もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第1部 もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

プロローグ② ホットミルク

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「ショコラはずっと人間界の孤児院で暮らしていたんですけど、ある日魔王『ラグナル』様からお手紙が来たんです」

「ふうん」

 あつあつの焼き芋を頬張りながら、ショコラは隣にいる少年にそう語った。
 結局、食欲に負けてしまって、ショコラはありがたく芋を頂戴していた。
 今、二人は丸太に並んで座っている。
 焚き火のそばには、ホットミルクのたっぷり入ったマグが置いてあった。

「そのお手紙には、ラグナル様の召使いになるために、お家に来なさいって書いてありました」

「……そうなの?」

「そうなんです」

 あつあつの焼き芋は、蜜がしたたるくらいに甘くて、美味しい。
 ショコラのしっぽは終始揺れっぱなしだった。
 こんなに美味しい食事はいつぶりだろうか。

「ここまで来るのに、いっぱい歩いて、緊張して、疲れていたので、助かりました。美味しいお芋、本当にありがとうございました」

 ショコラが笑ってそう言うと、少年はずっと何かを考えていたようだったが、そばにあったマグをとって、ショコラに渡した。
 ホットミルクだ。

「飲む?」

「え? でも……」

 ショコラがこれ以上は、と遠慮していると、手にグイと持たされた。

「飲んで。体、まだ冷たいよ。もっとこっち、来て」

 少年はショコラの体を自分の方に近づけた。

「あ、ありがとうございます」

(なんていい人なんでしょう!)

 お言葉に甘えて、ショコラはカップを受け取り、口付ける。
 熱くて甘やかなミルクが、ショコラの体を芯から温めた。
 嬉しいのか、垂れていた耳もひょこひょこ動いている。

「おいしいです」

 ショコラが目を細めてそう言うと、少年は立ち上がった。

「芋、掘ってくる。君は座ってて」

「え?」

「そこにいて」

 ショコラがきょとんとしていると、少年は近くにあったシャベルを手にとって、芋が植えてあるのだろう畑へと向かった。
 ショコラはきょと、とその姿を見ていた。

(不思議な人……)

 ショコラがマグを置いて手伝おうと立ち上がると、館の方から声が聞こえてきた。
 ショコラが振り返ると、館の表の方からやってきたのだろう、男女二人組の大人が手を振りながらやってきた。

「ラグナル様、ただいま戻りました!」

 一人は執事の格好をした品のいい老人、もう一人はメイド服を着た美しい女性だった。女性の頭からは、くるんとした小さなツノが生えていた。

「大変なんですよ、お迎えに上がったショコラ様が……あら?」

 女性の口から自分の名前が出て、ショコラは驚いた。
 向こうの二人も、ショコラを見て目を丸くしている。

「は、初めまして、ショコラです」

「ええ!? どうしてショコラ様がここに?」

「おやまあ、これはこれは」

 驚く二人。
 ショコラは困ってしまった。

「あの、だめでしたか……?」

「い、いえ、そうではなくて。あれ、もしかして、ラグナル様がお迎えに?」

「? 歩いてきました」

 ここまで来るのに、十日以上かかったことを説明する。

「嘘、そんな」

 女性は戸惑いを隠しきれていないようだった。ショコラも何かまずいことをしてしまったのか、と眉を寄せて不安げな顔になる。ちょろちょろ揺れていたしっぽが止まって、足の間に挟まった。

「まあまあ。一度、ラグナル様をお呼びしましょうか」
 
 ゆったりとした調子で老人はそう言うと、畑の方へ向かって手を振った。

「おーい、ラグナル様、一度こちらへいらしてください!」

 ん?

 ショコラは固まった。
 畑には先ほど会話をしていた少年、ただ一人しかいない。

「あの、ラグナル様って……?」

「? あそこにいる方ですよ」

「えっ」
 
 ショコラは言葉を無くしてしまった。
 
 ……。
 
 ………。
 
 ……………。

 魔王様、芋掘ってますけど!?


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