まだまだこれからだ!

九重

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第三章 魔族にもいろいろあるようです。

世界に一人だけのあなたです

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「外ス、違ウ。緩メルダケ」

「それだって嫌よ! 私に、触らないで!」

 うららが説得するのだが、モノアは必死に抵抗する。
 どうしてそんなに嫌がるのだろう?
 困惑する暖を、モノアはキッと睨みつけた。

「私は陛下の側妃なのよ。醜く太るわけにはいかないわ!」

 ハッキリ暖を見ながら「醜い」と言うモノア。
 彼女が暖をそう見ていることは確実で、流石に暖もカチンときた。

「私は醜くないわ! 醜いのは、あなた達よ! 生命としての在り方まで歪めて、そんなものが美しいはずないでしょう!」

 感情のままに、暖は叫ぶ。

 子をなし、自分たちの種を次世代に繋ごうとするのは、生物の本能だ。
 根本的な本能を危うくしてまで、魔族の女性は痩せることに拘っている。
 それは種として、とてもイビツなことだった。そんな状態を美しいと言えるわけがない。

 興奮のあまり日本語で怒鳴った暖の言葉は、魔族には伝わらない。
 しかし、それでも暖の強い怒りと悲しみは、間違いなく伝わった。



「……ウララ、コルセットを緩めることは、姫さまにとって必要なことなのだな?」

 真剣な顔で料理長が確認してくる。
 暖は、大きく頷いた。

「ソウ! 死ニタクナケレバ、絶対、緩メル必要!」

 暖の言葉を聞いた料理長は、キッと表情を引き締める。

「姫さま、失礼いたします!」

 サッと立ち上がると、素早くモノアに近寄った。

「嫌よ! 何をするの!?」

 抵抗するモノアの体を、料理長は押さえつける。

「姫さま、どうかご辛抱ください! 後でいくらでも罰を受けます」

 モノアに謝りながら、料理長はコルセットに手をかける。呆然とする警護の一つ目を叱りつけた。

「何をしている! 早く手伝え! 姫さまのお命を救うのだ!」

 鬼気迫る勢いの料理長は、一つ目がギラギラと輝き、はっきり言って恐ろしい。
 その迫力は、料理長より身分が上に思われた警護の三人が慌てて従ってしまうくらい。

 おかげで暖は少し落ち着くことができた。
 四人に押さえられ無理やりコルセットを緩められたモノアは、両手の中に顔をうずめ肩を震わせ泣いている。
 ほんの少し緩くなっただけのコルセットは外見上何も変わらず、モノアの腰は病的なまでに細いままだ。
 なのにたかがそれだけのことで、彼女はこの世の終わりかというように泣いている。

 暖は、モノアが哀れになった。

「ねぇ、あなたの生きる価値は、美しくあることにしかないの?」

 思わずそうたずねていた。日本語の暖の言葉は、やはり通じない。
 しかし声に宿る悲しみと切なさ、そして憤りともいうべきやるせなさに気づいたのか、モノアは顔を上げた。
 涙に潤む一つ目を暖はしっかり見つめる。


「美シイ、全テ、ナイヨネ? 生キル、ソレダケ、凄イコト。大キイ、キレイ目デ、モット広イ世界、見テ」


 美しさだけにこだわらないでほしいと、暖は思う。
 世界は広く、様々な生き方や考え方がある。
 いくら魔王の側妃とはいえ、ただ魔王の側で美しくあることだけが全てではないはずだ。


「私は、側妃なの。どんな魔族女性より、常に美しくあらねばならないのよ」


 モノアの言葉に、暖は首を横に振る。


「ソノ前ニ、一人ノ、モノア。……タッタ一人ダケノ」


 かつて流行った歌ではないが、彼女は世界にたった一人のモノアという女性だ。
 魔族で、たぶん一つ目の一族のお姫さまで、きっと真面目でなんにでも一生懸命な女性なのだろう。
 側妃というのは彼女の身分を表す呼称の一つでしかない。
 側室であろうとなかろうと関係なく彼女自身を大切に思う者もいるはずだ。

(多分、料理長はそうよね?)

 だから彼女には自分を大切にしてほしいと思う。

「側妃でない私になんて、価値がない」

「違ウ! 料理長――――エット、シムス? モノア、大好キ! ……ダヨネ?」

 暖が聞けば、ハッとした料理長はものすごい勢いで頷いた。


「私などが姫さまを「大好き」などと、おこがましいことですが……私はモノアさまがお小さい頃からずっと心からお慕いしております。側妃であろうとなかろうと、私の忠誠はモノアさま、ただお一人のものです」


 真摯な表情で料理長は言った。

「当然、私も!」
「私も!」
「私もです!」

 警護の三人も我先にと声を上げる。
 その四人を見て――――モノアの目から、涙がこぼれ落ちた。


「……そなたたち」


 声が感動で震えている。
 暖はニッコリ笑った。


「モノア、素敵。……チョット太ッテモ、ナンデモナイ! ミンナ、モノア大好キ! ダカラ、生キル、頑張ロウ!」


 暖の言葉を聞いても、まだモノアは不安そうだ。揺れる一つ目で周囲を見回す。
 料理長や警護の三人と視線を合わせた。

 四人は、モノアの視線をしっかり受けとめる。

 四つの目に力を得て、最終的にモノアは……小さく頷いてくれた。
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