まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
97 / 102
第四章 選んだ先の未来へ向かいます!

どちらも選べない……

しおりを挟む
 ……うららは、なんだか、がっくりする。

 これでも、アルディアの彼シャツになっている分、幾分マシなはずなのに――――いや、かえってそこがいけなかったのかもしれなかった。

『やっぱり思っていた通りだ。……その服! お前は、今度はどんな大物を引っかけたんだ?』

 正樹は忌々しそうに舌打ちする。
 なんて言いぐさだと暖は思った。

(やっぱり、あいつは、気に入らないわ!)

『何をしている! さっさとこっちに来い! お前がいない間、陽詩は三回も発作を起こしたんだぞ。……処置が早かったから大したことにはなっていないが。……これ以上陽詩を苦しめるな!』

 イライラと怒鳴る正樹。彼の一番は、いつでも陽詩だ。
 そして、暖の一番もいつでも陽詩だった。
 ――――少なくとも、これまでは。

「三回も!?」

 驚いた暖は慌てて走り出そうとした。
 この世界に暖が来る前、陽詩の症状は落ち着いていた。
 最近は滅多に発作を起こさないくらいになっていたのだ。

「あなたがついていながら、何をしているのよ!」

 義弟を怒鳴りつけながら、暖は足に力を入れる。

『お前が、急にいなくなったせいだろう!』

「言い訳なんて、聞きたくないわ!」

 怒鳴り合いながら暖は光を――――その先の妹を目指そうとする。



「――――ウララ!!」



 そんな彼女を、声が呼び止めた。
 叫んだのは、アルディアだ。

 彼の声を聞き、暖は足を止める。


「ウララ、往かないでください!」
『ウララ、我を置いて行くな!』


 リオールとギオルも叫んだ。
 暖は、ゆっくりと後ろを振り返る。
 エルフと竜の姿を目に入れた。

「……リオール、ギオル」

「ウララ! あなたは、私の世話を放り出すの?」

 いつも気だるそうに話すラミアーが、真剣な声を出した。

「ウララ! 俺を見捨てるつもりか!?」

 髪の毛や髭を逆立てて、ネモも叫ぶ。

「魔族の治療はこれからが本番だぞ! お前は何処に行くんだ!?」

 ダンケルの声は、悲痛だった。
 確かに彼の言う通り、魔界のこれからは全て暖にかかっている。
 必死な思いが、ひしひしと伝わった。

 見れば、モノアや正妃も祈るように手を組み暖の方を見つめている。



 暖の脳裏に、この世界に来てからの思い出が次々と浮かんできた。
 言葉も通じぬ暖に、みんな……優しかった。

(ディアナみたいに、わかりにくい人もいるけれど)

 それでも彼らは、暖を助け好意を寄せてくれたのだ。


「ア、ミンナ……」


 揺らぐ暖の後ろから、陽詩の声が聞こえてくる。


『お姉ちゃん!』


「ウララ!」

 今度、暖を呼んだのは、リオールだ。
 泣き虫なエルフの目からは、先ほどから涙がこぼれ落ちている。




 両方から呼ばれ――――暖はどちらにも答えられなかった。



 どちらも、大切なのだ。



 どちらも、選べない。




『何をしている!? 早く来い! 陽詩をこれ以上泣かせるな!』

 光の中から正樹の声が聞こえた。

 暖はノロノロとそちらを向く。
 小さな頃から暖が育ててきた、可愛い可愛い妹。
 陽詩が泣きながら自分を呼んでいるのだ。



 一方アルディアは、最初に暖の名を呼んだきり黙ったままだった。
 ただただ暖を見つめ続けている。
 美しい紫の瞳に激しい焦燥を映しながら、彼はただ暖を……見ている。





『お姉ちゃん! お願い、帰って来て!』

「陽詩……」

 妹に呼ばれた暖の足が、そちらに向いた。
 フラフラと、一歩、二歩と進んで行く。




 ――――その時、

 今の今まで動かなかったディアナが、杖を振りかぶった。
 その杖で、ズン! と、アルディアの腹を突く。



「グッ!」



 鳩尾みぞおちを突かれたアルディアは、たまらず派手に咳き込みはじめた。

「ゴホッ! ……グッ、ゴホッ! ゴホッ、ゴホッ!」


「キャァッ! アルディア! 大丈夫!?」


 慌てて暖はアルディアに――――
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...