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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
花嫁? それとも食料!?
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そんなこんなのやり取りの後、暖はダンケルから物凄く大事にされて魔界入りを果たす。
「チョッ! チョット! ダンケル」
「黙っていろ!」
現在暖がいる場所は、複雑怪奇に入り組んだ魔王城の中だ。
窓がなく照明器具もないのに不思議と明るい廊下を、ダンケルにお姫様抱っこで運ばれている。
自分で歩けると言っているのに、ダンケルは聞いてくれなかった。
なんと、スウェンに降ろされてからずっとこの体勢で移動してきたのだ。
「お前が転んで衝撃を受けて、防御魔法が発動したらどうするつもりだ?」
いくらなんでもそれはないだろう? とは思うのだが、暖も絶対大丈夫という自信はない。
結果、強く断れずに抱き上げられている。
しかし、そんな二人が注目されないわけはなかった。
「殿下、お戻りだったのですか?」
目ざとくダンケルを見つけた鎧をつけた騎士が近づいてくる。
筋骨隆々とした騎士の「殿下」呼びを聞き、そういえばダンケルは魔族の王子だったのだと、今更ながらに暖は思い出した。
「寄るな!」
その騎士をダンケルは一言で退ける。
命令された騎士は、その場で「ハッ」と畏まり頭を下げ硬直した。
見慣れぬダンケルの威厳のある姿に、暖は目を丸くする。
とてもモップを抱えて竜のウロコ磨きをしていた彼と同一人物とは思えない。
廊下は長く遠く、次から次へと魔族は現れてきた。
「殿下、そちらの令嬢は?」
「見るな!」
「なんと! 人間ではありませんか?」
「触れるな!」
「一体全体、どうして人間の娘など?」
「ええいっ! うるさい! 死にたくなかったら側に寄るな!」
近づいてくる魔族たちを蹴散らし、必死で暖を隠すダンケル。
彼にしてみれば、城の同族たちが暖の防御魔法の被害に遭わないように心配しての態度なのだろうが、残念ながら他の者の目にはそんな風には映らない。
(絶対、誤解されているわよね)
暖は、こっそりため息をついた。
誰が見たってダンケルの態度は抱いている女性を守るためとしか見えないだろう。
王子から掌中の玉のように大切にされる人間の娘に、魔族の関心は高まっていく。
それでも王子であるダンケルを引き留められる者はいず、なんとかダンケルの私室だという豪華絢爛な部屋にたどり着いたのだが。
そこに――――
「ダンケル! 人間の花嫁を連れ帰ったと聞いたが本当か!?」
ダンケルによく似た角を持つ、青い髪の青年魔族が飛び込んできた。
「バカ! 止めろ! そんなことを言うんじゃない! ……今、背中にとんでもない悪寒が走ったぞ。普通の魔族なら即死レベルの呪いだ。畜生、あのエルフの仕業だな」
魔界の中のことは外の世界にわからないはずなのに、悪寒がしたと叫び出すダンケル。
もしもそれが本当だとしたら、いったいリオールたちの力はどれだけ強いのだろう。
「気ノセイ、違ウ?」
暖の言葉に、ダンケルは首を横に振った。
「いや間違いない。……俺は、よくあそこから無事に帰って来られたものだ」
桁外れな力の持ち主ばかりだった村の住人を思い出したのか、ダンケルはホッとしたように大きなため息をつく。
「は? いったい何の話だ? ……花嫁でないのなら、その人間は極上の食料なのか?」
ダンケルと暖の会話の意味がわからなかったのだろう、青い髪の青年魔族は首を捻ると今度は舌舐めずりしながら暖を見つめてくる。
「止めろ! 本気で俺を殺す気なのか!?」
体をブルブル震えさせながら、ダンケルは怒鳴り返した。
青年魔族は、ますます不思議そうな顔をする。
「じゃあ、いったいそいつはなんなんだ?」
「……彼女は、父に会わせるために連れてきたんだ」
再三の問いかけを受けて渋々ダンケルは答える。
「やっばり花嫁じゃないか!」
青年魔族は、ポン! と両手を打ち合わせた。
独身の男が、父に会わせるために女性を連れて来たと言うのなら相手は恋人と相場は決まっている。
普通、誰でもそう思うだろう。
「違うと言っているだろう!」
しかし、ハアハアと息を荒げながら、ダンケルは否定した。
「え~?」
不服そうにしながら、青年魔族は口を尖らせる。
その表情から彼が絶対納得していないのは、まるわかりだ。
「本当に?」
疑わしそうに言って、暖の顔を覗き込んできた。
バチン! と音を立てそうな勢いで、暖と青年魔族の目と目が合う。
(うわっ! スゴイ綺麗な赤い目)
一瞬見惚れた暖なのだが、
「ウォッ! やっぱり食料じゃないか! なんて美味そうなんだ!」
青年魔族の方は、暖を一目見た途端に、なんとそう叫んだ。
「チョッ! チョット! ダンケル」
「黙っていろ!」
現在暖がいる場所は、複雑怪奇に入り組んだ魔王城の中だ。
窓がなく照明器具もないのに不思議と明るい廊下を、ダンケルにお姫様抱っこで運ばれている。
自分で歩けると言っているのに、ダンケルは聞いてくれなかった。
なんと、スウェンに降ろされてからずっとこの体勢で移動してきたのだ。
「お前が転んで衝撃を受けて、防御魔法が発動したらどうするつもりだ?」
いくらなんでもそれはないだろう? とは思うのだが、暖も絶対大丈夫という自信はない。
結果、強く断れずに抱き上げられている。
しかし、そんな二人が注目されないわけはなかった。
「殿下、お戻りだったのですか?」
目ざとくダンケルを見つけた鎧をつけた騎士が近づいてくる。
筋骨隆々とした騎士の「殿下」呼びを聞き、そういえばダンケルは魔族の王子だったのだと、今更ながらに暖は思い出した。
「寄るな!」
その騎士をダンケルは一言で退ける。
命令された騎士は、その場で「ハッ」と畏まり頭を下げ硬直した。
見慣れぬダンケルの威厳のある姿に、暖は目を丸くする。
とてもモップを抱えて竜のウロコ磨きをしていた彼と同一人物とは思えない。
廊下は長く遠く、次から次へと魔族は現れてきた。
「殿下、そちらの令嬢は?」
「見るな!」
「なんと! 人間ではありませんか?」
「触れるな!」
「一体全体、どうして人間の娘など?」
「ええいっ! うるさい! 死にたくなかったら側に寄るな!」
近づいてくる魔族たちを蹴散らし、必死で暖を隠すダンケル。
彼にしてみれば、城の同族たちが暖の防御魔法の被害に遭わないように心配しての態度なのだろうが、残念ながら他の者の目にはそんな風には映らない。
(絶対、誤解されているわよね)
暖は、こっそりため息をついた。
誰が見たってダンケルの態度は抱いている女性を守るためとしか見えないだろう。
王子から掌中の玉のように大切にされる人間の娘に、魔族の関心は高まっていく。
それでも王子であるダンケルを引き留められる者はいず、なんとかダンケルの私室だという豪華絢爛な部屋にたどり着いたのだが。
そこに――――
「ダンケル! 人間の花嫁を連れ帰ったと聞いたが本当か!?」
ダンケルによく似た角を持つ、青い髪の青年魔族が飛び込んできた。
「バカ! 止めろ! そんなことを言うんじゃない! ……今、背中にとんでもない悪寒が走ったぞ。普通の魔族なら即死レベルの呪いだ。畜生、あのエルフの仕業だな」
魔界の中のことは外の世界にわからないはずなのに、悪寒がしたと叫び出すダンケル。
もしもそれが本当だとしたら、いったいリオールたちの力はどれだけ強いのだろう。
「気ノセイ、違ウ?」
暖の言葉に、ダンケルは首を横に振った。
「いや間違いない。……俺は、よくあそこから無事に帰って来られたものだ」
桁外れな力の持ち主ばかりだった村の住人を思い出したのか、ダンケルはホッとしたように大きなため息をつく。
「は? いったい何の話だ? ……花嫁でないのなら、その人間は極上の食料なのか?」
ダンケルと暖の会話の意味がわからなかったのだろう、青い髪の青年魔族は首を捻ると今度は舌舐めずりしながら暖を見つめてくる。
「止めろ! 本気で俺を殺す気なのか!?」
体をブルブル震えさせながら、ダンケルは怒鳴り返した。
青年魔族は、ますます不思議そうな顔をする。
「じゃあ、いったいそいつはなんなんだ?」
「……彼女は、父に会わせるために連れてきたんだ」
再三の問いかけを受けて渋々ダンケルは答える。
「やっばり花嫁じゃないか!」
青年魔族は、ポン! と両手を打ち合わせた。
独身の男が、父に会わせるために女性を連れて来たと言うのなら相手は恋人と相場は決まっている。
普通、誰でもそう思うだろう。
「違うと言っているだろう!」
しかし、ハアハアと息を荒げながら、ダンケルは否定した。
「え~?」
不服そうにしながら、青年魔族は口を尖らせる。
その表情から彼が絶対納得していないのは、まるわかりだ。
「本当に?」
疑わしそうに言って、暖の顔を覗き込んできた。
バチン! と音を立てそうな勢いで、暖と青年魔族の目と目が合う。
(うわっ! スゴイ綺麗な赤い目)
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「ウォッ! やっぱり食料じゃないか! なんて美味そうなんだ!」
青年魔族の方は、暖を一目見た途端に、なんとそう叫んだ。
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