【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
45 / 129
第三章 社畜と昔の彼女と素直になるということ

4.社畜昔ばなし ③バンド

しおりを挟む


 合唱部の活動が中だるみしていた九月から十二月にかけて、俺は女子とまともに喋れるようになった。コンクールという熱い目標が消え、ピリピリした空気が消えたからか、お互いのことを知りたくなってきたのだ。

 女子たちと雑談する中で、照子がチャットモンチーのファンだということを知った。

 チャットモンチーは全員徳島県出身のバンド。当時は曲に徳島県民感があるという訳ではなく、むしろ東京に出ていった地方の人間という観点のほうが強かった。


「俺もチャットモンチー聞いてるよ」

「えっ、宮本くんも?」


 俺が何気なくそう言った瞬間、照子は目を輝かせた。


「『恋愛スピリッツ』が一番好きなんやけど」

「えー、意外! でもわかる。うちもめっちゃ好き」


『恋愛スピリッツ』はボーカルの橋本絵莉子が高校時代に書いたラブレターをそのまま歌にしたもので、繰り返される同じメロディが妙な生々しさと説得力をもって伝わってくる名曲だ。内容は好きな男が他の女に惹かれていることを嘆くもので、どうやったらあんなラブレターを高校時代に書けるのか、と今でも思っている。

 しばらくの間、照子とはよくチャットモンチーの話をした。当時活動を始めて間もないバンドだったから、最新情報を交換するだけでもかなり話が長くなった。照子は機械音痴でインターネットをうまく使えなかった(当時はまだガラケーしかなかった)ので、よく俺に聞いてきたのだ。

 俺は当時の最新兵器だったiPodを持っていたので、照子と一緒に聞いたりした。同じイヤホンを片耳ずつに指し、肩が触れ合うくらいの距離になったときは流石に緊張した。


「はあー。うちもバンドしてみたいわ。ほんまは軽音楽部入りたかったんやけど」


 照子はよくそう言った。うちの高校に軽音楽部はなく、バンドをやりたい高校生は自分たちでライブハウスに出入りしていた。それは高校公認の『部活動』とは違うので、自分とは違う世界の話だと思っていた。


「バンドもやってみたいけどな」


 ある時、俺はそう答えた。合唱や吹奏楽にハマった高校生は、Jポップのことをちゃらちゃらした軽薄な音楽だと馬鹿にしがちだが、俺にそういう気持ちはなかった。好きなものは素直に好きだと言っていた。


「え、ほんま?」

「まあ俺楽器できんし、『メンバー募集!当方ボーカル』は恥ずかしいけん無理やな」

「ええやん、宮本くん歌上手いんやから」

「薬王寺さんは何するん?」

「ドラム!」

「あれ、ピアノ習っとんだろ? キーボードとちゃうん?」

「あれはまた別物やけんなあ。ドラムが一番かっこいいわ」


 そう言って照子は音楽室の隅にあったドラムに座り、きれいにエイトビートを叩き始めた。


「ドラムできるんじゃ」

「ピアノしよるけん、これくらいはできるわ」


 俺にとって楽器は未知の世界なので、その時は簡単にドラムを叩ける照子を天才だと思った。

 ピアノは全ての西洋音楽の基礎で、ピアノの楽譜が読めればオーケストラのスコアも含めて全ての楽譜が読める。楽譜が読めるということは、音を頭の中で組み立てられるということ。照子にとってそれは簡単なことだった。当時から、照子は音楽の才能があったのだ。


「そういや、薬王寺さんのクラスの赤坂さん、バンドしよるらしいぞ」

「えっ、ほんま? うち赤坂さんとたまに話すけど、初めて聞いたわ」

「この前、駅前でベース背負って歩きよるところ見たわ」

「今度、話聞いてみるわ」


 俺はこの時、バンドをやるなら赤坂さんとやればいいじゃないか、という意味で言った。この数ヶ月後、俺がバンドのボーカルをやる事になるとは、夢にも思っていなかった。


** *


照子は俺の知らないところで赤坂さんと仲良くなり、他にも楽器ができそうな女の子を集めてバンドをやりたい、と言い出した。

 いきなりライブハウスで演奏しようという訳ではなく、スタジオに集まってみんなで演奏してみよう、という趣旨で始まった。この時はまだお遊びだった。

 ボーカルの俺、ベースの赤坂涼子、ドラムの照子意外にギターとキーボードの二人いて、両方とも女の子だった。顔も名前も覚えているが、今語るべきことではない。俺、赤坂さん、照子の三人以外は、この後も続くバンド活動で入れ替わりが激しかった。

 赤坂さんはバンド活動に熱心だった。部活をせず(本当は部活強制なのだが、幽霊部員でも大半は黙認された)、学校以外の時間はひたすらベースと向き合っていた。ストイックなタイプの音楽家だった。ボーイッシュですごく細身の身体には、女子ながら独特のハンサム感があり、それでバンドギャルだと言われると説得力があった。


「歌が得意な子おらんからギターボーカルにしとんやけど、いまいちしっくりこんかったんよな」


 俺と初めて話した時、赤坂さんはいきなりバンドの中身について言った。そこには男子と女子の隔たりはなく、ただバンド活動を追求する赤坂さんの姿勢があった。相手が誰だろうが、バンドの事しか考えていない。そういう女の子と話をするのは、僕にとって刺激的だった。

 俺と照子がゲストだったので、チャットモンチーの好きな歌を軽く演奏した。照子と赤坂さんは初見で難なく引けた。ギターとキーボードの子はついていけてなかったが、雰囲気は出せた。高校生の出来合いバンドではそれでも上々なのだが。

 

「……なんか、もっと好きなように歌えるんちゃう?」


 演奏が終わった後、赤坂さんが俺に言った。俺の歌い方は合唱の発声法に固執していて、正確だが自由ではなかった。


「ふうん。ほなもう一回」


 俺は思い切って好きなように歌うことにした。合唱部で身につけたものはすべて無視し、家でCDを聞きながら歌う時のように。


「……宮本くん、すごい」


 赤坂さんは俺の歌を聞いて少し驚いていた。ギターとキーボードの女の子も同じだ。この時の俺は、クラスで大人しい俺がこんな風に歌えるなんて知らなかったから驚いているのだと思った。自分の才能が褒められるようなものだとは思っていなかった。

 照子は、驚く女の子たちと照れている俺を、にやにやしながら見ていた。


「次、この曲にしよう」


 赤坂さんは次から次へと、俺の知らない曲を出してきた。俺は初見で楽譜を読み、雰囲気を掴み取るのに精一杯だったが、何回か合わせたらなんとか形になった。


「すごい。ボーカルに引っ張られよる感じ、初めてじゃ。照子のドラムも安定しとるし」


 赤坂さんは初めてのセッションを気に入ったようで、その場で俺とメールアドレスを交換した。その後、何度も赤坂さんに誘われ、俺と照子はバンド活動を始めることになる。

 今思い出しても、不思議な出会いだった。合唱部に入るまでが必然的な流れだったとしても、照子とチャットモンチーの話をして、そこからバンド活動に手を広げたのは、青春時代の奇跡としか言いようがない。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...