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第三章 社畜と昔の彼女と素直になるということ
4.社畜昔ばなし ③バンド
しおりを挟む合唱部の活動が中だるみしていた九月から十二月にかけて、俺は女子とまともに喋れるようになった。コンクールという熱い目標が消え、ピリピリした空気が消えたからか、お互いのことを知りたくなってきたのだ。
女子たちと雑談する中で、照子がチャットモンチーのファンだということを知った。
チャットモンチーは全員徳島県出身のバンド。当時は曲に徳島県民感があるという訳ではなく、むしろ東京に出ていった地方の人間という観点のほうが強かった。
「俺もチャットモンチー聞いてるよ」
「えっ、宮本くんも?」
俺が何気なくそう言った瞬間、照子は目を輝かせた。
「『恋愛スピリッツ』が一番好きなんやけど」
「えー、意外! でもわかる。うちもめっちゃ好き」
『恋愛スピリッツ』はボーカルの橋本絵莉子が高校時代に書いたラブレターをそのまま歌にしたもので、繰り返される同じメロディが妙な生々しさと説得力をもって伝わってくる名曲だ。内容は好きな男が他の女に惹かれていることを嘆くもので、どうやったらあんなラブレターを高校時代に書けるのか、と今でも思っている。
しばらくの間、照子とはよくチャットモンチーの話をした。当時活動を始めて間もないバンドだったから、最新情報を交換するだけでもかなり話が長くなった。照子は機械音痴でインターネットをうまく使えなかった(当時はまだガラケーしかなかった)ので、よく俺に聞いてきたのだ。
俺は当時の最新兵器だったiPodを持っていたので、照子と一緒に聞いたりした。同じイヤホンを片耳ずつに指し、肩が触れ合うくらいの距離になったときは流石に緊張した。
「はあー。うちもバンドしてみたいわ。ほんまは軽音楽部入りたかったんやけど」
照子はよくそう言った。うちの高校に軽音楽部はなく、バンドをやりたい高校生は自分たちでライブハウスに出入りしていた。それは高校公認の『部活動』とは違うので、自分とは違う世界の話だと思っていた。
「バンドもやってみたいけどな」
ある時、俺はそう答えた。合唱や吹奏楽にハマった高校生は、Jポップのことをちゃらちゃらした軽薄な音楽だと馬鹿にしがちだが、俺にそういう気持ちはなかった。好きなものは素直に好きだと言っていた。
「え、ほんま?」
「まあ俺楽器できんし、『メンバー募集!当方ボーカル』は恥ずかしいけん無理やな」
「ええやん、宮本くん歌上手いんやから」
「薬王寺さんは何するん?」
「ドラム!」
「あれ、ピアノ習っとんだろ? キーボードとちゃうん?」
「あれはまた別物やけんなあ。ドラムが一番かっこいいわ」
そう言って照子は音楽室の隅にあったドラムに座り、きれいにエイトビートを叩き始めた。
「ドラムできるんじゃ」
「ピアノしよるけん、これくらいはできるわ」
俺にとって楽器は未知の世界なので、その時は簡単にドラムを叩ける照子を天才だと思った。
ピアノは全ての西洋音楽の基礎で、ピアノの楽譜が読めればオーケストラのスコアも含めて全ての楽譜が読める。楽譜が読めるということは、音を頭の中で組み立てられるということ。照子にとってそれは簡単なことだった。当時から、照子は音楽の才能があったのだ。
「そういや、薬王寺さんのクラスの赤坂さん、バンドしよるらしいぞ」
「えっ、ほんま? うち赤坂さんとたまに話すけど、初めて聞いたわ」
「この前、駅前でベース背負って歩きよるところ見たわ」
「今度、話聞いてみるわ」
俺はこの時、バンドをやるなら赤坂さんとやればいいじゃないか、という意味で言った。この数ヶ月後、俺がバンドのボーカルをやる事になるとは、夢にも思っていなかった。
** *
照子は俺の知らないところで赤坂さんと仲良くなり、他にも楽器ができそうな女の子を集めてバンドをやりたい、と言い出した。
いきなりライブハウスで演奏しようという訳ではなく、スタジオに集まってみんなで演奏してみよう、という趣旨で始まった。この時はまだお遊びだった。
ボーカルの俺、ベースの赤坂涼子、ドラムの照子意外にギターとキーボードの二人いて、両方とも女の子だった。顔も名前も覚えているが、今語るべきことではない。俺、赤坂さん、照子の三人以外は、この後も続くバンド活動で入れ替わりが激しかった。
赤坂さんはバンド活動に熱心だった。部活をせず(本当は部活強制なのだが、幽霊部員でも大半は黙認された)、学校以外の時間はひたすらベースと向き合っていた。ストイックなタイプの音楽家だった。ボーイッシュですごく細身の身体には、女子ながら独特のハンサム感があり、それでバンドギャルだと言われると説得力があった。
「歌が得意な子おらんからギターボーカルにしとんやけど、いまいちしっくりこんかったんよな」
俺と初めて話した時、赤坂さんはいきなりバンドの中身について言った。そこには男子と女子の隔たりはなく、ただバンド活動を追求する赤坂さんの姿勢があった。相手が誰だろうが、バンドの事しか考えていない。そういう女の子と話をするのは、僕にとって刺激的だった。
俺と照子がゲストだったので、チャットモンチーの好きな歌を軽く演奏した。照子と赤坂さんは初見で難なく引けた。ギターとキーボードの子はついていけてなかったが、雰囲気は出せた。高校生の出来合いバンドではそれでも上々なのだが。
「……なんか、もっと好きなように歌えるんちゃう?」
演奏が終わった後、赤坂さんが俺に言った。俺の歌い方は合唱の発声法に固執していて、正確だが自由ではなかった。
「ふうん。ほなもう一回」
俺は思い切って好きなように歌うことにした。合唱部で身につけたものはすべて無視し、家でCDを聞きながら歌う時のように。
「……宮本くん、すごい」
赤坂さんは俺の歌を聞いて少し驚いていた。ギターとキーボードの女の子も同じだ。この時の俺は、クラスで大人しい俺がこんな風に歌えるなんて知らなかったから驚いているのだと思った。自分の才能が褒められるようなものだとは思っていなかった。
照子は、驚く女の子たちと照れている俺を、にやにやしながら見ていた。
「次、この曲にしよう」
赤坂さんは次から次へと、俺の知らない曲を出してきた。俺は初見で楽譜を読み、雰囲気を掴み取るのに精一杯だったが、何回か合わせたらなんとか形になった。
「すごい。ボーカルに引っ張られよる感じ、初めてじゃ。照子のドラムも安定しとるし」
赤坂さんは初めてのセッションを気に入ったようで、その場で俺とメールアドレスを交換した。その後、何度も赤坂さんに誘われ、俺と照子はバンド活動を始めることになる。
今思い出しても、不思議な出会いだった。合唱部に入るまでが必然的な流れだったとしても、照子とチャットモンチーの話をして、そこからバンド活動に手を広げたのは、青春時代の奇跡としか言いようがない。
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