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第2章 ショコラと愉快な仲間達
ピクニック
しおりを挟む秋は空気が透き通って、空が高く見える。
今日はくっきりとした雲がぷかぷかと浮かび、爽やかな風が吹く秋日和だった。
ショコラはしっぽを振りながら、館の前の掃き掃除をしている。
「もうすぐ冬ですねぇ」
その辺りにある木も、葉っぱが赤や黄色に染まっている。
風に揺れるたび、葉っぱはくるくると踊るように地面に落ちてゆく。あちこちに枯葉が落ちていて、もう冬が近いことを知らせていた。
(孤児院では楽しみがなくて、野にある草や落ち葉や小枝で遊んでいたっけ)
ショコラは遊びに入れてもらえず、いつも一人ぼっちで、庭の隅っこの土をいじっていた。
落ち葉やどんぐりを拾って、紙に貼り付けて部屋で遊んでいたら、同じ部屋の子どもに告げ口されて、なぜか先生に捨てられてしまったことを思い出す。悲しい思い出に手が止まりそうになるが、首をブンブン振って掃き掃除を続ける。
(今は、こんなにいい生活をしている)
ここに来てもうすぐ一月が経とうとしていた。
ショコラは館での生活にすっかり慣れてきて、そしてこの日常をとても気に入っていた。おいしい食事をきっちり三食もらい、これといって辛い仕事もなく、みんなで楽しく暮らしている。これ以上の幸せはないと思っていた。
なんだかまだ地に足がついていないというか、気持ち的にこんなに幸せで大丈夫なのだろうかと強い不安に駆られる時もあるのだが、ラグナルの世話をしているうちに、その感情はいつの間にか消えてしまうのだった。
(今日は何をするのかなぁ)
空を見上げる。
雀がちゅんちゅんと、平和そうに飛んでいった。
◆
「今日はピクニックをしようと思う」
ラグナルは仕事机に座って、そう宣言した。
仕事があれば机の上で溶けかかっているはずなのだが、こうして楽しいことがあると、目をキラリと輝かせて、どこか生き生きとしている。
「ピクニック、ですか?」
どこに行くのかと尋ねれば、近所でお昼ごはんを食べるということだった。
要するに、ラグナルはレジャーシートを敷いて、外でごはんを食べたいらしい。
「だから着替えてね」
「え? 着替える?」
ショコラは目を瞬かせた。
ピクニックにお供するのは分かるのだが、なぜ着替えなければいけないのだろうか?
「だって、そんな格好、きっと寒いよ」
「そ、そんなことないですよ。孤児院にいるときと比べたら、全然あったかです」
ショコラはこんなに質のいいお仕着せはないと思っている。
しかもリリィはタイプの違うワンピースやエプロンをいくつも用意して、ショコラに貸してくれていた。
「こんなにいい服を貸していただいて、ショコラはとても感謝しています」
そう素直に告げれば、ラグナルは首を横に振った。
「だめ。着替えてもらう」
「そんな……」
ラグナルは引かないようだった。
(どうしよう……ボロボロの服しか持ってない)
ラグナルの前で着るのを憚られるような、つぎはぎだらけの汚い服を思い出す。
ショコラがオロオロしていると、タイミングよく部屋がノックされ、リリィが入ってきた。
「リリィ。ピクニックするから、ショコラを着替えさせて」
ラグナルがそう告げると、リリィの目がキラリと光った。
ショコラは眉を寄せて、首をかしげた。
◆
「あー、本当に愛らしいですわ、ショコラさん」
「わたくしめも感動しておりますぞ」
ショコラは頬を真っ赤にして、館の玄関でオロオロと視線の行き場をなくしていた。
「ほ、本当に変じゃないですか?」
「ぜーんぜん!」
「かわいすぎて変質者に狙われないか、わたくしめは心配ですぞ」
「そうですね……防犯ブザーをポチっておきますわ」
ショコラはそわそわと自分の格好を見下ろした。
(こんな服、着たことない……)
ショコラが着ているのは、リリィがショコラのために選んだ、お出かけ用の服だった。
フリルのたっぷりついたブラウスに、鮮やかな赤色のワンピース。
上から羽織っているミルク色のふわふわとしたカーディガンは、とてもあたたかい。靴は歩きやすい革のブーツだった。
極め付けはコロンとしたハート形のポシェットで、中にはキャンディしか入っていない。
完璧にどこかいいところのお嬢様のような格好をさせられ、ショコラは落ち着かなかった。
(絶対似合ってない気がする……)
さんざんブサイクと罵られ育ってきたショコラには、自分にその服が似合っているのか似合っていないのかの判断がつかなかった。
自身なさげにカーディガンの腕を握ると、その手をそっと、ラグナルがとった。
「ショコラ」
恥ずかしがってちらちらとラグナルを見るショコラ。
ラグナルはにこ、と笑った。
「かわいいね」
「!」
ショコラは真っ赤になった。
動揺して、全身の毛がぶわっと逆立つ。
「そ、そ、そうですか?」
(は、恥ずかしい!)
目をぐるぐるさせているショコラの手を引いて、ラグナルは言った。
「行こう」
反対の手には、ヤマトが用意してくれたバスケットを持っている。
「ミルとメルが起きないうちに、いってらっしゃいませ」
「二人きりで、楽しんで来てくださいね」
なぜか二人きり、を強調するシュロ。
「いってらっしゃいませ」
二人にそう言われ、ショコラは自分の格好を気にしながらも、ラグナルに続いて扉を出た。
「……いってきます」
初めてのおしゃれに、ショコラはなんだか落ち着かない気分なのだった。
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