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第1章 魔王ラグナル(脱力中)
ご主人様のお世話係
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「ご、ご主人様のお世話係に……!?」
ビシッとそう言われ、驚いたショコラだったが、結局何をするのかよくわからなくて首を傾げた。
「そ、それは一体どんなお仕事ですか……?」
リリィが困ったように笑いながら、説明してくれた。
「文字通り、ラグナル様のそばで朝から晩までお世話する仕事ですよ」
「あ、朝から晩まで!?」
元魔王様の側仕え。
鈍くさくてバカなショコラに、そんな大役が務まるだろうか。
一歩間違ってしまったら、食べられてしまうかもしれない。
(た、大変です! すごいお仕事をもらってしまいました……!)
ショコラがあわあわしていると、シュロが笑いながら言った。
「と言いましても、ラグナル様はほとんどのんびり過ごされていますから、ラグナル様と一緒にのんびりしていただくだけで結構かと」
「やることなんて特にありませんしねぇ」
あはは、とリリィも笑ってそう言った。
けれどショコラはその言葉を聞いても、胸のドキドキが収まらなかった。
(が、頑張らなくっちゃ。せっかくよくしてくれているんだから……!)
「まあ、気を張らず、楽しくやりましょうぞ。わたくしめもお手伝いいたしますので」
シュロにそう声をかけられて、ようやくショコラは「頑張ります!」と返事をしたのだった。
◆
「見た目よりも、ずっと広いんですね、このお館は」
「そうなんです。私も来たばかりでまだよくわかっていないんですけれど、どうやら魔法がかかっているみたいで。まだ入ったことのない部屋とかもあるんです」
「なるほど」
ショコラは迷子になることがないよう、必死にメモをとりながら──といっても、小さな紙切れに絵を描いているだけだが──リリィに館の中を案内してもらっていた。
ラグナルに今日は何もしなくていいと言われ、それならばと、リリィに館の中を案内してもらうことになったのだ。
わからないことは働きながらその都度聞いていけばいいということだった。
「バスルームはいくつかあるし、トイレもいっぱいあります。掃除が面倒です。それからこちらはキッチンとダイニングルーム」
リリィに案内してもらった部屋は、広くて、清潔なダイニングルームと、それとひとつづきになったキッチンだった。
明るい日差しを取り込んで、中は清潔感があふれている。
「夜は基本的に一緒に食べます。朝と昼は一緒だったり、バラバラだったりします。特にラグナル様は起きるのが遅いですから、合わせていたら食いっぱぐれます」
「みんなで食べる……? ご主人様もですか?」
「ええ。みんなで食べたほうが楽しいし、効率もいいんですよ。もちろんショコラさんもこれからは一緒です」
「わ、わたしも!?」
「ええ。あ、でも、今料理人が入院中なので、あんまり凝ったものは作れませんが」
今日もそんなに大したものは作れないので、とリリィは謝った。
ショコラはぶんぶんと首を振る。
食べられるだけでありがたい。
「ラグナル様の部屋も、私たちの部屋も見ましたし、あ……あとは図書室とかですね」
そう言って、リリィは今度はショコラを館の二階につれていった。
ラグナルとショコラの部屋は二階にある。というか、なぜかラグナルの寝室とショコラの部屋は隣り合っている。
二階には大切な部屋が多いと聞いて、なぜそんなところをショコラの部屋にしてしまったのか、ショコラは大変疑問に思っていた。けれどもう部屋は決まってしまったようで、変えることはできないようだった。
「はい、ここが図書室です。本がいっぱいありますから、興味があるものは部屋に持って帰ってくださって大丈夫ですからね」
そう言ったあと、近くにあったテーブルに本が重ねて置いてあるのを見て、リリィはあ、と声を上げた。
「ラグナル様ったら、また本を置きっぱなしにされているわ。ショコラさん、本は魔法がかかった本棚で綺麗になるように管理されてるので、借りた本は元の場所に戻しておいてくださいね」
そう言って、リリィは本を元の場所に返し始めた。
「お好きに見てくださって結構ですよ」
「は、はい」
リリィの話を聞きながら、ショコラはふああ、と口を開けて図書室を眺めていた。
背の高い本棚が何列も並び、高い位置の本棚には梯子がかかっている。古い紙の、落ち着く匂いが鼻をくすぐった。
なんとなしに、本棚の背を手で追っていく。
(文字が読めたらいいのにな)
しっぽが垂れ下がる。
孤児院にいたころを思い出した。
孤児院には学舎が併設されていて、平民の子供や、たまに身分のいい子供たちが集まって、勉強をしていた。けれどショコラは、獣人だから、という理由で、授業には参加できなかった。同じ年くらいの子供たちが勉強しているのを、掃除をしながら横目で見ていただけだった。
一度だけ、置いてあった教科書をペラペラめくっていたら、ひどく怒られて、折檻されたことがある。それ以来、本には手を触れていなかった。
(あ、これくらいなら、わたしでも……)
本棚を回っていると、絵本コーナーのような場所に出くわした。文字よりも絵の比率が多い本だ。綺麗な本に、自然とショコラのしっぽが揺れた。こういう本を見るのは初めてだったからだ。一冊抜いて、パラパラめくってみる。中には子グマのイラストがあって、どこかへ買い物へ向かっているようだった。
文字は読めなかったが、ショコラは夢中になってページを開いた。本を読みながら、視界の端にソファがあるのを見つけて、そこへ座ろうとした。
けれどおしりにぶにゅ、と何か柔らかいものを感じて、ショコラは飛び上がった。
ビシッとそう言われ、驚いたショコラだったが、結局何をするのかよくわからなくて首を傾げた。
「そ、それは一体どんなお仕事ですか……?」
リリィが困ったように笑いながら、説明してくれた。
「文字通り、ラグナル様のそばで朝から晩までお世話する仕事ですよ」
「あ、朝から晩まで!?」
元魔王様の側仕え。
鈍くさくてバカなショコラに、そんな大役が務まるだろうか。
一歩間違ってしまったら、食べられてしまうかもしれない。
(た、大変です! すごいお仕事をもらってしまいました……!)
ショコラがあわあわしていると、シュロが笑いながら言った。
「と言いましても、ラグナル様はほとんどのんびり過ごされていますから、ラグナル様と一緒にのんびりしていただくだけで結構かと」
「やることなんて特にありませんしねぇ」
あはは、とリリィも笑ってそう言った。
けれどショコラはその言葉を聞いても、胸のドキドキが収まらなかった。
(が、頑張らなくっちゃ。せっかくよくしてくれているんだから……!)
「まあ、気を張らず、楽しくやりましょうぞ。わたくしめもお手伝いいたしますので」
シュロにそう声をかけられて、ようやくショコラは「頑張ります!」と返事をしたのだった。
◆
「見た目よりも、ずっと広いんですね、このお館は」
「そうなんです。私も来たばかりでまだよくわかっていないんですけれど、どうやら魔法がかかっているみたいで。まだ入ったことのない部屋とかもあるんです」
「なるほど」
ショコラは迷子になることがないよう、必死にメモをとりながら──といっても、小さな紙切れに絵を描いているだけだが──リリィに館の中を案内してもらっていた。
ラグナルに今日は何もしなくていいと言われ、それならばと、リリィに館の中を案内してもらうことになったのだ。
わからないことは働きながらその都度聞いていけばいいということだった。
「バスルームはいくつかあるし、トイレもいっぱいあります。掃除が面倒です。それからこちらはキッチンとダイニングルーム」
リリィに案内してもらった部屋は、広くて、清潔なダイニングルームと、それとひとつづきになったキッチンだった。
明るい日差しを取り込んで、中は清潔感があふれている。
「夜は基本的に一緒に食べます。朝と昼は一緒だったり、バラバラだったりします。特にラグナル様は起きるのが遅いですから、合わせていたら食いっぱぐれます」
「みんなで食べる……? ご主人様もですか?」
「ええ。みんなで食べたほうが楽しいし、効率もいいんですよ。もちろんショコラさんもこれからは一緒です」
「わ、わたしも!?」
「ええ。あ、でも、今料理人が入院中なので、あんまり凝ったものは作れませんが」
今日もそんなに大したものは作れないので、とリリィは謝った。
ショコラはぶんぶんと首を振る。
食べられるだけでありがたい。
「ラグナル様の部屋も、私たちの部屋も見ましたし、あ……あとは図書室とかですね」
そう言って、リリィは今度はショコラを館の二階につれていった。
ラグナルとショコラの部屋は二階にある。というか、なぜかラグナルの寝室とショコラの部屋は隣り合っている。
二階には大切な部屋が多いと聞いて、なぜそんなところをショコラの部屋にしてしまったのか、ショコラは大変疑問に思っていた。けれどもう部屋は決まってしまったようで、変えることはできないようだった。
「はい、ここが図書室です。本がいっぱいありますから、興味があるものは部屋に持って帰ってくださって大丈夫ですからね」
そう言ったあと、近くにあったテーブルに本が重ねて置いてあるのを見て、リリィはあ、と声を上げた。
「ラグナル様ったら、また本を置きっぱなしにされているわ。ショコラさん、本は魔法がかかった本棚で綺麗になるように管理されてるので、借りた本は元の場所に戻しておいてくださいね」
そう言って、リリィは本を元の場所に返し始めた。
「お好きに見てくださって結構ですよ」
「は、はい」
リリィの話を聞きながら、ショコラはふああ、と口を開けて図書室を眺めていた。
背の高い本棚が何列も並び、高い位置の本棚には梯子がかかっている。古い紙の、落ち着く匂いが鼻をくすぐった。
なんとなしに、本棚の背を手で追っていく。
(文字が読めたらいいのにな)
しっぽが垂れ下がる。
孤児院にいたころを思い出した。
孤児院には学舎が併設されていて、平民の子供や、たまに身分のいい子供たちが集まって、勉強をしていた。けれどショコラは、獣人だから、という理由で、授業には参加できなかった。同じ年くらいの子供たちが勉強しているのを、掃除をしながら横目で見ていただけだった。
一度だけ、置いてあった教科書をペラペラめくっていたら、ひどく怒られて、折檻されたことがある。それ以来、本には手を触れていなかった。
(あ、これくらいなら、わたしでも……)
本棚を回っていると、絵本コーナーのような場所に出くわした。文字よりも絵の比率が多い本だ。綺麗な本に、自然とショコラのしっぽが揺れた。こういう本を見るのは初めてだったからだ。一冊抜いて、パラパラめくってみる。中には子グマのイラストがあって、どこかへ買い物へ向かっているようだった。
文字は読めなかったが、ショコラは夢中になってページを開いた。本を読みながら、視界の端にソファがあるのを見つけて、そこへ座ろうとした。
けれどおしりにぶにゅ、と何か柔らかいものを感じて、ショコラは飛び上がった。
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