50 / 129
第三章 社畜と昔の彼女と素直になるということ
9.社畜昔ばなし ⑧修学旅行
しおりを挟むゴールデンウイークが終わり、部長となった俺は合唱部に集中するはずだった。
だがその前に、一つだけ大きなイベントがあった。
修学旅行だ。
徳島県の高校のほとんどは、二年生で修学旅行をする。三年生の時は受験勉強に集中するためだ。
俺の高校では五月中旬だった。まだクラスもまとまっていない時期で、一年の時から仲が良かったメンツと一緒に自由行動をする予定だった。
行き先は、東京。一日目は朝一の飛行機で移動し、横浜の中華街で自由行動となる。
家族旅行で何度か東京に行ったことがあり、何も期待していなかった俺は、稲田など他の男友達と一緒にぶらぶらしていた。
バカなことを言いながらの散策で、それなりに楽しかった。
中華まんを買い食いしている時、照子からメールが来ていることに気づいた。
『今どこ?』
この日はクラスごとに行き先が違っていて、照子のクラスは渋谷で自由行動だった。
照子はクラスの友達と楽しくやっているはず。木暮先輩はいないから、彼氏と行動する予定もない。なぜわざわざ俺にメールを送ってくるのだろうか。
『中華街で肉まん食ってる』
俺は稲田がバカみたいな顔で肉まんにかぶりつく写メを照子に送った。
すぐに返信が来た。
『渋谷と横浜って近いんかな?』
『しらんけど、東京やけん電車乗ったらすぐちゃうか』
『会いたいなあ』
まだ俺には理解できなかった。楽しい友達との修学旅行を捨てて、俺に会いたがる理由が。
時計を見ると午後三時。あと二時間で自由行動が終わる。今から慣れない電車に乗って渋谷に行くのは無理だ。
『電車わからんから無理に決まっとるやん。なんか用事あったか?』
『別にそういうんとちゃうけど』
『部活でいつも会うだろ』
『そうやけど』
照子が何か言いたそうなのは明らかだった。でも俺には、どうしてもその理由がわからなかった。
俺は照子と話したくなった。メールで伝わらない時は、会って話すしかない。
『明日の自由行動、どうするん?』
『クラスの友達と一緒におる予定やけど』
『赤坂さんが新大久保で楽器見たいって言いよったけん、一緒に行くか』
ここで照子からの返信が途絶えた。俺は赤坂さんにメールし、一緒に行く許可を貰った。彼女はクラスでは浮きがちで、一人で行動していた。
横浜を出てホテルに到着。俺は男どもと夜のPSPのモンスターハンター大会を始めた。当時、協力プレイができるモンハンはとても流行っていて、夜のお供はこれと決まっていた。
G級のティガレックス相手に奮戦していたら、照子からメールの返信が来た。
『ええよ。涼子ちゃんにも了解とったけん、明日バスから出たら集まろう』
『わかった』
俺はステージ移動のわずかなロード時間で返信した。するとすぐに照子から返信があった。
『ほんまは二人きりがよかった』
ここで俺は、初めて気づいた。
もしかしたら、照子は俺のことが好きなのかもしれない。
二人きりという言葉を使うのは、普通のことじゃない。
木暮先輩のことが好きな照子は、俺のことを好きにならないという論理は、もはや通用しない。
そう思うと手が震え、顔も赤くなった。周囲の男どもに悟られないようモンハンに集中したが、終盤に俺が三回死んでゲームオーバーになった。
俺はモンハンがそこそこ得意だったので、この出来事は『修学旅行の宮本三乙』としてしばらく伝説になった。
旅行気分で気が緩んだ、というのが表向きの言い訳だ。実際は、照子のことばかり考えていたからだ。
照子が俺のことを好きだったら、どうしよう。
嬉しさはなかった。むしろ、焦りが先行していた。友人として仲良くなった照子にどんな気持ちで向き合えばいいのか、わからなかった。
照子が俺のことを好きだったら、どうしよう。
そのことばかり考えてモンハン大会が終わった午前四時以降もほとんど眠れなかった。
** *
照子が俺のことを好きだったら、どうしよう。
二日目の朝、そう考えながらバスを降り、重たい身体を引きずりながら照子を探した。
「おはよ!」
照子はいつも通りだった。バンドや部活で会う時と変わらない、明るく元気な照子だった。
隣にいた赤坂さんも、いつも通り落ち着いていた。
「男子と一緒じゃなくていいん?」
「あー、うん、ええよ。三日も同じメンツは嫌やしなあ」
赤坂さんの問いに、俺は正直に答えた。男どもからは「宮本だけ女子と一緒かよ」「死ね」なんて言われたが、この三人がバンドをやっていて仲良しなのは有名だったので、楽器を見に行くといえば最終的に納得した。
「ほな行こ! でもどっち行ったらええかわからん! 教えて!」
東京に初めて来たという照子は、修学旅行前からずっと楽しみにしていた。バスを降ろされたのは東京駅の近く。俺は昨日のうちに調べておいた情報をもとに、山手線へ案内した。
「これが山手線! すごい! さっき出発したのにまた電車きた!」
照子の住んでいる徳島県南部は、汽車が二時間に一本くらいしか走っていない。約三分に一本走っている山手線は、異次元の世界だった。
東京の何を見てもはしゃぐ照子に、俺と赤坂さんは思わず顔を見合わせた。
新大久保に着いてからはしゃぎだしたのは赤坂さんだった。照子のようにきゃぴきゃぴ言うことはないが、目の輝きが違っていた。
徳島県では、まともな楽器店が数えるほどしかなかったが、新大久保だけで数え切れないほどの楽器店がある。しかもただの楽器店ではない。それぞれ得意な楽器があり、ベース専門店まである。
俺たちはいつのまにか先頭に立っていた赤坂さんを追い、ベース専門店に入った。エレキベースもコントラバスも追いてある。通奏低音の楽器なら何でも置いてあった。こんなに奥が深いジャンルなのか、と関心した。照子も「ほえー」と言いながら色々な楽器を見ていた。
「照子、ドラム見たいだろ?」
しばらく自分の世界に入っていた赤坂さんが、置いていかれている俺たちに気づき、そう言った。ベースに興味があるのは赤坂さんだけなのだ。
「宮本くんはどうする? ボーカル用マイクとか、アンプとかの店もあるけど」
「んー」
俺はボーカルなので楽器に詳しくない。マイクやアンプにもあまり興味ない。照子も、いつも持ち運べるギターやベースと違い、ドラムはスタジオに置いてあるものが基準になるので、こだわりがなかった。
「う、うちら二人でぶらぶらしていい? 晩ごはんは一緒に食べよ!」
俺が答えに迷っていたら、照子がそう答えた。
二人でぶらぶら。楽器を見る、とは言ってない。
「涼子ちゃん、ベース見るんに集中したいだろ?」
「……まあ、ええけど」
赤坂さんは少し考えてからうなずいた。何かあるな、と思われていたらしい。だが赤坂さんは、俺たちよりベースのことに集中していた。
「ほな、またメールする!」
俺と照子は店を出て、新大久保駅の方向へ歩いた。
「楽器見たい?」
「んー、別に」
「どっか行きたいとこある?」
「んー、ようわからん」
二人になると、急に照子は緊張して、言葉が少なくなった。
昨日のメールと同じだ。何か言いたそうだが、直接言ってくれない。
照子が俺のことを好きだったら、どうしよう。
昨日から心配していたことが、また頭をよぎる。
「とりあえず新宿行ってみるか。なんかあるだろ」
「ほれでええよ」
俺達は新大久保から山手線に乗り、新宿へ向かった。そこに何があるか、俺と照子が何をしたいのか、何もイメージはない。ただ間をもたせるためだけに新宿を選んだ。
11
あなたにおすすめの小説
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした
山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。
そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。
逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。
それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶
この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。
そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる