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『一章:ビースト・フロンティア』 探索者
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少女二人が受付ロビーで盛り上がりを見せる中、パーティーリーダーのリガルが割って入る。
「あのよ。そろそろ始まるみたいだから早く行こうぜ。あっ俺はリガル。こっちはトシゾウ、宜しくな」
そっけないように見えるリガルの頬は紅く染まっていた。
「トシゾウでござる。ルナ殿宜しくでござるよ」
どうやら教習は建物の外の裏庭でやるようだ。
「なんだ集まったのはたったこれだけかぁ? 仕方がねぇな。それじゃ始めるか」
四人の前にはスキンヘッドの大男が仁王立ちしながら苦々しく笑った。
「俺は実技を担当するアランドロだ。この教習はスキルや戦闘スタイルに合わせた助言を行う場として設けている。それじゃぁお前らの名前とスキルを教えてくれ」
アランドロの前に先ずはリガルが一歩踏み出した。
「俺の名はリガルだ。スキルは【風の加護(小)】。宜しく!」
「私はミネア。スキルは【火の魔法(小)】よ」
「拙者はトシゾウでござる。スキルは【一刀両断】でござる」
ハキハキと三人の少年少女が答えていき、ルナの順番となった。
「私はルナ! スキルは分かりません!」
場が静かになった後リガルがプッと吹き出し笑い出した。
「おいおいスキルが分からねぇってマジかよ!? あり得ねぇ」
「ちょっと笑っちゃ失礼よ!」とミネアが制止するもリガルが高笑いを始めルナはムッとした。
「ルナと言ったか。ちょっとギルドカード見せてみろ」
アランドロがルナからギルドカードを受け取る。
「試験の前に魂の水晶に触っただろ? あれで解ったスキルがこのカードに反映される仕組みなんだが書いてるじゃねーか? あぁ、もしかして子供の頃教会で洗礼を受けてないのか」
ルナは返されたカードの裏面の記載を急いで確認すると、そこには【想像者】と書かれていた。
「わぁ! 私にもスキルがあった!」
ルナが歓声を上げる。
「ただ書いてる以上の事は俺も分かんねぇからな。さぁて取り敢えず一人一人やるぞ。先ず坊主、お前からだ」
リガルが背中の剣を抜き構えると、アランドロは果物ナイフのような小さな短剣を構えた。
馬鹿にされていると感じたリガルは雄叫びを上げて突進していく。
リガルは何度も剣を叩きつけるがアランドロは片手だけで捌いていく。
「ほれ、さっさとスキルを使え」
アランドロに足をかけられリガルを横に転ばせると挑発するように言った。
「クソが!」 と起き上がり再度突進していくリガルの速度が先程までと違い段違いに早くなる。
その勢いのままさっとアランドロの後ろに回り込み剣を繰り出す。が、キィンと金属音が鳴り剣は頭上高く舞い上がった後、リガルは凄まじい蹴りを腹に受け一回転して転がっていった。
「ふむ。次はミネアだ。来い!」
振り返り声を掛けると同時にアランドロの顔面に火球が飛ぶ。
「うおっ! あぶねぇ」
反射的に顔を背けて避けると「いい度胸だ」とニヤリと笑った。
「もう一発撃ってこい」
ミネアはアロンドロの挑発なぞ聞こえないかのように詠唱を始めた。
「火の精霊よ。ミネアの名の下にその力を...うぐっ」
ミネアはアランドロの周りを円を描くように走りながら詠唱を始めていたが、アランドロが一瞬で間合いを詰め腹部に拳をめり込ませた。
膝から崩れ落ちたミネアは「うっ」と呻き口を抑える。
「次ぃ!」
ミネア同様にトシゾウもすでに走り出していた。
「一刀両断!」
トシゾウが腰の刀を抜き、光を放つ鋭い一撃がアランドロを襲う。
「狙いは良いがその程度の火力じゃまだまだだ!」
トシゾウの渾身の一撃はあっけなく小さな短剣に払われると、刀を振った後の無防備な腹に拳がめり込んだ。
「ま、こんなもんか。最後は嬢ちゃんだ。来な」
ルナは「あははは」と乾いた笑いを上げて拳を構え「フェイカー!」と叫ぶが何も起こらなかった。
「むぅ」と憤り「てりゃ!」とアランドロに駆け寄りパンチを繰り出す。
ポフッと音がした後片手で額を抑えるアランドロが溜息の後にズドンっとルナの腹に衝撃が響き「おえぇぇぇ」と嘔吐し実践形式の戦闘訓練は終わりを告げた。
四人はアランドロの前に横並びで座る。
「時間もないからちゃっちゃと進むぞ。先ずは小僧。スキルの使い方はいいが熟練度が足らん。迷宮で仲間を死なせたくなければ毎日馬鹿みたいに剣を振れ。後は俺がギルドにいて時間がある時は剣術を教えてやる。風のスキルに関しては紹介できる奴がいるからしっかり励め」
リガルは自信を無くしたようで元気がなかったが「はい!」と大きく返事をした。
「魔法使いの嬢ちゃんだが、悪いが俺は魔法スキルには詳しくない。その上で言わせてもらうと詠唱が遅いし長い上に威力が低い。師匠がいるならそこらへんをちゃんと教えてもらいな。次にちょんまげだがお前のスキルは発動後に身体が数秒膠着するな。このスキルの反動は致命的な隙を生むが、大抵の場合風の小僧と同じで熟練度が解決する。毎日スキルを使って実力を上げる事だな」
ミネアもトシゾウも腹を抑えながら弱弱しく返事をした。
「最後の嬢ちゃんだが......まあ取り敢えず自分を識る事から始めるか。スキルの理解だったり自分に合った戦闘スタイルの確立が大切だ。先ずは自分に何が出来て何が不得手かを嬢ちゃん自身が分かってなきゃ話にならん。時間がある時に聞きにくれば俺もアドバイスくらいは送れるがソロで活動する予定か?」
同じように腹を抑えるルナは苦しそうに首を左右にふる。
「えーっとパーティーと呼ぶのか分からないけど一緒に探索する人はいるよ。今日はその人と一緒に来たの」
アランドロは「そうか。なら良い」と頷く。
「最後になるが全員に言える事は毎日少しでも良いから身体を鍛えろ。腹に一発喰らっただけで動けなくなるようじゃ魔物に食われちまうぞ。探索者は身体が資本の職業だ。どんな凄いスキルを持って生まれても使い熟す体力や力がなけりゃ意味がねぇからな」
皆を見渡しながら話すアランドロの言葉に皆が真剣に聞き入り大声で返事をした。
「よし! これで解散だがお前ら冊子を貰っただろ? 魔物図鑑の注釈は俺が書いたんだ。しっかり読んでから迷宮に挑むように」
「はい! 有り難う御座いました」
実技教習が終わり解散となった。
皆が建物の中に入りロビーへ移動していると「ルナ!」 とレームが名前を呼んだ。
ルナは嬉々としてレームに駆け寄ると探索者カードを見せつける。
「じゃぁーん! レーム見て見て」
「おお凄いじゃないか。おめでとうルナ」
「有り難う!」 ルナは嬉しそうに冊子を見せ講習の話をしようとする。
「嬢ちゃんのツレがまさかあんただとはな。レームさん」
そんな二人の間にアランドロが口を挟んだ。
「アランドロ...そうか君が教習の担当だったのか。久しぶりだね」
レームの挨拶を無視して「チッ」と舌打ちをしてレームに肩を当てて横を通る。
「嬢ちゃん。この人は辞めときな」
そう一言ルナに向かって言った後アランドロはロビーへと消えて行った。
ルナの頬がどんどん膨らんでいき目付きが険しくなっていく。
「何あれ! なんなの!」
声を張り上げアランドロを追い掛けようとするルナをレームが止めた。
「いいんだルナ。悪いのは俺さ。これから少しずつ評価を変えていけば良い。だからそんな顔をするな」
未だ険しい表情のルナにレームは笑い掛ける。
「絶対見返してやろうね! ふん!」
その後も「良い人だと思ったのに!」 と怒りを露わにするご機嫌ナナメのルナに後ろから一部始終を見ていたミネアが声を掛ける。
「お取り込み中悪いんだけど...私達はもう帰るから、これ。良かったら今度ランチでも一緒に行きましょ」
ミネアが頬を赤らめ素っ気ない態度で渡してきたメモを受け取る。
メモの中身は【トライデント】の宿泊先の住所と謎の文字列が書かれていた。
そんなミネアの様子にルナの機嫌が反転し目が嬉しそうに綻んだ。
「有り難うミネア! 絶対会いに行くね!」
じゃれ合いながら進む少女達の後ろを、微笑ましく眺めるレーム。さらにその後ろからげんなりと疲れた表情の少年二人がロビーへ向かい歩いて行く。
こうして新たに四人の白の探索者が産声を上げた。
「あのよ。そろそろ始まるみたいだから早く行こうぜ。あっ俺はリガル。こっちはトシゾウ、宜しくな」
そっけないように見えるリガルの頬は紅く染まっていた。
「トシゾウでござる。ルナ殿宜しくでござるよ」
どうやら教習は建物の外の裏庭でやるようだ。
「なんだ集まったのはたったこれだけかぁ? 仕方がねぇな。それじゃ始めるか」
四人の前にはスキンヘッドの大男が仁王立ちしながら苦々しく笑った。
「俺は実技を担当するアランドロだ。この教習はスキルや戦闘スタイルに合わせた助言を行う場として設けている。それじゃぁお前らの名前とスキルを教えてくれ」
アランドロの前に先ずはリガルが一歩踏み出した。
「俺の名はリガルだ。スキルは【風の加護(小)】。宜しく!」
「私はミネア。スキルは【火の魔法(小)】よ」
「拙者はトシゾウでござる。スキルは【一刀両断】でござる」
ハキハキと三人の少年少女が答えていき、ルナの順番となった。
「私はルナ! スキルは分かりません!」
場が静かになった後リガルがプッと吹き出し笑い出した。
「おいおいスキルが分からねぇってマジかよ!? あり得ねぇ」
「ちょっと笑っちゃ失礼よ!」とミネアが制止するもリガルが高笑いを始めルナはムッとした。
「ルナと言ったか。ちょっとギルドカード見せてみろ」
アランドロがルナからギルドカードを受け取る。
「試験の前に魂の水晶に触っただろ? あれで解ったスキルがこのカードに反映される仕組みなんだが書いてるじゃねーか? あぁ、もしかして子供の頃教会で洗礼を受けてないのか」
ルナは返されたカードの裏面の記載を急いで確認すると、そこには【想像者】と書かれていた。
「わぁ! 私にもスキルがあった!」
ルナが歓声を上げる。
「ただ書いてる以上の事は俺も分かんねぇからな。さぁて取り敢えず一人一人やるぞ。先ず坊主、お前からだ」
リガルが背中の剣を抜き構えると、アランドロは果物ナイフのような小さな短剣を構えた。
馬鹿にされていると感じたリガルは雄叫びを上げて突進していく。
リガルは何度も剣を叩きつけるがアランドロは片手だけで捌いていく。
「ほれ、さっさとスキルを使え」
アランドロに足をかけられリガルを横に転ばせると挑発するように言った。
「クソが!」 と起き上がり再度突進していくリガルの速度が先程までと違い段違いに早くなる。
その勢いのままさっとアランドロの後ろに回り込み剣を繰り出す。が、キィンと金属音が鳴り剣は頭上高く舞い上がった後、リガルは凄まじい蹴りを腹に受け一回転して転がっていった。
「ふむ。次はミネアだ。来い!」
振り返り声を掛けると同時にアランドロの顔面に火球が飛ぶ。
「うおっ! あぶねぇ」
反射的に顔を背けて避けると「いい度胸だ」とニヤリと笑った。
「もう一発撃ってこい」
ミネアはアロンドロの挑発なぞ聞こえないかのように詠唱を始めた。
「火の精霊よ。ミネアの名の下にその力を...うぐっ」
ミネアはアランドロの周りを円を描くように走りながら詠唱を始めていたが、アランドロが一瞬で間合いを詰め腹部に拳をめり込ませた。
膝から崩れ落ちたミネアは「うっ」と呻き口を抑える。
「次ぃ!」
ミネア同様にトシゾウもすでに走り出していた。
「一刀両断!」
トシゾウが腰の刀を抜き、光を放つ鋭い一撃がアランドロを襲う。
「狙いは良いがその程度の火力じゃまだまだだ!」
トシゾウの渾身の一撃はあっけなく小さな短剣に払われると、刀を振った後の無防備な腹に拳がめり込んだ。
「ま、こんなもんか。最後は嬢ちゃんだ。来な」
ルナは「あははは」と乾いた笑いを上げて拳を構え「フェイカー!」と叫ぶが何も起こらなかった。
「むぅ」と憤り「てりゃ!」とアランドロに駆け寄りパンチを繰り出す。
ポフッと音がした後片手で額を抑えるアランドロが溜息の後にズドンっとルナの腹に衝撃が響き「おえぇぇぇ」と嘔吐し実践形式の戦闘訓練は終わりを告げた。
四人はアランドロの前に横並びで座る。
「時間もないからちゃっちゃと進むぞ。先ずは小僧。スキルの使い方はいいが熟練度が足らん。迷宮で仲間を死なせたくなければ毎日馬鹿みたいに剣を振れ。後は俺がギルドにいて時間がある時は剣術を教えてやる。風のスキルに関しては紹介できる奴がいるからしっかり励め」
リガルは自信を無くしたようで元気がなかったが「はい!」と大きく返事をした。
「魔法使いの嬢ちゃんだが、悪いが俺は魔法スキルには詳しくない。その上で言わせてもらうと詠唱が遅いし長い上に威力が低い。師匠がいるならそこらへんをちゃんと教えてもらいな。次にちょんまげだがお前のスキルは発動後に身体が数秒膠着するな。このスキルの反動は致命的な隙を生むが、大抵の場合風の小僧と同じで熟練度が解決する。毎日スキルを使って実力を上げる事だな」
ミネアもトシゾウも腹を抑えながら弱弱しく返事をした。
「最後の嬢ちゃんだが......まあ取り敢えず自分を識る事から始めるか。スキルの理解だったり自分に合った戦闘スタイルの確立が大切だ。先ずは自分に何が出来て何が不得手かを嬢ちゃん自身が分かってなきゃ話にならん。時間がある時に聞きにくれば俺もアドバイスくらいは送れるがソロで活動する予定か?」
同じように腹を抑えるルナは苦しそうに首を左右にふる。
「えーっとパーティーと呼ぶのか分からないけど一緒に探索する人はいるよ。今日はその人と一緒に来たの」
アランドロは「そうか。なら良い」と頷く。
「最後になるが全員に言える事は毎日少しでも良いから身体を鍛えろ。腹に一発喰らっただけで動けなくなるようじゃ魔物に食われちまうぞ。探索者は身体が資本の職業だ。どんな凄いスキルを持って生まれても使い熟す体力や力がなけりゃ意味がねぇからな」
皆を見渡しながら話すアランドロの言葉に皆が真剣に聞き入り大声で返事をした。
「よし! これで解散だがお前ら冊子を貰っただろ? 魔物図鑑の注釈は俺が書いたんだ。しっかり読んでから迷宮に挑むように」
「はい! 有り難う御座いました」
実技教習が終わり解散となった。
皆が建物の中に入りロビーへ移動していると「ルナ!」 とレームが名前を呼んだ。
ルナは嬉々としてレームに駆け寄ると探索者カードを見せつける。
「じゃぁーん! レーム見て見て」
「おお凄いじゃないか。おめでとうルナ」
「有り難う!」 ルナは嬉しそうに冊子を見せ講習の話をしようとする。
「嬢ちゃんのツレがまさかあんただとはな。レームさん」
そんな二人の間にアランドロが口を挟んだ。
「アランドロ...そうか君が教習の担当だったのか。久しぶりだね」
レームの挨拶を無視して「チッ」と舌打ちをしてレームに肩を当てて横を通る。
「嬢ちゃん。この人は辞めときな」
そう一言ルナに向かって言った後アランドロはロビーへと消えて行った。
ルナの頬がどんどん膨らんでいき目付きが険しくなっていく。
「何あれ! なんなの!」
声を張り上げアランドロを追い掛けようとするルナをレームが止めた。
「いいんだルナ。悪いのは俺さ。これから少しずつ評価を変えていけば良い。だからそんな顔をするな」
未だ険しい表情のルナにレームは笑い掛ける。
「絶対見返してやろうね! ふん!」
その後も「良い人だと思ったのに!」 と怒りを露わにするご機嫌ナナメのルナに後ろから一部始終を見ていたミネアが声を掛ける。
「お取り込み中悪いんだけど...私達はもう帰るから、これ。良かったら今度ランチでも一緒に行きましょ」
ミネアが頬を赤らめ素っ気ない態度で渡してきたメモを受け取る。
メモの中身は【トライデント】の宿泊先の住所と謎の文字列が書かれていた。
そんなミネアの様子にルナの機嫌が反転し目が嬉しそうに綻んだ。
「有り難うミネア! 絶対会いに行くね!」
じゃれ合いながら進む少女達の後ろを、微笑ましく眺めるレーム。さらにその後ろからげんなりと疲れた表情の少年二人がロビーへ向かい歩いて行く。
こうして新たに四人の白の探索者が産声を上げた。
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