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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!
海辺の別荘
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がたんごとん、がたんごとん。
独特の音を立てて、列車が揺れる。
ショコラは目を閉じて、その揺れにウトウトと身を任せていた。
◆
今日は、出発の日。
ショコラたちは朝日が昇ると同時に、館を発った。
駅へ向かい、電車に乗る。
本来なら、かなり高額にはなってしまうが、大金を払うことで駅にある移動魔法装置を使うことができる。しかしリリィはショコラに社会勉強をさせたかったのか、魔法列車で移動することを選んだ。
そのため、ラグナルだけ移動魔法で先に指定された別荘へと向かうことになった。
道中、魔素の少ない場所を何時間も進むのは、体によくないと判断したためである。
ラグナルと一緒にいけないことは悲しかったが、ショコラは初めての魔法列車に、興奮しっ放しだった。
動いているところを見たことはあるが、実際に乗ったことはない。
紅色の車体の列車へ足を踏み入れたショコラは、目を輝かせた。
中には二人がけのふわふわした座席が二列分、奥まで続いている。
ショコラはリリィのあとについて、カバンを持って席へ向かった。
中は落ち着いたレトロな意匠で、居心地がよさそうだった。
リリィは前を向いていた椅子を向かい合うようにひっくりがえし、ミルとメルを座らせる。そして自分は通路側に座り、ショコラを窓側に座らせてやった。
隣の列の座席には、ヤマトとシュロ、ルーチェが座った。
「ふんっ、こんなので喜ぶなんて、本当に子供ね」
喜ぶショコラを見て、ルーチェはバカにしたようにつぶやく。
けれど本人もどこかソワソワとして、落ち着きがなかった。
列車が出発する。
山を抜け、田舎を出ると、普通の街並みが見えた。
ショコラたちが住んでいるエルフの里は、大陸のやや南東側に位置している。
南東部は白い壁に赤い屋根の街並みが多く、非常に可愛らしい。
ときどき高い建物もあり、ショコラはしばらく、窓から流れてゆく景色をしっぽを振って眺めていた。
西の大陸はかなり広い。
それぞれの場所によって、風土と文化がかなり違う。
今回向かう大陸の南側は、低い建物が多いと聞く。
一体どんな風景が見られるのだろう、とショコラは期待に胸を高鳴らせた。
新鮮な海産物や甘い果物など、おいしいものもたくさんあるのだという。
車内の楽しみは、景色を見るだけではなかった。
車内販売のワゴンでお菓子を買ったり、他のお客さんを見てみたり。
しばらくしてから、みんなでトランプをしたりして、遊んだりもした。
ミルとメルは小さなリュックをヒックリ返し、座席をおもちゃだらけにしてリリィに怒られていた。
──移動ですら、楽しい。
それがショコラの、初めての旅行の感想なのだった。
けれど朝が早かったせいか、ショコラは途中で、ウトウトとしてしまった。
揺れが心地よい。
人の話し声も、子守唄のように聞こえて来る。
ルーチェも眠いのか、アイマスクをつけて眠っていた。
シュロとヤマトは二人で何か観光案内の雑誌を見ながら話し込んでいる。
(ご主人様、大丈夫かな……)
そんなことを考えているうちに、ショコラはいつの間に眠り込んでいたのだった。
◆
目を閉じてウトウトしていたショコラは、誰かに肩を揺さぶられて目が覚めた。
「ほら、ショコラさん、もう海が見えますよ」
「……?」
そう言われて、目をくしくしとこする。
それから窓の外に視線を移動させたショコラは、驚きに目を見開いた。
「うわぁ……!」
青。
青。
青。
窓の外に広がるのは、一面の海。
果てが見えないくらいまで広がる広大なその水面は、ショコラの眠気を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
列車の窓いっぱいに、海がうつる。
白い砂浜も、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
──ご主人様の瞳の色みたい。
海を見たとき、最初にショコラが抱いた感想がこれだった。
窓の外に広がるのは、一面の青。
果てが見えないほど、大きなもの。
こんなに巨大なものをショコラは生まれて初めて見た。
「これが、海……」
ショコラは窓に張り付くようにして、キラキラと輝く水面をじいっと見つめていた。
想像していたよりも、もっと青くて、大きい。そして海を見ていると少し、背中がぞわっとするような感覚になる。あまりにも大きくて、果てが見えないからだろう。
言葉では言い尽くせないその光景に、ショコラは声を失ってしまったのだった。
『ご乗車ありがとうございます。次はアウラ浜駅に停車いたします。アウラ浜駅を出ますと──』
列車がスピードを緩める。
そろそろ到着の時間だ。
◆
「すごい……」
目の前の美しい光景に、ショコラはたったそれだけしか、言葉が出なかった。
潮風に、ショコラの長い髪と、真っ白なワンピースがなびく。
かぶっていた麦わら帽子が飛んでいかないように、ショコラは頭を押さえた。
魔法列車を降りてすぐ、ショコラたちは改札をくぐった。
白いタイルと南国特有の背の高い木々が並ぶその駅は、人で賑わっていた。
なんだか明るい音楽が流れていて、自然と気分が浮き立つ。
気分を高揚させるのは音楽だけでなく、むしろ、目の前に広がる青い海だった。駅は、海のすぐそばにあったのだ。
「はぁ……」
旅行鞄を持ったショコラは、目の前に広がる景色を見て、ただただ感嘆の息を漏らした。
まだ勉強の足りないショコラでは、この光景を言葉で表すことができなかった。
この自然の前には自分はちっぽけな存在なのだということを思い知らされる。
鳥肌が立つほど大きくて、広くて、深くて。
太陽はさんさんと輝き、雲はくっきりと白く、海は青い宝石のように輝いている。
どうして海はこんなにも青いのか。
空の青さをうつすから、なんていうけれど、きっとそれは違うような気がする。
だって海は、空よりも青い。
透明で、明るくて、それなのに深い青色。
ショコラは初めて体験する潮風の中、じいっと海を眺め続けていた。
髪がなびく。
ザァア、と波の音がする。
これはきっと、砂を削る音。
風は思っていたより強く、海辺特有の、潮の香りがした。
「さ、ここからバスです。みんな、行きますよ」
はしゃぎ回るミルとメルを小脇に抱えて、リリィがバス停に向かって歩き出す。
ショコラはなんだか海から目を離せなくて、ヤマトに小突かれてようやく我に返ったのだった。
◆
「あれです、あれ!」
バスを降りてしばらく砂浜沿いを歩いていると、リリィが嬉しそうに、一件の可愛らしい邸を指差した。
「あそこに今日から泊まるんですよ!」
クリーム色の壁の、小綺麗な海の家。というか、ロロの別荘。
「こ、ここに泊まれるんですか?」
こんなに海に近く、また人もいない場所で、ショコラはびっくりしてしまった。
とても海が綺麗な場所なのに、観光客などはいない。
この辺り一帯、ロロが土地を買い取ったので当たり前なのだが、ショコラにはそれがにわかには信じられないのだった。
「ええ。ロロ様がラグナル様にプレゼントした別荘ですから」
ショコラは目を輝かせた。
白い壁に、赤い屋根の、可愛い別荘。海に面している大きなガラス窓は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。海に向かって張り出したデッキにはパラソルとテーブル、椅子があり、そこでごはんを食べたりするのだろう。
毎食だってそこで食べたい、とショコラは思った。
この素晴らしい景色を、ずっと見ていたから。
「あれ?」
ウッドデッキにはビーチチェアがあり、そこにサングラスをかけて、寝転がっている少年がいた。
そばのテーブルには、トロピカルジュースが置いてある。
「やあ」
どうやら、一足先に到着したラグナルがくつろいでいたようだった。
ラグナルはこちらを見ると、にこっと笑って手を振った。
「ご主人様っ!」
ショコラは嬉しくなって駆け出した。
先ほどまで感動でぼーっとしていたけれど、ラグナルを見た瞬間、頭が覚醒した。
旅行鞄を持ってよたよたとショコラは走る。
ミルとメルもきゃっきゃと笑いながら、その後を追った。
「いらっしゃい。旅はどうだった?」
ラグナルはショコラたちを出迎えた。
その姿は、もう何年もここに住んでいるかのように、妙に馴染んでいる。
まあ、主にアロハシャツとサングラスとトロピカルジュースのせいなのだろうが。
「魔法列車、とっても楽しかったです! ご主人様、ワゴンにお菓子がたくさん乗ってるんです! それで、それで……」
ラグナルに会えたのが嬉しかったのか、ショコラはおしゃべりが止まらなくなってしまった。
「うん。それはよかった」
ラグナルはショコラの話を聞いて、嬉しそうに笑った。
ご主人様と一緒にこの海を泳ごう。
魚を見よう。
貝殻というものを拾おう。
そう考えるとワクワクしてくる。
「ショコラさん、疲れたでしょう。中で休憩しましょうよ」
汗をかいたリリィが、ショコラにそう声をかけた。
みんなは一足先に別荘の中へ入っていたようだ。
「行こっか。中も居心地いいよ」
ラグナルはそう言ってショコラの荷物を手に持つ。
「あ、ご主人様!」
「おいで」
歩き出すラグナルに、ショコラもしっぽを振ってついていった。
◆
ポーチを上がり、玄関へ入る。
家の中も壁は白くて、非常に明るく清潔感があった。
「すごーい!」
ミルとメルがきゃっきゃと中を走り回る。
玄関を上がり廊下をまっすぐ進むと、広いリンビングがあった。そこには居心地のよさそうなソファやテーブル、テレビなどの家具が置かれている。
そんなリビングを眺められるようにキッチンがひっついていて、ヤマトがすでに冷蔵庫の中を覗いていた。中には新鮮な食材が用意されていたらしく、ヤマトは感心していた。
何よりこのリビング兼キッチンのいいところは、大きなガラス窓があることだろう。そこから海が一望できるし、明るい太陽の光が入ってくる。さらに窓を開ければ、先ほどラグナルがいたウッドデッキもある。
「荷物は上の部屋においてくださいね」
部屋をきょろきょろ見回していると、リリィにそう声をかけられた。
「あたし、一番おっきな部屋がいい!」
ルーチェがルンルンで二階へとあがる。
ショコラも鞄を持って、そのあとに続いた。
「えーっと……」
ルーチェは部屋を覗いて、一番良さそうな部屋をすぐに決めてしまった。
ショコラはどの部屋もきれいだったので、ルーチェの隣の部屋を使うことにした。
中に入ると、きちんと整えられたベッドに、小さなテーブルと椅子があった。テーブルにはウェルカムの文字が書かれたメモがある。まるでホテルの中のようだった。
ショコラは閉まっていたカーテンを開ける。
「うわぁ!」
窓を開けると小さなバルコニーがあり、そこから海辺を一望できた。
遠くの砂浜まで見える、素晴らしい眺めだった。
「すごい……」
ショコラは目を閉じて、耳をすませる。
ザアア、ザアアと押し寄せては引いていく、不思議な音。
夜はこの音を聞いて寝られるのかと思うと、すごく素敵だと思った。
「ショコラさん!」
下からリリィに呼ばれて、ショコラは慌てて返事をする。
「まずはお昼にしましょう。それから海で遊びましょう!」
「はい!」
ショコラは跳ねるようにして、一階へと降りた。
独特の音を立てて、列車が揺れる。
ショコラは目を閉じて、その揺れにウトウトと身を任せていた。
◆
今日は、出発の日。
ショコラたちは朝日が昇ると同時に、館を発った。
駅へ向かい、電車に乗る。
本来なら、かなり高額にはなってしまうが、大金を払うことで駅にある移動魔法装置を使うことができる。しかしリリィはショコラに社会勉強をさせたかったのか、魔法列車で移動することを選んだ。
そのため、ラグナルだけ移動魔法で先に指定された別荘へと向かうことになった。
道中、魔素の少ない場所を何時間も進むのは、体によくないと判断したためである。
ラグナルと一緒にいけないことは悲しかったが、ショコラは初めての魔法列車に、興奮しっ放しだった。
動いているところを見たことはあるが、実際に乗ったことはない。
紅色の車体の列車へ足を踏み入れたショコラは、目を輝かせた。
中には二人がけのふわふわした座席が二列分、奥まで続いている。
ショコラはリリィのあとについて、カバンを持って席へ向かった。
中は落ち着いたレトロな意匠で、居心地がよさそうだった。
リリィは前を向いていた椅子を向かい合うようにひっくりがえし、ミルとメルを座らせる。そして自分は通路側に座り、ショコラを窓側に座らせてやった。
隣の列の座席には、ヤマトとシュロ、ルーチェが座った。
「ふんっ、こんなので喜ぶなんて、本当に子供ね」
喜ぶショコラを見て、ルーチェはバカにしたようにつぶやく。
けれど本人もどこかソワソワとして、落ち着きがなかった。
列車が出発する。
山を抜け、田舎を出ると、普通の街並みが見えた。
ショコラたちが住んでいるエルフの里は、大陸のやや南東側に位置している。
南東部は白い壁に赤い屋根の街並みが多く、非常に可愛らしい。
ときどき高い建物もあり、ショコラはしばらく、窓から流れてゆく景色をしっぽを振って眺めていた。
西の大陸はかなり広い。
それぞれの場所によって、風土と文化がかなり違う。
今回向かう大陸の南側は、低い建物が多いと聞く。
一体どんな風景が見られるのだろう、とショコラは期待に胸を高鳴らせた。
新鮮な海産物や甘い果物など、おいしいものもたくさんあるのだという。
車内の楽しみは、景色を見るだけではなかった。
車内販売のワゴンでお菓子を買ったり、他のお客さんを見てみたり。
しばらくしてから、みんなでトランプをしたりして、遊んだりもした。
ミルとメルは小さなリュックをヒックリ返し、座席をおもちゃだらけにしてリリィに怒られていた。
──移動ですら、楽しい。
それがショコラの、初めての旅行の感想なのだった。
けれど朝が早かったせいか、ショコラは途中で、ウトウトとしてしまった。
揺れが心地よい。
人の話し声も、子守唄のように聞こえて来る。
ルーチェも眠いのか、アイマスクをつけて眠っていた。
シュロとヤマトは二人で何か観光案内の雑誌を見ながら話し込んでいる。
(ご主人様、大丈夫かな……)
そんなことを考えているうちに、ショコラはいつの間に眠り込んでいたのだった。
◆
目を閉じてウトウトしていたショコラは、誰かに肩を揺さぶられて目が覚めた。
「ほら、ショコラさん、もう海が見えますよ」
「……?」
そう言われて、目をくしくしとこする。
それから窓の外に視線を移動させたショコラは、驚きに目を見開いた。
「うわぁ……!」
青。
青。
青。
窓の外に広がるのは、一面の海。
果てが見えないくらいまで広がる広大なその水面は、ショコラの眠気を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
列車の窓いっぱいに、海がうつる。
白い砂浜も、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
──ご主人様の瞳の色みたい。
海を見たとき、最初にショコラが抱いた感想がこれだった。
窓の外に広がるのは、一面の青。
果てが見えないほど、大きなもの。
こんなに巨大なものをショコラは生まれて初めて見た。
「これが、海……」
ショコラは窓に張り付くようにして、キラキラと輝く水面をじいっと見つめていた。
想像していたよりも、もっと青くて、大きい。そして海を見ていると少し、背中がぞわっとするような感覚になる。あまりにも大きくて、果てが見えないからだろう。
言葉では言い尽くせないその光景に、ショコラは声を失ってしまったのだった。
『ご乗車ありがとうございます。次はアウラ浜駅に停車いたします。アウラ浜駅を出ますと──』
列車がスピードを緩める。
そろそろ到着の時間だ。
◆
「すごい……」
目の前の美しい光景に、ショコラはたったそれだけしか、言葉が出なかった。
潮風に、ショコラの長い髪と、真っ白なワンピースがなびく。
かぶっていた麦わら帽子が飛んでいかないように、ショコラは頭を押さえた。
魔法列車を降りてすぐ、ショコラたちは改札をくぐった。
白いタイルと南国特有の背の高い木々が並ぶその駅は、人で賑わっていた。
なんだか明るい音楽が流れていて、自然と気分が浮き立つ。
気分を高揚させるのは音楽だけでなく、むしろ、目の前に広がる青い海だった。駅は、海のすぐそばにあったのだ。
「はぁ……」
旅行鞄を持ったショコラは、目の前に広がる景色を見て、ただただ感嘆の息を漏らした。
まだ勉強の足りないショコラでは、この光景を言葉で表すことができなかった。
この自然の前には自分はちっぽけな存在なのだということを思い知らされる。
鳥肌が立つほど大きくて、広くて、深くて。
太陽はさんさんと輝き、雲はくっきりと白く、海は青い宝石のように輝いている。
どうして海はこんなにも青いのか。
空の青さをうつすから、なんていうけれど、きっとそれは違うような気がする。
だって海は、空よりも青い。
透明で、明るくて、それなのに深い青色。
ショコラは初めて体験する潮風の中、じいっと海を眺め続けていた。
髪がなびく。
ザァア、と波の音がする。
これはきっと、砂を削る音。
風は思っていたより強く、海辺特有の、潮の香りがした。
「さ、ここからバスです。みんな、行きますよ」
はしゃぎ回るミルとメルを小脇に抱えて、リリィがバス停に向かって歩き出す。
ショコラはなんだか海から目を離せなくて、ヤマトに小突かれてようやく我に返ったのだった。
◆
「あれです、あれ!」
バスを降りてしばらく砂浜沿いを歩いていると、リリィが嬉しそうに、一件の可愛らしい邸を指差した。
「あそこに今日から泊まるんですよ!」
クリーム色の壁の、小綺麗な海の家。というか、ロロの別荘。
「こ、ここに泊まれるんですか?」
こんなに海に近く、また人もいない場所で、ショコラはびっくりしてしまった。
とても海が綺麗な場所なのに、観光客などはいない。
この辺り一帯、ロロが土地を買い取ったので当たり前なのだが、ショコラにはそれがにわかには信じられないのだった。
「ええ。ロロ様がラグナル様にプレゼントした別荘ですから」
ショコラは目を輝かせた。
白い壁に、赤い屋根の、可愛い別荘。海に面している大きなガラス窓は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。海に向かって張り出したデッキにはパラソルとテーブル、椅子があり、そこでごはんを食べたりするのだろう。
毎食だってそこで食べたい、とショコラは思った。
この素晴らしい景色を、ずっと見ていたから。
「あれ?」
ウッドデッキにはビーチチェアがあり、そこにサングラスをかけて、寝転がっている少年がいた。
そばのテーブルには、トロピカルジュースが置いてある。
「やあ」
どうやら、一足先に到着したラグナルがくつろいでいたようだった。
ラグナルはこちらを見ると、にこっと笑って手を振った。
「ご主人様っ!」
ショコラは嬉しくなって駆け出した。
先ほどまで感動でぼーっとしていたけれど、ラグナルを見た瞬間、頭が覚醒した。
旅行鞄を持ってよたよたとショコラは走る。
ミルとメルもきゃっきゃと笑いながら、その後を追った。
「いらっしゃい。旅はどうだった?」
ラグナルはショコラたちを出迎えた。
その姿は、もう何年もここに住んでいるかのように、妙に馴染んでいる。
まあ、主にアロハシャツとサングラスとトロピカルジュースのせいなのだろうが。
「魔法列車、とっても楽しかったです! ご主人様、ワゴンにお菓子がたくさん乗ってるんです! それで、それで……」
ラグナルに会えたのが嬉しかったのか、ショコラはおしゃべりが止まらなくなってしまった。
「うん。それはよかった」
ラグナルはショコラの話を聞いて、嬉しそうに笑った。
ご主人様と一緒にこの海を泳ごう。
魚を見よう。
貝殻というものを拾おう。
そう考えるとワクワクしてくる。
「ショコラさん、疲れたでしょう。中で休憩しましょうよ」
汗をかいたリリィが、ショコラにそう声をかけた。
みんなは一足先に別荘の中へ入っていたようだ。
「行こっか。中も居心地いいよ」
ラグナルはそう言ってショコラの荷物を手に持つ。
「あ、ご主人様!」
「おいで」
歩き出すラグナルに、ショコラもしっぽを振ってついていった。
◆
ポーチを上がり、玄関へ入る。
家の中も壁は白くて、非常に明るく清潔感があった。
「すごーい!」
ミルとメルがきゃっきゃと中を走り回る。
玄関を上がり廊下をまっすぐ進むと、広いリンビングがあった。そこには居心地のよさそうなソファやテーブル、テレビなどの家具が置かれている。
そんなリビングを眺められるようにキッチンがひっついていて、ヤマトがすでに冷蔵庫の中を覗いていた。中には新鮮な食材が用意されていたらしく、ヤマトは感心していた。
何よりこのリビング兼キッチンのいいところは、大きなガラス窓があることだろう。そこから海が一望できるし、明るい太陽の光が入ってくる。さらに窓を開ければ、先ほどラグナルがいたウッドデッキもある。
「荷物は上の部屋においてくださいね」
部屋をきょろきょろ見回していると、リリィにそう声をかけられた。
「あたし、一番おっきな部屋がいい!」
ルーチェがルンルンで二階へとあがる。
ショコラも鞄を持って、そのあとに続いた。
「えーっと……」
ルーチェは部屋を覗いて、一番良さそうな部屋をすぐに決めてしまった。
ショコラはどの部屋もきれいだったので、ルーチェの隣の部屋を使うことにした。
中に入ると、きちんと整えられたベッドに、小さなテーブルと椅子があった。テーブルにはウェルカムの文字が書かれたメモがある。まるでホテルの中のようだった。
ショコラは閉まっていたカーテンを開ける。
「うわぁ!」
窓を開けると小さなバルコニーがあり、そこから海辺を一望できた。
遠くの砂浜まで見える、素晴らしい眺めだった。
「すごい……」
ショコラは目を閉じて、耳をすませる。
ザアア、ザアアと押し寄せては引いていく、不思議な音。
夜はこの音を聞いて寝られるのかと思うと、すごく素敵だと思った。
「ショコラさん!」
下からリリィに呼ばれて、ショコラは慌てて返事をする。
「まずはお昼にしましょう。それから海で遊びましょう!」
「はい!」
ショコラは跳ねるようにして、一階へと降りた。
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