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第三章 魔族にもいろいろあるようです。
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『長く美しく生きよう! 大キャンペーン! 絶賛開催中!』
何の宣伝かと思うような横断幕が、後宮の食堂に掲げられる。
「なんだい? これは」
それを見た料理長は、目を丸くして首をひねった。
暖は、ニコニコ笑いながら説明する。
「ミンナ痩セスギ、ダメ、説明シタラ、ワカッテクレタ。太ルナイ範囲デ食ベル、良イ」
あの後、痩せすぎの脅威と死んだら何にもならないということを、暖は必死に訴えた。
結果下女は渋々とではあったが、暖の説得に応じてくれたのだ。
「みっともなく太るくらいなら死んだ方がマシだと思っていたけれど、太るんじゃなくて痩せすぎないための食事なら、食べてあげてもいいわ」
非常に上から目線の下女である。
もしもこのセリフを聞いたのがディアナだったら、ブチ切れて「ムリに食べてもらわんでもいいわい!」と怒り出すのだろうが、そこは、アルディアにお人好し認定されている暖である。彼女は、非常に素直に喜んだ。
「勿論、ソレ以上痩セナイ、OK!」
本当は太って欲しいのだが、いきなりは無理だろう。
それでも少しずつ食べる量を増やしてもらって、太る事への忌避感を減らしてくれたらと思う。
どうすれば一番いいかと暖は、考え込む。
そこに――――
「本当に、その方がダンケル様の好みなんでしょうね?」
疑わしそうに、下女が暖を見てきた。
内心、ドキリとするが「勿論!」と暖は頷く。
下女を説得するために、古今東西あらゆる健康論を語った暖。
しかし、その何よりも一番効果があったのが、ダンケルの嗜好の話だった。
「次、王、ダンケル様。ダンケル様、痩セスギ、嫌イ! ダンケル様、王ナッタラ、痩セスギ、流行遅レ、ナル!」
女性が流行を気にするのは、どの世界でも変わらない。
それは魔界でも同じで、しかもここは魔界の中心、王宮の中でも女性だけが暮らす後宮だった。
そこにいる女性が流行遅れを嫌がるのは当然だ。
「痩セ過ぎ、太ル、出来ナクナル。ソノ時、泣イテモ、遅イ!」
暖の言葉に、下女は顔色を変える。
そして、これ以上痩せないことに同意したのだった。
できれば健康面で納得して欲しかったのだが……まぁ仕方ないかと、暖は思う。
こんなやりとりの末に始まったのが、『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』だった。
流行遅れになるという脅しはかなり効果があったようで、下女の仲間も何人か参加してくれる。
「ホントにこれを食べても太らないの?」
あの時の下女とは別の下女――――耳が垂れ耳で鼻が尖った犬顔の女性が、目の前の焼き肉を見ながら、聞いてきた。
野菜もたっぷり、ジュウジュウと焼けたお肉はとっても美味しそうだ。
とはいえ、そんなことを聞かれても、栄養士でも何でもない普通のOLだった暖にはわからない。
(カロリー計算とか、したことないし)
しかし、ここは迷いなく頷いておく。
「大丈夫!」
元々この下女も、もの凄く痩せている。
多少食べてもそんなに直ぐ太るはずもないのは、考えるまでもないだろう。
下女は、それでも心配顔だった。
焼き肉を前に食べようかどうしようか迷っている姿は、「待て」をさせられすぎて、凹んでいる大型犬にしか見えない。
「心配ナラ、後デ、運動スル、シマショ!」
適度に食べて運動する。健康に生きる基本である。
暖の言葉に、ようやく犬顔の下女は食べはじめた。一口食べて、嬉しそうに二パッと口を開ける。その姿は、やっぱり喜んでいる犬にしか見えなくて、暖は心の中でほっこりする。
彼女もそうだが、暖に「大丈夫」と言われて、食べる下女たちは、みんな幸せそうな顔をした。暖の言葉は、何よりも、彼女たちの“心”を、かなりの部分で楽にさせているのかもしれない。
そんな彼女たちと一緒に食後に体操をするのが、最近の暖の日課だ。
体操といっても、流行のエクササイズなど知らない暖が行うのは、昔懐かしいラジオ体操である。
「イチ、ニ、サン、シ、ニ、ニ、サン、シ」
暖の掛け声で、見よう見まねでラジオ体操に精を出す魔族女性たち。
――――はっきり言って、一種異様な光景だが、暖は気にしないことにしていた。
『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』は、こうして後宮の下女を中心に広がっていったのだった。
しかし、そんな体操をした翌日、
「あなたの言う運動をしたら、足が痛いんだけど」
ギョロリとした爬虫類の目をした下女に、暖は文句を言われる。
「ソレ、筋肉痛!」
毎日食堂でハードな仕事をしている下女たち。
しかし、ラジオ体操で使う筋肉は、また違う筋肉らしく、彼女は筋肉痛になったのだ。
仕方がないので、暖はマッサージをしてやることにする。
(なんか、私って、どこでもマッサージしているわよね?)
村でも、ディアナやウルフィアにいつもマッサージをしていたことを、暖は思い出す。
(みんな元気かしら? 戦争は終わったはずよね? ……ディアナとウルフィアは、お茶会を再開しているかしら?)
そうならいいなと、暖は思う。
「ぼんやりして、何を考えているの?」
ギョロリと目を向けられて、暖はふんわり笑い返した。
「イエ。……今度、一緒、オ茶飲ム。ドウ?」
気持ちよさそうに暖にマッサージをしてもらいながら、下女は「そうね」と頷く。
「痩せるお茶なら飲んであげてもいいわよ」
やっぱり偉そうな下女である。
ディアナなら――――言うまでもないだろう。
「……健康イイオ茶、用意スル」
ディアナでない暖は、苦笑しながらそう話す。
そんな風に、魔界の日常は、過ぎて行った。
何の宣伝かと思うような横断幕が、後宮の食堂に掲げられる。
「なんだい? これは」
それを見た料理長は、目を丸くして首をひねった。
暖は、ニコニコ笑いながら説明する。
「ミンナ痩セスギ、ダメ、説明シタラ、ワカッテクレタ。太ルナイ範囲デ食ベル、良イ」
あの後、痩せすぎの脅威と死んだら何にもならないということを、暖は必死に訴えた。
結果下女は渋々とではあったが、暖の説得に応じてくれたのだ。
「みっともなく太るくらいなら死んだ方がマシだと思っていたけれど、太るんじゃなくて痩せすぎないための食事なら、食べてあげてもいいわ」
非常に上から目線の下女である。
もしもこのセリフを聞いたのがディアナだったら、ブチ切れて「ムリに食べてもらわんでもいいわい!」と怒り出すのだろうが、そこは、アルディアにお人好し認定されている暖である。彼女は、非常に素直に喜んだ。
「勿論、ソレ以上痩セナイ、OK!」
本当は太って欲しいのだが、いきなりは無理だろう。
それでも少しずつ食べる量を増やしてもらって、太る事への忌避感を減らしてくれたらと思う。
どうすれば一番いいかと暖は、考え込む。
そこに――――
「本当に、その方がダンケル様の好みなんでしょうね?」
疑わしそうに、下女が暖を見てきた。
内心、ドキリとするが「勿論!」と暖は頷く。
下女を説得するために、古今東西あらゆる健康論を語った暖。
しかし、その何よりも一番効果があったのが、ダンケルの嗜好の話だった。
「次、王、ダンケル様。ダンケル様、痩セスギ、嫌イ! ダンケル様、王ナッタラ、痩セスギ、流行遅レ、ナル!」
女性が流行を気にするのは、どの世界でも変わらない。
それは魔界でも同じで、しかもここは魔界の中心、王宮の中でも女性だけが暮らす後宮だった。
そこにいる女性が流行遅れを嫌がるのは当然だ。
「痩セ過ぎ、太ル、出来ナクナル。ソノ時、泣イテモ、遅イ!」
暖の言葉に、下女は顔色を変える。
そして、これ以上痩せないことに同意したのだった。
できれば健康面で納得して欲しかったのだが……まぁ仕方ないかと、暖は思う。
こんなやりとりの末に始まったのが、『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』だった。
流行遅れになるという脅しはかなり効果があったようで、下女の仲間も何人か参加してくれる。
「ホントにこれを食べても太らないの?」
あの時の下女とは別の下女――――耳が垂れ耳で鼻が尖った犬顔の女性が、目の前の焼き肉を見ながら、聞いてきた。
野菜もたっぷり、ジュウジュウと焼けたお肉はとっても美味しそうだ。
とはいえ、そんなことを聞かれても、栄養士でも何でもない普通のOLだった暖にはわからない。
(カロリー計算とか、したことないし)
しかし、ここは迷いなく頷いておく。
「大丈夫!」
元々この下女も、もの凄く痩せている。
多少食べてもそんなに直ぐ太るはずもないのは、考えるまでもないだろう。
下女は、それでも心配顔だった。
焼き肉を前に食べようかどうしようか迷っている姿は、「待て」をさせられすぎて、凹んでいる大型犬にしか見えない。
「心配ナラ、後デ、運動スル、シマショ!」
適度に食べて運動する。健康に生きる基本である。
暖の言葉に、ようやく犬顔の下女は食べはじめた。一口食べて、嬉しそうに二パッと口を開ける。その姿は、やっぱり喜んでいる犬にしか見えなくて、暖は心の中でほっこりする。
彼女もそうだが、暖に「大丈夫」と言われて、食べる下女たちは、みんな幸せそうな顔をした。暖の言葉は、何よりも、彼女たちの“心”を、かなりの部分で楽にさせているのかもしれない。
そんな彼女たちと一緒に食後に体操をするのが、最近の暖の日課だ。
体操といっても、流行のエクササイズなど知らない暖が行うのは、昔懐かしいラジオ体操である。
「イチ、ニ、サン、シ、ニ、ニ、サン、シ」
暖の掛け声で、見よう見まねでラジオ体操に精を出す魔族女性たち。
――――はっきり言って、一種異様な光景だが、暖は気にしないことにしていた。
『美しく長く生きよう! 大キャンペーン!』は、こうして後宮の下女を中心に広がっていったのだった。
しかし、そんな体操をした翌日、
「あなたの言う運動をしたら、足が痛いんだけど」
ギョロリとした爬虫類の目をした下女に、暖は文句を言われる。
「ソレ、筋肉痛!」
毎日食堂でハードな仕事をしている下女たち。
しかし、ラジオ体操で使う筋肉は、また違う筋肉らしく、彼女は筋肉痛になったのだ。
仕方がないので、暖はマッサージをしてやることにする。
(なんか、私って、どこでもマッサージしているわよね?)
村でも、ディアナやウルフィアにいつもマッサージをしていたことを、暖は思い出す。
(みんな元気かしら? 戦争は終わったはずよね? ……ディアナとウルフィアは、お茶会を再開しているかしら?)
そうならいいなと、暖は思う。
「ぼんやりして、何を考えているの?」
ギョロリと目を向けられて、暖はふんわり笑い返した。
「イエ。……今度、一緒、オ茶飲ム。ドウ?」
気持ちよさそうに暖にマッサージをしてもらいながら、下女は「そうね」と頷く。
「痩せるお茶なら飲んであげてもいいわよ」
やっぱり偉そうな下女である。
ディアナなら――――言うまでもないだろう。
「……健康イイオ茶、用意スル」
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そんな風に、魔界の日常は、過ぎて行った。
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