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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!
はじめてのお買い物
しおりを挟む結局、お昼ご飯を食べたあともラグナルは回復しなかったので、ラグナルの気分がよくなるまで、ショッピングをして過ごすことになった。
どのみち夜もこの街のホテルかどこかで食べる予定だったらしいので、そこまで予定に狂いはない。
ラグナルにはシュロがついていることになった。
ショコラはリリィたちとはぐれないように注意しつつ、アロワ通りを歩いた。
タイルの敷かれたそこには、たくさんのお店が立ち並び、観光客や地元の人たちで賑わっていた。ショーウィンドウには南国ならではの明るい色調の服が飾られていたりした。
道の端にはアイスクリームのワゴンや、楽器を鳴らしてのんびりとした歌を歌っている人たちなどもいた。
見ていて飽きない光景に、ショコラはしっぽを振りながら歩く。
「やっぱり旅行の醍醐味ときたらショッピングよね!」
ルーチェがご機嫌にスキップしながら、かわいい服が飾られたお店へ入っていく。
ヤマトは新鮮な果物が並べてあるお店へ、リリィはミルメルにせがまれて『ダイヤモンド・ビーチ・ハウス』と書かれた看板のある雑貨屋さんへ入ろうとしていた。
ショコラはまだ一人で行動するのはダメだと言われていたので、リリィについて雑貨屋さんへ入ることにした。
◆
雑貨屋さんの中には、ビーチ感いっぱいの、明るい小物がところ狭しと並べられていた。
貝殻を使った小物や、オーシャンプリントのクッション、お花柄のワンピース。綺麗な小瓶に細い棒が何本もさされているのは、アロマディフューザーだろう。
窓側には小さな貝のブレスレッドや、花をモチーフにしたネックレスなどのアクセサリーが並べてある。
カラフルな色のバスソルトもあって、店の中はいい香りで満ちていた。
「うわぁ、かわいい」
ショコラはしっぽを振って、店の中に並べられている商品を見て回った。
どれも可愛くて、見ているだけで楽しい。
その中でもショコラが気に入ったのは、文房具のコーナーに置いてあったたくさんのメモ帳だった。
椰子の木の柄、パイナップル、サーフボードにビーチのイラスト。
パイナップル柄のメモ帳を見て、ショコラはラグナルの浮き輪を思い出す。
浮き輪をはめてプカプカと浮かぶラグナルを思い出して、くすりと笑った。
ビーチ柄のメモ帳、お花柄のメモ帳もかわいい。
そういえば、コレットはいつも何かをメモしていたなと思い出す。
欲しいけれど、でも、ショコラには自由に使えるお金がない。
「……」
ショコラは少しだけ商品を手に取ってから、元の場所に戻して、別の小物を見て回った。
「なんだろう、あれ」
カウンターの近くに、綺麗な小瓶が山積みされていることに気づいた。
近づいてみると、小瓶の中には、レモン味の小さなキャンディーがたくさん詰まっているようだった。
値札には商品説明が書いてあるが、難しくてよく分からない。
「これが気になるの?」
ショコラがじいっと値札を見つめていると、カウンターの中にいた優しそうな老婦人が、声をかけてきた。
「あ、その……この飴は、何か普通の飴とは違うのでしょうか?」
ショコラが恥ずかしそうにそう尋ねると、老婦人はにっこりと笑って言った。
「これは地元ではけっこう有名なんだけど、船酔いを防止するための飴なのよ」
「船酔い?」
「ええ。観光でいらっしゃる方がよくクルーザーなんかで酔っちゃうんだけど、この飴を舐めるとあっという間に治っちゃうの。この飴は甘くて美味しけど、強い酔い止めの効果があるのよ。酔ってからもよく効くから、人気なの」
なるほど。
だからこのように山積みにしてあるわけか。
ショコラは納得すると同時に、ラグナルのことを思い出した。
とても辛そうにしていたが、もしかしてこれなら……。
「あの、これは車酔いにも効きますか?」
「ええ、船も車もよく効くわ」
「な、なるほど。ありがとうございます!」
「いいえ、ゆっくり見ていってね」
老婦人に頭をさげると、ショコラはその瓶を手に持って、リリィのところへ向かっていた。
◆
「これが欲しい? もちろんいいですよ。っていうか、欲しいもの全部買いますから、持ってきてください」
ショコラが一生懸命この飴が欲しいのだとリリィに訴えかければ、リリィはあっさりとそれを承諾した。
「もしかして遠慮してました?」
「あの……わたしのお金じゃないから……」
食べ物なども買ってもらってしまったけれど、ショコラはかなり気を使っていた。
ショコラは手元にお金がない。
以前給料というものをもらっているという話を聞いたのだが、現金でもらえるわけではなく、貯金してくれているらしい。
他に必要なものがあればなんでも買ってもらえるし、今まで現金の必要性をあまり感じなかった。
けれどこういう風に、自分のものが欲しいとなると、少し話は変わってくるのかもしれない。
「そうですね、私もそれに関して適当すぎました」
「?」
「ではこうするのはどうでしょうか?」
リリィはショコラに、いくらかお札の入った袋を差し出した。
「これはショコラさんのお給料の一部ということにしましょう」
「! で、でも……」
「大丈夫です。ちゃんとその分、ショコラさんのお給料から引いておきますから」
ショコラは初めて、お札というものを手にした。
金額の計算自体はできるが、魔界での金銭感覚はまだ身についていないせいか、店の中のものが高いのか安いのか、それとも相場くらいなのかが分からなかった。
「こういうのは慣れですから、いろいろ経験して金銭感覚は身につけていきましょう。最初ですから、とりあえず好きなものを買ってみるといいかもしれませんね」
ショコラはリリィにそう言われ、ちょろちょろとしっぽを振った。
とりあえず、好きに買ってもいいらしい。
「ありがとうございます」
「いいえ、それはもともとショコラさんのお金ですから。あ、そうだわ」
リリィはぽんと手を打った。
「これは課外授業ということにしておきましょう」
「課外授業?」
「ええ。お金の勉強です。まずはちゃんと計算して、お金を払う練習をしてみましょう」
なるほど。
品物の代金を計算して、お金を払う練習。
それはこれから、とても必要になることだとショコラは思った。
今まで必要なものはすべてネットで購入していた。
けれどこれからはお使いを頼まれるかもしれないし、もしもショコラがラグナルの館を出ることになった時に、お金が使えないと困ってしまう。
「まあ気楽に。好きなものでも買ってくださいな」
ショコラはこくりと頷いた。
とりあえず瓶入りのレモンキャンディは買うとして。
このお札一枚でキャンディは二瓶買うことができる。
じゃあさっきのメモ帳はどうだろう?
ショコラは文房具のコーナに戻って、メモ帳の値札を確認した。
「えーっと……」
確認してみると、キャンディひと瓶分の値段で、メモ帳を二冊買うことができるようだった。メモ帳三冊だと、ほんの少しオーバーしてしまう。
つまりキャンディ一瓶と、メモ帳二冊で、大体お札一枚分の値段がするというわけだ。
観光地にある雑貨屋さんなので、少し高いのかもしれない。
ショコラがどうするか悩んでいると、再びあの老婦人が現れた。
「これね、一冊一冊買うと高いけど、三冊まとめて買うと少し安くなるのよ」
「えっ? そうなんですか?」
「ええ。いっぱい買ってほしいから、私がそうしたの」
老婦人がにっこりと笑った。
老婦人が示した金額は、キャンディ一瓶分で、メモ帳が三つ買えるというものだった。
ショコラは笑顔になった。
これならお札一枚分で、キャンディ一瓶と、メモ帳三つを買うことができる。
ショコラはパイナップル柄と、お花柄、そしてビーチのイラストが描かれたメモ帳を手に取った。
そしてしっぽをパタパタ振って「これください!」と笑顔で言ったのだった。
◆
老婦人は、可愛らしい紙袋にショコラの選んだものを包んでくれた。
それからお土産用に、別の綺麗な袋を入れてくれる。
「これ、よかったらおまけにどうぞ」
老婦人はそう言って、小さな四角いチョコレートを三つ、ショコラにくれた。
チョコレートの包み紙には、ビーチの写真や、ヤシの木のイラストなどが印刷してある。
「わぁ、いいんですか?」
「ええ、よかったらあの子たちにもあげて」
そう言って、老婦人や優しい視線を雑貨店の中にいたミルとメルに向けた。
二人は先ほど、リリィに色違いのイルカのぬいぐるみを買ってもらい、ご機嫌にそれを抱っこしていたのだった。
ちなみにリリィは綺麗なバスソルトを購入していた。
「ありがとうございます」
ショコラはそう言って紙袋を受け取る。
「こちらこそ。それにしても獣人さん、珍しいわね」
「え?」
ショコラは目を瞬かせる。
「あ、ごめんなさいね。あまり見かけたことがなくて……」
「そうなんですね」
ショコラはきょとんと老婦人を見た。
そういえばエルフの里でも散々珍しいと言われたが、やはりこういう観光地にも獣人はこないのだろうか、と思った。
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「ここは綺麗な場所で、いい人たちもいっぱいいるけれど、たまにそうじゃない人たちもいるの。特にお嬢さん、とてもお可愛らしいし、珍しい種族だしで何かあってもおかしくないから、気をつけてね」
「は、はい」
ショコラはびくっとして、素直に頷いた。
けれど老婦人から紙袋を受け取ると、一気にテンションが上がってしまう。
「ありがとうございました」
ショコラは老婦人に頭を下げて、ご機嫌に店の外へ出た。
小さなメモ帳と、レモンキャンディ、それから可愛い写真がプリントされたチョコレートを買えたことに、ショコラは大満足していたのだった。
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