まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
72 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

私は誰のモノでもありません!

しおりを挟む
 下女には婚約者がいたのだという。
 親の決めた相手だが、幼い頃より気が合って、結婚するのだと当たり前に思っていた。

「でも、私には生理がこなかった」

 正しく言えば、初潮から最初の一年くらいの間はキチンとあったそうだ。
 ただ年頃になって自分の容姿が気になって体型に気を使うようになったら、だんだんこなくなった。
 不順になった生理が完全にこなくなったのは正式なお披露目をしようかという頃。

 婚約者は貴族の跡取りで、子供のできない嫁など迎えることはできなかった。
 両家の親からこの婚約はなかったことにすると告げられて、彼女は泣く泣く婚約破棄を受け入れた。
 逃げるように、後宮に下女として入ったのだそうだ。

「でも彼はギリギリまで私が戻るのを『待つ』って言ってくれているの。もう絶対ダメだから諦めてって、伝えたんだけど、それでも」

 彼の元に帰れると言って下女は泣いた。
 おそらく彼女と似たような境遇の者もいるのだろう。下女の仲間たちは皆もらい泣きをしながら喜び合う。

 感動的な話に、うららもちょっと涙ぐんだのだが……よくよく考えて、少し呆れてしまった。

 そんな優しい婚約者がいたのに、彼女はそれでも食べる量を増やそうとしなかったのだ。
 痩せて生理がこなくなったのだから、普通は食べて体型を戻そうとするだろうに。

(そんなにひどく太らなくても、生理が順調になるくらいまで体型を戻せば良かったのに。……ひょっとして、痩せすぎと生理が無いことを関係ないと思っていたの?)

 医療情報に溢れた現代日本で生まれ育った暖にとって、極度の痩せが女性の生理に悪影響を及ぼすことは一般常識である。
 魔界ではそうではないのだろうか?

「太ロウ、思ワナカッタ?」

 確かめようと暖が聞けば、皆きょとんとした顔をした。

「痩セ過ギ、生理ナクナル」

 暖がそう言えば、料理長が「そんなバカな」と一笑にふした。

「そんなはずがあるか! お妃様方を見たことがないのか? 皆さまとてもお美しい方ばかりだぞ」

 当然ものすごく痩せているそうだ。

「生理アル?」

「正妃さまも側妃さまも、皆陛下の御子を産んだ方ばかりだ」

「最初ハソウデモ、……今モ?」

 後宮の食堂で働いて暖は気づいたことがある。
 用意する食事の中に、子供用のものがないのだ。

 ダンケルが魔王の嗣子でブラットが末子。他の子供たちは後継者争いの中で消えていった。
 今現在、暖が知る魔王の子は彼らだけだ。

 しかし、一度会っただけだが魔王は二十代の青年といっていいほどの外見をしていた。
 ディアナと同じくらい年寄りの若作りかもしれないが、長命種だという魔王は、まだまだは現役バリバリなのではないだろうか?

(だから、こんな大規模な後宮が必要なんでしょう?)

 ちょっと赤くなりながら、暖は考える。
 当然子供も生まれるはずだ。
 それなのに後宮で子供食はおろか離乳食も用意されていないのは、どうしてだろう?

(生まれた子供は、後宮以外で育てているのかもしれないけれど)

 子供自体が生まれていないと考える方が、しっくりくる。
 後継者争いに心を痛めた魔王が、これ以上子供を増やさないと決めたのかもしれないが、魔王に、そんな繊細なところがあるとも信じられない。

 暖の質問に、料理長はグッと言葉を詰まらせた。
 しかし、

「妃さまだぞ! 当たり前だろう!!」

 大声で暖を怒鳴りつける。一つ目が、ギロリと暖を睨みつけた。

(ひぇ~っ!)

 迫力万点である。
 これ以上聞くに聞けない雰囲気だ。
 モヤモヤとはするが……仕方なく、暖はその場は引き下がった。



 その夜、爬虫類の目の下女が、暖の部屋にやってくる。

「本当にありがとう。もう一度あなたにお礼を言いたかったの。……私は明日には後宮を出るけれど、外の者に言伝てとかない?」

 後宮に入った者は、余程のことが無い限り外には出られないし、連絡もとれない。
 だから下女は親切に申し出てくれているのだった。
 暖に取って、それは願ってもないことだ。

「ダンケルニ、無事、伝エテ!」

 勢い込んでそう言った。

 突然、魔王に後宮に飛ばされた暖。
 きっとダンケルは、そのことを父である魔王から聞かされているだろうが、心配しているのは間違いない。

(私に何かあれば、ダンケルだって無事に済まないんでしょうし)

 ダンケルは、暖に隷属の契約をしている。
 暖が天寿をまっとうすることなく死んだ場合、隷属している魔物がどんな目に遭うかはわからないが、あまり楽しいものでないだろう。

(まぁ、私に何かある前に魔界が滅亡するとは思うけど)

 なんにしても彼が心配しているのは間違いない。

 暖がそう頼めば、下女はなんだか納得したように頷いた。

「やっぱり! あなたは、ダンケルさまのイイ人だったのね」

「へ?」

 暖は、またまた頭に?マークを飛ばした。
 イイ人とは、どういう意味だろう?

 首を傾げる暖に、下女は「大丈夫よ」と言った。

「今の後宮で、あなたがダンケルさまのだって知られたら大変ですものね。……誰にも言わないわ」

 とんでもない誤解だった!
 だいたい、暖がダンケルのモノなのではない。どちらかと言えば、ダンケルが暖のモノなのだ。

(隷属の契約ってそういうことよね?)

「チ、違ッ!」

「大丈夫よ。内緒にするって言ったでしょう。……私、不思議だったの。どうしてあなたが自分のことでもないのに、私たちの健康を気にしてくれるのかって? でもようやくわかったわ。……あなたは、ダンケルさまが魔王になった時に、後宮を入れ替えるための下調べに来たのでしょう。残せる者とダメな者を判別する。……でも、あなたはできるだけ皆を残せるように指導してくれているのよね?」

 ――――本当に、とんでもない誤解だった。
 暖は必死に首を横に振る。

「もうっ! 大丈夫よ。絶対、誰にも言わないから。――――私は、ダンケルさまに直接会えるような身分ではないけれど、彼に頼んでなんとか伝えるようにするわ。彼、王宮の警備をしているの。身分の高い方々とも時々は会えるって言っていたから、多分できると思うわ」

 自分で言うだけ言って、下女は出ていった。
 最後まで誤解したままだったのだが……仕方ない。

(思い込みって、怖い)

 ものすごく不安だが、彼女は後宮を出ていく身。決して他言しないと言っていたから大丈夫だろう。

(婚約者の魔族が、ダンケルに伝えてくれれば、誤解も解けるでしょうし)

 そう信じるしかない暖だった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...