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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
わからないけど感謝されました
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後宮で下女の仕事をしつつ食事の指導をして、運動も教えて、マッサージをして、お茶を飲む。
最近の暖の一日は、こんなスケジュールだ。
(これで、いいのかしら?)
彼女が魔界に来た当初の目的は魔族の病を治すというもの。
なのに肝心の病が何かもわからず、当然ながら役目をまったく果たせずに日々だけが過ぎていく。
暖は、少し焦り始めていた。
そんなある日、
「ああ! 信じられないわ!」
暖の元に、ギョロリとした爬虫類の目を持つ下女が駆け込んでくる。
場所は食堂。丁度、夜の食事の最中で周囲には下女仲間と料理長がいた。
「ドシタノ?」
「私、私に……月のものが来たのよ!」
下女は、そう叫んだ。
途端に食堂がザワリとざわつく。
ギョロリとした爬虫類の目から、涙がポロリと落ちた。
「月ノモノ?」
暖は、さっぱりわけがわからない。いったい何のことだろう?
「生理よ! 生理がきたのよ!」
下女は、もう一度叫んだ。
(生理って、あの生理よね?)
女性特有の月に一度来る生理だろう。
魔族にも生理があるのだと暖は驚く。まあ魔族だって男性と女性がいて、女性が子供を産むのだから当たり前かもしれないが。
しかし普通に生理があるのなら、こんなに下女が騒ぐのはおかしいと思う。
他の下女仲間や料理長も、生理がきたという女性なら当たり前のことを聞いたにしては、愕然とした表情をしていた。
「本当なのかい!?」
「はい!」
料理長の確認に下女は泣きながら頷く。下女仲間の中には、つられて一緒に泣き出す者もいた。
「エ、エット…」
どう反応していいのか、暖にはわからない。
すると、
「ならば、お前には厨房を辞めてもらわなければならないね」
料理長は真面目な顔でそう言った。
「エエェ!?」
暖は驚きの声をあげる。
どうして生理がきたくらいで、厨房を辞めなければならないのだろう?
どんな日本のブラック企業でも、そんな規則はないはずだ。
しかしクビだと言われた下女は、嬉しそうに「はい!」と答えた。
仕事を辞めさせられるのに嬉しそうな下女に、ますます暖は訳がわからない。
「ドシテ、仕事、辞メル?」
「当たり前だろう。ここは後宮だ。生理があるということは、子を産む可能性があるということだ。……後宮で、御子を授かる力を持つものが“妃”以外に、いてはならない」
それが後宮の常識だと、料理長は話す。
暖は、ポカンと口を開けた。
確かにそれならば、魔王が戯れに侍女や下女に手をつけても、子供が産まれることにはならないだろう。
合理的といえば合理的なことかもしれないが。
しかし……
「エ? エ? ……ジャア、ミンナ、生理ナイノ?」
驚いて暖は周囲を見回した。今の話の流れでは間違いなくそうなってしまう。
そんなバカなと思うのだが……ひどく生真面目な顔をした料理長の一つ目と目が合う。
「当たり前だろう」
料理長はあっさり肯定した。
後宮に下女はたくさんいる。
侍女や文官、警備の武官等も含めれば、その数は数百、いや千人にものぼると思われる。
その全てに生理がないのだろうか?
(え? だって、みんな普通に大人よね?)
魔族は外見で年齢を判断できない。しかし働いているからには大人なのだと考えられる。
(それなのに、全員生理がないの?)
それはものすごく異常なことだった。
暖の背中に寒気が走る。
「ウララ、お前だってないだろう?」
料理長に聞かれて、暖は口ごもった。
もちろん、暖に生理はある。
規則正しく一月に一度くる生理は正直面倒くさいものだが、女と生まれてしまったからには仕方ないかと暖は思っている。
温泉と一緒に異世界トリップなどという異常事態を経験した後でも、生理は律儀にきていた。
ただ、この世界で暖は生理ナプキンの交換のような処理をしたことがないのだった。
このため生理がないと思われているのだろう。
何故かといえば、彼女にはディアナ作、便利なサニタリーショーツがあったのだ。
これは自動魔法で血液を消してくれるショーツで、なんでも若かりし頃のディアナの一大発明だそうだ。
「わしも各地を修行して放浪したからの。必要に迫られて発明したのじゃ」
ディアナは大威張りでそう言うと、もう自分は使わないからと未使用の数枚を暖にくれた。
……こんな発明をするくらいなら、修行の旅を止めたらいいのにと思ったのは、内緒である。
このショーツのおかげで、暖は異世界で生理の心配なく過ごしていた。
おまけに暖は生理痛とも無縁の体質をしている。
これが重なって、周囲の者は暖に生理はないと思ったのだろう。
別に隠していたわけではなかったが、どう答えようかと暖は迷う。
生理があると言えば後宮を出られるだろうが、魔族の病が何かもわからない内にここから離れたくない。
暖が迷っている内に、生理がきた下女が暖に抱きついてきた。
「ありがとう! 多分あなたのおかげだわ!」
「エ?」
暖は面食らってしまう。
下女に生理がきたのと暖は無関係だろう。
頭に?マークを飛ばす暖にかまわず下女は言葉を続けた。
「私は、いままでどんなに高価な薬を飲んでも祈祷をしても、何をしても生理は来なかった。……でも、あなたの言うとおりに食べて運動してから体の調子が良くなったのよ。それにあなたのあのマッサージ! あれを受けたら体中に温かな気が巡るようになって……そうしたら今日生理になったの! ……ありがとうあなたのおかげよ!」
無理なダイエットがたたって生理がこなくなるという話を、暖は聞いたことがある。
その点からしたら、食べる量を増やして体操をするというのは、確かに効果があったかもしれない。
(マッサージは、無関係だと思うけれど)
だからそんなに感謝される必要はないと思うのだが、下女の勢いは止まらない。
「ホントに、ありがとう! 私、これでようやく彼の花嫁になれるわ!」
混乱する暖に彼女は満面の笑みでそう言った。
最近の暖の一日は、こんなスケジュールだ。
(これで、いいのかしら?)
彼女が魔界に来た当初の目的は魔族の病を治すというもの。
なのに肝心の病が何かもわからず、当然ながら役目をまったく果たせずに日々だけが過ぎていく。
暖は、少し焦り始めていた。
そんなある日、
「ああ! 信じられないわ!」
暖の元に、ギョロリとした爬虫類の目を持つ下女が駆け込んでくる。
場所は食堂。丁度、夜の食事の最中で周囲には下女仲間と料理長がいた。
「ドシタノ?」
「私、私に……月のものが来たのよ!」
下女は、そう叫んだ。
途端に食堂がザワリとざわつく。
ギョロリとした爬虫類の目から、涙がポロリと落ちた。
「月ノモノ?」
暖は、さっぱりわけがわからない。いったい何のことだろう?
「生理よ! 生理がきたのよ!」
下女は、もう一度叫んだ。
(生理って、あの生理よね?)
女性特有の月に一度来る生理だろう。
魔族にも生理があるのだと暖は驚く。まあ魔族だって男性と女性がいて、女性が子供を産むのだから当たり前かもしれないが。
しかし普通に生理があるのなら、こんなに下女が騒ぐのはおかしいと思う。
他の下女仲間や料理長も、生理がきたという女性なら当たり前のことを聞いたにしては、愕然とした表情をしていた。
「本当なのかい!?」
「はい!」
料理長の確認に下女は泣きながら頷く。下女仲間の中には、つられて一緒に泣き出す者もいた。
「エ、エット…」
どう反応していいのか、暖にはわからない。
すると、
「ならば、お前には厨房を辞めてもらわなければならないね」
料理長は真面目な顔でそう言った。
「エエェ!?」
暖は驚きの声をあげる。
どうして生理がきたくらいで、厨房を辞めなければならないのだろう?
どんな日本のブラック企業でも、そんな規則はないはずだ。
しかしクビだと言われた下女は、嬉しそうに「はい!」と答えた。
仕事を辞めさせられるのに嬉しそうな下女に、ますます暖は訳がわからない。
「ドシテ、仕事、辞メル?」
「当たり前だろう。ここは後宮だ。生理があるということは、子を産む可能性があるということだ。……後宮で、御子を授かる力を持つものが“妃”以外に、いてはならない」
それが後宮の常識だと、料理長は話す。
暖は、ポカンと口を開けた。
確かにそれならば、魔王が戯れに侍女や下女に手をつけても、子供が産まれることにはならないだろう。
合理的といえば合理的なことかもしれないが。
しかし……
「エ? エ? ……ジャア、ミンナ、生理ナイノ?」
驚いて暖は周囲を見回した。今の話の流れでは間違いなくそうなってしまう。
そんなバカなと思うのだが……ひどく生真面目な顔をした料理長の一つ目と目が合う。
「当たり前だろう」
料理長はあっさり肯定した。
後宮に下女はたくさんいる。
侍女や文官、警備の武官等も含めれば、その数は数百、いや千人にものぼると思われる。
その全てに生理がないのだろうか?
(え? だって、みんな普通に大人よね?)
魔族は外見で年齢を判断できない。しかし働いているからには大人なのだと考えられる。
(それなのに、全員生理がないの?)
それはものすごく異常なことだった。
暖の背中に寒気が走る。
「ウララ、お前だってないだろう?」
料理長に聞かれて、暖は口ごもった。
もちろん、暖に生理はある。
規則正しく一月に一度くる生理は正直面倒くさいものだが、女と生まれてしまったからには仕方ないかと暖は思っている。
温泉と一緒に異世界トリップなどという異常事態を経験した後でも、生理は律儀にきていた。
ただ、この世界で暖は生理ナプキンの交換のような処理をしたことがないのだった。
このため生理がないと思われているのだろう。
何故かといえば、彼女にはディアナ作、便利なサニタリーショーツがあったのだ。
これは自動魔法で血液を消してくれるショーツで、なんでも若かりし頃のディアナの一大発明だそうだ。
「わしも各地を修行して放浪したからの。必要に迫られて発明したのじゃ」
ディアナは大威張りでそう言うと、もう自分は使わないからと未使用の数枚を暖にくれた。
……こんな発明をするくらいなら、修行の旅を止めたらいいのにと思ったのは、内緒である。
このショーツのおかげで、暖は異世界で生理の心配なく過ごしていた。
おまけに暖は生理痛とも無縁の体質をしている。
これが重なって、周囲の者は暖に生理はないと思ったのだろう。
別に隠していたわけではなかったが、どう答えようかと暖は迷う。
生理があると言えば後宮を出られるだろうが、魔族の病が何かもわからない内にここから離れたくない。
暖が迷っている内に、生理がきた下女が暖に抱きついてきた。
「ありがとう! 多分あなたのおかげだわ!」
「エ?」
暖は面食らってしまう。
下女に生理がきたのと暖は無関係だろう。
頭に?マークを飛ばす暖にかまわず下女は言葉を続けた。
「私は、いままでどんなに高価な薬を飲んでも祈祷をしても、何をしても生理は来なかった。……でも、あなたの言うとおりに食べて運動してから体の調子が良くなったのよ。それにあなたのあのマッサージ! あれを受けたら体中に温かな気が巡るようになって……そうしたら今日生理になったの! ……ありがとうあなたのおかげよ!」
無理なダイエットがたたって生理がこなくなるという話を、暖は聞いたことがある。
その点からしたら、食べる量を増やして体操をするというのは、確かに効果があったかもしれない。
(マッサージは、無関係だと思うけれど)
だからそんなに感謝される必要はないと思うのだが、下女の勢いは止まらない。
「ホントに、ありがとう! 私、これでようやく彼の花嫁になれるわ!」
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