85 / 101
第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!
まりん!
しおりを挟む「はぁ~! ショコラさん、最高に可愛いですよ!」
「……ほ、本当ですか?」
「ほんとほんと!」
ショコラはもじもじとしながら、上目遣いでリリィを見上げた。
簡単な昼食を食べ終わったあと。
ショコラたちは海で泳ぐため、水着に着替えていた。
露出の多いものだったらどうしようと身構えていたショコラだったが、リリィが購入していた水着は、普通の服とあまり変わらないようなものだった。
「こんなに可愛い水着、ショコラが着てもいいんですね……」
ショコラはそう言って、丈のかなり短いワンピースの裾をつまんだ。
ショコラが身にまとっているのは、肩が大きく空いたワンピースタイプの水着だ。
ワンピースの下には首の後ろで紐を結ぶタイプのビキニを着ている。
首の後ろの紐にはキラキラとした飾りが付いていて、ショコラの白い背中で輝いていた。
長い髪は頭の高い位置でポニーテールにされ、大きなリボンで結ばれている。
いつもより露出の多い格好に戸惑うショコラだったが、リリィもラッシュガードを羽織ってはいるものの短めのセパレート水着を着ていたし、ミルとメルも色違いの、ワンピースタイプの水着を着ていた。
水着というものは、もともと露出の多いものなのだろう。
人間界では見慣れぬ格好にショコラは最初戸惑っていた。けれど部屋のドアをバーン! と開けて入ってきたルーチェを見て、ショコラなど露出のうちにもはいらないと思うようになる。
「さあ愚民ども! あたしの背中に日焼け止めを塗る栄誉を与えてあげるわよ!」
「あ、そういうのでいいんで」
「ちょちょちょ、閉めるんじゃないわよー!」
部屋に勢い良く入ってきたルーチェだったが、リリィに締め出された。
ルーチェは必死の形相で部屋の中に入ってくる。
「る、ルーチェさん……」
ショコラはルーチェの大胆な水着に驚いた。
「ふふん、どーお? このセクシービキニでラグもイチコロよ!」
腰に手を当てて、ルーチェはモデルのポーズをとる。
「すごい……」
ショコラはルーチェのプロポーションのよさに、思わずごくりと唾を飲んだ。
ルーチェが着ているのは、紐で止めるタイプの大胆な赤いビキニだった。
ほっそりとした体つきの割に胸は大きく、思わずショコラでさえその体に視線を吸い寄せられてしまう。
いつものようにツインテールにしているものの、サングラスをかけて、かなり大人っぽい感じに仕上がっていた。
「る、ルーチェさん、きれいです!」
ショコラが興奮してそう言うと、ルーチェは気分をよくしたのか、ふふと笑った。
「そうでしょそうでしょ? この夏はルーチェ様が主役なんだから!」
ショコラは小さく拍手する。
「髪もサラサラだし、む、胸も大きいし……」
ショコラはちらちらとルーチェの胸を見た。
なんでこんなに細いのに、大きいんだろ……。
ショコラは細くてぺったんこなので、羨ましかった。
「ふぅん?」
ショコラがたくさん褒めるので、ルーチェはいい気分になって、口元に微笑みを浮かべた。
「ねえ、胸がおっきくなる方法、教えてあげましょうか?」
「え?」
ショコラはちょっと気になって、思わずルーチェを見る。
「耳、貸しなさいよ」
「?」
ちょいちょい、と手招きされて、ショコラはルーチェのそばによる。
すう、とルーチェは息を吸い込んだ。
「ゔぁぁあーーーーか! 遺伝よ、い・で・ん!」
「っ!」
耳元で大声を出され、ショコラはびっくりして飛び上がってしまった。
ルーチェはケラケラと笑っている。
「……」
「あっはっは、落ち込んでやんのいでぇ!」
ゲラゲラ笑っていたルーチェはばしん! とリリィに頭を叩かれた。
「嘘を言うんじゃありません!」
「う、嘘じゃな……」
「まったくもう、目を離せばすぐこれなんだから」
リリィはぷんすかと怒って、ショコラに言った。
「ショコラさんはまだ成長途中ですから。これからですよ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。当たり前ですよ」
リリィがそう言うと、ショコラはホッと胸をなでおろした。
ぺったんこのままだと思ったが、どうやらまだ希望はあるようだ。
「その代わり、栄養のあるものをたくさん食べないと」
リリィがそう言うと、ショコラはこくこくと頷いた。
「わ、わたし、頑張って栄養のあるものをたくさん食べます!」
「そうそう、それでいいのよ」
リリィも頷く。
「ねえちょっと、あたしに日焼け止め塗りなさいよ!」
頭を押さえてそのやりとりを見ていたルーチェが、二人に向かって言った。
「自分でやりなさい!」
「ぐへぇ」
リリィは再びルーチェにチョップを落とし、ルーチェは変な声を出したのだった。
◆
別荘の外へ出ると、くらりとしそうなほどに眩しい太陽がショコラたちを照らした。
日焼け止めも塗って、準備は万端。
先に浜辺に出ていた男性陣と合流する。
キラキラしたゴムのビーチサンダルを履いて、ショコラは砂浜を歩く。
あったかくて、ふわふわとした歩き心地の砂浜にショコラは目を丸くする。こんなに砂がサラサラなんて、不思議だ。
夢中になって歩いていると、目の前に青いサンダル。
顔を上げれば、ラグナルだった。
「あ……」
ショコラはなんだか恥ずかしくて、ぽっと頬を赤くした。
なんだか水着が恥ずかしくて、ラグナルの目を見ることができなかった。
「お、お待たせしました」
頬を真っ赤にして、ちらちらとラグナルを見る。
ラグナルはショコラをじーっと見つめていた。
ショコラの体温が一気に上がる。
心臓が熱くなって、ドキドキし始めた。
(う……まただ……)
この気持ちはなんなのだろう?
「ショコラ」
「……はい?」
何を言われるのかと、少々緊張する。
けれどラグナルは、いつものゆるゆるな態度で、にこ、と笑った。
「かわいいね。すごく似合ってる」
「あ、あ、ありがとうございます」
声がひっくり返ってしまう。
「世界で一番かわいい」
「ええ!? 世界で一番ですか!?」
予想以上に褒められて、ショコラは仰天してしまった。
「ねえ、海の水、触ってみなよ」
「! はい!」
そう言われて、ショコラはパアッと顔を輝かせた。
ザアア、ザアアと波が打ち寄せては、引いて行く。
ショコラはそろりと波打ち際に立って、水に触れてみた。
「うわぁ」
海の泡がショコラの手に触れる。
優しい冷たさの海水に、ショコラは目を細めた。
すると少し大きめの波が来て、ショコラの足元を一気に水浸しにした。
「きゃっ」
ショコラはびっくりして、後ろに下がろうと立ち上がる。
けれど砂に足をとられて、尻もちをついてしまった。
そんなショコラを波は濡らしていく。
「あ、濡れちゃった……」
びっくりして耳をひょこひょこさせているショコラ。
そんなショコラにラグナルが手を伸ばし、笑った。
「水着なんだから、いくら濡れてもいいんだよ」
ショコラはそう言われ、思わず「そっか」と呟いてしまった。
それからなんだかおかしくなって、笑う。
ラグナルの手をとると、立ち上がって、二人で海の中を歩いた。
手をつないで、二人で海に立つ。
目を閉じると、風と波の音が聞こえた。
「ご主人様」
「ん」
「わたし、初めて知りました」
ゆっくりと目を開けると、果てしなく続く海が見える。
遠くに見える海の果てのようなものを、地平線というのだろう。
「世界はこんなに広かったんですね」
知らなかった。
海というものが、こんなに大きくて、青いことを。
波は永遠に止まらなくて、風は海の香りがするということを。
ショコラは自分がどれほどちっぽけな存在なのかということを知った。
それと同時に、ショコラの中の小さな世界が、ぐんと広がった。
小さな箱の中に閉じ込められたみたいに、息苦しい過去。
あのときの自分に、この景色を見せたいと思った。
世界は思っている以上に広い。
そこだけが、自分の居場所なわけじゃない。
息苦しくなったときは、目をつぶって、この波の音を思い出そうと思う。
どこまでも続くこの青い海と一緒に。
「……僕も、君よりずっと長く生きてるけど、知らないことがいっぱいあるよ」
「そうなんですか?」
ラグナルは小さく頷いた。
「うん。僕も君に、いろんなことを教えて貰った」
「わたしが……?」
ショコラが首をかしげると、ラグナルは笑った。
「君も、僕も、きっとまだ、世界のほんの一部しか知らないんだ」
ショコラよりもずっと長く生きているラグナルがそういうのだ。
きっとそうなのだろう。
「でもね、ショコラ」
ラグナルは言う。
「君が思っているよりも、世界はほんのちょっと、優しいのかもしれないよ」
そう言ってショコラを愛おしそうに見つめるラグナルに、ショコラの胸がまたとくんと音をたてた。
胸がむずむずする。
ショコラはなんとなく、この夏の海で、この気持ちの正体を知りそうな気がしていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~
夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力!
絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。
最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り!
追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!
カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました
六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。
「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」
彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。
アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。
時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。
すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。
そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。
その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。
誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。
「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」
「…………え?」
予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。
なぜ、落ちぶれた私を?
そもそも、お会いしたこともないはずでは……?
戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。
冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。
彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。
美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。
そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。
しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……?
これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる