もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来

ショコラ、観察される②

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 朝ごはんが終わった後は、のんびりタイムだ。
 本日も朝から雨なので、ラグナルは昼まで目を覚ますことはないだろう。
 食器を片付けようとしていたショコラは、ふと気になってロロに尋ねた。

「そういえばロロ様は、どちらの部屋でお休みされましたか?」

 一応ショコラはどの部屋も掃除しているが、さすがに部屋数が多くて、この館にいるメンバーだけではきっちりとは掃除しきれないのだ。
 ベッドに埃がかぶっていないかとか、ジメジメしてカビが生えていないかとか、ショコラは気になって仕方がなかった。
 魔王の弟にそんな居心地の悪い部屋を提供するわけにはいかない。
 ショコラがそわそわしていると、食後のお茶を楽しんでいたロロは、にっこりと笑った。

「ん? 兄さんの部屋だけど」

「え?」

(兄さんの部屋?)

 ショコラは一瞬、意味がわからなくて、首を傾げてしまった。

「ご、ご主人様の部屋ですか?」

「うん、そうだけど」

 さも当たり前のようにそういうロロ。

(ご主人様の部屋……ご主人様の、部屋?)

 なぜラグナルの部屋に? とショコラは首をかしげた。
 確かに、積もる話もあるのだろう。
 けれどラグナルは昨日、眠っていたはずだ。
 今もロロたちが来ていることを知っているのかさえ、怪しい。
 ショコラが知らないだけで、大人になっても兄弟は一緒の部屋で眠るのだろうか?

「ご主人様の部屋って、ベッドは一つしかなかったような……?」

「うん。一つだったね?」

「ソファベッドも作れないですし……」

 床で寝たのかこの男は?
 ショコラがはてなマークをたくさん浮かべていると、隣にいたコレットが、ため息を吐いて言った。

「ショコラさん、お気になさらず。いつものことなので」

「いつものこと……?」

「ええ」

 なんだかあまり深くはつっこんではいけない感じがして、ショコラはそれ以上聞かなかった。ロロはにこにことお茶を飲んでいる。

(なんだか、ちょっと、ロロ様って変わっているような……?)

 そう思いつつも、ショコラはコレットに質問した。

「あの、コレットさんはどちらに?」

「私はリリィさんに準備してもらった部屋で休まさせていただきました」

 部屋の場所を聞くと、比較的よく掃除されて綺麗な部屋だったので、ショコラはほっとした。
 二人とも、一応は綺麗な部屋で眠ったらしい。
 掃除が行き届いていないと叱られるのでは、と一瞬思ったのだが、杞憂だったようだ。
 
「ショコラ様」

「はい?」

 テーブルの上を布巾で拭いていたショコラに、コレットが声をかけた。

「今日はショコラ様とご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ご一緒?」

「一日、一緒に行動させて欲しいのです」

 ショコラはそう言われて、戸惑ってしまった。

「あ、あの、でも、わたしはただ、お掃除をしたり、お仕事をするだけなのですが……」

「ええ。私もお手伝いさせていただきます」

 ショコラはそう言われて、少し困ってしまった。
 高貴な人の付き人に、掃除などさせてもよいのだろうか、と。

「えーと……」

 ショコラが困っていると、席についてこれまたのんびりお茶をすすっていたシュロが、微笑んで言った。

「いいではありませんか、ショコラさん。コレットさんも、王宮ではロロ様の身の回りのお世話をされているので、ショコラさんと同じ立場なのですよ」

 そう言われても、ショコラは自分がコレットと同じ立場なのだとは、到底思えなかった。
 コレットはとても上品で、教養があって、ショコラなんかよりもずっとずっと育ちがいい女性に思えた。
 コレットは召使の見本のような女性だ。

 ショコラもこんな風に、ラグナルを支えられる人になりたいと感じていた。
 いわば、コレットはショコラの憧れだ。
 ショコラは恐る恐る、コレットに聞いてみた。

「い、いいんですか? ショコラのお仕事に付き合ってもらっても」

「ええ。むしろご一緒させてくださいませ」

「そうですか……」

 ショコラは少し緊張しつつも、憧れの人と一緒に仕事できることを、楽しみに思った。

「ああ、ショコラ」

「はい?」

 ロロがショコラに声をかける。

「今日は兄さんの面倒は俺が見るから、他のことをしていていいよ」

「えっ? ご主人様の面倒を?」

「ああ。弟として、当然のことさ」

 そう言って、ロロは立ち上がった。

「部屋には入らなくて大丈夫だから」

「で、でも……」

 これでは、ショコラの仕事がなくなってしまう。
 ショコラが眉を下げていると、ロロは少し笑って言った。

「コレットと一緒に、好きなことをしてればいいよ。俺が君に休みをプレゼントしてあげる」

 そう言い残して、ロロはダイニングを去っていった。
 ショコラはその後ろ姿を、ぽかんと眺めていたのだった。

 ◆
 
 兄弟水入らずで休暇を楽しみたいのかもしれない。
 ショコラはロロの行動にそう理由づけると、お昼からは何か別の仕事をしようと決めた。
 午前中は、カーテンの上に溜まった埃を掃除しようと思っている。
 この間、とんでもなく埃がたまっているのをミルとメルが発見したのだ。
 二人とも、今日はルーチェをからかうためにルーチェの部屋で遊んでいる。

 部屋の掃除をするため、ショコラは倉庫に行って脚立をとってきた。
 大きな脚立をえっさほいさと運んでいると、ぎょっとした顔のコレットに止められてしまった。

「ショコラ様、重いでしょう」

「重いですけど、別に持てないことは……」

「いけません」

 そう言って脚立を取られてしまった。
 返してくれそうもなかったので、仕方なく掃除する予定の部屋に行き、ここにおいてくださいと頼む。
 
「ありがとうございます、コレットさん」

「いいえ」

 ショコラはお礼を言うと、さっそく脚立に足をかける。
 が。

「ショコラ様、危ないです」

 脚立に上る前に、コレットに止められてしまった。

「私がやりますから」

「そ、そうですか?」

「ショコラ様は座っていてください」

 そう言って、コレットはさっさと掃除を済ませてしまう。
 それからショコラが別の掃除をしようとしても、ハタキもモップも、すべてコレットに奪われてしまった。

「ショコラ様、埃は体によくありません」

「ショコラ様、力仕事は私が」

「ショコラ様、私にかしてくださいませ」

 最終的には

「全く、ショコラ様はこのようなことをされなくても良いのです」

 とショコラは叱られてしまった。
 ショコラがポカンとしていると、コレットはハッと我に返ったように、慌てて頭を下げた。

「申し訳ございません。つい癖で……」

「こちらこそ、とろくてごめんなさい……」

 ショコラはあまりにも行動がとろくて、コレットにイライラされているのだと思った。

「いいえ、そういうわけではございません」

 コレットは首を振ると、胸元からメモ帳を取り出して、何やらスラスラと書き始めた。

「ショコラ様はタスクが多すぎる……これでは成長に……埃でいつかアレルギーになるかも……もっと少女らしく、着飾ったり、お出かけする方がよいのでは……」

 ブツブツとつぶやきながらメモ帳に何かを記していくコレットに、ショコラはまた不安になった。

(コレットさん、朝から何を書いてるんだろう……?)

 ショコラに関することをメモしているような気がするのだが、気のせいだろうか……?

 ショコラはそわそわとしっぽをふるわせ、ハッとした顔になった。

(ま、まさか……)

 ショコラの胸に、一物の不安がよぎる。

「これでは不合格……王宮で暮らしていただいた方がよほど……」

 不合格、という言葉を、ふわんふわんの耳がキャッチする。

(まさか、まさか……これって、召使のテストをしてるんじゃ……!)

 ショコラのテスト。
 魔王の側仕えにふさわしいかどうか。
 そもそも、ショコラはもともと、ラグナルの側仕えになれたのが奇跡のようなことだったのだ。
 ロロの側仕えであるコレットは教養高く、美しく、仕草も優雅で、きっと選び抜かれた女性なのだろうとショコラは思った。

 ラグナルはぜなか、ショコラのことを可愛がってくれている。
 どうして人間界にいるショコラを選んだのかはさっぱり分からない。

 けれどやはり、王室の人間から見ると、ショコラは教養もない、ちんちくりんだ。魔王の側仕えなど、不安にもなるだろう。
 どこから知らせが言ったのかはわからないが、きっとロロもラグナルを心配したのだ。そんなちんちくりんの召使をおいて、と。
 
 だからロロは一日、コレットと一緒にいるよう指示したのでは……?

(た、大変だ……!)

 ショコラはだらりと冷や汗をかいた。

(もしかしたらクビになっちゃうかも……!)

 ショコラの壮大な勘違いが始まった。

 
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