようにリオールが言った。
「あさましくて結構。我ら魔族は食うか食われるかだからな。死ねば負けだ。お綺麗に生きるエルフとは、一生わかりあえんさ」
ダンケルはバカにしたように嘲笑う。
気色ばむリオールをディアナが止めた。
「こやつの考え方など、どうでもよい。それより……さっさと正体を表せ!」
そう言ってディアナは、ビシッと杖をダンケルに突きつけた。
「正体?」
怪訝そうな暖に対し、魔女の老婆は「本当にお前は間抜けじゃな」と呆れながら教えてくれる。
「ただの魔物ならともかく、隷属の契約を行えるような魔族がこんな吹けば吹っ飛ぶような姿のわけがないじゃろう? 確かに魔物の中には小人もいるが、魔族が小人とは聞いたことがない」
魔に属する者全てを魔物といい、その中でも特に力や知恵の優れた種族を魔族と呼ぶのだと、ディアナは教えてくれる。
どうやら小人は小人ではなかったようだ。
驚きに暖の目は丸くなる。
「元の姿に戻った方が、変化の魔法に力を使わぬ分回復も早いはずじゃ。ぐずぐずせんでさっさと戻らんか!」
ディアナに怒鳴られたダンケルは、もう一度肩をすくめた。
「小人の方が同情心と庇護欲を煽って、そのお人好しに色々面倒をみてもらえて楽なんだがな」
「やっぱり、潰しましょう!」
たちまち殺気だつリオールを、暖は必死に止めた。
――――そうして元の姿に戻ったダンケルは、
黒髪黒目の、もの凄い美丈夫だった!
見上げるほどに背が高い細マッチョのイケメンに、暖は言葉を失う。
彼の頭の両脇には、立派な巻角がついていた。
「…………コ、小人サンハ?」
「俺だ」
右手の親指を立て、ダンケルは自分の胸をさす。
高い位置から、暖の困惑を、面白そうに見下ろした。
「ウ、嘘ツキ~!!」
暖の大声が、古いディアナの家を揺るがす勢いで響き渡った。
隷属を誓った魔物が、理不尽に殺されないための担保として、相手の寿命を預かるのだと。
どちらかが天寿を全うすれば契約は何事もなく解除されるが、それ以外で魔物が死した場合、契約主は対価となった寿命を失うことになる。
つまり、ダンケルがここでディアナに殺されたら、暖はいっぺんに三十歳年をとってしまうのだった!
人間にとって三十年は、長い。
(私、いっぺんに五十代になっちゃうの?)
――――それは、絶対嫌だった。
最初にダンケルが言った百年なんてとんでもない! それでは彼が殺された途端、暖も死ぬことになっていただろう。
「三十年などあっという間じゃ。大丈夫じゃウララ。わしが良い茶飲み友達になってやろう」
ディアナは、そう言って杖を振り上げる。
「キャアァァッ! 止メテ!」
暖は必死に止めた。
「止めてください! ディアナ!」
リオールも慌てて止めてくれる。
「私は、ウララが何歳であろうとも変わらず向き合える自信があります。しかし、ただでさえ短いウララの寿命が減ることは我慢できません! ……しかも、魔物風情に奪われるなど!」
リオールがダンケルを睨む視線は、それだけで相手を殺せそうなほど。
その気持ちは嬉しいが、視線で本当にダンケルが死んだら困るので、止めて欲しいと暖は思った。
「リオール、私、大丈夫ヨ」
安心して欲しくて、彼女をきつく抱きしめるリオールの腕を暖はそっと撫でる。
ところが、リオールの腕の力は緩むどころか反対に強くなった。
それだけ自分がリオールを心配させてしまったのだと思えば、申し訳なさに暖は項垂れる。
二人の様子を見ながら、杖を下ろしたディアナは、大きくため息をついた。
「リオール、ウララを離してやれ。お前がその調子ではウララがもっと不安になる。……その魔物にしてやられたのは口惜しいが、隷属を誓ったからにはそやつはウララを害せない。逆らうことすらできんじゃろう」
ディアナの言葉に、ダンケルはわずかに顔をしかめる。
「誇り高い魔族が。バカな真似をしたものじゃ」
呆れたように声をかけてくる魔女を、小さな小人は睨みつけた。
「……俺がそうしなければ、お前らは俺を殺しただろう?」
「むろんじゃ。いくらウララの望みでも魔物を生かしておくなど愚の骨頂じゃ。ウララには適当な嘘をついて、プチッと一息に潰しておったじゃろうな」
悪びれもせず、殺意を認めるディアナ。
厳重な結界で逃げ道を塞がれ、エルフの聖気でケガを負った魔物。
魔女やエルフ、竜やドワーフ、吸血鬼らに命を狙われたダンケルは絶体絶命。
単に暖を人質に取ったとしても、彼が逃げおおせる可能性は万にひとつもない。
生き延びる術は、隷属の契約以外になかったのだ。
「死んだら何にもならないからな」
ディアナから視線を外し、ダンケルは軽い調子でひょいっと肩をすくめる。
「あさましい奴だ」
吐き捨てるようにリオールが言った。
「あさましくて結構。我ら魔族は食うか食われるかだからな。死ねば負けだ。お綺麗に生きるエルフとは、一生わかりあえんさ」
ダンケルはバカにしたように嘲笑う。
気色ばむリオールをディアナが止めた。
「こやつの考え方など、どうでもよい。それより……さっさと正体を表せ!」
そう言ってディアナは、ビシッと杖をダンケルに突きつけた。
「正体?」
怪訝そうな暖に対し、魔女の老婆は「本当にお前は間抜けじゃな」と呆れながら教えてくれる。
「ただの魔物ならともかく、隷属の契約を行えるような魔族がこんな吹けば吹っ飛ぶような姿のわけがないじゃろう? 確かに魔物の中には小人もいるが、魔族が小人とは聞いたことがない」
魔に属する者全てを魔物といい、その中でも特に力や知恵の優れた種族を魔族と呼ぶのだと、ディアナは教えてくれる。
どうやら小人は小人ではなかったようだ。
驚きに暖の目は丸くなる。
「元の姿に戻った方が、変化の魔法に力を使わぬ分回復も早いはずじゃ。ぐずぐずせんでさっさと戻らんか!」
ディアナに怒鳴られたダンケルは、もう一度肩をすくめた。
「小人の方が同情心と庇護欲を煽って、そのお人好しに色々面倒をみてもらえて楽なんだがな」
「やっぱり、潰しましょう!」
たちまち殺気だつリオールを、暖は必死に止めた。
――――そうして元の姿に戻ったダンケルは、
黒髪黒目の、もの凄い美丈夫だった!
見上げるほどに背が高い細マッチョのイケメンに、暖は言葉を失う。
彼の頭の両脇には、立派な巻角がついていた。
「…………コ、小人サンハ?」
「俺だ」
右手の親指を立て、ダンケルは自分の胸をさす。
高い位置から、暖の困惑を、面白そうに見下ろした。
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