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第1章 ハッピーライフ
ふわふわホットケーキ(上)
しおりを挟むピコピコ。
「あ! 焼きあがったみたいです!」
朝のキッチン。
ショコラは目を輝かせて、魔力で動く最新式のオーブンを覗き込んでいた。
オーブンを開けてもいないのに、バターの濃厚な香りとバニラの香ばしい香りがあたりに漂っている。
ショコラはくんくんと鼻を動かして、しっぽをふるりと振った。
「ふわぁ」
熱くて甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。
「「いいにおーい!」」
ショコラに絡みつくようにしてしがみついていたミルとメルが、合唱した。
「ほら、お前らどいてろ。熱いから」
ヤマトがミトンをはめて、オーブンを開けた。
熱々の鉄板に乗っていたのは、焼きたてのクッキーだ。
「お、いい感じだな」
先ほどショコラが一生懸命くり抜いたハートや星型、人型のクッキーが、おいしそうな焼き色をつけていた。
それらをザラザラとお皿に移して、次の生地をオーブンにいれる。
「ほら、焼いてる間にホットケーキ作るぞ。料理を教えて欲しいんだろ?」
「っはい!」
ショコラは目を輝かせてヤマトを見た。
ショコラは最近、授業の一環として、ヤマトに料理を教えてもらっている。
とは言っても、そんなに難しいことではなく、まずは簡単なものから。
本日はスイーツ作りだ。
ミルとメルも一緒に、簡単なスイーツをヤマトに習いながら作っていた。
◆
カシャカシャと泡立て器で混ぜた生地を、フライパンに流し込む。
「ほら、ぷつぷつしてきただろ?」
ショコラはフライ返しを持って、こくこくと頷いた。
「そうしたら生地の底にフライ返しをいれて、焼け具合を確かめる」
ショコラは悪戦苦闘しながら、ヤマトの言ったようにそろりとフライ返しを生地の下にいれた。ベタベタしていない。どうやら裏側は焼き上がっているようだ。
「うし。もうひっくり返していいぞ」
「頑張ってショコラ!」
「がんばれー!」
ミルとメルがきゃっきゃと応援する。
「そうそう、ほら、そこでくるっと引っ繰り返す!」
べしゃ、となるのが怖かったショコラだが、ここは思い切ってやらねば! と気合をいれる。
「え、えいっ!」
てやー! とショコラは思い切ってホットケーキをひっくり返した。
「!」
ホットケーキは綺麗にくるりと回転して、綺麗な茶色の焼目を見せてくれた。
我ながら上手にできたとショコラは目を輝かせる。
「で、できましたぁ!」
「わぁーい!」
「わっしょーい!」
ミルとメルがはしゃぐ。
「おお。うまくいったな」
ヤマトもショコラを褒めた。
ショコラは嬉しそうにしっぽを振った。
(こ、これはご主人様に食べてもらわなきゃ……!)
ショコラが初めて作ったホットケーキ。
「ほら、生地はまだまだあるから、焼けよ」
「はい!」
ラグナルだけではなく、館のみんなにも食べて欲しい。
ショコラはそう思って、たくさんのホットケーキを焼いた。
◆
ラグナルの寝室。
ショコラは窓を開けて、ラグナルから毛布をひっぺがした。
「ご主人様、ご主人様!」
「うーん……」
「ご主人様、起きてください!」
「んん……」
「ショコラ、ホットケーキとクッキーをいっぱい焼いたんです!」
我慢しきれなくなって、眠るラグナルにそう伝える。
するとパチリとラグナルの目が開いた。
青い瞳が、興奮してぷるぷる震えるショコラを捉える。
子犬が嬉しすぎて体を小刻みに動かす時のように、ショコラはぷるぷるふるえていた。
「……ほっとけーき?」
「ホットケーキですご主人様」
「ショコラが作った?」
「ショコラが作りました、ご主人様」
ショコラは早くラグナルに食べて欲しくて、何度もこくこくと頷いた。
珍しく、ラグナルはすうっと起き上がった。いつもなら三十分ほどは寝穢く眠りこけているのに。
「……着替える」
「はい!」
ショコラはしっぽを振り回し、散歩を待つ子犬のようにうろちょろと動き回りながら、ラグナルのお世話をした。
◆
「今日は天気がいいので、ピクニックでもしましょうか」
リリィの提案で、本日のティータイム(ラグナルは朝ごはん兼昼ごはん)は外で行われることになった。
本日はぽかぽかとした小春日和。
ラグナル家御一行は、館の近くにある丘へやってきた。
ショコラは最近、外に出るとなると、リリィにやたらとかわいい服を着せられる。遠慮するのだが、リリィは「女の子を可愛く着飾るのが趣味なので」と譲ってくれないのだった。
本日も首の後ろでリボンを結ぶ、かわいいワンピースを着ている。
「はぁ~今日もいい天気ですわねぇ」
ギンガムチェックの大きなシートの上で、リリィが目を細めて空を見上げていた。リリィは簡易テーブルを設置し、その上で肘をついている。
シュロもほのぼのと持ってきた銀器を磨いていた。
ラグナルは早く早くとバスケットを見つめている。
「ミル、おなかへったぁ」
「メルもぉ」
さっそくミルとメルがバスケットをゴソゴソと漁り始めた。
ヤマトはポッドから人数分、温かい紅茶を注いだ。
ショコラも先ほど焼いたパンケーキをお皿にのせて、フォークとナイフをみんなに配った。
バスケットから取り出した綺麗な装飾の瓶には、メープルシロップが入っている。
「今日のホットケーキは、私が焼いたんです」
ショコラは胸を張ってそう言った。
リリィもシュロも、嬉しそうに頷く。
「とっても美味しそうですねぇ」
「ショコラさんは何をしてもすばらしい出来ですな」
小さく拍手をされ、ショコラはぽっと頬を赤くした。
「お、美味しいかは、分からないですけど……」
「ふふ、きっと美味しいですわ」
リリィはそう言って、ホットケーキにメープルシロップをかけた。
バターと、甘いメープルシロップ。
ラグナルもふっくらとしたホットケーキを切り分ける。
「いただきます」
みんなはショコラの焼いたホットケーキを口にした。
「!」
ショコラはドキドキと反応を待った。
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