まだまだこれからだ!

九重

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第三章 魔族にもいろいろあるようです。

真夜中の料理長は軽くホラーでした

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 そんな日々が数日過ぎた頃――――

 誰もが眠る丑三つ時、疲れ切って泥のように眠るうららを無理やり起こす者がいる。

「ウララ、起きとくれ!」

 強引な声に暖は眠い目を擦り擦り、開けた。

(……っ! ひぇぇっ~っ!!)

 途端、暖は悲鳴をあげそうになる。
 そこにいたのは一つ目をギロリと見開く怪物だった!

 ――――よくよく見れば、料理長である。

 暖の心臓はあやうく止まりかけた。

「へ? ナ、何?」

「起きて、ついておいで!」

 料理長は有無を言わさぬ雰囲気でそう話す。
 暖は慌てて起き上がった。
 魔界の夜は寒く、ブルリと震えた彼女はベッドの脇からショールをとって肩にかける。
 僅かなその間も待てないように料理長は暖を急かした。ドアを開けるとキョロキョロと周囲を見回し、誰もいないことを確認して歩き出す。

 慌てて後を追った。


「エット、……何処、行ク?」

「いいから、黙って早く!」

 怒鳴られ、仕方なしに早足でついて行く。
 人目を忍ぶようにして歩いた後でたどり着いたのは、大きな扉の前だった。
 明らかに身分の高い者の部屋である。
 ためらいなくドアを開けた料理長は「早くお入り!」と暖を呼びいれた。

(ホントに、入って大丈夫なの?)

 恐る恐る暖は、ドアの中に入る。
 中は思った通り豪華な部屋だった。
 洗練された美しい家具に意匠の凝った壁紙。飾ってある置物も美術品も全て一目で一級品だとわかるものばかりだ。
 なんとなく義弟のマンションを思い出させる部屋に、暖はちょっとムッとする。

「連れて参りました」

 人の気配はなかったが、料理長は入るなりその場で膝をつき深く頭を下げた。
 慌てて暖もギクシャクと真似をする。
 料理長の声が響いた途端奥のドアが開いて、誰かが入ってくる気配がした。

「ご苦労様でした。顔を上げなさい」

 声をかけられ、上を向く。
 暖は、ゴクリと息を飲んだ。

 一つ目、一つ目、一つ目の魔族が、三人並んでいる。
 その全ての目が、暖をギロリと睨んでいた。

(ひぇ~っ! ホラー映画?)

 思わずそう思ってしまうような光景だ。
 後宮の食堂で働き魔族の姿にかなり慣れたと思っていた暖だが、そこに居た魔族は、全員迫力が違う。

「その者が、噂の治癒術士か?」

 三人の真ん中の魔族の口が開き、低い誰何すいかの声がかかる。

「はい。下女が4人、侍女が1人。彼女の治癒を受けて子を成せる体となり、後宮を出て行きました」

 真剣な表情で、料理長は返事をした。

「5人も?」

 三人の一つ目は驚いたように黙り込む。考え込むような間があいた。


「……見れば、なんの特徴も持たぬ人間のような外見だが、その者は信用できるのだろうな?」

 しばらくして聞かれたのは、そんなことだ。
 「はい」と料理長は迷いなく答える。

「この者の働き具合をずっと見ておりました。真面目で手を抜かず与えられた仕事をきちんとできる者です。治癒の力を発揮して後も、そのことに驕ることなく今まで通り働き、なおかつ頼られた全ての者に治癒の力を与えておりました」

 褒められて、こんな状況だが暖は嬉しくなってしまう。
 自分のした仕事をちゃんと見ていてくれたのだと、料理長に感謝した。

「フム。他人に厳しいお前がそこまで褒めるのなら――――」

 左端の一つ目が決意したように頷く。
 他の二人と視線を交わした。

「御目通りを許そう」

 そう言うと三人は奥の部屋へと続くドアを開けてくれる。
 料理長が暖の方へと顔を向けた。


「ウララ。急に連れてきてしまってすまない。お前を見込んで頼みがある。大丈夫だ。お前の身の安全はこの私が命に代えても保証する。だから力を貸してくれないかい?」


 ここまで連れて来られ今更嫌と言える状況ではない。
 そうでなくても、自分の仕事を見てくれた料理長の役に立ちたかった。


「私、デキルコトナラ」


 暖の言葉に、料理長はフッと笑う。

「ああ。お前にしかできないことだ。……まず、この後見たことを誰にも言わないと誓ってくれないか?」

 料理長の一つ目が、真剣に暖を見てくる。
 暖はコクリと頷いた。
 大きく頷き返した料理長に促され、奥の部屋に入っていく。

 そこは大きな天蓋付きのベッドのある寝室だった。
 仄かな魔力の灯りが、弱々しく部屋の中を照らし出している。
 先に入った三人の一つ目が、ベッドの脇に跪いていた。
 天蓋から垂れたレースのカーテンが、入り口――――暖の方にだけ上げられ、支柱に縛られている。

 暖の目に、ベッドに身を起こした一人の女性が映った。

 料理長たちと同じ一つ目で、長い銀の髪を背中の半ばまで垂らしている。


「……姫さま」


 暖と並んで入った料理長が両膝を床につけ頭を下げる。

 暖は――――身動きできなかった。

 ベッドの上に座った女性の衣装は薄い素材でできていて、彼女の体は服の上から透けている。
 細い肩とその細さのわりには豊かな胸。
 上掛けが太ももから下を覆い、彼女の下半身は見えない。
 腹部と腰は、コルセットで覆われていた。


(……ヒドイ)


 暖は大きなショックを受ける。

 ふかふかのクッションに包まれ、半ば支えられている彼女のその腰は、コルセットをしていてさえも生きた体だと信じられないほどに……細かった。
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