まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
75 / 102
第三章 魔族にもいろいろあるようです。

一つ目のお姫さまは死にそうでした

しおりを挟む
 いくらなんでも痩せすぎだ。間違いなく病気のレベルだとうららは思う。

「……シムスか?」

 小さな声がベッドから聞こえた。

「はい。姫さま」

 返事をした料理長が頭を下げる。
 はじめて知ったが、どうやら彼女の名前はシムスというらしい。

「姫さま、お加減はいかがですか?」

「私など……死んだも同然だ」

 料理長の問いかけに自嘲の言葉が返ってくる。

「何を仰います!」

 料理長はバッと顔を上げた。

「陛下のお情けをいただけなくなったに、どんな存在意義がある」

 姫さまと呼ばれた女性の声は、血を吐くような悲哀に満ちていた。

「それは! ……モノアさまの体調が優れないからで、元気にさえなられれば陛下もきっと!」

 料理長は彼女の姫さまを懸命に慰める。
 しかしモノアと呼ばれた側妃は、首を横にふった。

「例え、陛下の御心みこころがまだ私にあったとしても、既に私には陛下の寵愛を受ける資格がない」

 うつむき涙を堪えるかのように唇を噛むモノア。
 寵愛を受ける資格がないということは、どういうことだろう?

(ひょっとして、この姫さまも――――)

 暖は彼女の細すぎる腰を見つめた。
 これだけの細さではまともな生理があるとはとても思えない。
 少なくとも暖にはそう思えた。

 料理長は、膝をついたまま前に出る。

「姫さま。姫さまのその憂いを払うために、今日はこのシムス、無礼を承知でお目通りを願い出ました」

 そう言いながら料理長は暖の手を握ると、彼女を前へと押し出す。

「姫さま。この者は私の配下。生理を失った侍女や下女を癒した者です!」

 その言葉を聞いたモノアは、パッ!と顔を上げた。
 彼女のたった一つの目が、ヒッシと暖を見つめてくる。
 溺れる者が一本の藁に縋るかのような眼差しだった。

 暖は思わずモノアの方に駆け出す。
 控えていた三人の一つ目が慌てたように前に出て、暖を押し止めた。
 三人に捕まりながら暖は大声でモノアを怒鳴りつける! 


「モウ! 痩セスギデショウ! ソンナ痩セテ、ドウスル? 死ニタイ? 自殺ナノ? ……馬鹿デショ! 絶対!!」


 怒鳴られたモノアはポカンと口を開けた。
 あまりにも痩せ細ったその姿に、暖の心の奥から怒りが沸いてくる。
 料理長が慌てて暖を引き下がらせた。

「ウララ、落ち着け!」

「死ニソウ人、見テ、落チ着ク、無理!」

 暖に怒鳴り返された料理長は顔色を失った。

「……死にそう?」

「当タリ前! コノママ痩セル、絶対死ヌ!」

 実際、モノアは今生きているのが不思議なくらい痩せていた。
 魔族の強い生命力のおかげで生きているのだろうが、それだって限度があるだろう。 

(何より、彼女は精神的に落ちているわ)

 体の不調は心に繋がる。
 今までのモノアの発言を聞く限り、彼女はうつ状態なのではないだろうか?
 痩せて死ぬ前に自殺する可能性だってないとはいえなかった。

(私は精神科医じゃないから、確実とは言えないけれど)

 それでも黙って見過ごすわけにはいかなかった。

「トモカク、早ク、コルセット緩メテ!」

 暖の言葉に、料理長と他の一つ目たちが首を傾げる。

「コルセット?」

 暖は大きく頷いた。

「アンマリ痩セル、身体、心、良クナイ! コルセット、シナイ一番、ケド、急ハ無理思ウカラ、トモカク緩メテ!」

 一刻も早く締めすぎたコルセットを緩めてやりたくて暖は指示する。
 彼女の勢いに押されるようにして護衛の一つ目の一人がモノアに近づいていった。

 ところが、その瞬間モノアがものすごい勢いで暴れだす。


 「嫌よ! コルセットを外すのだけは、絶対嫌!」


 モノアは大声でそう叫んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...