73 / 101
第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来
ショコラ、観察される③
しおりを挟む夕方。
結局ラグナルとロロは部屋から出てこなかったので、ショコラはコレットと一緒に館を掃除したり、ヤマトを手伝ったり、ルーチェにごはんを運んだりした。
その間もずっとコレットはべったりで、ショコラはそわそわと緊張して、余計な失敗をたくさんしてしまった。
そのたびにカリカリとコレットは何かをメモするので、ショコラはふるえあがった。
(ど、どうしよう……わたし、このままじゃクビになっちゃうかも……)
コレットをチラチラと見つつも、憂鬱な気持ちで夕食の準備を手伝おうとキッチンへ向かう。
ダイニングルームを通ると、リリィがお茶を飲んでいた。
ショコラを見て、あ、と声を上げる。
「ちょうどよかった! ショコラさん、今日はお客人もいらっしゃいますから、ちょっと早いですけど、先にお風呂に入っちゃってくださいな」
「お風呂ですか?」
時刻はまだ夕方だ。
ショコラはいつもごはんの後にお風呂に入るので、この時間に入るというのは珍しかった。
この館には風呂が二つある。
男女でわけているため、全員が一つの風呂を使うわけではないが……。
(コレットさんもルーチェさんもいるし……)
確かに人数が多い。
ショコラは隣に立っていたコレットを見上げた。
「それならコレットさん、お先にお風呂をどうぞ」
「いいえ、私は後で結構です」
コレットはゆるゆると首を振った。
「お気を使わず」
ショコラが眉を下げると、リリィがいいんですいいんですと言った。
「ほら、コレットさんもこう言っていますし。ルーチェさんは長風呂だから最後にして。入れる人から入っちゃいましょう」
「……わかりました」
ショコラはこれ以上手伝いを続けても、なんだかうまくいかないような気がして頷いた。お風呂に入って頭をしゃっきりさせようと、とぼとぼと入浴の準備をすることにした。
◆
「はぁ」
お風呂。
ざぶ、と一番風呂に入ると、あたたかな湯がショコラを包み込んだ。
風呂のふちに腕をかけ、そこへ顎を乗せる。
ショコラは盛大なため息を吐いた。
「もし本当にテストをしていたら、わたし、どうなっちゃうんだろう」
洗い場では、ミルとメルが泡を使って遊んでいた。
そんな平穏な光景を見ながら、ショコラはぽつりと呟いた。
「コレットさんもロロ様も、なんだか様子がおかしいような気がするし……」
ショコラはラグナルの弟であるロロのことを思い返していた。
なんだか、彼には変な違和感を覚える。
うまく言えないが、こちらを警戒しているような、それでいて怖がられているような、そんな妙な感じがするのだ。
ショコラはロロとコレットに、見えない壁のようなものを感じていた。
(……やっぱりなんだか、じっと見られているような)
二人のショコラを観察するような目。
あれは一体なんなのだろうか。
「きゃー! みてショコラ!」
「もこもこぉ!」
ぼうっとしていると、ミルとメルがショコラの名を呼んだ。
ショコラがハッと前方を見れば、泡まみれになった洗い場が。
異常に泡がもこもこしている。
膨れ上がった泡は天井にもつきそうな勢いだった。
「あ、だ、だめですよ、そんなにもこもこさせたら!」
どうやらショコラのシャンプー、モフリシャスで泡立てらしい。
風呂場は泡パニックになっていた。
「もう」
ショコラは慌ててざぶ、と湯から出る。
「こんなに泡だらけにしちゃ、滑っちゃいます」
「すべー」
「すべすべー」
「て、天井まで……カビが生えそう……」
一体どうやって泡立てればここまでになるのか。
泡でミルもメルもよく見えない。
ショコラがどうしたものかと眉を寄せていると、いきなり浴室のドアがガラリと空いた。
「失礼いたします」
「えっ」
ぎょっとして振り返れば、タオル一枚になったコレットの姿が。
「な、な……」
「入浴のお手伝いに参ったのですが、これは……」
ショコラが驚いているように、コレットも泡だらけに浴室をみて驚いてようだった。
「「きゃっはー!」」
ミルとメルが楽しそうに泡の中で暴れている。
ショコラは恥ずかしくなって、慌てて体を隠した。
こんな貧相なものを高貴な人に見せるわけにはいかない。
「わ、わたしたち、大丈夫ですっ! あの、すぐに上がりますから!」
手をバタバタと振り回してそう言うと、コレットは首を振った。
「お一人で入浴されるのは大変でしょう。それにショコラ様がすべって転びでもしたら大変だと思って」
「い、いいんですいいんですぁッッ!?」
ショコラが慌てて風呂場のドアを閉めようとすると、もこもこの泡に足をとられて、すってーんと尻餅をついてしまった。
「きゃんっ」
ショコラの悲鳴が風呂場に響いた。
◆
「うう……」
ショコラはコレットに、体を洗われていた。
それはそれはきっちりと、丁寧に。
「ショコラ様、綺麗にしましょうね」
コレットは機嫌がよさそうだった。
モフリシャスで耳と尻尾も洗ってもらい、ぬるい湯で流す。
(なんでこんなことに……)
ショコラは涙目で、じっとそれに耐えていたのだった。
結局、足を滑らせて盛大に転んでしまったところを見られた後、一人で入浴されるのは危険ですと言われてしまい、ショコラはコレットに体を洗ってもらうことになった。
何度も断ったけれど、コレットはショコラが足を滑らせて死んでしまうのでは、というくらいに不安に思っていたらしい。全然譲ってくれなかったので、仕方なく身を任せたというわけだ。
(コレットさん、もしかしてわたしのお風呂の入り方もチェックしてる……?)
それであまりにも不安に思ったから、洗い方を教えてくれているのか。
コレットに丸洗いされている最中、ショコラはそんなことを考えてしまった。
風呂から上がると、体を丁寧にふいて、着替える。
(あ、しまった!)
ショコラはパジャマを着てから思った。
何も考えずに、いつものようにもふもふパジャマを持ってきてしまった。
お客様の前であんまりな格好じゃないか、とショコラは思ったが、リリィは激しくメモ帳に何かをメモしていた。
「パジャマは合格、と……」
何を書いているのだろうとそわそわしているうちに、コレットは再びショコラの世話に取り掛かる。
髪を丁寧に梳り、しっぽもブラッシングする。
その献身ぶりに、ショコラは震え上がった。
一体なぜ、このようにされるのか、と。
お風呂の手伝いなんて、リリィに何度かしてもらっただけだ。
恥ずかしいので、ここへ来た次の日には、自分で入るようになった。
(これってもしかして……コレットさんはわたしのとろさに呆れて……? お風呂はこうやって入るのよって、教えてくれてるとか……?)
ありとあらゆる可能性が、ショコラの頭の中で渦を巻く。
それでだんだんとナイーブな気分になってきて、ショコラは涙目になっていた。
(お風呂すら一人でまともに入れない、バカな子だと思われているのかも……)
ショコラは髪をかわしてもらいながら、そんなことを考えたのだった。
◆
夕食の席では、結局、ショコラはずーんと落ち込んだままだった。
ラグナルも今日初めてこの場に姿を見せたが、なんだか疲れきっていて、ぼーっとしていた。反対にロロは来た時よりも元気で、ずっとラグナルの隣で世話を焼いていた。
(わたし……やっぱり……)
その日、夕食を、ショコラは初めて残してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜
黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。
しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった!
不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。
そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。
「お前は、俺の宝だ」
寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。
一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……?
植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる