もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来

昔の夢

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「疲れちゃったんだ」

 その夜は、満点の星空だった。
 ガラスドームに宝石を飾りつけたみたいに、キラキラと星々が輝いている。
 幼いショコラは、夜空を誰かと一緒に見上げていた。
 綺麗な顔の男のひと。
 それはショコラと一緒に、焼き芋を分け合った男だった。

「どうして?」

 そこは野原だった。
 ショコラは男の隣で、首をかしげた。

「どうして疲れちゃったんですか?」

「……どうしてだろう? 僕はね、見られているけど、見られてないんだ。必要とされているけど、必要とされていないんだ。それで心が疲れちゃったのかな」

「見られているのに、見られていない……?」

 その謎かけのような、何かひっかかる言葉に、ショコラは眉を寄せた。
 どこか、わかるような、わからないような……。
 いや、やっぱりわからない。

 この人は、深く悩んでいる。
 遠くを見つめる澄んだ青い瞳に影があるような気がして、ショコラは悲しくなった。
 それは小さなショコラにはきっと解決のできないことで。
 どうやったって、この人の力にはなれない。
 それがひどく、もどかしい。

「……ショコラも、ときどき怖くなります」

 気づくとショコラはそう言っていた。

「ショコラは、誰の相手にもされずに消えていくことが怖いです。……様と違って、ショコラは誰にも見られていません」

 草をぶちぶちと引きちぎる。

「ショコラと……さまは、正反対なのかもしれませんね」

「……そうかな」

 男はショコラを見た。

「僕たちは案外、一緒なのかもしれないよ」

「いっしょ?」

「うん」

 男は目を細めた。

「心で感じていることは、同じなのかもしれない。だから僕は、君と一緒にいると、こんなに心地がよいのかな」

 ショコラはそう言われて、ほんのりと心があたたかくなった。

「……さまは、ショコラといっしょにいると、落ち着きますか?」

「うん。落ち着くし、楽しいよ」

 そう言われて、ショコラはしっぽを振った。

「ショコラも! ショコラも……さまといっしょなの、嬉しいです」

「そう」

 男に耳ごとくしゃりと髪を撫でられる。
 
「ショコラはこの耳としっぽがあるのでみんなに嫌われているます。……さまは、平気ですか? 耳としっぽは、嫌いじゃないですか?」

 そう問えば、男は目を丸くした。
 それから、少し悲しそうに、ショコラの頬を撫でる。
 言葉を選んでいるようだった。

 ショコラはぺたんと耳をさげた。

「耳としっぽがあるショコラは、やっぱりダメ……?」

「……いいや、そんなことはありえないよ」

 男はそう言った。

「いいかい。耳やしっぽがあることも、ツノが生えたり皮膚の色が違ったりすることも、みんな違って、当たり前なんだ」

「あたりまえ?」

「みんな同じだったら怖いよ。顔だって、同じじゃないでしょ?」

 ショコラはこく、と頷いた。

「同じ人なんて、一人としていないんだ。女神様は、世界をそうお創りになったのだから。たったそれだけの話さ」

 男は続ける。

「それに僕は、君が大好きだ。耳もしっぽも、優しいところも、泣き虫なところも。全部」

 じわじわと、ショコラの心があたたかくなっていく。

「ほんとう?」

「ああ。どうか忘れないで。僕が君の全部を好きってこと」

 抱きしめられる。
 ショコラは涙が出そうなくらい、嬉しかった。

 初めて自分の全てを、受け入れられたような気がしたのだ。
 自分の存在を肯定してくれた。
 大好きだと、言ってくれた。

「ショコラも! ……さま、だいすき!」

 ああ、あったかい。
 涙が出そう。

 ぎゅう、と抱きしめられて、ショコラは微笑んだ。

 その夜は、とても星が綺麗で、いつまでもいつまでも、このままでいたいと思えるような夜だった。
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