まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
54 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

花嫁? それとも食料!?

しおりを挟む
 そんなこんなのやり取りの後、うららはダンケルから物凄く大事にされて魔界入りを果たす。

「チョッ! チョット! ダンケル」

「黙っていろ!」

 現在暖がいる場所は、複雑怪奇に入り組んだ魔王城の中だ。
 窓がなく照明器具もないのに不思議と明るい廊下を、ダンケルにで運ばれている。
 自分で歩けると言っているのに、ダンケルは聞いてくれなかった。
 なんと、スウェンに降ろされてからずっとこの体勢で移動してきたのだ。

「お前が転んで衝撃を受けて、防御魔法が発動したらどうするつもりだ?」

 いくらなんでもそれはないだろう? とは思うのだが、暖も絶対大丈夫という自信はない。
 結果、強く断れずに抱き上げられている。
 しかし、そんな二人が注目されないわけはなかった。


「殿下、お戻りだったのですか?」

 目ざとくダンケルを見つけた鎧をつけた騎士が近づいてくる。
 筋骨隆々とした騎士の「殿下」呼びを聞き、そういえばダンケルは魔族の王子だったのだと、今更ながらに暖は思い出した。


「寄るな!」


 その騎士をダンケルは一言で退ける。
 命令された騎士は、その場で「ハッ」と畏まり頭を下げ硬直した。
 見慣れぬダンケルの威厳のある姿に、暖は目を丸くする。
 とてもモップを抱えて竜のウロコ磨きをしていた彼と同一人物とは思えない。

 廊下は長く遠く、次から次へと魔族は現れてきた。

「殿下、そちらの令嬢は?」

「見るな!」

「なんと! 人間ではありませんか?」

「触れるな!」

「一体全体、どうして人間の娘など?」

「ええいっ! うるさい! 死にたくなかったら側に寄るな!」

 近づいてくる魔族たちを蹴散らし、必死で暖を隠すダンケル。
 彼にしてみれば、城の同族たちが暖の防御魔法の被害に遭わないように心配しての態度なのだろうが、残念ながら他の者の目にはそんな風には映らない。

(絶対、誤解されているわよね)

 暖は、こっそりため息をついた。
 誰が見たってダンケルの態度は抱いている女性を守るためとしか見えないだろう。
 王子から掌中の玉のように大切にされる人間の娘に、魔族の関心は高まっていく。
 それでも王子であるダンケルを引き留められる者はいず、なんとかダンケルの私室だという豪華絢爛な部屋にたどり着いたのだが。

 そこに――――


「ダンケル! 人間の花嫁を連れ帰ったと聞いたが本当か!?」


 ダンケルによく似た角を持つ、青い髪の青年魔族が飛び込んできた。


「バカ! 止めろ! そんなことを言うんじゃない! ……今、背中にとんでもない悪寒が走ったぞ。普通の魔族なら即死レベルの呪いだ。畜生、あのエルフの仕業だな」

 魔界の中のことは外の世界にわからないはずなのに、悪寒がしたと叫び出すダンケル。
 もしもそれが本当だとしたら、いったいリオールたちの力はどれだけ強いのだろう。

「気ノセイ、違ウ?」

 暖の言葉に、ダンケルは首を横に振った。

「いや間違いない。……俺は、よくあそこから無事に帰って来られたものだ」

 桁外れな力の持ち主ばかりだった村の住人を思い出したのか、ダンケルはホッとしたように大きなため息をつく。


「は? いったい何の話だ? ……花嫁でないのなら、その人間は極上の食料なのか?」

 ダンケルと暖の会話の意味がわからなかったのだろう、青い髪の青年魔族は首を捻ると今度は舌舐めずりしながら暖を見つめてくる。

「止めろ! 本気で俺を殺す気なのか!?」 

 体をブルブル震えさせながら、ダンケルは怒鳴り返した。
 青年魔族は、ますます不思議そうな顔をする。

「じゃあ、いったいそいつはなんなんだ?」 

「……彼女は、父に会わせるために連れてきたんだ」

 再三の問いかけを受けて渋々ダンケルは答える。


「やっばり花嫁じゃないか!」


 青年魔族は、ポン! と両手を打ち合わせた。
 独身の男が、父に会わせるために女性を連れて来たと言うのなら相手は恋人と相場は決まっている。
 普通、誰でもそう思うだろう。


「違うと言っているだろう!」


 しかし、ハアハアと息を荒げながら、ダンケルは否定した。

「え~?」

 不服そうにしながら、青年魔族は口を尖らせる。
 その表情から彼が絶対納得していないのは、まるわかりだ。

「本当に?」

 疑わしそうに言って、暖の顔を覗き込んできた。
 バチン! と音を立てそうな勢いで、暖と青年魔族の目と目が合う。

(うわっ! スゴイ綺麗な赤い目)

 一瞬見惚みとれた暖なのだが、


「ウォッ! やっぱり食料じゃないか! なんて美味うまそうなんだ!」


 青年魔族の方は、暖を一目見た途端に、なんとそう叫んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...