スイート・パルファム

天汐香弓

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衝撃の出会い

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ゴールデンウィークが終わり久しぶりの学校を面倒だなと思いながらいつものように辺見優は電車を待っていた。
くっきりした目鼻立ちと癖の残る黒髪、気怠げにしているが整った容貌の優をチラチラと見ながら人が通り過ぎていく。
「はぁ……」
人に見られることが苦手な優にとって人の多いこの駅のホームは苦手だった。
音楽でも聴くかとイヤホンを出すためポケットに手を伸ばそうとした時だった。
「あの……」
突然サラリーマン風の男性に声をかけられ顔を上げると、男に手を掴まれた。
「いつもあなたを見てました。付き合ってもらえませんか?」
「は?」
男の言葉の意味が飲み込めず目を丸くした優に男が顔を寄せる。
「遠くで見ていても美しいと思っていましたけど、近くで見るとますます美しい」
「や、あの……」
「性別なら気にしていません。あなたという存在に心を奪われたのです」
目を輝かせ喋る男に困惑していると突然グッと背後から抱き寄せられた。
「おい、俺の恋人になんで手を出してんの」
品のいい香水の香りが鼻を擽り、思わず振り向くと、背の高いスーツ姿の男が目配せをした。
「えっ、恋人……」
「早く失せろ!」
男の恫喝に手を握っていた男が逃げ去ると、男が優の肩を抱いた。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます。あの……」
「このまま恋人のフリ、続けて」
耳元で囁かれた声に戸惑いつつ頷くと男が名刺を見せた。
「か、和真さんが来てくれて良かった」
「君のためならこれくらい」
ニッコリと笑った男が名刺を胸ポケットに入れると肩から手を離した。
「ええと、ほんと助かりました」
「お礼は一度でいいよ。それより」
和真が言いかけた時電車がホームに滑り込んできた。
無言で電車に乗り込み再び和真と体が近くなると品の良い香水が鼻腔を擽り思わずうっとりと目を閉じた。
「いい匂いですね」
「好きか」
「はい」
顔をあげ頷くと和真がふっと笑みを浮かべた。
「それじゃ、これをやるよ」
鞄を開き小さな箱を取り出すと優の手に乗せた。
「えっ、でも……」
「恋人にプレゼントを贈るのに理由はいらないだろう?」
いたずらっぽい笑みを浮かべられ優が頷いた。
「あ、ありがとうございます」
鞄に小箱を仕舞うと、また無言の時間が過ぎていく。
俯き和真の前に立ちながら何か話さなければと思っていると高校の最寄り駅についた。
「し、失礼します」
そう言って急いで電車を降りて、振り向くとドアが閉まり和真の姿は見えなくなっていた。
胸ポケットから名刺を出す。株式会社ナイトトワレ、社長取締役進藤和真そう書かれた名刺に社長なのだと気づいた。
まだ三十代ぐらいに見えた和真の精悍な顔立ちを思い出し優は息を吐いた。
「すごい人はやっぱりすごいんだな」
胸ポケットに名刺を戻すと高校に向かうため改札へと向かう。
電車が通り過ぎて時間が経っていたこともあり周囲に人のいないまま改札をくぐると高校へ向かう道を歩く。後で名刺に書かれていたメールにお礼のメッセージを送ろうと思ったのだった。
「辺見、朝は大変だったな」
教室に入るとクラスメイトにそう声をかけられ優が眉を顰めた。
「見てたのか」
「見てた上級生が動画撮ってあげててさ、それで見た」
「また趣味の悪い……」
ため息をついて鞄を机に置くと話しかけてきた杉田の方を向いた。
「あんまり広めるなよ」
「まあ、辺見が目立ちたくないのは知ってるけどさ、もううちの学校の中では無理だと思うぜ」
「煩い」
ドカッと椅子に腰を下ろして睨みつけた優に杉田が「なあなあ」と声をかけた。
「それより部活はどこにするか決めたのか?」
一年生は五月から入部届を出すことが出来ることになっていたが、四月の段階から毎日のように色々な部活からマネージャ―になって欲しいと懇願されていた優は首を横に振った。
「入らないよ」
「なんで!あんなに勧誘されてたじゃん」
「それは向こうが勝手に……」
そう言いかけたところでチャイムがなり各自席につく。
憂鬱な一日になりそうだ。そんなことを思いながら教科書を取り出した。
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