48 / 102
第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
魔族の目的
しおりを挟む
「ほほう、それは初耳じゃな」
情報通のディアナでも、知らないことはあるようで、魔女は小さな目を大きく見開く。
「絶対、その事を外に漏らさぬようにと、父が――――魔王が、魔法をかけたからな」
神妙な顔で、ダンケルは話した。
どんなに規制をしたとしても機密は必ず漏れる。過去の数多の歴史がその事実を物語っている。
それを危惧した魔王は、魔族全員に対し秘密を明かそうとした途端その者が死ぬ魔法をかけたそうだ。
「……それはまた、バカな魔法をかけたものじゃな」
ディアナは、顔をしかめてそう評した。
「ナンデ?」
暖は不思議そうにディアナにたずねる。
秘密を漏らさないために魔王がかけた魔法は、この上なく有効な手段だろう。
聞かれたディアナはバカにするかのように鼻で笑った。
「そんなことをすれば、魔族はその問題を必ず内部だけで解決しなければならなくなる。――――愚の骨頂じゃ」
知識はどうしても生まれ育った環境によって偏る。解決できない問題に面した時、発想の転換をはかることは常識であり、その際同じような考え方の者ばかり集まっても結果は期待できない。
「そうでなくとも、エルフや竜族のように永くを生きて知識を蓄えたものに助けを求めないなど、気がしれんな」
「魔族だって長命種だ!」
嘲るディアナに憤慨し、ダンケルが怒鳴り返す。
「ムダに大きい闘争本能で、殺しあいを繰り返さなければな。――――年を取り弱った者を獲物としか見なさず端から殺す種族が、どんな知恵を蓄えられる?」
ディアナは蔑んだ笑いを浮かべた。
言い返せずにダンケルは唇を噛む。
老いた魔女は、小さなため息をこぼした。
「……まあよい。今は、魔族の愚かさをあげつらっておる場合ではないからの。それで、いよいよ行き詰まった魔族が外から解決策を探そうとして、治癒魔法の噂に行き着いたんじゃな?」
ディアナの確認の言葉に、ダンケルは渋い顔で頷く。
「戦いを起こせば、戦場に治癒魔法の使い手が現れると思ったんだ」
人間の治める国のひとつに治癒魔法の使い手がいるという噂がたったのは、ほんの少し前のことだった。
信憑性も何もない、小さなこぼれ話みたいな噂。
しかし万策尽きて藁にも縋る思いだった魔族は、そんな噂に縋りついた。
隣国トクシャを操り、戦争を仕掛ける。
……ところが戦いを起こしたものの肝心な治癒魔法の使い手はさっぱり現れなかった。
それでも微かな噂の痕跡をたどれば、戦場に出てきた王子の一人が以前では考えられないほど元気になっているという事実に突き当たった。
「王子の過去を探って、この村を見つけたんだ」
ダンケルは、そう言った。
「やっぱり、あのクソ王子は一度潰した方がいいですね」
ボソッとリオールが呟く。
「リ、リオール?」
「あぁ、ウララ心配しないでください。冗談ですから」
顔を青くした暖に、リオールは美しく微笑んだ。
ちっとも安心できないのは何故だろう。
「あんな、何時でも潰せるような王子のことは後じゃ。それより――――」
「ツ、潰シチャ、ダメ!」
物騒なディアナの発言に、暖は焦って声を上げる。
「冗談だと言っておろうが! お前はちと黙っておれ!」
たちまちディアナに叱りつけられて、暖は渋々口を噤んだ。
冗談に聞こえないのは、絶対ディアナのせいだと思う。しかしここで文句を言えるほど、暖は強くなかった。
彼女を黙らせた魔女は、今度は視線をダンケルに向ける。
睨み付けられた体格のよい魔族は、小さく体を震わせた。
「それより、今問題なのは、魔族、お前じゃ! お前は、この話を我らにしてどうするつもりじゃ? この場で生きて話ができているからには、お前の行動は魔王の意向をくんだものと考えてよいのじゃろうな?」
魔王は秘密を洩らした魔族が直ちに死ぬ魔法をかけたのだと、ダンケルは言った。
しかし彼は生きてここに立っている。
ならば、彼だけ特別に秘密を話せる許しを得ているということなのだろう。
ディアナの問いに、ダンケルは神妙に頷く。
「俺は、父王からの密命を受けてこの村に来たんだ」
やっぱりそうだったのかと全員が思う中、魔族の王子は言葉を続ける。
「俺の受けた命令は、二つ。一つは、治癒魔法の使い手を突き止めること。そしてもう一つは……その者を拉致することだ」
情報通のディアナでも、知らないことはあるようで、魔女は小さな目を大きく見開く。
「絶対、その事を外に漏らさぬようにと、父が――――魔王が、魔法をかけたからな」
神妙な顔で、ダンケルは話した。
どんなに規制をしたとしても機密は必ず漏れる。過去の数多の歴史がその事実を物語っている。
それを危惧した魔王は、魔族全員に対し秘密を明かそうとした途端その者が死ぬ魔法をかけたそうだ。
「……それはまた、バカな魔法をかけたものじゃな」
ディアナは、顔をしかめてそう評した。
「ナンデ?」
暖は不思議そうにディアナにたずねる。
秘密を漏らさないために魔王がかけた魔法は、この上なく有効な手段だろう。
聞かれたディアナはバカにするかのように鼻で笑った。
「そんなことをすれば、魔族はその問題を必ず内部だけで解決しなければならなくなる。――――愚の骨頂じゃ」
知識はどうしても生まれ育った環境によって偏る。解決できない問題に面した時、発想の転換をはかることは常識であり、その際同じような考え方の者ばかり集まっても結果は期待できない。
「そうでなくとも、エルフや竜族のように永くを生きて知識を蓄えたものに助けを求めないなど、気がしれんな」
「魔族だって長命種だ!」
嘲るディアナに憤慨し、ダンケルが怒鳴り返す。
「ムダに大きい闘争本能で、殺しあいを繰り返さなければな。――――年を取り弱った者を獲物としか見なさず端から殺す種族が、どんな知恵を蓄えられる?」
ディアナは蔑んだ笑いを浮かべた。
言い返せずにダンケルは唇を噛む。
老いた魔女は、小さなため息をこぼした。
「……まあよい。今は、魔族の愚かさをあげつらっておる場合ではないからの。それで、いよいよ行き詰まった魔族が外から解決策を探そうとして、治癒魔法の噂に行き着いたんじゃな?」
ディアナの確認の言葉に、ダンケルは渋い顔で頷く。
「戦いを起こせば、戦場に治癒魔法の使い手が現れると思ったんだ」
人間の治める国のひとつに治癒魔法の使い手がいるという噂がたったのは、ほんの少し前のことだった。
信憑性も何もない、小さなこぼれ話みたいな噂。
しかし万策尽きて藁にも縋る思いだった魔族は、そんな噂に縋りついた。
隣国トクシャを操り、戦争を仕掛ける。
……ところが戦いを起こしたものの肝心な治癒魔法の使い手はさっぱり現れなかった。
それでも微かな噂の痕跡をたどれば、戦場に出てきた王子の一人が以前では考えられないほど元気になっているという事実に突き当たった。
「王子の過去を探って、この村を見つけたんだ」
ダンケルは、そう言った。
「やっぱり、あのクソ王子は一度潰した方がいいですね」
ボソッとリオールが呟く。
「リ、リオール?」
「あぁ、ウララ心配しないでください。冗談ですから」
顔を青くした暖に、リオールは美しく微笑んだ。
ちっとも安心できないのは何故だろう。
「あんな、何時でも潰せるような王子のことは後じゃ。それより――――」
「ツ、潰シチャ、ダメ!」
物騒なディアナの発言に、暖は焦って声を上げる。
「冗談だと言っておろうが! お前はちと黙っておれ!」
たちまちディアナに叱りつけられて、暖は渋々口を噤んだ。
冗談に聞こえないのは、絶対ディアナのせいだと思う。しかしここで文句を言えるほど、暖は強くなかった。
彼女を黙らせた魔女は、今度は視線をダンケルに向ける。
睨み付けられた体格のよい魔族は、小さく体を震わせた。
「それより、今問題なのは、魔族、お前じゃ! お前は、この話を我らにしてどうするつもりじゃ? この場で生きて話ができているからには、お前の行動は魔王の意向をくんだものと考えてよいのじゃろうな?」
魔王は秘密を洩らした魔族が直ちに死ぬ魔法をかけたのだと、ダンケルは言った。
しかし彼は生きてここに立っている。
ならば、彼だけ特別に秘密を話せる許しを得ているということなのだろう。
ディアナの問いに、ダンケルは神妙に頷く。
「俺は、父王からの密命を受けてこの村に来たんだ」
やっぱりそうだったのかと全員が思う中、魔族の王子は言葉を続ける。
「俺の受けた命令は、二つ。一つは、治癒魔法の使い手を突き止めること。そしてもう一つは……その者を拉致することだ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる