もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!

まりん!

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「はぁ~! ショコラさん、最高に可愛いですよ!」

「……ほ、本当ですか?」

「ほんとほんと!」

 ショコラはもじもじとしながら、上目遣いでリリィを見上げた。
 簡単な昼食を食べ終わったあと。
 ショコラたちは海で泳ぐため、水着に着替えていた。
 露出の多いものだったらどうしようと身構えていたショコラだったが、リリィが購入していた水着は、普通の服とあまり変わらないようなものだった。

「こんなに可愛い水着、ショコラが着てもいいんですね……」

 ショコラはそう言って、丈のかなり短いワンピースの裾をつまんだ。
 ショコラが身にまとっているのは、肩が大きく空いたワンピースタイプの水着だ。
 ワンピースの下には首の後ろで紐を結ぶタイプのビキニを着ている。
 首の後ろの紐にはキラキラとした飾りが付いていて、ショコラの白い背中で輝いていた。
  長い髪は頭の高い位置でポニーテールにされ、大きなリボンで結ばれている。

 いつもより露出の多い格好に戸惑うショコラだったが、リリィもラッシュガードを羽織ってはいるものの短めのセパレート水着を着ていたし、ミルとメルも色違いの、ワンピースタイプの水着を着ていた。
 水着というものは、もともと露出の多いものなのだろう。
 人間界では見慣れぬ格好にショコラは最初戸惑っていた。けれど部屋のドアをバーン! と開けて入ってきたルーチェを見て、ショコラなど露出のうちにもはいらないと思うようになる。

「さあ愚民ども! あたしの背中に日焼け止めを塗る栄誉を与えてあげるわよ!」

「あ、そういうのでいいんで」

「ちょちょちょ、閉めるんじゃないわよー!」

 部屋に勢い良く入ってきたルーチェだったが、リリィに締め出された。
 ルーチェは必死の形相で部屋の中に入ってくる。

「る、ルーチェさん……」

 ショコラはルーチェの大胆な水着に驚いた。

「ふふん、どーお? このセクシービキニでラグもイチコロよ!」

 腰に手を当てて、ルーチェはモデルのポーズをとる。

「すごい……」

 ショコラはルーチェのプロポーションのよさに、思わずごくりと唾を飲んだ。
 ルーチェが着ているのは、紐で止めるタイプの大胆な赤いビキニだった。
 ほっそりとした体つきの割に胸は大きく、思わずショコラでさえその体に視線を吸い寄せられてしまう。
 いつものようにツインテールにしているものの、サングラスをかけて、かなり大人っぽい感じに仕上がっていた。

「る、ルーチェさん、きれいです!」

 ショコラが興奮してそう言うと、ルーチェは気分をよくしたのか、ふふと笑った。

「そうでしょそうでしょ? この夏はルーチェ様が主役なんだから!」

 ショコラは小さく拍手する。

「髪もサラサラだし、む、胸も大きいし……」

 ショコラはちらちらとルーチェの胸を見た。
 なんでこんなに細いのに、大きいんだろ……。
 ショコラは細くてぺったんこなので、羨ましかった。

「ふぅん?」

 ショコラがたくさん褒めるので、ルーチェはいい気分になって、口元に微笑みを浮かべた。

「ねえ、胸がおっきくなる方法、教えてあげましょうか?」

「え?」

 ショコラはちょっと気になって、思わずルーチェを見る。

「耳、貸しなさいよ」

「?」

 ちょいちょい、と手招きされて、ショコラはルーチェのそばによる。
 すう、とルーチェは息を吸い込んだ。

「ゔぁぁあーーーーか! 遺伝よ、い・で・ん!」

「っ!」

 耳元で大声を出され、ショコラはびっくりして飛び上がってしまった。
 ルーチェはケラケラと笑っている。

「……」

「あっはっは、落ち込んでやんのいでぇ!」

 ゲラゲラ笑っていたルーチェはばしん! とリリィに頭を叩かれた。

「嘘を言うんじゃありません!」

「う、嘘じゃな……」

「まったくもう、目を離せばすぐこれなんだから」

 リリィはぷんすかと怒って、ショコラに言った。

「ショコラさんはまだ成長途中ですから。これからですよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。当たり前ですよ」

 リリィがそう言うと、ショコラはホッと胸をなでおろした。
 ぺったんこのままだと思ったが、どうやらまだ希望はあるようだ。

「その代わり、栄養のあるものをたくさん食べないと」

 リリィがそう言うと、ショコラはこくこくと頷いた。

「わ、わたし、頑張って栄養のあるものをたくさん食べます!」

「そうそう、それでいいのよ」

 リリィも頷く。

「ねえちょっと、あたしに日焼け止め塗りなさいよ!」

 頭を押さえてそのやりとりを見ていたルーチェが、二人に向かって言った。

「自分でやりなさい!」

「ぐへぇ」

 リリィは再びルーチェにチョップを落とし、ルーチェは変な声を出したのだった。

 ◆

 別荘の外へ出ると、くらりとしそうなほどに眩しい太陽がショコラたちを照らした。
 日焼け止めも塗って、準備は万端。
 先に浜辺に出ていた男性陣と合流する。

 キラキラしたゴムのビーチサンダルを履いて、ショコラは砂浜を歩く。
 あったかくて、ふわふわとした歩き心地の砂浜にショコラは目を丸くする。こんなに砂がサラサラなんて、不思議だ。
 夢中になって歩いていると、目の前に青いサンダル。
 顔を上げれば、ラグナルだった。

「あ……」

 ショコラはなんだか恥ずかしくて、ぽっと頬を赤くした。
 なんだか水着が恥ずかしくて、ラグナルの目を見ることができなかった。

「お、お待たせしました」

 頬を真っ赤にして、ちらちらとラグナルを見る。
 ラグナルはショコラをじーっと見つめていた。

 ショコラの体温が一気に上がる。
 心臓が熱くなって、ドキドキし始めた。

(う……まただ……)

 この気持ちはなんなのだろう?
 
「ショコラ」

「……はい?」

 何を言われるのかと、少々緊張する。
 けれどラグナルは、いつものゆるゆるな態度で、にこ、と笑った。

「かわいいね。すごく似合ってる」

「あ、あ、ありがとうございます」

 声がひっくり返ってしまう。

「世界で一番かわいい」

「ええ!? 世界で一番ですか!?」

 予想以上に褒められて、ショコラは仰天してしまった。

「ねえ、海の水、触ってみなよ」

「! はい!」

 そう言われて、ショコラはパアッと顔を輝かせた。
 ザアア、ザアアと波が打ち寄せては、引いて行く。
 ショコラはそろりと波打ち際に立って、水に触れてみた。

「うわぁ」

 海の泡がショコラの手に触れる。
 優しい冷たさの海水に、ショコラは目を細めた。
 すると少し大きめの波が来て、ショコラの足元を一気に水浸しにした。

「きゃっ」

 ショコラはびっくりして、後ろに下がろうと立ち上がる。
 けれど砂に足をとられて、尻もちをついてしまった。
 そんなショコラを波は濡らしていく。

「あ、濡れちゃった……」

 びっくりして耳をひょこひょこさせているショコラ。
 そんなショコラにラグナルが手を伸ばし、笑った。

「水着なんだから、いくら濡れてもいいんだよ」

 ショコラはそう言われ、思わず「そっか」と呟いてしまった。
 それからなんだかおかしくなって、笑う。
 ラグナルの手をとると、立ち上がって、二人で海の中を歩いた。

 手をつないで、二人で海に立つ。
 目を閉じると、風と波の音が聞こえた。

「ご主人様」

「ん」

「わたし、初めて知りました」

 ゆっくりと目を開けると、果てしなく続く海が見える。
 遠くに見える海の果てのようなものを、地平線というのだろう。

「世界はこんなに広かったんですね」

 知らなかった。
 海というものが、こんなに大きくて、青いことを。
 波は永遠に止まらなくて、風は海の香りがするということを。

 ショコラは自分がどれほどちっぽけな存在なのかということを知った。
 それと同時に、ショコラの中の小さな世界が、ぐんと広がった。
 小さな箱の中に閉じ込められたみたいに、息苦しい過去。
 あのときの自分に、この景色を見せたいと思った。
 
 世界は思っている以上に広い。
 そこだけが、自分の居場所なわけじゃない。
 息苦しくなったときは、目をつぶって、この波の音を思い出そうと思う。
 どこまでも続くこの青い海と一緒に。

「……僕も、君よりずっと長く生きてるけど、知らないことがいっぱいあるよ」

「そうなんですか?」

 ラグナルは小さく頷いた。

「うん。僕も君に、いろんなことを教えて貰った」

「わたしが……?」

 ショコラが首をかしげると、ラグナルは笑った。

「君も、僕も、きっとまだ、世界のほんの一部しか知らないんだ」

 ショコラよりもずっと長く生きているラグナルがそういうのだ。
 きっとそうなのだろう。
 
「でもね、ショコラ」

 ラグナルは言う。

「君が思っているよりも、世界はほんのちょっと、優しいのかもしれないよ」

 そう言ってショコラを愛おしそうに見つめるラグナルに、ショコラの胸がまたとくんと音をたてた。

 胸がむずむずする。
 ショコラはなんとなく、この夏の海で、この気持ちの正体を知りそうな気がしていたのだった。
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