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搾取子という立場
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授業は明日からということもあり、前の住人の残したトイレットペーパーが無くなりそうなので買い物をし、ついでに激安の袋麺を買って帰路についた。
夕方過ぎ、バイトに行くと初日ということで、簡単な接客をさせてもらった。
バイト先はラーメン屋で〆に飲むようなところらしく、券売機で購入したものを受け取って厨房に伝えてそれを運んだり片付けたりだった。
9時頃「今日は上がっていいよ」と言って店主がラーメンを出してくれた。
「うわー、俺、店で食べるのはじめてです」
そう言って一口啜ると、店主が面白そうな顔をした。
「外で食事をしたことないのか」
「はい。いつもお父さんとお母さんとお兄ちゃんが食べに行くときはカップラーメンが置いてて……ていうか元々俺の食事ってカップラーメンだったんですけどね」
そう言うと店主の顔が強張ったかと思うと泣き出した。
「不破君、苦労したな。バイトでいっぱい稼いで美味しいもの食べに行かないとな」
「はい」
ラーメンのスープがカップラーメンや袋ラーメンとは全く違ってて、あまりにも美味しくて汁まで飲み干すと店主がグッと親指を立てたので俺も親指を立てた。
「ほんと美味しかったです!」
「じゃあ明日も来てくれよ」
「はい。失礼します」
頭を下げて店を出ると部屋に戻る。
美味しいラーメン、お客さんも店主もいい人で、この土地に来て良かったと思いながらドアを開けると、敷きっぱなしの布団の近くにパジャマ姿の女の人が立っていた。
「あ、ごめんなさい。ずっと通れなくて困ってたんでしょ?」
俺の問いかけに女の人は首を横に振った。
『どうしてこんなとこに住んでるの?』
「あー、俺さ、親に嫌われてて大学に通うのだけがやっとでさ。祖父母に住むとことかのお金を出してもらったから、安いとこって」
『あなたも親に邪険にされてたんだ』
女の人はすごく冷静でそう言うと大きなため息をついた。
「お姉さんも無視されたり怒られたりしたの?」
『親が離婚するまでは普通だったわ。普通に高校行って、でも父が浮気して母に引き取られてから一気に変わったの』
女の人はそこまで言ってまた息を吐いた。
『母は酒浸りになり、酒代を稼ぐためパチンコにハマってそこで出会った人を新しく住み始めたアパートに連れてきたの』
「え……お姉さんに言わずに」
『ええ、一言も言わず。男は私を見て言ったの。若い方が売れる。俺がオンナにしてやるって』
意味が分かって息を飲んだ俺に対して女の人は冷静だった。ううん、諦めた目をしていた。
『次の日から名前も年も偽って店に出されたわ。昼はおっさんたちが店に来てデートするオンナノコを指名する店、夜はデリヘル。給料だけじゃなくてチップも男に奪われた。そうして二人は食べて飲んで稼ぎをパチンコにつぎ込むの』
「酷い……」
『デートしてるパパたちには安いとこでいいからご飯食べよ。そしたらホテルまでいいからって言ってファミレスで食べさせてもらって、それでどうにかなってたの』
食べるものもないなんて本当に辛かったと思う。
頷いて話の続きを促すと、女の人は話しを続けた。
『でも二十歳になると制服着ても年バレして、昼デリ、夜はキャバに……』
「ずっと働いてる……」
『うん。キャバは話が出来ないと相手が勤まらないの。でも世の中のことも知らないし、誰が総理大臣かも知らないから客と話が出来なくて、頷くしかないブスは価値がないじゃない?』
「お姉さん美人ですよ!」
俺が声を大にして言うと女の人が笑った。
『スレてなくてエライわ。ずっとそのままでいてね』
「お姉さんがそう言うなら。じゃあご飯はどうしたんですか?」
『当然食べれないわよ。連れて行ってくれるような客はいないし、そのうちにね、梅毒にかかってたことが分かったの』
「あ……学校で習った。だから男はコンドームつける義務があるって。お姉さんつけて貰えなかったの?」
『つけずにするとお金払いがいい人もいるのよ。でもね、梅毒になった私は店に出られなくなってデリの店もクビで……病院に行くお金があれば母親とオトコがパチンコと酒につぎ込むからさ』
投げやりな言い方にこの人は俺よりずっと親に虐げられてたんだなと思った。
『搾取子って知ってる?』
「サクシュ……搾り取られる子どもってことですか?」
俺がそう答えると女の人はニコッと笑った。
『私は搾取子なの。お金を作れなかったらそれで終わり。食べさせてもらえず水ももらえずオトコのサンドバックにされたわ』
言葉も出なかった。酷い労働をさせて、こんな風にやつれて力のないこの人を見ているとどうにも出来ない自分が嫌で涙が溢れてきた。
『やだ、泣いてるの?』
「だって何もしてあげられなくて……」
『話を聞いてくれてありがとう。でもあなたも気をつけて。私の周りにも搾取子はいたの。みんな親から構ってもらえなくて、給料差し出す時にだけ可愛がって支配する、そんな卑劣な親もいるんだから』
「分かりました。気をつけます」
『うん、健全な青少年をひとり救えたと思ったら、胸のつっかえが取れたわ』
笑顔になった女の人はゆっくりと消えていった。
「サクシュか……」
就職は絶対にここでしよう。そう誓うとシャワーを浴びるため洗面所へ向かった。
夕方過ぎ、バイトに行くと初日ということで、簡単な接客をさせてもらった。
バイト先はラーメン屋で〆に飲むようなところらしく、券売機で購入したものを受け取って厨房に伝えてそれを運んだり片付けたりだった。
9時頃「今日は上がっていいよ」と言って店主がラーメンを出してくれた。
「うわー、俺、店で食べるのはじめてです」
そう言って一口啜ると、店主が面白そうな顔をした。
「外で食事をしたことないのか」
「はい。いつもお父さんとお母さんとお兄ちゃんが食べに行くときはカップラーメンが置いてて……ていうか元々俺の食事ってカップラーメンだったんですけどね」
そう言うと店主の顔が強張ったかと思うと泣き出した。
「不破君、苦労したな。バイトでいっぱい稼いで美味しいもの食べに行かないとな」
「はい」
ラーメンのスープがカップラーメンや袋ラーメンとは全く違ってて、あまりにも美味しくて汁まで飲み干すと店主がグッと親指を立てたので俺も親指を立てた。
「ほんと美味しかったです!」
「じゃあ明日も来てくれよ」
「はい。失礼します」
頭を下げて店を出ると部屋に戻る。
美味しいラーメン、お客さんも店主もいい人で、この土地に来て良かったと思いながらドアを開けると、敷きっぱなしの布団の近くにパジャマ姿の女の人が立っていた。
「あ、ごめんなさい。ずっと通れなくて困ってたんでしょ?」
俺の問いかけに女の人は首を横に振った。
『どうしてこんなとこに住んでるの?』
「あー、俺さ、親に嫌われてて大学に通うのだけがやっとでさ。祖父母に住むとことかのお金を出してもらったから、安いとこって」
『あなたも親に邪険にされてたんだ』
女の人はすごく冷静でそう言うと大きなため息をついた。
「お姉さんも無視されたり怒られたりしたの?」
『親が離婚するまでは普通だったわ。普通に高校行って、でも父が浮気して母に引き取られてから一気に変わったの』
女の人はそこまで言ってまた息を吐いた。
『母は酒浸りになり、酒代を稼ぐためパチンコにハマってそこで出会った人を新しく住み始めたアパートに連れてきたの』
「え……お姉さんに言わずに」
『ええ、一言も言わず。男は私を見て言ったの。若い方が売れる。俺がオンナにしてやるって』
意味が分かって息を飲んだ俺に対して女の人は冷静だった。ううん、諦めた目をしていた。
『次の日から名前も年も偽って店に出されたわ。昼はおっさんたちが店に来てデートするオンナノコを指名する店、夜はデリヘル。給料だけじゃなくてチップも男に奪われた。そうして二人は食べて飲んで稼ぎをパチンコにつぎ込むの』
「酷い……」
『デートしてるパパたちには安いとこでいいからご飯食べよ。そしたらホテルまでいいからって言ってファミレスで食べさせてもらって、それでどうにかなってたの』
食べるものもないなんて本当に辛かったと思う。
頷いて話の続きを促すと、女の人は話しを続けた。
『でも二十歳になると制服着ても年バレして、昼デリ、夜はキャバに……』
「ずっと働いてる……」
『うん。キャバは話が出来ないと相手が勤まらないの。でも世の中のことも知らないし、誰が総理大臣かも知らないから客と話が出来なくて、頷くしかないブスは価値がないじゃない?』
「お姉さん美人ですよ!」
俺が声を大にして言うと女の人が笑った。
『スレてなくてエライわ。ずっとそのままでいてね』
「お姉さんがそう言うなら。じゃあご飯はどうしたんですか?」
『当然食べれないわよ。連れて行ってくれるような客はいないし、そのうちにね、梅毒にかかってたことが分かったの』
「あ……学校で習った。だから男はコンドームつける義務があるって。お姉さんつけて貰えなかったの?」
『つけずにするとお金払いがいい人もいるのよ。でもね、梅毒になった私は店に出られなくなってデリの店もクビで……病院に行くお金があれば母親とオトコがパチンコと酒につぎ込むからさ』
投げやりな言い方にこの人は俺よりずっと親に虐げられてたんだなと思った。
『搾取子って知ってる?』
「サクシュ……搾り取られる子どもってことですか?」
俺がそう答えると女の人はニコッと笑った。
『私は搾取子なの。お金を作れなかったらそれで終わり。食べさせてもらえず水ももらえずオトコのサンドバックにされたわ』
言葉も出なかった。酷い労働をさせて、こんな風にやつれて力のないこの人を見ているとどうにも出来ない自分が嫌で涙が溢れてきた。
『やだ、泣いてるの?』
「だって何もしてあげられなくて……」
『話を聞いてくれてありがとう。でもあなたも気をつけて。私の周りにも搾取子はいたの。みんな親から構ってもらえなくて、給料差し出す時にだけ可愛がって支配する、そんな卑劣な親もいるんだから』
「分かりました。気をつけます」
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