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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
私は誰のモノでもありません!
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下女には婚約者がいたのだという。
親の決めた相手だが、幼い頃より気が合って、結婚するのだと当たり前に思っていた。
「でも、私には生理がこなかった」
正しく言えば、初潮から最初の一年くらいの間はキチンとあったそうだ。
ただ年頃になって自分の容姿が気になって体型に気を使うようになったら、だんだんこなくなった。
不順になった生理が完全にこなくなったのは正式なお披露目をしようかという頃。
婚約者は貴族の跡取りで、子供のできない嫁など迎えることはできなかった。
両家の親からこの婚約はなかったことにすると告げられて、彼女は泣く泣く婚約破棄を受け入れた。
逃げるように、後宮に下女として入ったのだそうだ。
「でも彼はギリギリまで私が戻るのを『待つ』って言ってくれているの。もう絶対ダメだから諦めてって、伝えたんだけど、それでも」
彼の元に帰れると言って下女は泣いた。
おそらく彼女と似たような境遇の者もいるのだろう。下女の仲間たちは皆もらい泣きをしながら喜び合う。
感動的な話に、暖もちょっと涙ぐんだのだが……よくよく考えて、少し呆れてしまった。
そんな優しい婚約者がいたのに、彼女はそれでも食べる量を増やそうとしなかったのだ。
痩せて生理がこなくなったのだから、普通は食べて体型を戻そうとするだろうに。
(そんなにひどく太らなくても、生理が順調になるくらいまで体型を戻せば良かったのに。……ひょっとして、痩せすぎと生理が無いことを関係ないと思っていたの?)
医療情報に溢れた現代日本で生まれ育った暖にとって、極度の痩せが女性の生理に悪影響を及ぼすことは一般常識である。
魔界ではそうではないのだろうか?
「太ロウ、思ワナカッタ?」
確かめようと暖が聞けば、皆きょとんとした顔をした。
「痩セ過ギ、生理ナクナル」
暖がそう言えば、料理長が「そんなバカな」と一笑にふした。
「そんなはずがあるか! お妃様方を見たことがないのか? 皆さまとてもお美しい方ばかりだぞ」
当然ものすごく痩せているそうだ。
「生理アル?」
「正妃さまも側妃さまも、皆陛下の御子を産んだ方ばかりだ」
「最初ハソウデモ、……今モ?」
後宮の食堂で働いて暖は気づいたことがある。
用意する食事の中に、子供用のものがないのだ。
ダンケルが魔王の嗣子でブラットが末子。他の子供たちは後継者争いの中で消えていった。
今現在、暖が知る魔王の子は彼らだけだ。
しかし、一度会っただけだが魔王は二十代の青年といっていいほどの外見をしていた。
ディアナと同じくらい年寄りの若作りかもしれないが、長命種だという魔王は、まだまだあちらは現役バリバリなのではないだろうか?
(だから、こんな大規模な後宮が必要なんでしょう?)
ちょっと赤くなりながら、暖は考える。
当然子供も生まれるはずだ。
それなのに後宮で子供食はおろか離乳食も用意されていないのは、どうしてだろう?
(生まれた子供は、後宮以外で育てているのかもしれないけれど)
子供自体が生まれていないと考える方が、しっくりくる。
後継者争いに心を痛めた魔王が、これ以上子供を増やさないと決めたのかもしれないが、あの魔王に、そんな繊細なところがあるとも信じられない。
暖の質問に、料理長はグッと言葉を詰まらせた。
しかし、
「妃さまだぞ! 当たり前だろう!!」
大声で暖を怒鳴りつける。一つ目が、ギロリと暖を睨みつけた。
(ひぇ~っ!)
迫力万点である。
これ以上聞くに聞けない雰囲気だ。
モヤモヤとはするが……仕方なく、暖はその場は引き下がった。
その夜、爬虫類の目の下女が、暖の部屋にやってくる。
「本当にありがとう。もう一度あなたにお礼を言いたかったの。……私は明日には後宮を出るけれど、外の者に言伝てとかない?」
後宮に入った者は、余程のことが無い限り外には出られないし、連絡もとれない。
だから下女は親切に申し出てくれているのだった。
暖に取って、それは願ってもないことだ。
「ダンケルニ、無事、伝エテ!」
勢い込んでそう言った。
突然、魔王に後宮に飛ばされた暖。
きっとダンケルは、そのことを父である魔王から聞かされているだろうが、心配しているのは間違いない。
(私に何かあれば、ダンケルだって無事に済まないんでしょうし)
ダンケルは、暖に隷属の契約をしている。
暖が天寿をまっとうすることなく死んだ場合、隷属している魔物がどんな目に遭うかはわからないが、あまり楽しいものでないだろう。
(まぁ、私に何かある前に魔界が滅亡するとは思うけど)
なんにしても彼が心配しているのは間違いない。
暖がそう頼めば、下女はなんだか納得したように頷いた。
「やっぱり! あなたは、ダンケルさまのイイ人だったのね」
「へ?」
暖は、またまた頭に?マークを飛ばした。
イイ人とは、どういう意味だろう?
首を傾げる暖に、下女は「大丈夫よ」と言った。
「今の後宮で、あなたがダンケルさまのモノだって知られたら大変ですものね。……誰にも言わないわ」
とんでもない誤解だった!
だいたい、暖がダンケルのモノなのではない。どちらかと言えば、ダンケルが暖のモノなのだ。
(隷属の契約ってそういうことよね?)
「チ、違ッ!」
「大丈夫よ。内緒にするって言ったでしょう。……私、不思議だったの。どうしてあなたが自分のことでもないのに、私たちの健康を気にしてくれるのかって? でもようやくわかったわ。……あなたは、ダンケルさまが魔王になった時に、後宮を入れ替えるための下調べに来たのでしょう。残せる者とダメな者を判別する。……でも、あなたはできるだけ皆を残せるように指導してくれているのよね?」
――――本当に、とんでもない誤解だった。
暖は必死に首を横に振る。
「もうっ! 大丈夫よ。絶対、誰にも言わないから。――――私は、ダンケルさまに直接会えるような身分ではないけれど、彼に頼んでなんとか伝えるようにするわ。彼、王宮の警備をしているの。身分の高い方々とも時々は会えるって言っていたから、多分できると思うわ」
自分で言うだけ言って、下女は出ていった。
最後まで誤解したままだったのだが……仕方ない。
(思い込みって、怖い)
ものすごく不安だが、彼女は後宮を出ていく身。決して他言しないと言っていたから大丈夫だろう。
(婚約者の魔族が、ダンケルに伝えてくれれば、誤解も解けるでしょうし)
そう信じるしかない暖だった。
親の決めた相手だが、幼い頃より気が合って、結婚するのだと当たり前に思っていた。
「でも、私には生理がこなかった」
正しく言えば、初潮から最初の一年くらいの間はキチンとあったそうだ。
ただ年頃になって自分の容姿が気になって体型に気を使うようになったら、だんだんこなくなった。
不順になった生理が完全にこなくなったのは正式なお披露目をしようかという頃。
婚約者は貴族の跡取りで、子供のできない嫁など迎えることはできなかった。
両家の親からこの婚約はなかったことにすると告げられて、彼女は泣く泣く婚約破棄を受け入れた。
逃げるように、後宮に下女として入ったのだそうだ。
「でも彼はギリギリまで私が戻るのを『待つ』って言ってくれているの。もう絶対ダメだから諦めてって、伝えたんだけど、それでも」
彼の元に帰れると言って下女は泣いた。
おそらく彼女と似たような境遇の者もいるのだろう。下女の仲間たちは皆もらい泣きをしながら喜び合う。
感動的な話に、暖もちょっと涙ぐんだのだが……よくよく考えて、少し呆れてしまった。
そんな優しい婚約者がいたのに、彼女はそれでも食べる量を増やそうとしなかったのだ。
痩せて生理がこなくなったのだから、普通は食べて体型を戻そうとするだろうに。
(そんなにひどく太らなくても、生理が順調になるくらいまで体型を戻せば良かったのに。……ひょっとして、痩せすぎと生理が無いことを関係ないと思っていたの?)
医療情報に溢れた現代日本で生まれ育った暖にとって、極度の痩せが女性の生理に悪影響を及ぼすことは一般常識である。
魔界ではそうではないのだろうか?
「太ロウ、思ワナカッタ?」
確かめようと暖が聞けば、皆きょとんとした顔をした。
「痩セ過ギ、生理ナクナル」
暖がそう言えば、料理長が「そんなバカな」と一笑にふした。
「そんなはずがあるか! お妃様方を見たことがないのか? 皆さまとてもお美しい方ばかりだぞ」
当然ものすごく痩せているそうだ。
「生理アル?」
「正妃さまも側妃さまも、皆陛下の御子を産んだ方ばかりだ」
「最初ハソウデモ、……今モ?」
後宮の食堂で働いて暖は気づいたことがある。
用意する食事の中に、子供用のものがないのだ。
ダンケルが魔王の嗣子でブラットが末子。他の子供たちは後継者争いの中で消えていった。
今現在、暖が知る魔王の子は彼らだけだ。
しかし、一度会っただけだが魔王は二十代の青年といっていいほどの外見をしていた。
ディアナと同じくらい年寄りの若作りかもしれないが、長命種だという魔王は、まだまだあちらは現役バリバリなのではないだろうか?
(だから、こんな大規模な後宮が必要なんでしょう?)
ちょっと赤くなりながら、暖は考える。
当然子供も生まれるはずだ。
それなのに後宮で子供食はおろか離乳食も用意されていないのは、どうしてだろう?
(生まれた子供は、後宮以外で育てているのかもしれないけれど)
子供自体が生まれていないと考える方が、しっくりくる。
後継者争いに心を痛めた魔王が、これ以上子供を増やさないと決めたのかもしれないが、あの魔王に、そんな繊細なところがあるとも信じられない。
暖の質問に、料理長はグッと言葉を詰まらせた。
しかし、
「妃さまだぞ! 当たり前だろう!!」
大声で暖を怒鳴りつける。一つ目が、ギロリと暖を睨みつけた。
(ひぇ~っ!)
迫力万点である。
これ以上聞くに聞けない雰囲気だ。
モヤモヤとはするが……仕方なく、暖はその場は引き下がった。
その夜、爬虫類の目の下女が、暖の部屋にやってくる。
「本当にありがとう。もう一度あなたにお礼を言いたかったの。……私は明日には後宮を出るけれど、外の者に言伝てとかない?」
後宮に入った者は、余程のことが無い限り外には出られないし、連絡もとれない。
だから下女は親切に申し出てくれているのだった。
暖に取って、それは願ってもないことだ。
「ダンケルニ、無事、伝エテ!」
勢い込んでそう言った。
突然、魔王に後宮に飛ばされた暖。
きっとダンケルは、そのことを父である魔王から聞かされているだろうが、心配しているのは間違いない。
(私に何かあれば、ダンケルだって無事に済まないんでしょうし)
ダンケルは、暖に隷属の契約をしている。
暖が天寿をまっとうすることなく死んだ場合、隷属している魔物がどんな目に遭うかはわからないが、あまり楽しいものでないだろう。
(まぁ、私に何かある前に魔界が滅亡するとは思うけど)
なんにしても彼が心配しているのは間違いない。
暖がそう頼めば、下女はなんだか納得したように頷いた。
「やっぱり! あなたは、ダンケルさまのイイ人だったのね」
「へ?」
暖は、またまた頭に?マークを飛ばした。
イイ人とは、どういう意味だろう?
首を傾げる暖に、下女は「大丈夫よ」と言った。
「今の後宮で、あなたがダンケルさまのモノだって知られたら大変ですものね。……誰にも言わないわ」
とんでもない誤解だった!
だいたい、暖がダンケルのモノなのではない。どちらかと言えば、ダンケルが暖のモノなのだ。
(隷属の契約ってそういうことよね?)
「チ、違ッ!」
「大丈夫よ。内緒にするって言ったでしょう。……私、不思議だったの。どうしてあなたが自分のことでもないのに、私たちの健康を気にしてくれるのかって? でもようやくわかったわ。……あなたは、ダンケルさまが魔王になった時に、後宮を入れ替えるための下調べに来たのでしょう。残せる者とダメな者を判別する。……でも、あなたはできるだけ皆を残せるように指導してくれているのよね?」
――――本当に、とんでもない誤解だった。
暖は必死に首を横に振る。
「もうっ! 大丈夫よ。絶対、誰にも言わないから。――――私は、ダンケルさまに直接会えるような身分ではないけれど、彼に頼んでなんとか伝えるようにするわ。彼、王宮の警備をしているの。身分の高い方々とも時々は会えるって言っていたから、多分できると思うわ」
自分で言うだけ言って、下女は出ていった。
最後まで誤解したままだったのだが……仕方ない。
(思い込みって、怖い)
ものすごく不安だが、彼女は後宮を出ていく身。決して他言しないと言っていたから大丈夫だろう。
(婚約者の魔族が、ダンケルに伝えてくれれば、誤解も解けるでしょうし)
そう信じるしかない暖だった。
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