オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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ルナの探索者日誌① ルナと雛鳥達のカルテット

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 レアールの街のメイン通りから外れた道に建てられた教会は、建物自体は何棟かの集合の為横に長い作りになっている。

「失礼しまーす」

 四人は恐る恐る古びた教会の扉を開けると、キィィっと音が鳴る。
 中の礼拝堂はどこかカビ臭く、ステンドグラスの窓から注がれる日の光に照らされ七色に輝く女神像の神秘的な様相に、四人には自分達がどこか場違い感を思わせた。

 礼拝に来た年配の女性が長椅子に座りうつらうつらしており、四人に気付いた神父がこちらに手招きした。

「あっ! お医者様の先生!」

 思わず大声をだしてしまったルナに、トライデントの三人が慌てて静かにするように合図を送り、ルナは口を両手で塞いだ。

「ほっほっ。こっちが本業じゃよ。今日はどうしたのかの?」

「あのぉこの依頼を受けて来たんですけど」

「おや、助かるよ。ありがとう。ちょっと待ってくれるかい」

 「おーい」と呼ぶ声が奥の通路から聞こえると、パタパタとスリッパの音が近付いて来る。

「あらあらまぁまぁ。坊や達が依頼を受けてくれたのね? 助かるワン」

 看護婦姿の獣人ビスティアのハナが小走りでやって来ると「こっちだワン」と礼拝堂から伸びる廊下の奥へ案内してくれた。 
 離れで繋がっていたレームとトシゾウもお世話になった治療院の扉の前を通り、子供の声が響いている奥の通路へ差し掛かる。

「ママ先生! その人達だぁれ?」

 赤いリボンをつけた少女が扉から顔だけを出してハナに声を掛けた。

「あら、ライラ。この方達はお手伝いの探索者さんだワン」

 少女はハナの言葉に「きゃぁーやだー!」と楽し気に扉の奥へと駆け出した。

「かっわいい!」

「嫌われちゃったわね」

 ルナが手を頬に当てミネアが肩を竦める。
ハナによって奥の倉庫に案内されると、中は広く沢山の木箱等がある。
隅にあった清掃用具を皆で運ぶ。

「それでは早速で悪いのだけど、このペンキをお願いするワン」

 四人は二手に別れて作業をする事にした。

~リガルとトシゾウの屋根班~

「さっさと終わちまおうぜ」

「同感でござる」

 身体の痛みに耐えながらも洗剤の入ったバケツを持って梯子を上がる。

「あぁこりゃひでぇな。俺は結構得意だぜ」

 リガルが服とズボンを捲りバンダナで髪をまとめると、同じようにトシゾウも衣服を捲る。

「初めは何をすればいいでござるか?」

「えーっと、取り敢えず全部汚れを落とさないと駄目だろうな」

 二人はせっせと洗剤を撒いた後、デッキブラシを握りしめ作業に取り掛かるのであった。

~ルナとミネアの清掃班~

「うっわぁ女神様の像も結構汚れてるわね」

「ステンドグラスも凄い汚い」

 少年達と同じように腕まくりをした二人は、泡立ったスポンジを握りしめ戦場へと立ち向かうのだった。
 数時間後、日が高くなりステンドグラスから注がれる日差しが強まると、礼拝堂の温度が上がり二人の額には汗が滲む。

「大分綺麗になったわね。本っ当疲れたわ。教習も合わせて下半身が死んだわ」

 セシリアから貰った鎮痛剤は朝にトライデントにあげた分で全てだ。

「きつかったぁ。でも綺麗になるを見るのは楽しいね!」

「あんたは何をしても楽しめていいわよねぇ。これが探索者の仕事って言うんだからなんだかなぁって感じ」

「ははは、でも黒級になるには依頼をいっぱいしないといけないんでしょ? 頑張ろー!」

---------

「兄ちゃん達大丈夫か?」

床で項垂れるリガルの後頭部を木の枝で突く少年達。

「あぁ? おいガキ共、ハナさんを呼んできてくれるか?」

「いいぞ! ママ先生~」

 少年が声を張り上げて駆けて行く。

「もう、、、動けねぇわ」

「拙者もでござる。屋根の上は暑すぎて焼け死ぬかと思ったでござる」

 少ししてハナが駆けて来た。

「まあまあ。これは素晴らしいですワン。有難う御座いました」

 ハナが綺麗に白く塗られた屋根を見て感嘆の声を上げる。

「どうぞ中でお昼ご飯でも一緒に如何ですワン?」

 了承して皆で中に入ると、部屋の中には達成感に包まれたルナとミネアがおり、数人の幼い少女に囲まれ雑談していた。

「ほっほっほ。助かったよ。大したもんじゃ」

 礼拝堂の方から歩いて来たテレジが嬉しそうに褒め、全員が揃った事で皆が食卓についた。
 テーブルに並べられたのは新鮮な生野菜とスープ、そして中央に盛られた麦のパンだ。
 野菜は子供達が世話をしている畑が裏庭にあるそうでそこで採れた物を、よく見ると大小様々な形の野菜は子供達が切った物だろう。

「「頂きまーす」」

 十数名の子供達の笑い声と騒ぎ声が飛び交う昼食が始まった。

「なぁなぁ兄ちゃん達の冒険話を聞かせてくれよ」

 聞かれたリガルも正直迷宮に一度潜ったくらいだ。
 その上その一度目はトラウマレベルの死地を潜った探索となったため自慢出来る事がない。が、

「仕方がねぇなぁガキ共。俺達はあの牙鼠の巣窟の攻略の日にあの場にいた探索者だぜ?」

 ニヤリと口角を上げるリガルの発言にその場は子供達の歓声に包まれたのだった。

「お姉ちゃん。迷宮は怖くないの?」

 はしゃぐ男の子達とは離れ、赤いリボンのライラがルナに小声で聞いた。

「すっごい怖いよぅ。怖い魔物もいっぱい出るし」

 ライラは怯えたような表情を作る。

「じゃあ、なんで探索者になったの?」

「んーそうだねぇ。私の場合はちょっと特殊なんだけど、私の恩人の人がいてね。その人が探索者なんだけど、いーっぱい色んな楽しい物を教えてくれたの! だからかな?」

 ルナの「にしししし」と笑う笑顔に頬を赤く染めたライラはもじもじしながらルナに質問した。

「あちしはライラっていうの。お姉ちゃんのお名前を教えてくれる?」

「もちろん! 私はルナ、宜しくねライラ!」

 ライラの口元のスープを拭いてあげた後、小さな手と握手をした。
 食事が終わりハナとテレジより完遂のサインを依頼票へと貰う、リガルが「戻るか」と言うと孤児院の皆も外まで見送ってくれた。

「ばいばいルナお姉ちゃん。絶対また来てね」

「うん! 絶対また来るね」

 ライラと手を振り合って一行は報告の為にギルドへ戻るのであった。

---------

「はい確かに。お疲れ様でした。それでは報酬の六百ダリーで御座います。ご確認下さい」

 リガルは受付嬢から報酬を受け取ると、仲間が待っているロビーの椅子へと戻る。
 リガルから報酬を受け取ったミネアはルナの手に銀貨一枚と大銅貨五枚を手渡した。
 四人の顔が嬉しそうに綻んだ。

「初めての報酬かぁ。すっげぇ嬉しいもんだな」
「苦労した甲斐があったでござる」
「まさかたった百五十ダリーがこんなに嬉しいなんて思ってもみなかったわね」
「にししししし。レームに自慢しよっと!」

 ルナは当然初の依頼だが、トライデントも初めて受けた牙鼠の肉の採取依頼は失敗している為、探索者パーティーとしては初めての報酬である。 
 ルナは大事そうにログワーズ商会で購入したお財布に入れ、一緒に購入した腰巻の探索者専用ポーチにしまう。
 ミネアは集めた四百五十ダリーをしまった後、家計簿を取り出して収支の書き込みをしていた。

「ルナは今日この後どうするんだ?」

「ふっふっふー。明日からレームが領主様の街に行っちゃうから今日はセシリアも一緒にレームのお見送り会をするんだよー。でもコミュでは伝えてるけどレームにちゃんとヤナ師匠の事をお話しないとだからこれから待ち合わせてるの」

 「おじ様に会いたいわ」とうっとりとするミネアの隣でリガルがルナに声を掛ける。

「ルナ、ちょっと頼みがあるんだけど、レームさんに俺らのレーマーになってくれねぇか頼めないかな? 出来れば一緒に行ってお願いしたいんだけど」

 「ほへ?」と一瞬きょとんとするも「ちょっと待ってね」とコミュを取り出す。

「いやいやいきなりコミュでかよっ! 失礼なやつとか思われねぇかな」

 とそわそわするリガルとトシゾウ。
 レームからの返信は直ぐに来て、ルナは画面を三人に見せた。

〖俺で良ければ力になるよ。宜しくと伝えておいて〗レームtoルナ

 ロビーで歓喜に沸いた三人を楽し気にルナは見つめて笑うのだった。
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