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第四章 社畜と女子高生と青春ラブコメディ
7.社畜と女子高生と昔の彼女とラブホテル
しおりを挟む「ラブホ久しぶりーっ!」
三人で部屋に入ると、照子はベッドに飛び込み、ぼふん、とバウンドしてみせた。
「大学生の頃に剛と入った以来やなー。五年ぶりかな?」
「いちいち覚えてねえよ」
「うちは覚えとる! 剛、ケチやけんなかなかラブホ入ってくれんのじょ。『家でもできるだろ』とか言って。いっちょもムードないよな、剛って」
「バカ、変なこと言うな、理瀬が困ってんだろ」
理瀬は少し顔を赤くして、目をそらしていた。勢いでラブホに入ったことも、俺と照子の昔話も、何から何までついていけないという感じだ。
「……私、ここにいていいんでしょうか」
「いけるいける! 未成年かどうか疑われてる時はフロントの監視カメラで店員さんに見られて、止められるけん」
「照子、大学生になってからラブホ入った時、年齢確認された事あるよな」
「むがー! それ言われん!」
「でもやっぱり、こういうのは悪いことじゃ……」
「いけるいける! 『天気の子』でも中学生や小学生がラブホ泊まりよっただろ? あれと同じじゃ」
「あれは大雨で家に帰れないっていう設定ですし、そもそも映画の中の話ですよ」
「よっしゃ、お風呂はいろ!」
酔っているからか、照子はハイテンションだ。いきなり立ち上がると、風呂場に行って「うわ広っ! 理瀬ちゃんも一緒にはいろ!」と強引に誘った。
理瀬は「えっ、えっ」と戸惑っていたが、照子に押し切られた。
「剛、のぞいたらあかんじょ」
「お前のなんかのぞきたくないし、理瀬のを覗いたらもう犯罪だからな。絶対ないわ」
「ひど! 理瀬ちゃん、うちがおるけん剛に変なことはさせんじょ。安心してお風呂入って!」
「は、はあ」
「あ、剛、携帯鳴っとったよ」
そう言い残して二人は風呂場に消えた。
携帯を確認すると、エレンから鬼のように着信が来ていた。俺を残して風呂に入る意味がわからなかったが、おそらく照子はこのために時間を空けたのだろう。なにせあいつは勘がいい。俺のしたいことを直感で当てられる、恐ろしい奴だ。
エレンに通話をかけると、一瞬で出た。
『おじさん! 今どこですか! 店の奥の席にいたのは知ってます!』
「理瀬と一緒にいる」
『一緒なんですね! じゃあ私も行きます!』
「あ、いや。それはまずい」
『なんでですか! ってか、一緒にいた女の人、YAKUOHJIですよね!? 超会いたいんですけど! いや今はそれより理瀬が心配ですけど!』
「場所が、悪くて……」
『場所? あれ、なんかシャワーみたいな音聞こえる……あーーーーーっ、 おじさん、坂降りたところのラブホ入ってますね!?』
「は、はは」
『……今まで通報しますって半分ネタで言ってましたけど、今回は本気でしないといけないみたいですね』
「ま、待て! 誤解するな! 照子と理瀬と三人だから! 無理やり入ろうとしたのは照子で、俺は止めたけど聞かなかったんだよ!」
『女と一緒にラブホ入る男の人の言い訳って、何も信用できないですね』
「まあそれはそうだろうけど! 信じられないなら、後から理瀬に説明してもらえ! とにかくこれ以上場をややこしくしたくないんだよ! 理瀬が落ち着いたらさっさと出るから!」
『……わかりました。あとで通報するとして、今は理瀬のことが心配です』
「いや通報はしないで……マジで……お願いします……」
『とりあえず、おじさんを理瀬の保護者として信用したうえで話します。さっき理瀬が山崎さんに腕を掴まれた時、すごく怖がってたの見ました?』
「ああ、見た。明らかに様子がおかしかった」
『あれ、理由があるんです』
「何だ?」
『昔、理瀬がいじめられてたこと、話しましたよね』
「ああ……」
やはりそちらの話か、と俺は思う。
いじめを受けて、心に傷が残らないことは絶対にない。俺も中学生の頃、同級生のとある奴からいじめを受けたことがある。ほんの一週間で収まったが、そいつの悪意の他にも助けてくれないクラスメイトや先生、特に気づかない教師の様子など、何もかもが絶望的に思えた。
『理瀬、同級生のある女の子にいじめられてて……その子、ほんとにガラが悪くて、高校生の不良グループみたいなのと付き合いがあったんです。理瀬、上履き隠したりするだけでは全然動じないので、ある日一人で帰ってるところを不良の男子高校生にナンパさせたっていう事件があったんです』
「……腕を引っ張られたのは、その時の記憶か?」
『はい。腕を掴まれたから大声を出して逃げた、って理瀬は言ってました。その時は平然と言ってましたけど、絶対怖かったと思います』
いくら頭のいい理瀬でも、体格的に絶対勝てない男子高校生に絡まれたら、恐怖を覚えるだろう。犯罪の定義や通報の仕方を知っていても、力でねじ伏せられたらどうしようもない。
『今、理瀬はどんな感じですか?』
「照子がフォローしてくれてるおかげで、だいぶ落ち着いてる。一応、家までは俺が送るよ。お前にもあとから連絡するように言っておく。するかどうかはわからんが」
『ですよね……とりあえず、心配してたって伝えてもらえますか』
「わかった。エレン、わざわざ教えてくれてありがとうな」
『お礼なんていいです。私がダブルデートしようなんて言わなかったら、こんなことにならなかったはずなのに』
「こうなることを予測できた奴はいないよ。女の子と手をつなぐことの重みは、人によってまちまちだ。山崎とかいう奴も悪気はなかっただろう」
『はい。山崎さんには、あの子ちょっと男の人苦手なんですよねーって、適当に謝っておきました。今はリンツとも別れて、私はお店の控室にいます。何かあったら呼んでください』
「わかった」
風呂場の扉が開く音がしたので、「とりあえず切るわ」と言って俺はスマホをしまった。
照子がバスタオル一枚で出てきて、ベッドの上にばたっと仰向けに寝た。
「あったまるう~」
「お前、ほんとに行儀悪いよな……濡れたままベッドに寝るんじゃない」
「どうせ一回人が入ったらシーツ全部掃除するけん、別にええんじょ。ふわー、天井が回っとる」
「酔ってるのにすぐ風呂なんか入るからだ。ほら」
俺は冷蔵庫に入っていた無料のミネラルウォーターを照子に渡した。
「ありがとー」
照子はぐびぐびと飲んでいた。
「理瀬ちゃん、恥ずかしがらんと出てきなー!」
飲み終わった後、照子は風呂場に向かってそう言った。
嫌な予感がする。
風呂場のほうを見ると、理瀬が体を半分だけ出して、俺と照子を見ていた。
バスタオル一枚だけの、裸みたいな姿で。
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