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第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来
再チャレンジ!
しおりを挟む「おはようございます」
いつものように身支度を整えたショコラは、目をこすりつつダイニングへ向かった。
ダイニングにはすでにコレットとリリィ、そしてシュロがいた。ヤマトはキッチンで朝食の準備をしている。
ロロはまだ、朝食の場にはいなかった。
「おはようご……ってショコラさん?」
ショコラを見たリリィが、ぎょっと目を見開いた。
「はい?」
「そのクマ、どうしたんですか?」
リリィは慌ててショコラのそばに寄った。
ショコラはくしくしと眠そうな目をこすって、ああ、とつぶいた。
「……えっと、昨日の夜、少し考え事をしていて、眠れなくて」
結局、昨日の夜はいろんなことを考えて、あまり眠れなかった。
寝たのか寝ていないのか、自分でも記憶が曖昧でよく分からない。
「あらあらあら、どうしちゃったんですか? 何か不安なことがありますか?」
リリィはちらっとコレットを見た。
「例えば、お客人に気を使っているとか」
「……」
コレットは黙っている。
ショコラはぶんぶんと首を振った。
「ち、違います。全然大したことじゃないんです。あ、雨の音もうるさかったし……」
そう言ってごまかしていると、リリィに額を触られた。
「うーん、少し熱いような……。ショコラさん、眠いならまだ眠っていてもいいんですよ」
「寝不足はお体によくありません」
リリィとコレットにそう言われても、ショコラは引き下がらなかった。
「大丈夫です」
ショコラはぐっと気合をいれる。
(今日こそは合格するために頑張るんだ!)
「コレットさん、見ていてください!」
「……?」
「ショコラは頑張ります!」
ふんす、と息を荒くする。
ショコラはそう言ってぷるぷると首をふるうと、朝食の準備を手伝うため、キッチンへと入っていった。
「……風邪でもひいちゃったのかしら」
ショコラが去った後。
ダイニングでリリィがぽつりと呟くと、コレットがため息を吐いた。
「雨の中、一人で外出させたりするからです」
それから、とコレットは続ける。
「今のところ、私の意見は変わっていません。ショコラ様には、ここよりもふさわしい場があるのでは?」
「……」
リリィとコレットの間に、ぱちぱちと火花が飛んだ。
◆
「今日もお掃除をしちゃいます!」
鼻息を荒くしたショコラが、コレットに向かって言った。
その手にはモップやバケツがしっかりと握られている。まるで、コレットに渡すものか! というように。
「はい、ショコラ様。まずは何から?」
鼻息を荒くするショコラに、コレットが冷静に聞いた。
今日もコレットは掃除を手伝ってくれるらしい。
しかしショコラは知っているのだ。
コレットが、ショコラのテストをしているのだということを(実際は全然違う目的なのだが)。
「今日は玄関ホールです!」
最近、雨の中外に出て行って、そのまま帰ってくるものだから、全体的に泥で汚れているような気がするのだ。今日はそれらを全部磨いてしまおうとショコラは思っている。
「ピカピカのツルツルにしちゃいます!」
「はい」
手伝おうとしたコレットに、ショコラはストップをかける。
「一人で大丈夫です! コレットさんはしっかり見ていてください!」
「……?」
しっぽをぴーんと伸ばして制止をかけるショコラに、コレットは首をかしげる。
その間にもショコラはモップを濡らし、床を磨き始めていた。
「しゅばばばっと終わらせちゃいます!」
ショコラはシュタシュタと機敏に動く。
床を傷つけぬよう、ちょうどいい力加減でモップをかけ、くるりとUターンしては再び汚れを拭っていく。
一生懸命モップをかけていると、コレットに声をかけられた。
「ショコラ様」
「は、はひ」
ショコラはびく、と立ち止まる。
「モップは前後ではなく左右に動かした方が良いですよ」
「左右?」
「ええ。それから、折り返し地点ではモップを八の字に動かします。集めたゴミを包み込むように動かせば、さらに綺麗に磨けますよ」
コレットはそう言って、ショコラの手から自然にモップをとった。
「モップは縦振りよりも横振りの方が動かすのが楽です。縦に振るとモップの構造上、折り返し地点でゴミを残しやすくなるんですよ」
「へえ……」
「疲労感も縦振りより横振りの方が少ないですしね。振り幅は、だいたい120センチから150センチくらいがベストでしょうか」
コレットはスムーズにモップをかけていく。
モップのかけ方一つでも、コレットの動きは優雅で上品だった。そして無駄がない。
ショコラはそれを口を開けて眺める。
「す、すごい……!」
「こういったルーティーンはできるだけ楽にしておく方がいいですからね」
「ありがとうございます、コレットさん! これでまた一つ、賢くなれた気がします!」
「いえいえ」
ぶんぶんとしっぽを振り回して喜んでいたショコラだったが、ハッと気づく。
(ってちがーう!!!)
これではまた、ショコラの無能を証明しただけではないか。
効率のいいやり方まで教えてもらって、ショコラはやっぱり全然使えない子だと思われているような……。
ショコラは慌ててコレットからモップを受け取ると、教えてもらったように床を拭いた。
「わたしもできます!」
どうだ! とチラチラとコレットをみながら床を拭く。
「?」
コレットはショコラの視線を感じたのか、首を傾げていた。
(しっかりやらなきゃ!)
モップをかけながら、ショコラは床の汚れに目を凝らす。
ゴシゴシゴシ……
やはり玄関ホールは汚れていたようで、モップをかけるとピカピカになってゆく。
しばらくして、ふと、ショコラは聞き覚えのある音が聞こえてくることに気づいた。
ピコー
「はっ!!」
この音は!
「コンニチハ、ムンバデス」
廊下からやってきたのは、小さな円板型の、不思議な物体だった。
「アナタノオウチヲオソウジシマス」
「ムンバ先輩さん!」
それは自動掃除魔道具のムンバ先輩だった。
ムンバ先輩は、自動で汚れた部分を掃除してくれる、便利な魔道具だ。
エネルギーが減れば勝手に補給所でチャージし、汚れている箇所を察知して、自分から動き回る。
しかも掃除の腕はかなりいい。
ピコー
ムンバ先輩は、ショコラがまだモップをかけていない部分をなぞるようにして動き始めた。
ブォオーン!
ムンバ先輩は凄まじい勢いでゴミを吸引し、ピカピカに床を磨き上げていく。
一瞬で床が綺麗になり、ショコラがやるよりムンバ先輩に任せた方がよいのではないか、とショコラは思ってしまった。
「……」
「……」
ショコラの目にじわ、と涙が浮かんだ。
(魔道具に負ける召使なんて、召使の意味ない……!)
「これ、もっと導入した方が良さそうですね。そういえばこの間、最新モデルが出たと聞きました」
コレットはぽつりとそう言うと、メモにサラサラと何かを記していった。
「!」
(ショコラよりも、やっぱり魔道具の方が信頼できる……?)
ショコラはだんだんと焦ってきた。
今日はムンバ先輩に負けるわけにはいかないのだ。
(ムンバ先輩さんにはできないこと……)
ショコラはきょろきょろと辺りを見回して、あ、と声を漏らした。
目を留めたのは、大きな壺が乗った、木の台だった。
前からここにあるのは邪魔だと思っていたのだ。
もう少し端っこにある方が良い。
高価そうだから手を出せなかったが、やるなら今のような気がして、ショコラはモップをたてかけると、壺のそばに移動した。
ショコラはよく気づく子だと思われたかったのだ。
「ショコラ様?」
コレットが眉をひそめる。
「何をして──」
「今度はこれを移動させます!」
グイグイと木の台座ごと壺を移動させる。
しかし。
「!」
寝不足だったせいだろうか。
ショコラは突然めまいを感じて、ふらついてしまった。
そしてそれと同時に、壺をのせていた台座が傾く。
「っあ!」
ショコラはとっさに、壺をかばおうと手を伸ばした。
けれど壺は重くて、片手では支えきれなかった。
ガッシャーン!
玄関ホールに、壺が粉々に割れる音が鳴り響く。
「ショコラ様!!!」
コレットの悲鳴が聞こえてきた。
「大丈夫ですか!?」
ショコラの身を案ずる声が聞こえてくる。
けれどショコラはそれどころじゃなかった。
「あ、あ……」
壺を、割ってしまった。
とても高価なものだっただろうに。
床に散らばっているのは、粉々になってしまった壺の破片。
ショコラはぺたりと床に座り込んでしまった。
──最悪だ。
一番やってはいけないときに、やってはいけないことをしてしまった。
コレットに失敗を見せてしまった。
何よりラグナルの館のものを、壊してしまったのだ。
「ショコラ様!」
「ご、ごめんなさ──」
涙目でコレットを見上げる。
しかしコレットは壺よりもショコラの腕を見て、ぎょっとした顔になっていた。
「ショコラ様、お怪我を……!」
「え?」
怪我なんてしていない。
それよりも壺が……と思っていたショコラだったが。
のろのろとコレットに返事をしている最中に腕を見て、言葉は霞のように消えてしまった。
ブラウスの袖の部分から、血が滲んでいる。
それもジワジワと広がっていき、かなりの出血量だった。
「だいじょう……ぶ……」
ショコラはあまりの血の量に、すうっと意識が遠くなってしまった。
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