もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第4章 魔王様は脱力系?

目覚め

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 どれほどの時間、眠っていたのかはわからない。
 けれど随分と長い時間眠っていたような気がした。

「……」

 ショコラは見覚えのない、真っ白な部屋で目を覚ました。
 嗅ぎ慣れない薬品の匂い。
 何もかもが白くて、一瞬、ショコラは死んでしまったのかと思った。
 起き上がろうとすれば、体が重くて動かない。
 その上、腕に何か違和感があった。
 ベッドのそばにある、細長い棒はなんだろうか?
 水の入った袋のようなものが吊るされている。
 そこから伸びたチューブが、なぜか自分の腕に貼り付けてあって、その部分がわずかに痛いような気がした。

 ショコラがぼうっとしていると、部屋の扉が開いた。
 真っ白な部屋に入ってきたのは、大荷物を抱えたリリィだった。
 ふうふう言いながら荷物を降ろすと、ショコラのベッドに近づいてくる。
 そして目を丸くした。

「ショコラさんっ! 目がさめたんですか!」

 声がかすれて、ショコラは頷くだけにとどまった。
 リリィはよかったよかったと言って、ショコラのベッドのそばにかがみこんで、その腕をとった。

「本当にもう、びっくりしたんですよ! 吹雪の中、飛び出していくなんて!」

 ごめんなさい、と告げる前に、リリィは弾丸のように話し始めて、ショコラの謝罪を挟む余地はなかった。

「心臓が止まるかと思いましたよ! 本当にもう、こんなに心配をかけて!」

 さんざん話すだけ話した後、リリィの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
 ショコラはびっくりしてしまった。
 いつも気丈で、おおらかで、どっしりとかまえているリリィが、泣くとは思わなかったから。
 けれど気づいたら、ショコラの目からも涙がこぼれ落ちていた。

「本当にもう、絶対、ぜーったい! 吹雪の中に飛び出していくなんてバカな真似はやめてくださいね!」

 リリィは鼻をぐすぐすさせなながら言った。

「私は、あなたがいなくなってしまったら寂しいです。悲しいです。絶対にいなくなってほしくありませんから」

 そう言われて、ショコラは顔もくしゃくしゃにして、泣いてしまった。
 ごめんなさい、ごめんなさいと謝るショコラを、リリィはただ、静かに抱いていたのだった。

 ◆

 ショコラの担当医である山羊のようなヒゲを生やした医者いわく、ショコラは「獣人型肺炎」と呼ばれる病気だったらしい。獣人のみが発症する肺炎で、感染源は山や自然などに住む獣を介した、ウィルス感染だ。
 それに輪をかけて、ショコラが吹雪の中に飛び出していったものだから、余計に悪化してしまったのだという。

 あのときのリリィとラグナルの判断は正しかった。おそらく、エルフの里では獣人の治療はできなかったはずだ。
 ショコラの入院している病院では、最近では獣人の患者もちらほらいて、薬もしっかりと準備されていたため、しばらく入院していれば治るだろうとの見解だった。

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