【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

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第二章 社畜と新しい彼女と親子仲のかたち

1.新しい彼女と新生活

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 俺と篠田が理瀬のタワーマンションでシェアハウスをする話は、あっけないほど簡単に進んだ。

 理瀬は、俺が『篠田と家庭を築く』ことに本気になれるかどうか試すと言っていたが、流石にそれを篠田へ話す訳にはいかない。だから単純に「母親が海外勤務で、親代わりの大人がほしい」と説明。もともと理瀬と打ち解けていた篠田は、あっさり承諾してくれた。

 引っ越しは簡単に終わったが、篠田は会社の女子寮を出て俺と同棲することになったので、その過程で会社の連中に俺と篠田の同交際がバレた。

 俺の賃貸住宅と違って、女子寮は管理人がいるから毎日帰らないと不審に思われる。そこで篠田は正式に女子寮を退寮し、俺のアパートに住民票を移した。そこは正直どうするか迷ったのだが、豊洲のタワーマンションに住むのは収入的に無理なので、俺のアパートが広めの1LDK(実際にはクソ狭い1Kだ)だという設定にして、俺の家に住民票を移させた。

 住所の変更は、事務手続きで上司にバレる。

 俺と篠田の共通の上司である館山課長はそれなりにいい人で、俺含め同僚からの信頼もある。ただ、何というか、いかにも中年おじさんである。細身で中年太りはしていないが、髪が薄い。どういうわけか、ハゲは残った頭髪をとても大事にする。館山課長の髪はヘンな残り方をしていて、女性社員からは『ナスカの地上絵』、略してナスカ、それが転じてナス課長と呼ばれている。誰が言い出したのかは知らないが、そう言われると本当にナスカの地上絵に見えるくらいヘンな髪型だ。

 俺が十代ならそのあだ名を女性社員と一緒に使うところだが、もはや自分の頭髪の薄さを気にする年齢になってしまい(俺もあからさまなハゲではないが、学生時代よりは薄くなった)、他の男性社員とともに、館山課長を哀れんでいる。


「あの、篠田くん、この住所って……」


 館山課長は篠田が住所変更届を出した時、おどおどしながらそう答えた。館山課長はその意味をわかっていたと思うが、ちょっとでもヘンな発言をすればセクハラ認定される今の世の中、館山課長からはなかなか言い出せないのだ。


「はい。実は私、ちょっと前から宮本さんとお付き合いしています」


 篠田はそんな館山課長とは対照的に、堂々とそう宣言した。

 周囲のデスクの社員にも聞こえる大きな声で、一瞬「おおっ」という歓声が湧いたほどだ。


「……おお! そーうだったのかい! いやね、君たちはいいコンビだと思っていたんだ、仕事が増えてもこなしてるし、この間の修羅場も二人でくぐり抜けたし、いつかこういう日がくるとは思っていたんだよ! ははは、今度飲み会でもしよう、な!」


 館山課長は素直に喜んでいた。

 その後開かれた俺と篠田の交際記念飲み会で館山課長といろいろ話した。社内恋愛はいろいろ問題も多いが、順調に結婚すればその後の離職率が下がる傾向にある(うちの会社は育休制度が充実していて、女性も寿退社せず会社に残る場合がほとんど)らしい。もっとも、その後館山課長がひっそりと呟いた、


「同じ課で結婚すれば、久しぶりに結婚式へ呼んでくれるかもしれないからなあ」


 という言葉のほうが本音だったのかもしれない。

 何はともあれ、俺と篠田は上司を含めて会社の公認カップルとなった。

 あとは先輩と後輩という関係を捨て去り、この先どうやって篠田とやっていくか。

 ――理瀬にああいうことを言われた俺にとっては、とても重い課題だった。


* * *


 理瀬のタワーマンションは3LDKで、三部屋あるうち一部屋が理瀬の寝室、もう二部屋が空き部屋だった。

 空き部屋のうち一つは、海外勤務中の理瀬の母親用の部屋で、俺はこの部屋を使っていた。ベッドやクローゼットなど、家具が揃っていたからだ。

 だから篠田の部屋は、もう一つの空き部屋でいいと思っていたのだが、それを理瀬に話すと、


「篠田さんと付き合ってるんですよね? 同じ部屋で寝るんじゃないんですか」

「付き合っててもプライベートは大事だぞ。毎晩いちゃいちゃする歳でもないし」

「……夏休みにお母さんが一度帰ってくるので、宮本さんは篠田さんとあっちの部屋で寝てください」


 と言われ、俺と篠田はそれぞれの家具を空き部屋に持ち込み、そこで過ごすことになった。

 俺としては、篠田と同じ部屋で寝ていたらそこで何かが起こっているのは確実だから、それを気にするのではないかと思って理瀬に気を使ったつもりだった。だが逆に理瀬からカップルで別室はよくない、と気を使われてしまったようだ。気の使い合いだ。

 そんなわけで、俺と篠田の同棲が始まる。

 大学時代、俺は高校からの付き合いだった薬王寺照子と半同棲状態だった。その時は俺が照子の家に泊まることも、その逆もあった。同棲をやめてお互い一人で過ごすこともあった。

 だから一室だけで、お互いに逃れられない同棲は初めてのことだった。

 俺はまだいいが、篠田はこれまで男と付き合ったことがないらしい。デートすらろくにしたことがないというのに、いきなり男と同じ部屋で寝るなんてハードルが高いだろう。

 そう思って、最初の数日は俺が気を使った。俺はほとんどリビングにいて、篠田の着替えや化粧をしているところは目に入らないようにした。ベッドはお互いのシングルベッドを並べたので、近いとはいえそれなりの距離を保っている。幸いなことに、篠田はどんな状況だろうと夜の十二時を過ぎると眠気に勝てなくなるので、近くに男がいるから緊張して眠れない、ということもなかった。

 お互いが気を使いあう同棲生活が一週間続き、はじめての休日を迎えたころ。

 俺と篠田は、リビングのソファに座ってぼーっとテレビの野球中継を見ていた。篠田は野球好きで、なぜか楽天ファンだった。俺は推しの球団を決めていないが、野球なんてどんな試合でも見どころがあるもの。ぼーっと見るには最高だ。

 理瀬は部屋でなにかしていて、時々出てきては「野球そんなに面白いですか?」と言っていた。あまりスポーツに興味を持っていないらしい。

 楽天がソフトバンクに大差をつけられ、八回を迎える。楽天投手陣はもう五人目。もはやドラマは起こりそうになく、ふたりとも集中が切れている。


「あの……宮本さん、私にすごく遠慮してますよね」


 篠田がぽつりと言った。

 まずい、と俺は思う。男性経験のない篠田に嫌がられないよう、あまり近づかずにこれまで過ごしてきた。だがあまりに距離を置くと「本当に私のことが好きなの?」と言われかねない。というのは大昔、高校生の頃に照子と付き合った時の記憶だ。照子の告白で付き合い始めたが、気恥ずかしかった俺は照子と一緒に帰ることすらせず、バンド活動以外ではむしろ避けていた。そのせいで照子は随分、気をもんでいたらしい。昔の話だが。

 

「そうか?」

「もっと、こう……突然襲ってきたり、したくならないんですか?」


 もちろん俺だって、隣で無防備にいる篠田を見ると、男としていろいろな気持ちがこみ上げてくる。だが篠田が俺を受け入れてくれるかどうか、まだ自信がなかった。


「したいときも、なくはない」

「私、男の人と付き合ったことないんで、どうしたらいいかよくわからないんですけど……もうちょっと近くに寄ってもいいですか?」


 俺と篠田が一緒に座る時、握りこぶし一つくらいの隙間が空いていた。


「許可なんかとる必要ないから」

「そ、そうですか、じゃあ……」


 篠田はそのわずかな隙間を埋め、ぴと、っと俺の肩にもたれかかった。


「宮本さんの肩、かたいですね……」


 大人の男の体を触るのは、篠田にとって初めてのこと。篠田は気持ちよさそうに、俺の肩へ何度も頬ずりしていた。

 このままくっつけなかったらどうしよう、と心配しはじめていた俺は、少し安心する。

 ……と思っていたら、理瀬の部屋の扉が開いた。


「!!」


 俺はされるがままだったが、篠田はその気配を察知して飛び退いた。その一連の動きは、理瀬に完全に見られていた。


「あの……」

「ど、どしたの理瀬ちゃん、勉強疲れた? 紅茶でも淹れよっか?」

「私のためにこの家で住んでくれるのはありがたいですけど、できればそういうのは自分の部屋でやってほしいんですよ……」

「ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」


 こういう時どんな顔すればいいかわからない状態の篠田は、年下の理瀬にえらく縮こまって謝罪していた。俺はいつかこうなると思っていたし、あまり驚かなかったのだが。


「へ、部屋に行きましょっか?」


 上ずった声で俺に言う篠田。この気まずい状況から逃げ出したいらしい。


「いや、二人ともここへ居てください」

「えっ、なんで?」

「大事な話があるんです」


 理瀬はおもむろに、俺たちとは別のソファに座った。あまり表情を見せず、冷徹なイメージのある理瀬。この時は、いつもに増して深刻そうで、ちょっと怖い顔をしていた。


「明日、私のお母さんが日本に帰ってきます」


 全く予想していなかった言葉に、俺と篠田は凍りついてしまった。
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