もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!

夏の夜のBBQ

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「ほれ、浮き輪」

 しばらく浅瀬でパシャパシャと水の掛け合いっこをしていたショコラに、ヤマトが膨らませた浮き輪を渡した。
 いちご柄のそれを、ヤマトはショコラにすぽんとかぶせる。

「溺れんなよ」

「うわぁ、ありがとうございます!」

 ショコラはしっぽを振って、さっそく海へ入った。
 実のところ、ショコラはあまり泳ぐのが得意ではなかったので、助かった。

「ふわぁ~」

 浮き輪にしがみついて波に揺られているのは、とても気持ち良かった。
 ぷかぷか、ぷかぷかと波に体をまかせる。
 ときたま大きな波が来て、ショコラを大きく揺らす。
 すると海水がショコラの口に飛び込んできて、ショコラはびっくりして耳を立ててしまった。

「しょっぱい……!」

 ショコラは本当に海の水はしょっぱかったんだ! と感動した。
 どうしてこんなにしょっぱいんだろう?

「これはお料理には使えないのかな……」

 いっぱい汲んで帰れば、塩がいらなくなるかもしれない。
 あとでヤマトに聞いてみようと思ったショコラなのだった。

 海水のしょっぱさに驚きつつも、波に揺られたり、海の中を眺めたりする。
 バタバタと足を動かすと前に進めたし、泳がずとも、海に浮いているだけでも気持ちが良かった。
 ショコラは初めての海で泳ぐことにすっかり夢中になっていて、しばらくはあまり周りのことに目がいかなかった。

 他のみんなは何をしているんだろう。
 少し時間が経ってから、そう思って浜辺の方を眺める。

 シュロとヤマトはビーチパラソルの下にビーチチェアを置き、寝そべってゆったりとしていた。
 リリィはミルとメルと一緒に、浅瀬を泳いでいる。

「あれ……?」

 ちゃぷちゃぷと波に揺られながら、ショコラは首をかしげた。
 ラグナルとルーチェがいない。
 きょろきょろと辺りを見回す。
 すると少し離れた場所で、ラグナルとルーチェが浅瀬で一緒に泳いでいるのが見えた。

 ラグナルはパイナップル模様の浮き輪をすぽんとはめて、波に揺れている。
 パイナップル模様の浮き輪がお気に入りらしく、目をキラキラさせていた。
 それをがっしりとルーチェが掴んでいるのだった。

「……」

 ショコラはなんだか、ルーチェがうらやましくなってしまった。
 ショコラもラグナルと一緒に遊びたい。
 そう思うと、ショコラはぱしゃぱしゃと必死に足を動かして、二人の元まで泳ぎ始めた。
 二人に近づくと、ルーチェがうげ、という顔をする。
 それからルーチェはラグナルを引っ張って浜辺へ上がる。
 ショコラもそれについていった。

「アホ犬、あんたはあっちで遊んでなさい!」

 砂浜に上がったショコラに、ルーチェがそう噛み付いて、ラグナルの腕に自分の腕を絡ませた。

「ラグと一緒に遊ぶのは、あたしなんだから!」
 
 ……どうしてだろう。
 以前だったら、ショコラはそうですか~などと言って、さっさとその場からいなくなっただろう。
 けれど今は、なぜかラグナルのそばにいるルーチェを羨ましく思う。

「しょ、ショコラも一緒に遊びたいです」

 勇気を出してそう言うと、ルーチェは目を瞬かせた。
 ショコラがルーチェに意見することが珍しかったのだろう。

「何よ、ラグはあげないんだからね!?」

「ルーチェさんとも一緒に遊びたいです」

「は、はぁあ!? 何言ってんのよ、ばっかじゃないのあんた!」

 ルーチェは呆れたような顔をする。

「なんであたしがあんたなんかと……」

 そう言いつつ、ショコラがちょろちょろとしっぽを振って、ルーチェを上目遣いで見上げているのを見て、う、と声を詰まらせた。
 雨の日にぐっしょりと濡れた子犬を見ているような気分になったのだ。

「何よ……ま、まぁ、ちょっとくらいだったらいいわよ。ちょっとくらいだったら」

 ショコラのことが嫌いなルーチェだったが、若干ショコラに絆されているのだった。
 
 というわけで、特に喧嘩することもなく、三人揃ってゴーグルをはめ、海の中の魚などを観察して遊んだのだった。

 ◆

 カラフルな海の中の魚を観察してみたり。
 綺麗な貝殻を集めてみたり。
 トロピカルジュースをみんなで飲んだり。
 砂浜に寝そべるルーチェに、砂をかけ筋肉モリモリにして写真をとったり。

 気づいたら夕暮れで、ショコラたちはすっかり心地よい疲労に包まれていた。

「はぁ、遊びましたねえ」

 みんなで夕日を眺めていると、リリィが満足げに呟いた。

「まだ水着の中に砂がはいってるんだけど……」

 プリプリとルーチェは怒っている。
 さっきからずっとこうである。

 ショコラも夕日とキラキラ光る水面を見つめながら、ほっと息を吐いた。
 泳いだ後の心地よい疲労が体を包んでいる。
 なんだか眠たくて、こしこしと目をこすった。
 隣に座っているラグナルを見れば、彼も目がとろんとしていた。
 疲れたのだろう。

 けれどその瞳が、一瞬きらりと輝く。

「?」

 どうしたんだろう。
 そう思っていると、ふと、別荘の方からいい匂いがしてくることに気づいた。
 肉を焼いているときのような、香ばしい匂いだ。

「今夜はバーベキューですよ!」

 リリィが立ち上がって言った。

「バーベキュー!」
「BBQ!」

 ミルとメルが楽しそうに別荘へ向かって飛んでいく。
 そういえば、この場にヤマトがいなかった。

「ヤマトが一足先に戻って、食材を準備してますから」

 リリィもそう言って、鼻歌を歌いながら歩き出す。
 ショコラもラグナルもルーチェも目を輝かせて、後を追った。

 ◆

「ほら、肉焼けたぞ」

 ヤマトがショコラのお皿に、串にささった大きな肉を置く。
 あれから、ショコラたちは別荘のデッキの上に用意されたバーベキューコンロを取り囲んでいた。
 ヤマトが手際よく食材を焼き、みんなに配っていく。
 スペアリブグリルに、スパイシーチキン、焼き豚、ウインナー……。
 様々な肉が焼かれて、いい香りがあたりに漂っている。

 スペアリブグリルにかぶりついたルーチェが、小さな悲鳴をあげた。

「あっづっっ!」

 それを見たヤマトが、呆れたように笑った。

「バカ、お前少しは冷ましてから食えよ」

 涙目になったルーチェが、ヤマトに文句をいう。

「あ、あんたもう少し上手に焼きなさいよっ! 舌火傷しちゃったじゃないのよ!」

「ああ? じゃあお前自分で焼けよ」

 ルーチェとヤマトはがうがうと喧嘩を始める。
 それを見ながら、ショコラもしっぽを振って、串にさされた肉にかぶりついた。
 肉から熱々の肉汁が溢れ、ショコラの口の中に香ばしい香りが満ちる。

「~っ」

 ショコラは目を細めて、その幸福に浸ったのだった。

 ルーチェとヤマトが喧嘩をする横で、シュロが優雅に海を見ながら白ワインを飲んでいた。
 ラグナルも肉をはぐはぐと食べている。

 ショコラは外で海を見ながら食べる晩ご飯に、興奮しっぱなしだった。

 バーベキューコンロで焼かれているのは、肉だけではない。
 アルミホイルに夏野菜を包み、白ワインや黒胡椒を振って、ホイル焼きに。
 新鮮な海の幸であるサザエはバジルバター、ほたてはバター醤油にして、グツグツ煮立つまで待つ。
 とうもろこしは粉チーズとチリパウダーをかけて、グリルドコーンにした。

 どれも美味しい。
 けれど海辺でのバーベキューは、食材をいつもより美味しく感じさせる。

「外で食べるって、楽しくていいですね」

 ショコラはそう呟いて、笑った。

 ミルとメルは焼き串を持って飛び回っていた。

「もう、こら! ミル、メル! 食べ物を持ったまま飛ぶんじゃありません!」

「だって美味しいもんー!」

「おいし……あ」

 メルの持っていた焼き串がルーチェの頭に落ちる。

「あづッッッ!?」

 さすがのメルも、あ、というような顔になっていた。

「こ、こ、このっ、バカ妖精ー!!!」

 頭に乗った焼き串を持って、ルーチェはミルとメルを追いかけ回す。

 海に来てもいつものような一行なのであった。

 ◆

 デッキから砂浜へ続く階段へ座り、ショコラはぼうっと海を眺めていた。
 一通り食べ終わり、すっかりお腹は膨れている。

「綺麗……」

 すっかり日もくれた海辺。
 けれどこの辺りは全然暗くない。
 昼間のように明るくはないけれど、ほんのりとした水色の光が海から溢れている。

 魔素をふんだんに含む魔界の海は、夜になると淡く輝くのである。

 淡い水色に輝く水面を見ながら、ショコラはため息を吐いた。
 ザアア、と打ち寄せる波は、不思議な光を帯びて、とても神秘的に見えた。
 
「海、好きになった?」

 ショコラのとなりにラグナルが腰を下ろした。
 
「はい。ショコラは海が大好きです」

「……そっか、それはよかった」

 二人でぼんやりと海を眺める。
 海風と波の音に耳をすませる。
 どこかで鳥の鳴き声や、カニやヤドカリがカソコソと動くような音が聞こえてくるような気がした。

 穏やかな水面を見ていると、とても幸福な気分になる。

 こんなに幸せなときはないと、ショコラはなんだか泣きそうになってしまったのだった。
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