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第四章 選んだ先の未来へ向かいます!
魔王と魔女の一幕
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ぼんやりと光る苔だけが光源の、暗い魔王城の地下牢。
そこに鎖で繋がれ魔力を封じられて座り込む魔王――――いや、元魔王の元に来訪者が現れる。
「辛気臭い場所じゃのう」
外部からの接触を阻む幾重もの結界魔法をものともせず転移してきたのは、言わずと知れたディアナだ。
「お前! 魔界から去ったのではなかったか? …………いや愚問か。“世界を二度滅ぼした魔女”にとって幻影を生み出し別行動させることなど簡単なことだったな」
一瞬驚いたものの、魔王は直ぐに落ち着いた。
「“世界を二度滅ぼしかけた魔女”じゃ! きさま、わざと言い間違いおったな!」
ディアナは目を三角にして怒る。
魔王はフンと鼻で笑った。
「滅ぼしたで正しいだろう? 私は何も間違ってはいない。……いったん滅ぼし、その後、滅ぼしかけた状態で再生したものを、他にどう呼べと?」
片眉を上げる魔王。
ディアナは、チッ! と舌打ちした。
「だから、おぬしは気にくわん!」
「光栄だな。“世界を二度滅ぼした魔女”よ。……今さら私に何の用だ?」
クツクツと笑いながら聞かれて、ディアナは大きくため息をつく。
「フン。来るんじゃなかったわい。……大根役者の魔王を、柄にもなくねぎらってやろうと思っておったのに」
大根役者とディアナは言った。
魔王は、大きく目を見開く。
「わしの目を誤魔化せると思うたか? ……おぬし、日本と魔界を繋ぎわざと我らを煽ったじゃろう。ウララが日本に帰る可能性を潰すために」
聞かれて魔王は黙り込んだ。
この場合の沈黙は、肯定である。
「確かに、あの時までウララは、自分が帰れる可能性はないと信じこちらの世界で暮らす気でいた。……しかし、それはあくまで帰れないから。もしも帰れるとしたら、ウララがどちらを選ぶかは、ウララ自身も含め誰もわからぬことじゃった。……だからおぬしはわざとウララに道を示し、我らを――――アルディアを煽ることで、ウララ自らにこの世界に残ることを選ばせたのじゃ。向後の憂いを絶つために」
ディアナはそれが真実であるかのように話した。
魔王への問いかけでも疑問でもない。
彼女は、既にそれを確信しているのだ。
魔王は……小さく笑った。
自分を戒める鎖をジャラジャラと鳴らし肩をすくめる。
「――――仕方があるまい。魔界の命運はあの娘にかかっていた。なのにその命運を握る者が、あれほど不安定な状態でいるのだ。私がウララを囲えていれば、万が一にも娘が帰る心配はなかったが、それは叶わなかった。……私が失脚しダンケルが魔王になれば、いずれ奴も魔界から異界への扉を開く術を見つけるだろう。その時、ウララに隷属を誓ったダンケルではウララの望みを断り切れない。結果、ウララは永遠にこの世界から失われる可能性がある。……そんな未来を、私が……魔界の王たる私が、放っておけるものか!」
強く言い切る魔王。
ディアナは「……バカじゃのう」と、笑った。
「わしがついておるのじゃ。そんなことをさせるはずがないとは思わなんだか?」
「……お前は、見かけによらず優しいからな」
優しいと言われて、ディアナは柄にもなく赤くなる。
照れたようにゴホンと咳ばらいをした。
「それで、あの猿芝居か。結果こんな牢に繋がれ朽ちていくだけの存在になるなど。……おぬしはこれで満足なのか?」
ディアナの問いに魔王は、口を歪めて笑った。
「私が逃げるとでも思っているのか? 確かに私の力の前には、こんな鎖や封印はなんの役にも立たぬ戒めだ。逃げようと思えばいつでも逃げられる。…………しかし私も長くを生きすぎた。……このまま朽ちていくのも、よいだろうと思う程にはな」
疲れたように魔王は、息を吐く。
彼の表情は静かだ。
目に光はなく、もう既に死んでいるかのよう。
一方、その返事を聞いたディアナは、嫌そうに顔をしかめた。
「おぬし、それは年寄り特有の厭世観じゃぞ。……老人性うつ病かもしれん。立派な病気じゃ」
「誰が、老人性うつ病だ!」
年寄りと言われ、あまつさえ老人性うつ病と言われた魔王は、さすがに怒った。
ディアナを睨みつけ怒鳴りつける。
老いた魔女は、ニヤリと笑った。
「そういう病人を専門に受け入れる村があるんじゃ。幸いなことに、わしが世話人をしておるから今なら特別に入村を許可してやろう。……なに心配する必要はない。老人性うつ病でも老人性認知症でも、なんでも直せる稀有な治癒魔法の使い手も一緒に住んでおるからの。……安心して引っ越してこい」
魔王は、ポカンと口を開けた。
「本気で言っているのか?」
「もちろんじゃとも。これは優しいわしの善意じゃ。……決して遠慮なくボコれるストレス発散用サンドバックを探しているからじゃないからの」
――――本音ダダ漏れのディアナだった。
魔王は頭を抱える。
やがて、クックッと笑いはじめた。
「何をグズグズ考えておるんじゃ。行くか? 行かぬか? どっちじゃ?」
急かされ魔王は、顔を上げる。
「――――行く!」
きっぱり答えた。
その姿は先刻までの様子が嘘のように生き生きとして輝いている。
「ふむ。では、とっととこんな辛気臭い場所はおさらばするぞ。……ああ言っておくが、おぬしをサンドバックにしたいと思っておるのは、わしだけじゃないからの。手荒い洗礼を受けなければならんが無事生き残るんじゃぞ。……そうでなければわしのストレスが発散できんからな」
「……善処する」
何とも言えない表情で黙り込んだ魔王だが、最終的に彼はそう言った。
その言葉と同時に、地下牢から二つの気配が消え失せる。
この日、暖の暮らす村に、住人が一人増えたのだった。
そこに鎖で繋がれ魔力を封じられて座り込む魔王――――いや、元魔王の元に来訪者が現れる。
「辛気臭い場所じゃのう」
外部からの接触を阻む幾重もの結界魔法をものともせず転移してきたのは、言わずと知れたディアナだ。
「お前! 魔界から去ったのではなかったか? …………いや愚問か。“世界を二度滅ぼした魔女”にとって幻影を生み出し別行動させることなど簡単なことだったな」
一瞬驚いたものの、魔王は直ぐに落ち着いた。
「“世界を二度滅ぼしかけた魔女”じゃ! きさま、わざと言い間違いおったな!」
ディアナは目を三角にして怒る。
魔王はフンと鼻で笑った。
「滅ぼしたで正しいだろう? 私は何も間違ってはいない。……いったん滅ぼし、その後、滅ぼしかけた状態で再生したものを、他にどう呼べと?」
片眉を上げる魔王。
ディアナは、チッ! と舌打ちした。
「だから、おぬしは気にくわん!」
「光栄だな。“世界を二度滅ぼした魔女”よ。……今さら私に何の用だ?」
クツクツと笑いながら聞かれて、ディアナは大きくため息をつく。
「フン。来るんじゃなかったわい。……大根役者の魔王を、柄にもなくねぎらってやろうと思っておったのに」
大根役者とディアナは言った。
魔王は、大きく目を見開く。
「わしの目を誤魔化せると思うたか? ……おぬし、日本と魔界を繋ぎわざと我らを煽ったじゃろう。ウララが日本に帰る可能性を潰すために」
聞かれて魔王は黙り込んだ。
この場合の沈黙は、肯定である。
「確かに、あの時までウララは、自分が帰れる可能性はないと信じこちらの世界で暮らす気でいた。……しかし、それはあくまで帰れないから。もしも帰れるとしたら、ウララがどちらを選ぶかは、ウララ自身も含め誰もわからぬことじゃった。……だからおぬしはわざとウララに道を示し、我らを――――アルディアを煽ることで、ウララ自らにこの世界に残ることを選ばせたのじゃ。向後の憂いを絶つために」
ディアナはそれが真実であるかのように話した。
魔王への問いかけでも疑問でもない。
彼女は、既にそれを確信しているのだ。
魔王は……小さく笑った。
自分を戒める鎖をジャラジャラと鳴らし肩をすくめる。
「――――仕方があるまい。魔界の命運はあの娘にかかっていた。なのにその命運を握る者が、あれほど不安定な状態でいるのだ。私がウララを囲えていれば、万が一にも娘が帰る心配はなかったが、それは叶わなかった。……私が失脚しダンケルが魔王になれば、いずれ奴も魔界から異界への扉を開く術を見つけるだろう。その時、ウララに隷属を誓ったダンケルではウララの望みを断り切れない。結果、ウララは永遠にこの世界から失われる可能性がある。……そんな未来を、私が……魔界の王たる私が、放っておけるものか!」
強く言い切る魔王。
ディアナは「……バカじゃのう」と、笑った。
「わしがついておるのじゃ。そんなことをさせるはずがないとは思わなんだか?」
「……お前は、見かけによらず優しいからな」
優しいと言われて、ディアナは柄にもなく赤くなる。
照れたようにゴホンと咳ばらいをした。
「それで、あの猿芝居か。結果こんな牢に繋がれ朽ちていくだけの存在になるなど。……おぬしはこれで満足なのか?」
ディアナの問いに魔王は、口を歪めて笑った。
「私が逃げるとでも思っているのか? 確かに私の力の前には、こんな鎖や封印はなんの役にも立たぬ戒めだ。逃げようと思えばいつでも逃げられる。…………しかし私も長くを生きすぎた。……このまま朽ちていくのも、よいだろうと思う程にはな」
疲れたように魔王は、息を吐く。
彼の表情は静かだ。
目に光はなく、もう既に死んでいるかのよう。
一方、その返事を聞いたディアナは、嫌そうに顔をしかめた。
「おぬし、それは年寄り特有の厭世観じゃぞ。……老人性うつ病かもしれん。立派な病気じゃ」
「誰が、老人性うつ病だ!」
年寄りと言われ、あまつさえ老人性うつ病と言われた魔王は、さすがに怒った。
ディアナを睨みつけ怒鳴りつける。
老いた魔女は、ニヤリと笑った。
「そういう病人を専門に受け入れる村があるんじゃ。幸いなことに、わしが世話人をしておるから今なら特別に入村を許可してやろう。……なに心配する必要はない。老人性うつ病でも老人性認知症でも、なんでも直せる稀有な治癒魔法の使い手も一緒に住んでおるからの。……安心して引っ越してこい」
魔王は、ポカンと口を開けた。
「本気で言っているのか?」
「もちろんじゃとも。これは優しいわしの善意じゃ。……決して遠慮なくボコれるストレス発散用サンドバックを探しているからじゃないからの」
――――本音ダダ漏れのディアナだった。
魔王は頭を抱える。
やがて、クックッと笑いはじめた。
「何をグズグズ考えておるんじゃ。行くか? 行かぬか? どっちじゃ?」
急かされ魔王は、顔を上げる。
「――――行く!」
きっぱり答えた。
その姿は先刻までの様子が嘘のように生き生きとして輝いている。
「ふむ。では、とっととこんな辛気臭い場所はおさらばするぞ。……ああ言っておくが、おぬしをサンドバックにしたいと思っておるのは、わしだけじゃないからの。手荒い洗礼を受けなければならんが無事生き残るんじゃぞ。……そうでなければわしのストレスが発散できんからな」
「……善処する」
何とも言えない表情で黙り込んだ魔王だが、最終的に彼はそう言った。
その言葉と同時に、地下牢から二つの気配が消え失せる。
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