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第4章 ショコラの想い
恋ってなに?
しおりを挟む夏の海の旅行から帰ってきて数日が経った。
ラグナルの館の住人たちは、糸が切れたようにダラダラとしていた。
すっかり疲れてしまって、休憩モードに入っていたのだ。
ラグナルを筆頭に、いつもシャキシャキしているリリィでさえ、なんだかのんびりとした様子だった。
そんな中。
ショコラはシアタールームで、一人映画を見ていた。
暗い部屋の中でぽつんと一人、席に座る。
大きなモニターに映し出されてるのは、綺麗な女のひとと、かっこいい男のひと。
ショコラは二人が手を取り合う様子を、固唾を飲んで見守っていた。
『君のことが好きなんだ』
『私もあなたのことを愛しているわ』
目の前の男女は、愛の言葉を囁きあいながら、ゆっくりと口付けを交わした。
「っ」
ショコラはほっぺたをぽっと赤くした。
なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がして、思わず顔を手で覆ってしまう。
「ふわぁ……」
そのまま映画はエンドロールへ。
ショコラはほっと胸をなでおろした。
「大人の世界でした……」
「ちゅーしてたね」
「はい、びっくりしました……ってうわぁー!?!?」
独り言をつぶやいたつもりが、返事が返ってきて、ショコラは飛び上がってしまった。
後ろを振り返れば、なんといつのまに座っていたのか、ラグナルがショコラの椅子の背もたれにもたれかかって、溶けたように画面を見ていたのだ。
「ご、ご、ご主人様……!?」
ショコラは冷や汗をかいた。
「いつから、そこに……!?」
「この映画の途中くらいから? 君、夢中で見てから、気づかなかったんだね」
(うわぁー! やらしかたー!)
ショコラは顔を真っ赤にして、へろへろと椅子に座り込んでしまった。
見られたくないものを、一番見られたくないひとに見られてしまったのだから、そりゃあショックだろう。
「君、こういう映画好きなの?」
ラグナルはこてんと首を傾げてショコラにそう尋ねた。
けれどショコラはうまく答えられない。
当然だ。
ショコラは今、ラグナルに対する想いについて、研究中なのだから。
「わ、わたし、その……今、勉強中でして」
「勉強? 何を勉強しているの?」
「え、えっと、その、いろいろです」
「いろいろ? いろいろって何」
「い、いろいろなんです!」
ラグナルは少し、不満そうな顔をした。
「僕じゃ教えられないことなの?」
「えっ? ち、ちが……」
別にそういうわけじゃない。
けれど本人に言えるわけがないのだ。
ショコラは恋をしているのですか?
だなんて言葉は。
「こ、この勉強は、ショコラ一人でできるからいいんです」
「そうなの?」
「そうなんです」
ラグナルはむう、頬を膨らませていたが、深くは尋ねてこなかった。
ショコラはほっとして、冷や汗を拭う。
「僕も君と一緒に映画を見たい」
「も、もちろんいいですよ」
恋愛映画以外なら。
「君、最近いろんな本を読んでるみたいだけど。僕も一緒に読んじゃだめ?」
「いいに決まってますよ!」
恋愛小説以外なら。
とにかくショコラは必死になって、ラグナルからの探りを回避した。
この気持ちを今知られるのはまずい。
そんな気がしたから。
(わたしはバカだから、わからない)
心に芽生えたその感情のことを。
ラグナルに対するこの気持ちを。
ルーチェのいう恋と、ショコラの気持ちは一緒? 本当に?
目の前でぐずるラグナルを見て、ショコラは改めて思った。
ショコラは本能的にラグナルを好きなのか、それとも恋をしているのか。やはりはっきりは分からない。
けれどラグナルとずっと一緒にいたくて、ずっと一緒に笑ってたくて。
その気持ちだけは、不変だろう。
だからこそ見つけたくはないのだ。
この関係が変わってしまうようなことを。
けれどルーチェに言われて、ショコラはほんの少し変わった。
いや、思い出した。
あるものを、あるがままに受け入れてもいいのだと。
だから今は、それを受け入れるための準備をしているのだ。
この気持ちを、受け入れるための準備を。
◆
恋って、なんだろう。
ショコラはその晩、ベッドに横たわりながら、ぼうっと天井を眺めていた。
胸には開いた本をのせている。
それもまた、恋愛に関する本だった。
ショコラは本や映像や普段から、ずいぶんとたくさんのものを吸収できるようになった。
ラグナルがショコラの世界を広げてくれたおかげで、それらのことができるようになったのだ。
ショコラの中は、ラグナルのことでいっぱいだった。
映画を見る。
本を読む。
人と話す。
それらのことが、ショコラに様々な知識をもたらしてくれる。
このようにして、ショコラは自分の気持ちと、恋とに、向き合っていくようになったのだった。
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