もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

文字の大きさ
18 / 101
第2章 ショコラと愉快な仲間達

ピクニック

しおりを挟む

 秋は空気が透き通って、空が高く見える。
 今日はくっきりとした雲がぷかぷかと浮かび、爽やかな風が吹く秋日和だった。
 ショコラはしっぽを振りながら、館の前の掃き掃除をしている。

「もうすぐ冬ですねぇ」

 その辺りにある木も、葉っぱが赤や黄色に染まっている。
 風に揺れるたび、葉っぱはくるくると踊るように地面に落ちてゆく。あちこちに枯葉が落ちていて、もう冬が近いことを知らせていた。

(孤児院では楽しみがなくて、野にある草や落ち葉や小枝で遊んでいたっけ)

 ショコラは遊びに入れてもらえず、いつも一人ぼっちで、庭の隅っこの土をいじっていた。
 落ち葉やどんぐりを拾って、紙に貼り付けて部屋で遊んでいたら、同じ部屋の子どもに告げ口されて、なぜか先生に捨てられてしまったことを思い出す。悲しい思い出に手が止まりそうになるが、首をブンブン振って掃き掃除を続ける。

(今は、こんなにいい生活をしている)

 ここに来てもうすぐ一月が経とうとしていた。
 ショコラは館での生活にすっかり慣れてきて、そしてこの日常をとても気に入っていた。おいしい食事をきっちり三食もらい、これといって辛い仕事もなく、みんなで楽しく暮らしている。これ以上の幸せはないと思っていた。

 なんだかまだ地に足がついていないというか、気持ち的にこんなに幸せで大丈夫なのだろうかと強い不安に駆られる時もあるのだが、ラグナルの世話をしているうちに、その感情はいつの間にか消えてしまうのだった。

(今日は何をするのかなぁ)

 空を見上げる。
 雀がちゅんちゅんと、平和そうに飛んでいった。

 ◆

「今日はピクニックをしようと思う」

 ラグナルは仕事机に座って、そう宣言した。
 仕事があれば机の上で溶けかかっているはずなのだが、こうして楽しいことがあると、目をキラリと輝かせて、どこか生き生きとしている。

「ピクニック、ですか?」

 どこに行くのかと尋ねれば、近所でお昼ごはんを食べるということだった。
 要するに、ラグナルはレジャーシートを敷いて、外でごはんを食べたいらしい。

「だから着替えてね」

「え? 着替える?」

 ショコラは目を瞬かせた。
 ピクニックにお供するのは分かるのだが、なぜ着替えなければいけないのだろうか?

「だって、そんな格好、きっと寒いよ」

「そ、そんなことないですよ。孤児院にいるときと比べたら、全然あったかです」

 ショコラはこんなに質のいいお仕着せはないと思っている。
 しかもリリィはタイプの違うワンピースやエプロンをいくつも用意して、ショコラに貸してくれていた。

「こんなにいい服を貸していただいて、ショコラはとても感謝しています」

 そう素直に告げれば、ラグナルは首を横に振った。

「だめ。着替えてもらう」

「そんな……」

 ラグナルは引かないようだった。

(どうしよう……ボロボロの服しか持ってない)

 ラグナルの前で着るのを憚られるような、つぎはぎだらけの汚い服を思い出す。
 ショコラがオロオロしていると、タイミングよく部屋がノックされ、リリィが入ってきた。

「リリィ。ピクニックするから、ショコラを着替えさせて」

 ラグナルがそう告げると、リリィの目がキラリと光った。
 ショコラは眉を寄せて、首をかしげた。

 ◆

「あー、本当に愛らしいですわ、ショコラさん」

「わたくしめも感動しておりますぞ」
 ショコラは頬を真っ赤にして、館の玄関でオロオロと視線の行き場をなくしていた。

「ほ、本当に変じゃないですか?」

「ぜーんぜん!」

「かわいすぎて変質者に狙われないか、わたくしめは心配ですぞ」

「そうですね……防犯ブザーをポチっておきますわ」

 ショコラはそわそわと自分の格好を見下ろした。

(こんな服、着たことない……)

 ショコラが着ているのは、リリィがショコラのために選んだ、お出かけ用の服だった。
 フリルのたっぷりついたブラウスに、鮮やかな赤色のワンピース。
 上から羽織っているミルク色のふわふわとしたカーディガンは、とてもあたたかい。靴は歩きやすい革のブーツだった。
 極め付けはコロンとしたハート形のポシェットで、中にはキャンディしか入っていない。
 完璧にどこかいいところのお嬢様のような格好をさせられ、ショコラは落ち着かなかった。

(絶対似合ってない気がする……)

 さんざんブサイクと罵られ育ってきたショコラには、自分にその服が似合っているのか似合っていないのかの判断がつかなかった。
 自身なさげにカーディガンの腕を握ると、その手をそっと、ラグナルがとった。

「ショコラ」

 恥ずかしがってちらちらとラグナルを見るショコラ。
 ラグナルはにこ、と笑った。

「かわいいね」

「!」

 ショコラは真っ赤になった。
 動揺して、全身の毛がぶわっと逆立つ。

「そ、そ、そうですか?」

(は、恥ずかしい!)

 目をぐるぐるさせているショコラの手を引いて、ラグナルは言った。

「行こう」

 反対の手には、ヤマトが用意してくれたバスケットを持っている。

「ミルとメルが起きないうちに、いってらっしゃいませ」

で、楽しんで来てくださいね」

 なぜか二人きり、を強調するシュロ。

「いってらっしゃいませ」

 二人にそう言われ、ショコラは自分の格好を気にしながらも、ラグナルに続いて扉を出た。

「……いってきます」

 初めてのおしゃれに、ショコラはなんだか落ち着かない気分なのだった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

処理中です...